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更新日:2024年5月15日

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インクルーシブ教育実践推進校報告会

インクルーシブ教育実践推進校の取組についての報告会です。

知的障がいのある生徒が高校教育を受ける機会を拡大するため、平成28年度から始まった県立高校改革において、実践推進校を3校指定して、取組を進めてきました。

令和2年度4月入学生から新たに11校指定し、実践推進校は14校となりました。

本報告会では、実践推進校のこれまでの取組を報告し、県立学校におけるインクルーシブ教育の推進について、みなさまと共に考えていく機会といたしました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。当日の記録を以下にまとめましたので、ご覧ください。

PDF版記録

日時・会場・内容

日時 令和3年11月28日(日曜日) 10時00分から12時00分まで
会場 海老名市文化会館大ホール
内容 1.趣旨説明2.公開座談会3.閉会挨拶

 1.趣旨説明 神奈川のインクルーシブ教育の推進

インクルーシブ教育推進課 髙橋 敦子 指導主事

taka神奈川県では、インクルーシブ教育の推進の考え方を「支援教育の理念のもと、共生社会の実現に向け、すべての子どもができるだけ同じ場で共に学び共に育つことをめざす」とし、取組の根幹として、次の2点を大切にしています。


(1)すべての子どもが共に学び共に育つことのできる全員参加型の教育制度づくりを進めていくこと
高等学校、特別支援学校高等部の後期中等教育段階における全員参加型の教育制度には、子ども自身で自分に合ったものを選択できることが、重要な視点の1つであると考えています。神奈川県では、「学びのペースや方法」、「学びのしくみ」、「学びの内容」などの視点で考えたときに、自分に合った学校を選べるよう、様々なタイプの学校を設置しています。また、幅広い選択肢から志願先を選ぶことができるよう、様々な募集区分や、受検の方法を設定しています。県教育委員会では、これまでも、共に学び共に育つことを基本として、障がいのある生徒を幅広く積極的に県立高校で受け入れてきました。県立高校の入学者選抜において、障がいに対する予断と偏見、差別がないよう、検査時間の延長、検査会場の配慮、点字受検や口述筆記などの検査方法の配慮を行うことなどにより、障がいの種別や程度にかかわらず、障がいのある生徒が高校に入学していました。また、入学後も、本人の意向等をふまえて、施設改修や、高校生活での支援に取り組んできました。このような取組は、今後も継続してまいります。インクルーシブ教育実践推進校(以下、実践推進校)は、これまでの取組に加えて、共に学び共に育つことを一層推進するための取組であり、知的障がいのある生徒が高校教育を受ける機会をさらに広げながら、全ての生徒が共に学び相互に理解を深める教育に取り組む高校です。
これまでも、知的障がいのある生徒は高校に入学していましたが、さらに高校教育を受ける機会を拡大するために、入学者選抜について工夫することで、進路選択の幅を拡大しています。この取組により、後期中等教育段階における「全員参加型の教育制度」をさらに充実させ、共に学び共に育つことを一層推進していきたいと考えています。


(2)すべての子どもが適切な支援を受けることができる全員参加型の学校づくりを進めていくこと
これは、全員が参加できる教育の制度づくりと同時に、入学した学校ですべての子どもが生き生きと過ごせる学校づくりを大切にしていく、ということです。
実践推進校は、すべての生徒が共に学ぶことを通じて、相互理解を深め、多様性を受容する力や社会性、思いやりの心を育むことをめざしています。また、インクルーシブ教育実践推進校特別募集(以下、特別募集)で入学した生徒だけでなく、入学したすべての生徒に適切な指導・支援をしていけるよう各校で取組を進めています。在籍する生徒、教職員は多様であるため、実践推進校の取組は、1つの決まった形があるわけではありません。入学する多様な生徒に合わせ、学校は常に変化し続けていくのです。
このような取組は、実践推進校だけに求められているわけではありません。この取組の成果を全県に普及し、すべての県立学校が、すべての生徒が適切な指導・支援を受けることができる全員参加型の学校(インクルーシブな学校)へと変容することをめざしています。その取組をより一層進めるのは、生徒・保護者・教職員・地域の方々であり、すべての方々で共に考えることが大切ではないでしょうか。
そこで、本報告会では、実際に生徒と関わる先生方との座談会をとおして、より深く実践推進校の取組を知ることで、インクルーシブな学校とは何か、そのような学校づくりに必要なことは何か、皆様とともに考えていきたいと思います。

