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更新日:2023年12月26日
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科学技術関連コラム・バックナンバー(三島座長)
掲載日:2019年11月28日
このたび、新たに、科学技術にかかわるコラムを神奈川県科学技術会議の委員の皆様にご執筆いただくことにしました。
コラムは随時更新予定です。第1回目は、座長の三島良直 先生です。
高等教育機関としての大学には様々な学問領域が共存し、その中で科学技術系の分野では理学系と工学系に分けられることが多い。理工学系として位置づける場合もあるが、基本的には理学系においては数学、物理、化学、生命科学などが代表であり、工学系においては機械、電気・電子、材料、応用化学、情報、土木・建築などが代表である。これらの分類に加えて20世紀後半からはエネルギーや環境など分野を超えた新しい融合領域の学問分野が次々と生まれているが、それぞれの分野における大学教員の研究内容は大きく分けて基礎研究と応用研究に分けられることが多い。最も簡単にその違いを述べるとすれば、前者は真理の探求、あるいは自然現象の理論的な理解を目指す研究で、後者は社会が抱える課題の解決、あるいは画期的な技術による新しい社会の形成に資する研究となろう。
3年前(2016年)の12月に私が学長を務めていた東京工業大学の大隅良典博士が医学・生理学分野のノーベル賞を受賞された。受賞対象の研究内容は生命科学分野であり、すべての動植物の細胞の中で起こる生命の維持に必要な機能について、主として粘り強い顕微鏡観察を通して初めて解明したことにあり、典型的な基礎研究の成果である。そして受賞時の様々な場面で博士がおっしゃっていたのは「この問題に取り組んで以来、今までにこの研究が何の役に立つかを考えたことはない」であって、非常に印象的であった。
現在人間社会には大きな変革が起こりつつあり、地球温暖化に伴う異常気象と自然災害の大規模化、持続可能な社会に必要な再生可能エネルギーをできる限り取り入れたエネルギー供給の安定化、世界人口が現在の75億から2050年には95億になると推定される中での食糧難の克服等々に対して科学技術による対応が期待されており、その意味で「役に立つ」応用研究が一層大事なことも明白である。しかし大学にとってすぐには何に役立つかは見えない真の基礎研究に取り組む若手研究者を育成することは重要な使命であり、またその使命はこれからの時代では大学にしかできない役割であることを常に念頭に置いてそのために必要な環境を醸成し、守り続けることが肝要であると思う。
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