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更新日:2024年3月18日
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水産技術センターで実施している研究内容について紹介するページです。
三浦市は遠洋まぐろ延縄漁業の基地であり、「三崎まぐろ」は全国的に有名であるが、最近のマグロを含む魚消費の減少や、三浦に訪れる環境客の減少に対して抜本的な振興策が望まれていました。
本県も健康寿命の延伸に向けた「未病改善」の取組を推進していたところ、横浜にある水産研究・教育機構水産技術研究所の山下先生らのチームが、クロマグロの血液から極めて強い抗酸化成分「セレノネイン」を2010年に発見しました。その効果として体内でDNA、脂質、たんぱく質、酵素などを生体酸化損傷させる活性酸素種の除去能力が極めて高く、糖尿病や癌、心臓病などの生活習慣病やアンチエイジング、運動機能改善や疲労回復効果などが大きく期待されるものでした。
そこで、当センターと水産研究・教育機構(水産技術研究所、水産大学校)、そして聖マリアンナ医科大学との共同研究により、マグロの継続摂取試験を世界で初めてヒトでの臨床研究として実施し、その効果について検証することになりました。
研究チーム
特にセレノネインを多く含む血合肉を食べることで効果が見られれば、「美味しいマグロ」のほか、「健康食まぐろ」という新たな価値が加味され、健常者も含めた未病改善への取組をあわせもつ地域振興策として推進でき、高品質な血合肉の取扱による加工品開発などが期待されます。
神奈川県職員と聖マリアンナ医科大学職員の健常な20~60代男女計100名を対象に、1回0g(コントロール)、80g又は120gのマグロ赤身肉を週3回、3週間の合計9食摂取試験を行いました。3週間のインターバルの後に血合肉を同じく摂取し、各摂取試験の前後に採決を行い、血中セレノネイン濃度、血中酸化ストレス指標のd-ROMsテスト、BAPテスト、OXY吸着テスト、そしてアンチエイジング指標のサーチュイン2濃度の変化を検証しました。
今回用いたマグロはメバチで、赤身肉には平均で1.04nM/g wet、血合肉には95.9nM/g wetのセレノネインが含まれていました。
血合の刺身
摂取試験の結果ですが、血中セレノネイン濃度は赤身では僅かな増加程度でしたが、血合肉では大きく増加が確認され、摂取量に応じたセレノネイン濃度の上昇が認められました。
また、血中にセレノネインが蓄積することで活性酸素種の除去能力を直接測定するOXY吸着テストにて、特に血合肉の摂取前評価では正常状態が34.4%、軽度ストレス状態が47.8%、強度ストレス状態が17.8%であったのが、摂取後は正常状態が75.6%、軽度ストレス状態が20.0%、強度ストレス状態が4.4%と、被験者がより多く正常状態に移行し、体内のストレス状態が大幅に改善されることが確認されました。
長寿遺伝子の活性により体内で生成されるサーチュイン2については、平均で1.1~1.2倍の増加が確認されましたが、赤身肉と血合肉の摂取による差は殆どありませんでした。しかし、大きく増加する被験者群が存在し、全体の2割ほどの方々ですが2倍以上に増加し、食事だけの効果としては、マグロという食材は驚異的なアンチエイジングの効果が見られ、大いに期待されるものでした。
イベントでの臼井研究員による発表の様子
マグロ血合肉には、抗酸化物質セレノネインやDHAなどの機能性成分や鉄分などを多く含んでおり、今回の継続利用により生活習慣病改善やアンチエイジングなど、未病改善効果がおおいに期待されることが明らかになりました。これにより「美味しいマグロ」のほか、「健康食まぐろ」という新たな価値が加味されたことから、健常者も含めた未病改善への取組もあわせもつ地域振興策の推進につなげられる研究であると考えています。
血合を活用した料理(シュウマイ、みさき串カツ、ステーキエスカルゴ風)
現在、三浦商工会議所内に関係団体による「まぐろ未病改善効果研究会」が令和5年7月に発足し、血合肉のお刺身や薬膳食などの開発推進とともに、血合肉の高品質な提供体制を構築していき、三浦の地の利を生かしたウェルネスツーリズムなども進めていきたいと考えられています。
臼井研究員と未病改善効果研究会の方々
今後の研究では、当センターは基準の制定化や認証制度化につながる血合肉の品質評価手法と加工特性、水産技術研究所ではセレノネインの安全性や健康機能性評価、聖マリアンナ医科大学では妊娠改善効果や美肌効果の研究を主に進めていきます。さらに東海大学医学部とこの研究チームの共同研究により、マグロ摂取によるアスリートでの機能改善効果について臨床研究を実施しており、さらなるヒトへの効果について研究を進めていきます。
1969年東京都出身。東京水産大学食品生産学科卒業後、94年に神奈川県入庁し、水産試験場勤務。10年に東京海洋大学客員准教授兼務、23年4月から現職。
低・未利用水産物の有効利用や、地域ニーズ製品の開発を行い、小田原のストリートフード「かます棒」や「魚体中骨抜き具」の開発、磯焼け対策で痩せたウニの有効利用として「キャベツウニ」を開発した。
著書に「塩辛づくり隠し技」、「水産食品デザイン学」、「魚のあんな話、こんな食べ方」ほか。
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