 


 2.公開座談会 生徒の姿から見えてきたこと

 上矢部高等学校 阿部 嘉人 総括教諭
 津久井浜高等学校 稲﨑 由依 教諭
 二宮高等学校 木原 幸太郎 教諭
 厚木西高等学校 高橋 智明 総括教諭
ファシリテーター  
 インクルーシブ教育推進課 赤田 佑貴 指導主事

赤田:本日は実践推進校に勤務されている4名の先生方にご登壇いただきました。先生方、よろしくお願いします。
まずは特別募集で入学した生徒について、学校の様子をお聞きしていきたいと思います。特別募集で入学者した生徒は、40名程度のクラスの中に2、3名ずつ在籍しており、各クラスで生活をしています。それぞれの学校における生徒の様子について教えてください。
abe阿部:特別募集で入学した生徒のうち、約半数の生徒が部活動に所属していて、中心となって活動している生徒もいます。授業については、やはり勉強が難しいと感じている生徒もいますが、それぞれの努力が見えます。休み時間や昼休みの過ごし方もいろいろです。実践推進校には、各学年に1部屋ずつリソースルーム(生徒が安心して学校生活を送れるように、必要に応じて生活や学習の指導・支援を受ける教室)という教室がありますが、休み時間を、そこで過ごしている生徒もいますし、みんなと一緒にクラスで過ごす生徒もいます。他の生徒たちと同じような学校生活をしていると感じます。ただし、週に2時間だけは、みんなとは違うキャリア教育の授業(実践推進校では、キャリア教育充実のため、キャリア教育に係る学校設定教科・科目を設定している)を受けています。内容は、職業に通じるものなど、それぞれの実践推進校で工夫しています。
稲﨑:本校でも部活に参加する生徒もいれば、休み時間に友達と一緒に遊んでいる生徒もいて、楽しく過ごしていると思います。リソースルームは、全生徒に開放し、どの生徒が使ってもいいことにしています。実際は特別募集で入学した生徒が多く使用しており、リソースルームだから話せることもあり、リソースルームが第2のホームルームのような、ピアサポート(同じような立場や悩みを抱えた人同士が対等な立場で支えあうこと)の場所として機能していると思います。ですから、教室やリソースルームなどいろいろなところに居場所があるのかなと感じています。授業内容についてわからないことがあれば、昼休みなどに質問に来ますが、学校生活を積み重ねる中で、いろいろな人との繋がりや関わりができてきたように思います。最近は、キャリア教育の授業でキーホルダーづくりに取り組んだからか、物づくりに興味を示す生徒もいます。来年は「文化祭で物づくりをいかして何かできたらいいね」という声が上がっているので、実現させたいと思っています。
木原:お話を聞いていて、本校の生徒でも同じ部分は多いなと感じました。今のところ元気に登校している生徒が多いです。リソースルームで過ごす生徒は学年に1人、2人程度で、教室で他の生徒と一緒におしゃべりしたり、ひとりで読書をしたりと多くの生徒は教室で過ごしています。常に教職員がついているわけではないので、基本的に休み時間は生徒の自主性を尊重して、生徒に任せていますが、必要があれば見守るなどのサポートをしています。
キャリア教育の授業は、生徒の自己理解や、教職員が生徒を理解する時間を大切にしています。他の授業では大変そうな姿を目にしますが、キャリア教育の授業では、生徒の意欲を引き出したいと思っています。例えば、1年生では、全校生徒がくつろげる公園のようなスペースを作ってはどうか、と考えています。そのスペースには「何があったらいいか」ということを生徒と一緒に考えながら、実現に向けて動き始めているところです。活動の中で、生徒と様々な話題で会話をして、普段言えないような悩みを聞けたり、そんなことを思っていたんだ、という新たな発見に繋がったりして、よい機会になっています。
高橋:本校は1年生から3年生まで在籍しています。教室での過ごし方は、学校生活に慣れようと頑張っている1年生、慣れて落ち着いた2年生、堂々と過ごせる3年生、という感じで、学年が上がっていくにつれて、自分なりの過ごし方ができていると思います。本校でも他の生徒と変わらず、みんなと一緒に部活や委員会、学校行事などに参加しています。そういった様々な場で、自分の居場所を見つけて生き生きと生活している生徒もいます。生徒一人ひとりが自分に合った方法で過ごしている、と感じています。
赤田:4名の先生方のお話をお聞きしていると、特別募集で入学した生徒たちは学校の中で自分の居場所を見つけながら、本当に充実した生活を送っているのかなと思いました。一方で、生活面や学習面などでは、生徒がちょっと苦しいなと感じる場面もあると思います。学校としては、どのようなサポートをしていますか。
阿部:苦手な科目については、個別の教育計画を作成し、その生徒に対する目標の達成に向けて指導しています。これから期末試験があり、放課後遅くまで残って、「ここだけは頑張ろう」と苦手科目に取り組んでいる生徒もいます。
