初期公開日:2023年7月18日更新日:2024年10月22日
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県外産の卵を使用して生産しているトラフグ種苗について、水産技術センターは本県産の親魚から受精卵をとり放流サイズの種苗まで育成することに初めて成功しました。神奈川生まれの種苗を生産・放流することで安定した資源増大につながることが期待されます。
フグ類の最高級魚として知られているトラフグは主に西日本で漁獲され、1990年代以前は県内で漁獲されることはほとんどありませんでした。しかし、2003年に横須賀市の相模湾側で1トン程度のややまとまった漁獲があったことをきっかけに、2004年以降、横須賀市内の漁協や当センターが種苗放流を継続的に実施しました。その結果、2021年には漁獲量が10トンを超えるなど、漁獲量が急増しています。多くの魚種が不漁となる中で、漁獲量が右肩上がりに増えているトラフグは、本県の新たな資源として、漁業関係者から大きな期待が寄せられています。同年には横須賀市の長井町漁協の漁業者グループが中心となり、かながわブランドに「天然・釣物 相模のとらふぐ」を登録するなど、漁業関係者も本県産トラフグの普及に努めているところです。トラフグが神奈川の名産と呼ばれる日も近いかもしれません。
天然・釣物 相模のとらふぐ
(参考情報)
当センターでは、トラフグ資源を積極的に増やす目的で、2008年から放流用のトラフグ種苗の生産技術の開発に取り組み、放流による資源造成効果の検証を行っています。種苗生産に関しては、放流に適した全長4cm以上の種苗を年間10万尾以上生産できるようになっており、量産化に一定の目途が付いてきています。しかし、これら種苗は受精卵の供給を県外に依存しており、種苗の安定確保の観点で大きな課題となっています。また、漁業者からは、神奈川県で獲れた天然トラフグを親とした生粋の「神奈川生まれ」の種苗を生産してほしいとの声も上がっていました。
受精卵の供給を県外に依存していた本県のトラフグ種苗
当センターでは、生粋の「神奈川生まれ」の種苗を生産すべく、今年度(2023年度)から本県産天然トラフグからの採卵に着手しました。先行研究からトラフグは4月前後に産卵すると考えられていたため、横須賀市の長井町漁協所属の漁業者に協力をいただき、2023年4月に天然トラフグ13尾(雌8尾、雄5尾)を入手し、当センターの飼育水槽に移送しました。このうち状態のよい雌7尾に排卵を促すホルモンを投与して人工採卵を試みたところ、すべての雌から合計700万粒以上の卵を得ることに成功しました!
採卵に用いた横須賀市長井産のトラフグ親魚(雌)
排卵されたトラフグの未受精卵(直径約1mm)
雄から採取した精子を受精させて得られた受精卵は、順調にふ化・育成され、放流可能サイズとされる全長約4cmに達しました。成長した種苗は、7月25日に県内初となる「神奈川生まれ」のトラフグ種苗として相模湾に放流される予定です。今回の研究成果は、県内で放流用の稚魚を一貫生産し安定的な栽培漁業を実現する上で大きな一歩となりました。来年度以降も今年度の試験結果の再現性の確認や採卵方法の更なる安定化・効率化を進めていく予定です。
ふ化直後のトラフグ仔魚※(全長約3mm)
※ 仔魚(しぎょ):ふ化直後から親に近い姿の稚魚になるまでの間の子供のこと
放流可能サイズ(全長4cm)まで育ったトラフグ稚魚
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