13 県立障害者支援施設等における不適切な支援への対応状況について 県立直営の「中井やまゆり園」、社会福祉法人かながわ共同会が指定管理者となる「愛名やまゆり園」及び「厚木精華園」における虐待事案、社会福祉法人同愛会が運営する事業所における虐待事案の対応状況について報告する。 (1)中井やまゆり園の事案 ア事案の概要 (ア)概要 ・令和5年10月26日昼食時、民間の支援改善アドバイザーが園内を巡回する中で、居室内にあるポータブルトイレに座り、排泄している利用者(60代女性)に対し、職員(50代女性・40代女性)が服薬、食事支援を行うなどの行為を目撃し、園幹部職員に不適切であると指摘があった。 ・園は、10月27日に園長をトップとする園内検証チームを立ち上げ、事実確認のため、園職員のヒアリングを順次行った。 ・11月2日に改めて幹部会議を開催し、同日に支給決定自治体に電話で第一報を入れ、11月6日、園幹部職員が同自治体に出向き、障害者虐待防止法に基づく通報として受理された。併せて、利用者本人、ご家族に対して、謝罪を行った。 ・12月8日、支給決定自治体より、心理的虐待にあたると認定された。 (イ)その後の検証で明らかになった事実 虐待認定後、園全体で振り返りを行うため、見守りカメラの映像確認や関係職員へのヒアリング等を行ったところ、次の事実が明らかになった。 ・ポータブルトイレに座りながら、服薬や食事の支援が行われた利用者は、1時間以上前から、トイレに座っており、この間、職員は、居室の扉のガラス越しに様子を確認するだけで、声かけなどの直接的な支援は行われなかった。 ・服薬支援を行った職員は抗てんかん薬を飲ませようとしたが、昼食時の薬には抗てんかん薬は含まれておらず、この場面で無理に服薬をする必要はなかった。 イ虐待が発生した原因等 ・職員の支援は、園の日課を軸に業務が事細かに決められた職員目線の業務対応表や業務対応マニュアルにより行われていた。 ・利用者の状態像のみ着目され、体調が悪く、居室でポータブルトイレを使用することは仕方がない、やむを得ないという発想が潜在的にあり、利用者の行動に対する理解が不十分だった。 ・居室でポータブルトイレを使用することが常態化していた。 ・利用者が何の目的で、いつから、どのような薬を服用しているのかといった基本的な医療情報が園内で共有されておらず、薬の処方内容を理解しないまま、服薬支援が行われていた。 ・事案発生直後に速やかに事実確認や原因究明の徹底が行われず、事実の把握が不十分であった。  ウ再発防止に向けた取組 ・利用者目線に立って、業務対応表・業務対応マニュアルを改善していく。また、マニュアルに縛られることがないよう、業務対応表を使う上での注意点を職員間で共有する。 ・職員が利用者を知るため、成育歴などから本人のこれまでの人生を理解し、職員間で共有し、利用者支援に活かす。 ・薬の処方内容の確認を徹底し、園内の福祉部門と医療部門の連携体制の改善を図る。 ・事案発生後に、園・県本庁による検証チームを直ちに組織し、関係職員による事実確認、原因究明、再発防止に迅速に取り組む。 (2)かながわ共同会が運営する指定管理施設の事案について ア愛名やまゆり園 (ア)事案の概要 a 令和5年11月に発生した事案の概要 ・令和5年11月2日、生活支援員(30代男性)が利用者(20代男性)に対して蹴る、叩く、足をかけて転倒させるといった暴力行為で骨折させた。 ・11月10日、支給決定自治体から、身体的虐待にあたると認定され、改善指導が行われ、園は、改善計画書を提出した。 ・当該職員は逮捕、起訴されている。 b園と県本庁による点検で発覚した事案 園と県本庁で、他に不適切な支援がないか見守りカメラにより点検した結果、利用者を骨折させた職員による3つの事案を確認した。この3事案について、支給決定自治体と警察に直ちに通報した。その後、支給決定自治体から虐待認定が行われた。また、横浜地方検察庁はこれら3事案を追加で起訴した。 (a)令和5年5月19日、トイレから廊下に出た利用者を押さえ込み、トイレに連れ込んだ。 (b)令和5年6月26日、床に座っていた利用者を足等で身体を強く押した。また、利用者の身体を足で強く押し続けた。さらに、利用者の臀部を蹴った。 (c)令和5年10月28日、立ち上がる利用者をソファーに押し付けるなどした。さらに、居室に戻ろうとした利用者の顎を叩き、その反動でドア枠に右目尻をぶつけ、裂傷を負わせた。 c令和5年12月に発生した事案の概要 ・令和5年12月16日の昼食時、職員(30代男性)が居室内で食事介助を行っていた際に、利用者(50代男性)の食事摂取が進まないことに苛立ち、威嚇のためにスプーンを振り上げ、振り下ろしたところ、利用者の額に当たり負傷・出血した。 ・園は当該職員から報告を受け、ヒアリング調査で事実を確認し、同日、支給決定自治体に、障害者虐待防止法に基づき通報した。 ・また、当該職員へのヒアリングを進める中で、他利用者のタンスから衣類を出して着ようとした利用者(40代男性)に対し、厳しい命令口調で制止したことを申し出たため、12月27日に支給決定自治体に障害者虐待防止法に基づき、追加で通報した。 ・支給決定自治体は、前者については身体的虐待及び心理的虐待、後者については心理的虐待にあたるとそれぞれ判断し、令和6年2月2日に、同園に再発防止策の提出を求めた。 (イ)虐待が発生した原因等 ・園の運営や支援に関する方針を支援員に浸透させることができていなかった。 ・人権意識の向上、支援に関する知識、ストレスや感情をコントロールするための研修を受けていたが、実践の場面では活かされなかった。 ・当該職員一人で寮内の利用者支援にあたることで、職員に焦りが生まれ、また、他の職員に応援を頼みづらいという意識が職員にあった。 ・管理職は職員が一人で支援にあたる状況を把握していながら、柔軟な応援体制を組むなどのマネジメントが欠如していた。 ・利用者をスプーンで負傷させた職員は、指定管理者が行った支援の振り返り調査で、「時折感情的になることもある」と回答していたが、未然に防止することができなかった。 ・これまで見守りカメラの活用が徹底されていなかったことで、事故の早期発見や未然防止に繋がらなかった。 イ厚木精華園 (ア)事案の概要 ・令和5年4月28日、生活支援員(50代男性)が行った、利用者(80代男性)の行動を制止しようとする中、床に引き倒すなどの行為が、同年8月25日、支給決定自治体から、身体的虐待及び心理的虐待にあたると認定され、改善指導が行われた。 ・園は、9月末、支給決定自治体に改善計画書を提出した。 (イ)虐待が発生した原因等 ・利用者の行動を力任せに制止する職員目線の支援が行われ、当事者目線の支援が徹底できていなかった。 ・事案発生直後、周囲の職員は利用者の安全確保を第一に行動ができておらず、その場で指摘し合える、職員間で円滑にコミュニケーションを取れる職場環境になっていなかった。 ・園で虐待防止研修を行っていても、知識・認識が備わらず、効果的な研修ができていなかった。また、職員の支援上の課題等について、法人として十分に把握していたにも関わらず、職員指導ができていなかった。 ウ再発防止に向けた取組 (ア)かながわ共同会の取組 愛名やまゆり園及び厚木精華園で虐待事案が発生したことを受けて、次の取組を進めている。 ・法人全職員に対する支援の振り返り調査の実施 ・振り返り調査の結果をもとに幹部職員と現場職員との面接 ・職員間の状況共有や応援調整を迅速に行うためのインカム導入 ・理事長自らによる現場職員との意見交換 ・外部有識者らによる第三者委員会を設置しての検証 (イ)県本庁の取組 ・職員の暴言等の心理的虐待も確認できるよう、愛名やまゆり園をはじめ、各園の見守りカメラに音声録音機能を順次追加する。 ・11月6日以降、愛名やまゆり園に対して、障害者総合支援法に基づく特別監査及び指定管理基本協定に基づく随時モニタリングを実施しており、今後、改善に向けて必要な指導等を行っていく。 (3)県立施設における再発防止等の取組状況 ア園と県本庁による不適切な支援の点検 ・県本庁は、福祉子どもみらい局が所管する県立施設に対して、利用者が負傷した事故報告等のうち、職員が直接確認できていない事案などについて、不適切な支援が原因でないか、改めて検証するよう指示した。 ・県本庁も見守りカメラの映像確認等により再検証している。 イ未然防止・再発防止に向けた取組 これまで県立施設で発生した虐待事案を受け、全ての県立施設と県本庁とで、未然防止・再発防止策の検討を進めている。 課題 課題解決に向けた取組 意識 職員目線の業務対応表・マニュアルが支援の根底になっている ・園の理念や支援方針が現場支援員に浸透していない ・人権意識、支援技術、アンガーマネジメント等、必要な知識や技術が不足している (県立施設) ・業務対応表・マニュアルの抜本的な見直し ・理念研修等による理念の浸透 ・体系的な研修と効果検証 (県本庁) ・障害当事者や家族を講師とした階層別研修を実施 知識 ・成育歴等、利用者の理解が不十分 ・薬の処方内容といった基本的な医療情報の理解が不十分 (県立施設) ・意思決定支援の推進 (県本庁) ・ICFを活用した研修の実施 実践 ・多くの利用者は依然として、寮内で生活が完結している (県立施設) ・職住分離の徹底等、地域での活動を前提とした日中活動の見直し 検証 ・利用者本人の思いに立って検証できていない ・徹底した事実確認及び原因究明が行えていない ・見守りカメラが支援の向上や不適切な対応の未然防止・早期発見に活用されていない ・県の運営指導が曖昧で、一貫した指導ができていない ・さらに不適切な支援や虐待が疑われる事案がないか検証が必要である (県立施設) ・見守りカメラの映像確認、現場再現による検証の徹底 ・虐待防止マニュアル等で、園の具体的な対応を明確化 ・定期的な支援の振り返り等による見守りカメラの活用 (県本庁) ・運営指導、対応方針の明確化 ・定期的な見守りカメラの映像確認 ・見守りカメラに集音機能追加 マネジメント ・園幹部と支援員の風通しの悪さ ・職員を孤立させてしまう職員配置・人員体制 ・状況に応じた柔軟な応援体制が組めない ・寮内に外部の目が入りづらい閉鎖的な環境がある (県立施設) ・幹部職員等による定期的なラウンド ・現場職員との定期面談 ・他セクションとの交流促進 ・全園での柔軟な応援体制構築 ・第三者委員等による園内ラウンド (県本庁) ・日常的な園内ラウンド、会議等への参画 ・県本庁による県立施設職員相談窓口の開設 (4)社会福祉法人同愛会が運営する事業所における虐待事案の対応状況 ア事案の概要 令和4年11月に横浜市内の事業所で利用者が職員に暴力を振るった際に、制止のために職員が首あたりを圧迫するなどの行為と、令和5年8月に同市内の別の事業所の職員が、利用者に複数回膝蹴りなどの暴力を振るった行為が、横浜市から身体的虐待等と認定された。 イ県本庁及び同愛会の対応状況 (第三者によるアンケート調査委員会) ・アンケート調査は、職員約1,600人を対象に実施し、約1,150件の回答があった。 ・調査委員会は、現在までに4回開催され、アンケート結果の検証、分析が続けられており、今後、同法人に提言が行われる予定である。 ・また、同委員会では利用者に対するアンケート調査の方法についても検討を行う予定である。 (再発防止に向けた取組状況) ・法人では、個々の事業所における虐待防止委員会の委員に障害当事者を選任している。また、個々の事業所における虐待防止委員会の設置に加え、法人全体を総括する虐待防止委員会を設置して、虐待防止に向け、改善策や研修などの情報の共有化等を図っている。 ・平成30年度より職員の採用時に「虐待に関する誓約書」への署名を求め、これを利用者代表に提出していたが、今回、平成30年度以前に採用した職員も含め全職員が取り交わすよう取組を進めている。