ina稲﨑:年間5、6回、生徒本人と保護者、担任、支援担任の4名で面談を行っているので、それぞれの困っているところやニーズは掴みやすいと思います。本校では、担任と支援担任という2名体制で、朝と帰りのホームルームや、ロングホームルームを行っています。2人体制の指導になっているので、生徒の変化に気づきやすく、またその変化を共有しやすくなっています。本校の生徒は「困った」、「助けて」などの言葉を自分から言ってくれると感じています。入学前にも「高校に入ったら自分から手助けしてほしいことは言えるようになろう」と伝えています。私もそうですが、自分が苦手なことを発信するのは難しいことだと思います。ですが、高校生活の中で「わからないので教えてください」、「放課後に補習してください」と発信できるようになっていく生徒が多いです。それは、この学校なら「発信して大丈夫」と思ってくれているのではないかと私の中で受けとめています。複数の大人がいろいろな形で関わっていきながら、様々な見立てやアプローチができることは本校の強みだと思います。
木原:学習面については、苦手意識が小さい頃から自分の中にある生徒が多いと感じます。そこをどうやって取り除いていこうかと私たちは考えています。「努力できたね」と、生徒の努力にスポットを当てることで、「普段の授業で復習を少しやってみよう」という行動の変容に、少しずつ繋がっていると感じています。
また、生活面では、自分には障がいがあるということが大きく膨らんでしまっている生徒もいると感じています。苦手なことは誰にでもあるし、本人が思っているよりも周りは気にしていないこともあります。そこを変えるのは難しいことだと、とても感じていますが、生徒と繰り返し会話をして、本人の悩みがでてきたら逆にチャンスだととらえて、本人に自己理解を促す足がかりにしています。
高橋:生徒のサポートを考えたときに、様々な側面があると思うので、まずは課題整理することが必要だと考えています。私は、生活支援と学習支援を分けて考える必要があると思っています。生徒が過ごしやすくなるよう関わっていきながら、友人関係など生活の土台をつくった上で、学習支援をどうしていこうか考えることが大切だと思うからです。ですから、本校では生活支援に重きを置いてスタートしています。生活支援をしたうえで、生徒にどのような特性があり、どのように授業を進めるといいのか、という視点を教科担任の先生と情報共有しながら、学習のことを考えていくことが大切なのではないでしょうか。やり方の前にそういった意識をつくっていくことが大事だと感じています。
赤田:多くの先生方が関わりながら、生徒一人ひとりがどうすれば安心した学校生活を送れるようになるか、どのように学習を支えていけばよいかということを考えられていると感じました。では次に、生活面や学習面に限らず、印象に残っているエピソードを教えてください。
阿部:ある生徒になぜ上矢部高校の特別募集を選んだのか、と聞いたことがあります。その生徒は、「特別支援学校も見に行ったけど、みんなと一緒に活動がしたいから、上矢部を選んだ。」と話してくれました。その生徒は部活動に取り組んでいたり、学校行事でも中心的な役割を果たしたりしています。本人が考えて決めて上矢部高校を選んだということがわかりました。
稲﨑:入学するにあたって不安なことがないか、入学式の前に生徒、保護者と面談を行うことがあります。その面談で、保護者から、「この子は発信が難しい」とお聞きし、私からは「高校では少しずつ自分から言えるようになるといいね」という話をしました。その生徒も今では私たち教職員に冗談を言ったり、「自分はこうしたい」という話をしてきたりしています。はじめは集団での関わりなどに不安を感じていたと思います。本校で過ごしていく中で、徐々に慣れてきて、自信をつけていった生徒がいます。また、普段の学校生活やキャリア教育の授業での学びを通して、周囲と自分のことを相対的に考えながら、自己理解を深められている生徒もいます。生徒は、学校生活の中でいろいろなことを身につけていくのだと実感しました。
木原:ある生徒の話です。入学前に中学校から引き継いだ支援に関する内容をもとに、座席配置の配慮など支援の方向性を教職員で共有しました。高校は教室移動が多く、ホームルーム教室以外で授業を受けることが多くあります。そのため、教室の場所や時間をその都度伝えるという支援を入学以来行なっていました。ある時、これを止めてみたところ、困った様子もなく周りと一緒に行動できていました。そのことから、もしかしたら、支援をしすぎることで、本人の伸びる力を摘んでいるのではないか、と考えるきっかけになりました。その生徒は現在、今日の予定を伝えなくても自分で必要な情報を見つけて、過ごしています。生徒の成長を強く感じました。
高橋:tomoキャリア教育の授業は少人数で行う授業なので、生徒と対話をするように心がけています。この授業では進路に向けた内容を扱っていますが、ピアカウンセリング(同じような立場や悩みを抱えた人同士が対等な立場で話を聞き合いながら、解決策を見出していくこと)的な役割を果たす時間にもなっています。生徒の表情や態度から「元気がない」とか、「今日はいつも以上に明るいな」ということがすぐにわかります。最近のエピソードだと、体育委員会の生徒が、キャリア教育の授業の時に、眉間にしわを寄せて悩んでいました。話を聞いてみると、体育祭の種目決めの時に苦労したので、近々やる予定の球技大会の種目決めが心配だったようです。そのときは「大丈夫だよ」と伝えました。もちろんここで助言することもできますが、自分の中でどう納得して、それを行動に移すことが大事だと思います。もちろん必要なことは言いますが、聞いてあげることがまず大事だと思います。
