更新日:2024年6月25日

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神労委令和元年(不)第23号事件命令交付について

神奈川県労働委員会(会長 浜村彰)は、標記の事件について、本日、申立人の不当労働行為救済申立ての一部を救済する命令を交付しましたので、お知らせします。概要は次のとおりです。

1 当事者

申立人 X(組合)
被申立人 Y(法人)

 

2 事件の概要

本件は、【1】法人が、組合と事前に協議せず、令和元年10月31日付けで人件費削減案を記載した書面(以下「財政再建案」という)を全教職員に交付したこと、【2】その後、人件費削減を議題とする団体交渉における法人の対応及び法人が人件費削減を決定した上で令和2年3月30日付け書面を全教職員に交付したことは、いずれも労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。

3 命令の概要

⑴ 主文

ア 法人は、人件費削減を議題とする組合との団体交渉において、組合に対し、平成29年5月26日開催の第173回団体交渉において言及した財務シミュレーション(以下「学校再編時の財務シミュレーション」という。)を開示し、同シミュレーションと令和元年10月31日に全教職員に提示した財務シミュレーションとの違いを説明しなければならない。

イ 法人は、本命令受領後、速やかに陳謝文を組合に手交しなければならない。

ウ その余の申立てを棄却する。

⑵ 本件の主な争点及び判断の要旨

(争点1)

法人が、人件費削減を含む財政再建について、組合と事前に協議せず、全教職員に対して令和元年10月31日付け書面を交付したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。また、同時に支配介入に当たるか否か。

(判断の要旨)

ア 団体交渉拒否について

組合は、人件費の見直しを議題とする団体交渉の申入れを複数回行っているところ、法人は、組合からの申入れの都度、法人の状況を一定程度説明し、今後は団体交渉の申入れに応じる予定があることを伝えている。また、財政再建案は全教職員に配布された時点では決定事項ではなく提案に過ぎず、令和元年10月31日以降、複数回の団体交渉が開催されたことから、法人には組合と協議する姿勢があったといえる。

したがって、法人が、組合と事前に協議せず、全教職員に対して財政再建案を交付したことは、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

イ 支配介入について

法人の検討状況からすれば、令和元年10月31日に全教職員に財政再建案を交付する前に、法人内部の検討は終了していたといえる。組合が法人に対し、団体交渉に応じるか否かを早期に回答するよう求めている中、法人は、人件費削減を議題とする団体交渉の開催に向けた日程調整等の対応をしないまま、全教職員に財政再建案を交付するに至っている。

このような法人の対応は、組合の交渉力に対する組合員の不信を醸成し、組合内部の結束力を弱める効果を招来し得るものであるから、組合に対する支配介入に当たる。

(争点2)

人件費削減を議題とする団体交渉における、令和2年2月14日までに組合が開示を求めた60項目についての法人の対応、及び法人が上記対応のまま人件費削減を決定した上で全教職員に対して令和2年3月30日付け書面を交付したことは、不誠実な交渉態度に当たるか否か。また、同時に支配介入に当たるか否か。

(判断の要旨)

ア 組合が開示を求めた項目について

(ア) 学校再編時の財務シミュレーションについて

組合が要求する経営陣の総退陣及び経営陣の責任追及のみを理由に、法人が学校再編時の財務シミュレーションを開示すべきとはいえない。他方で、過去の団体交渉における法人の説明と財政再建案が矛盾すると解する余地があるから、法人は、組合において財政再建案が合理的か否かを検討できるような対応をしなくてはならない。

法人が、組合が財政再建案との違いを理解するために必要な、学校再編時の財務シミュレーションの開示をしていない点に限り、誠実交渉義務に反しており、同時に支配介入に当たる。

 (イ) 学校再編時の財務シミュレーションを除く組合が開示を求めた項目について

学校再編時の財務シミュレーションを除く項目については、法人は、個人情報であることなどの理由を示して開示を拒否し、また、組合の要求の程度に応じて必要な情報等を開示するなどの対応をしており、誠実交渉義務に反しているとはいえず、同時に支配介入に当たらない。

 (ウ) 組合からの対案又は提案について

法人は、組合の提案等について、その妥当性を検討してその結果を組合に説明する、反論又は自己の主張を展開する、結論の根拠を示すなどして、組合の理解を得ようとする姿勢を見せており、誠実交渉義務に反しているとはいえず、同時に支配介入に当たらない。

イ 令和2年3月30日付け書面を交付したこと

人件費削減に関する労使のやり取り全体をふかんしてみると、法人は、複数回の団体交渉を通じて、十分な時間をかけて、組合に自己の主張の根拠を示すなどして、組合の理解を得るために相当程度の努力を尽くしているといえる。

したがって、令和2年3月30日までに、人件費削減について、組合と法人が十分な労使協議をしていないとはいえないから、法人が同日付け書面を交付したことが誠実交渉義務に反しているとはいえず、同時に支配介入に当たらない。

 

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