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更新日:2024年1月11日
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自然環境保全センターで実施している研究内容について紹介するページです。
スギ花粉症は、完治の難しいアレルギー疾患であり、県民の3人に1人が罹病していると推定されています。その花粉症の根本的な対策の1つとして期待されているのが、スギ・ヒノキの品種改良です。
当センターには昭和30年代に県内の森林から収集された成長のすぐれた優良スギ・ヒノキ「精英樹」があり、その中には花粉を飛散させる雄花の少ないものがあったことから、その雄花の量を調査し平成10年に花粉の少ないスギを選抜。全国で初めて花粉の少ないスギだけの採種園(種子生産林)を造成し種子の生産を図ってきました。
さらに平成16年には全国で初めて花粉の少ないヒノキを選抜したことにより、平成28年には全国で初めてスギ・ヒノキ共に出荷する苗木を全量花粉症対策品種に転換しました。しかしこれらは相対的に雄花量が少ないものの、一定量の花粉の飛散が予想されます。
一方で、平成4年に富山県で花粉を全く飛散しない無花粉スギが発見され、その後の調査で5,000本に1本程度の割合で無花粉スギが存在すると推定されました。そこで、本県でも一定の割合を調査すれば無花粉のスギ、ヒノキが選抜できると考え、神奈川県産の無花粉スギ、ヒノキの選抜及び苗木生産の実用化を目指し調査研究を開始しました。
無花粉スギが一定の割合で存在すると推定されたため、神奈川県産の花粉の少ないスギの苗木888本を調査しました。植物ホルモンのジベレリンで雄花を着花させ、雄花を潰して調査した結果、平成16年に雄花の中に花粉ができない個体を1本発見しました(田原1号)。
その後の調査で、無花粉スギはメンデルの法則で劣性遺伝するため、交配によって無花粉スギができることが明らかになりました。そこで温室内で無花粉スギの遺伝子を持った個体同士を交配させ、生産した種子を苗木生産者に配布しました。
種子による苗木生産では、遺伝の法則により無花粉スギと有花粉スギが1時01分の割合で生産されるため、苗畑で無花粉スギ苗木を選別する技術を開発。平成22年には種子による無花粉スギ約600本を生産し、同年に実施された全国植樹祭で天皇陛下及び参加者に植樹していただきました。その後生産量を増やし令和2年春には約1万本を生産しています。
発見した無花粉スギ「田原1号」
無花粉スギ検定試験
スギとヒノキは同一の科で近縁ですが、無花粉ヒノキはなかなか発見されませんでした。その理由としてヒノキはスギに比べて雄花が小さく、調査が難しいこと、スギは花粉飛散の前年末に花粉が形成されますが、ヒノキは飛散直前の3月になって花粉が形成されるため、調査期間が限られることがあげられます。
そこで、当センターでは、花粉飛散期に集中して県内各地のヒノキ林をまわり、雄花をたたいて花粉の飛散しない個体を探しました。平成23年から2年がかりで4,074本を調査した結果、平成24年に秦野市内のヒノキ林で花粉を飛散しない個体を1本発見しました。これは雄花内に大小の粒子を形成し、正常な花粉を作らない個体でした。その後の調査で種子も形成することができない両性不稔個体であることがわかりました。
このため、さし木で安定して増殖する手法を確立すると共に、品種特性を明らかにして平成30年に品種登録出願を行いました。
全国で初めて発見した無花粉ヒノキ
「神奈川無花粉ヒ1号」
無花粉ヒノキ苗木生産試験
無花粉スギは、種子とさし木による苗木の増産を進めていますが、種子による苗木生産では、半分が無花粉、半分が花粉をつけるスギとなります。そこで無花粉の割合を上げるため、複数の無花粉の遺伝子を持った個体の育成を進めており、将来無花粉の割合を75%にすることを目指しています。
発見した無花粉ヒノキは「神奈川無花粉ヒ1号」として平成30年に品種登録出願を行いました。それを受けて令和元年度から県内での苗木生産を開始しました。登録後は全国への普及も検討していきます。また「神奈川無花粉ヒ1号」は、種子を作ることができないため、さらなる品種改良のため種子を作ることのできる「雄性不稔」となる無花粉ヒノキの選抜を目指しています。
平成4年神奈川県入庁、平成7年当時の森林研究所に異動、自然環境保全センターで林木育種、種苗関係事業を担当。
このページの所管所属は環境農政局 総務室です。