赤田:キャリア教育の授業の話もでましたが、高校卒業後の進路について、生徒はどのように考えていますか?
阿部:進路に関して、2年時までのキャリア教育の授業や夏休みの実習や見学等を経て、少しずつ自分の考えが深まってきていると感じています。
1年生の面談時には「大学に行きたい」と答えた生徒が、2年生になって「専門学校に行きたい」と言ったり、総合職業技術校を見学したことで、関心がでてきたりした生徒もいます。
書籍やインターネットで調べることも大切ですが、夏休みの実習や見学など、様々な経験を積むことが大切だなと気づきました。
稲﨑:企業でインターンシップをした生徒もいれば、専門学校の体験授業に参加した生徒もいます。実際に足を運んでみることは大事だと思います。生徒の進路希望は様々です。
学校生活で様々な経験を重ねる中で、自分と向き合い、どの選択肢がよいか考えていかなければいけないと思います。津久井浜高校では、自分のことを知ってもらって必要な時には助けてもらいたい、という生徒が最近増えてきた印象があります。
高校卒業後の進路については、多くの選択肢があるので、日々の学校生活の中でも、教職員が相談にのりながら一緒に考え、生徒との対話を大事にしながらサポートしています。
木原:kiha高校1、2年生の段階で、将来の進路について明確に決まっている高校生は多くないと思います。しかし、教職員側から「こういうところがいいのでは」と助言しすぎるのもどうかと考えてしまい、按配が難しいと思っています。
すべての生徒に共通しているのは、どのような仕事が社会にあるのか、そこで働く方々はどのような生活を送っているかをイメージしづらいことだと思います。ですから、その職業に就いたからどうだというよりも、自分の生活を充実させるために、仕事は大切な時間の使い方であるというところからアプローチして進めています。
今の2年生が今年の夏にインターンシップを2日間やっています。そこでの体験が自分を見つめ直す機会になったなと感じます。「自分でできると思っていることが意外ときつかった」とか、逆に難しいと思っていたことを会社の人に褒めてもらい「私、こんないいところがあったんだ」という生徒の気づきもありました。そのきっかけづくりをどのくらいできるかが、進路指導の担当として重要だと思っています。2年生までは、日常に少しずつ種をまいていけばいいのかなと思いながら、進めています。
高橋:キャリア教育の授業では1年生「自分を知る」、2年生「進路やその決め方を知る」、3年生「進路を決める」という段階設定をしています。すべての生徒が総合的な探究の時間でも進路について学習しています。具体の部分は知らないけど、進学したいな、と憧れや希望は持っていますので、2年生の段階で「進路の決め方」の学習を組んでいくことで少しずつ自分と向き合っていきます。その2年生がポイントかなと思います。先生方のお話の中で「自分と向き合う」というお話がありましたが、その中で大事なことは、自分には今はできないこともあるということを知っていくことだと思います。自分にできることをしっかり見つけた中で、自分が過ごしやすく、より豊かな、自分に合った進路を見つけてもらいたいと思っています。
赤田:進路についてお聞きしましたが、生徒一人ひとりと丁寧な対話を重ねていくことや、生徒自身が自分に合っている進路について考えることが大切だなと感じました。
今までのお話の中にもありましたが、実践推進校の取組をとおして先生方の意識にどのような変化がありましたか。
阿部:実践推進校に指定されたときには、先生方は不安ばかりでした。上矢部高校ではどのようなことができるだろう、どうしたらいいだろうと模索しながら、徐々に支援の体制を整えていきました。
1年生がいざ入学してきたところで、特別募集で入った生徒がいる学年では、職員室で、生徒のことについて話題になることが増えた気がします。今日このようなことがあったなどの教職員間の情報共有が日常的にあり、ある生徒への支援方法に対して、それは教職員が手を出しすぎではないか、など議論することもあります。教職員同士の会話が増えてきたと感じます。
稲﨑:本校の職員室でも、特別募集で入学した生徒に限らず、どの生徒についての話も増えたなと感じます。誰かが話し始めると、日々起きている様々な情報がいろいろな先生から入ってきます。とても変わったなと思います。初めて特別募集で生徒が入学してくる時と新型コロナウイルス感染症拡大防止による臨時休校のタイミングが重なったので、最初は混乱しましたが、生徒のニーズに応えようと相談しながらやっていくという体制は、だんだん定着してきたと思います。コロナの事もあって、どこの学校もICTの活用が一気に進んだと思います。これをいい方向に使っていこうという意識が高まってきていると思います。例えば、本校では、視覚的支援として、プロジェクターやモニターを使うなど、言葉で伝えるだけよりも、文字でも残した方が伝わるなと感じています。また日々の連絡を、言葉でも伝えますが、Googleクラスルームを使って文字情報としても伝えるなど、先生方も自然と支援をしています。
