堆肥は土づくり資材としてのイメージが強く、肥料成分を考慮せずに施用していましたが、環境保全を目指した施肥を行っていくためには、堆肥からの肥料成分量を十分に考慮する必要があります。
ところで、ここで考慮するべき堆肥中の肥料成分とは、どの程度のものなのでしょうか。「作物別肥料施用基準」の中でも代表値を紹介していますが、実際に県内に流通している堆肥の分析結果をみると、その成分値にかなりの幅があり、たとえば「牛ふん堆肥ならどれでも、何%の窒素分と考えればよい」とはいえません。
図1(牛糞堆肥の窒素含有量の分布)、図2(鶏糞堆肥の窒素含有量の分布)に、平成元年~10年に神奈川県肥飼料検査所で収去した牛糞堆肥124点、鶏糞堆肥88点の分析結果(乾物あたりの窒素含量)をまとめたものを示しました。作物別肥料施用基準の中で、牛糞堆肥の窒素含量の代表値としては2.1%があげられていますが、ここでの平均値は2.3%で、最大値は5.16%、最小値は0.98%でした。鶏糞堆肥は、代表値として2.9%があげられていますが、ここでの平均値は2.7%、最大値が5.01%、最小値が1.34%でした。
図1 牛糞堆肥の窒素含有量の分布
図2 鶏糞堆肥の窒素含有量の分布
このような状況をふまえ、平成12年10月からは、堆肥も他の肥料と同じように、堆肥中の主要な肥料成分について、どの程度の量が含まれているかを表示することが、堆肥の生産業者に義務付けられました。図3に堆肥に添付する表示票の見本を示します。この表示票から、堆肥を利用する場合には、利用しようとしている堆肥がどのくらいの成分をもっているかを知ることができます(もし、表示がなくて成分の量がわからなければ、堆肥の生産業者に「成分を教えてほしい」と要求することができます)。
肥料取締法に基づく表示 |
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肥料の名称 牛ふんたい肥 肥料の種類 たい肥 届出を受理した都道府県 神奈川県 第○○-××号 表示者の氏名又は名称及び住所 (有)○○牧場 神奈川県○○市△△町・・・ 正味重量 20キロ 生産した年月 平成18年4月 原料 牛ふん、おがくず 備考:生産に当たって使用された重量の大きい順である。 主要な成分の含有量等 (現物あたり) 窒素全量(%) 0.6% リン酸全量(%) 0.5% 加里全量(%) 0.8% 炭素窒素比 30 |
ただし、堆肥のような有機物は、表示されている成分量がすべてすぐに肥料効果がある成分とは限りません。土壌に施用された堆肥(有機物)は、微生物の働きによって分解を受けて、植物がすぐに利用できる無機の成分が出てきます。肥料成分の中でも特に窒素成分について、その有効化率(無機化率)を知ることが重要となってきますが、この有効化率も、実際の堆肥でどう評価するかは難しいところです。
堆肥にも成分表示が必要になったのと同じころ、家畜ふんの処理についても新しい法律(家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律)が制定され、これにより、屋根や床のしっかりした状態での堆肥化が行われるようになった結果、水分含量が適度な取り扱いやすい良質な堆肥の供給が行われるようになる一方で、雨ざらしにできなくなったことから、肥料成分が高めの堆肥が増えていくものと考えられます。今後の研究の中で、そうした養分状態の変動を明らかにしていく予定です。また、窒素の有効化率をどうやって簡易に判断するかについての研究も進めていきます。
堆肥を利用する皆さんは、堆肥についている表示表の成分量を確かめながら、環境にやさしい堆肥施用の実践をお願いします。
なお、有機物の有効化率についてや具体的な施肥の考え方については、神奈川県の作物別の施肥量を示した「作物別肥料施用基準」をご覧ください。