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更新日:2025年3月10日
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神奈川県の養豚経営は、大消費地を背景として「やまゆりポーク」、「かながわ夢ポーク」、「はまポーク」を始めとした消費者ニーズに対応した高品質な銘柄豚肉が生産されるなど、特徴のある経営が展開されています。県内で生産される豚肉は、大型で繁殖性に優れた雌系品種のランドレース種と大ヨークシャー種を交配した母豚に、肉質に優れた雄系品種のデュロック種を交配して生産するいわゆる三元豚が主流です。
効率的な豚肉生産のため、肉豚には発育性や産肉性などの能力が揃っていることが求められます。しかし、同じ品種の豚でも能力には差があり、生産された肉豚にバラツキが生じてしまいます。そこで、品種内の個体能力の差を無くし、なおかつ能力を高めた豚群として造成された系統豚を利用しています。
畜産技術センターでは、平成3年度に発育性と産肉性に優れた大ヨークシャー種の系統豚「カナガワヨーク」、平成15年度に繁殖性や強健性に優れたランドレース種の系統豚「ユメカナエル」を造成しました。「カナガワヨーク」は、遺伝的特性の維持が難しくなったため維持を終了しましたが、「ユメカナエル」は現在でも系統豚として高い能力や遺伝的特性を変化させることなく、種豚群の維持、繁殖が行われ、生産者に供給しています。
ユメカナエル(雄)
ユメカナエル(雌)
「ユメカナエル」は、イギリスや神奈川県を含む6県から候補豚を導入して7世代(7年間)かけて造成され、高い繁殖能力と肢蹄の強健性が特徴のランドレース種系統豚です。
「ユメカナエル」の維持集団は、雄10頭、雌35頭の種豚で構成され、群内交配により世代交代を繰り返しながら造成時から現在まで18年間、大きな遺伝的変動を起こさず維持しています。
系統豚を維持する過程で、雌の繁殖成績や子豚の体型を調査し、造成当時のデータと比較やデータ推移を検討して、種豚群(維持集団)の能力評価を行います。
雌の繁殖成績は、分娩した子豚の数、出生から8週齢までの子豚1頭1頭の体重、乳頭数など毎年1,000頭以上の子豚について調査します。また体型調査では、体重100kg時の体の長さ、幅、深さ、足の太さなどを調査します。正確な能力評価のためにはデータの安定性が求められるため、日々の正確な記録と、毎日の適正な飼養管理、健康に豚を飼うことが大変重要です。豚は他の家畜と比べても病気にかかりやすい動物で伝染病の種類も多く、日々の豚の健康を守ることが最も重要で苦労する点です。
「ユメカナエル」の種豚群は、群内のみで交配するため、世代交代が進むにつれ血縁(血のつながり)が強くなります。血縁が強くなりすぎると、能力が低下する現象(近交退化)が起こるため、血縁係数の上昇を抑えることが必要です。交配相手ごとに血縁係数の上昇を予め計算し、各豚の能力や体型を加味して計画的に交配し、毎年数頭を更新しながら種豚群を維持します。
このように種豚群を維持するとともに、種豚群から得られた産子は神奈川県養豚協会にて育成後、県内養豚農家へ配布され、肉豚生産の基豚として活用されています。
子豚の体重測定
体重100kg時の体型調査
人工受精のための雄の採精作業
人工授精の様子
「ユメカナエル」は造成から18年間が経ちましたが、能力を変化させることなく、現在まで種豚群は適正に管理され、養豚農家へ配布されています。
しかし、種豚群内での交配が継続されていますので、血縁係数や近交係数の上昇は避けられず、いずれ近交退化による能力低下が起こることが予想されます。また、種豚に対する養豚農家のニーズは造成当初とは変化しており、更なる繁殖成績の向上が求められています。
こうしたことへの対応として、「ユメカナエル」に民間種豚場で改良されたランドレース種を交配して、「ユメカナエル」の強健性や体型等の特徴を維持しつつ、これまでより繁殖性に優れた新たなランドレース種豚の生産に取り組んでいます。
海外及び国内の民間種豚場が保有するランドレース種雄を選定し、「ユメカナエル」の雌と交配して生産した産子から、特に優れた豚を選んで育成、能力評価することで改良を進めています。
養豚農家の新たなニーズを見極めて、「ユメカナエル」と同様に県内養豚農家の肉豚生産の基豚として貢献できることを目指しています。
このページの所管所属は環境農政局 総務室です。