木原:私は今年着任して感じた印象として、実践推進校として身構える先生が多いように感じました。「すごいことをやらなければいけないのではないか」と構えている印象です。今までやってきた授業を1からつくり直さなければならないと感じている先生もいました。高校教育の中に特別支援教育のエッセンスを少し加えるといった意識を持つことでいいのかなと思っています。高校の中でできる生徒に合った支援ってなんだろうということを教職員向けの研修会などで、先生方に少しずつ理解していただいています。授業中に言葉で説明したことを板書するだけでも、十分効果があるということをお伝えすると前向きになれる先生も多いかなと思います。特別募集が始まってまだ2年目ですが、3年、4年経ってこの流れが定着していくと、構えなくても、自然な支援が当たり前になっていくのではと考えています。
担任の先生から、生徒の対応についてどうしていいかわからないと相談を受けることがあります。そのような時には、「先生が担任なので、その子を含めたクラス全体を見て、対処していきましょう。私も一緒に考えていきますので。」と返すようにしています。そうすると担任の先生も、支援の担当職員にすべて任せるのではなく、自分で対処しなければならないという責任感が生まれてきて、具体の支援方法について考えていくようになってきています。
高橋:どの先生もいままでの支援の経験が少しずつ積み重なり、自信になっていった部分があると思います。職員室で支援の話題がでてきたときに、どんな視点を持ったらいいか、障がいに注目するのではなく、目の前の生徒に合わせてアプローチする方法を考えていくといい、と伝えていくことが大事だと思います。やはり、教職員が構えてしまうこともあるかもしれませんが、生徒と一緒に過ごしていく中で、1人の教職員として生徒を見るということに責任を持つことが大事だと思います。
赤田:最後に、実践推進校や県立学校全体でインクルーシブ教育を推進していくために、今後、どのようなことを大切にしたほうがよいとお考えでしょうか。
阿部:何かすごいことをするというわけではなくて、学年関係なく、全員の先生方が全員の生徒を見る。そして、指導・支援するという気持ちで、生徒に向かってほしいです。そのようなことができたらいいなと思います。
稲﨑:実際推進校での生活の形は、社会の縮図なのではとすごく感じるようになりました。今、先生全員で生徒全員を見る、支援すると話がありましたが、必要な支援が必要な時に届くような学校にしていきたいと思います。どの生徒も学びやすい環境づくりや、個別最適な学びが大切だと言われています。そのような学校づくりをしていきたいと思います。
木原:私が意識するのは、特別なことをするより、普段から当たり前のことをするようにしているということです。教職員にとって当たり前なことは何か考えたときに、生徒一人ひとりの話を丁寧に聞く、生徒の思いを理解する、生徒と一緒に考える、ということだと思います。その上で、わかりやすい授業をすることだと思います。障がいのある生徒に対してわかりやすいだけでなく、みんながわかりやすい授業をする。そのための言葉の選択や指導方法、見せ方、そういうところが絶対に高校教職
員としてぶれてはいけないところだと感じています。このことは実践推進校だからではなく、それがすべての学校の根幹にあるのかなと常々思っています。
高橋:一人ひとりを大切にする学校とありましたが、元々、教職員はそう思って生徒と接しているはずです。特別支援学校と高等学校の違いを考えたときに、特別支援学校は個別性の高さが優れていて、生徒の実態把握をしながら、どのように導いていこうかと丁寧に生徒にかかわっていると思います。一方、高校では、教科担任制でいろいろな先生の目で生徒を見ており、多面的に生徒を見ることができます。そういった意味で、生徒を見るという視点で考えると、何も変わらないと思います。先生たちが見立てたものをどのような方向性で束ねていくか、どう生徒にフィードバックしていくかが大事かなと思います。どのような方法で生徒を導くのか、どういう方向に持っていくのがいいか、共有の仕方が大事だと思います。
赤田:この取組を進める専門家は誰だろうと、お話を聞いて考えました。それは、教職員一人ひとりが、目の前の生徒に対して、何ができるか、あるいは学校全体では何ができるかを、生徒と向き合って考えることができる方なのではないでしょうか。実践推進校の取組を続けていくには、目の前の子どもたちに合わせて対話を重ねながら常に考え続けることが大事だと感じました。
特別募集が始まって2年目で、この制度により入学した生徒が卒業していない学校もあります。この取組は、何か完成形があるわけではなく、目の前の生徒に合わせて考え続けることが重要です。まだまだこれからも取り組みを進めて参ります。引き続き、皆様にも、ご理解またご協力いただければと思っております。
登壇いただいた4名の先生方、ありがとうございました。

