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更新日:2024年1月11日
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環境科学センターで実施している研究内容について紹介するページです。
箱根山の大涌谷は、多くの観光客が訪れる全国でも有数の観光地ですが、その大きな魅力は噴気地帯を間近で見られ、火山の迫力を感じることができることだと思います。しかしながら、2015年に箱根山の火山活動が非常に活発化し、小規模ではあったものの、大涌谷において水蒸気噴火も発生しました。改めて、箱根山が活火山であることを思い知らされた出来事でした。この火山活動の活発化により、2015年5月6日に大涌谷園地内の立ち入りは規制されました。その後火山活動は低下したのですが、火山ガス濃度が高い状況が続き、観光客等の安全性を考えて大涌谷園地内の立入規制は継続され、一部開放となったのは閉鎖から1年以上経過した2016年7月26日でした。しかしながら、いわゆる黒たまごを作っている‟たまご蒸し場”までの遊歩道である「自然研究路」は、2021年11月現在でも閉鎖されたままとなっています。自然研究路内には噴石から身を守るシェルターが新たに建設されましたが、火山ガスを完全に防ぐことはできないため、開放に向けては火山ガス濃度のモニタリングが大変重要になります。
火山ガスにはいろいろな成分が含まれていますが、大涌谷の場合は毒性や濃度から、主に二酸化硫黄と硫化水素が問題となります。本研究では、自然研究路が開放された際の観光客等の安全確保や迅速な避難対応に貢献するため、自然研究路内の2か所で連続測定している二酸化硫黄(SO₂)と硫化水素(H₂S)のデータを解析し、主に開放時間における濃度変動について調べるとともに、火山活動が静穏な時(2018年)と活発化した時(2019年)の比較を行いました。2019年にも群発地震が発生するなど火山活動が活発化し、大涌谷園地内は立入が規制されました。
自然研究路内のシェルター
自然研究路内のシェルターの配置
自然研究路を含めた大涌谷園地内には、二酸化硫黄と硫化水素の基準値が設定され、屋内退避や自然研究路の閉鎖などの対応措置が設定されています(表1)。本研究の解析手法としては、基準値の超過日数を算出し、閉鎖等の措置対応が必要となる日数を調べました。ここでは結果の概要を示しますが、詳細は当センターの研究報告にまとめています。
(1)静穏時(2018年)の状況
開放時間内に閉鎖基準に達した日はありませんでしたが、開放時間外に硫化水素が10ppmとなる日が1日だけありましたので、静穏時でも閉鎖措置をする可能性があることに留意したほうがよいと考えられました。また、自然研究路内に観光客がいる時に火山ガス濃度が高くなる状況が一番問題になると考えられますので、解放前が基準値未満で、その後濃度が上昇し、開放時間中に基準値に達した日数を調べた結果、年間の2割程度でした。このような現象はおおむね冬季に多い結果となったことから、再開時の運用としてはとくに冬季に注意する必要があるものと考えられました。
(2)活発化時(2019年)の状況
開放時間内に閉鎖基準に達した日はなく、開放時間外を含めても2日間だけであり、2018年と大差はない結果となりました。しかしながら、水蒸気噴火が発生した2015年のように、非常に活発な活動においては閉鎖基準を超過する可能性は十分にあると考えられます。また、2018年と比較して、何らかの措置対応が必要となりうる日数は1.2倍程度でしたが、「注意喚起(強)」に達した日は5倍以上となりました。このことから、火山活動が活発化した際には、相対的に火山ガス濃度が高くなるものと考えられます。
表1 自然研究路の火山ガス濃度基準値と対応措置
火山ガス濃度測定器の設置場所
自然研究路が解放された際の安全性の確保には、火山ガス濃度のモニタリングが不可欠と考えられますので、引き続き火山ガス濃度の状況把握が必要であると考えています。また、観光客等の安全性の確保には、火山活動の状況を把握することも大変重要です。今回は触れませんでしたが、東海大学や県の温泉地学研究所と共同で噴気孔から火山ガスを直接採取して成分を調べる研究も行っています。その結果、火山ガスの組成(二酸化炭素と硫化水素の割合や、二酸化硫黄と硫化水素の割合など)が、火山活動の活発化に伴って変化することがわかってきました。まだ活発化の事例が少なく、今後も観測や研究を継続していく必要があると思いますが、活動状況を把握するための有用なデータとして利用できる可能性があるのではないかと考えています。また、噴気孔から放出される火山ガスの連続測定技術の確立にも取り組んでいます。
噴気をあげる大涌谷(2021年3月)
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