育成経過と特性
背景と目的
神奈川県のウメ栽培は500年以上の古い歴史があり、現在は小田原市から足柄上地域が主産地となっており、‘十郎’‘白加賀’‘南高’等の品種が市場出荷を中心として生産・販売されています。しかし、近年は和歌山県産の‘南高’が6月上旬から大量に市場へ出荷されるようになったことから、6月下旬から収穫される神奈川県産‘南高’の価格は低く、県内ウメ農家は厳しい経営状況が続いています。
そこで、‘南高’より早く収穫され、高品質な品種を育成するため、育成系統の選抜を行い、目標に合致した新品種‘虎子姫’を育成しました。
育成経過
‘虎子姫’は平成9年(1997年)に農業技術センターで‘南高’の自然交雑実生から選抜し、平成14年(2002年)に初結実しました。核(種)が非常に小さく加工特性が高いため、平成17年(2005年)に有望と判定しました。
平成23年(2011年)6月に種苗法に基づく品種登録を出願し、同年10月7日に出願公表されました(出願番号26082号)。
樹・花の特性
樹姿は枝が開いた形をしており、樹勢は中程度です。開花期はやや遅く、‘南高’とほぼ同時期からやや遅く開花します(第1表)
第1表 ‘虎子姫’の生育特性(2009年)
品種名 | 樹姿 | 樹勢 | 満開日 | 収穫期 |
---|---|---|---|---|
虎子姫 | 開帳 | 中 | 2月16日 | 6月12日 |
十郎 | 斜上から開帳 | やや強 | 2月12日 | 6月12日から6月18日 |
南高 | 開帳 | 中 | 2月14日 | 6月15日から6月21日 |
果実の特性
収穫期は育成地(平塚市)において6月中旬頃で、‘十郎’とほぼ同時期に収穫される品種です(第1表)。
果実は55g程度の中粒で、‘南高’と同程度の大きさになります。核重率は6%程度となり、核(種)が非常に小さく果肉割合が高い特徴があります。
また、ヤニ果の発生は極めて少なく、豊産性で連年安定して収穫ができます(第2表)。果皮が高品質とされている‘十郎’より更に柔らかく、色調は‘十郎’や‘南高’より赤みが強い特徴があります。
種の大きさ(上から十郎、南高、虎子姫)
第2表 ‘虎子姫’の果実特性(2009年)
品種名 | 果実重(g) | 核重率(%) | ヤニ果率(%) |
---|---|---|---|
虎子姫 | 56.4 | 5.9 | 0 |
十郎 | 37.8 | 9.6 | 9.0 |
南高 | 59.5 | 8.1 | 4.2 |
今後の普及
この品種は、県内ウメ産地の活性化を図るため、県内に限定して普及していくことを計画しています。
神奈川県産‘南高’より早く収穫され、果皮が柔らかく、核(種)が小さい加工特性の高い果実のため、神奈川県において既存品種に代わる豊産性品種として普及が期待されます。