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 3.閉会挨拶

厚木西高等学校 岸川 浩幸 校長

kishiすべての高校生がそうだと思いますが、一人ひとりの実態や教育的ニーズは異なっています。よって、特別募集で入学した生徒ということで、決してひとくくりにすることはできません。本校に入学し、配慮のある工夫や手だてがきっかけとなって、学びへの意欲が高まり、力をつけて進学した生徒もおります。一方で、毎日の通学が困難であったり、40名という集団での学びが苦しかったりして、進路変更を余儀なくされてしまった生徒もおります。そういうすべての生徒に共通していると思うのは、特別募集で入学する生徒の多くは、「普通の高校生として生活したい」という思いが強いということです。そのような思いが入学への意欲につながっていると思います。
先日、現在在籍している保護者対象の説明会を開きました。その中で、卒業して1年半経った本校の1期生に来てもらって、卒業して今、何をしているのかを、保護者の前で語ってもらいました。自分を客観視して、しっかりと自分の言葉で語っていました。そういう姿を見て、校長として本当に頼もしく感じ、この実践推進校の取組の可能性を感じました。特別募集で入学した生徒にとって、高等学校での学びというのは、決して楽なことだけではないと思いますが、高等学校で多くの生徒と学び、多くの体験を積み、そして、卒業後も大人に向かって成長している。そういう姿を見て、校長として誇らしく思いました。
実践推進校は、多様性を理解し認め合う場、まさにそういった場になってきておりますが、神奈川県が推進しているインクルーシブ教育は、決して、実践推進校だけで行うものではありません。すべての県立高校でインクルーシブ教育、共に学び共に育つことのできる教育が行われるべきものです。インクルーシブ教育の推進に向け、実践推進校の取組がきっかけとなり、神奈川県全体にインクルーシブ教育が定着することを願っています。

 


今回の報告会は、実践推進校の取組について、広く発信、共有することにより、インクルーシブ教育の推進を図ることを目的に開催しました。神奈川県教育委員会では、一人ひとりの人間性や多様な個性を尊重し、お互いを理解していくことが大切だと考えています。すべての県立学校において「インクルーシブな学校」づくりに向けた取組を進め、共生社会の実現につなげてまいります。

主催 神奈川県教育委員会


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