12 県立中井やまゆり園における利用者支援等の改善について 令和5年7月末に策定した「県立中井やまゆり園当事者目線の支援アクションプラン~一人ひとりの人生を支援する~」(以下「アクションプラン」という。)に基づく利用者支援等の改善について報告する。 (1) アクションプランに基づく取組状況 ア 利用者家族への説明 11月、1月の家族会等でアクションプランについて説明し、次のとおり意見をいただいた。 <主な意見> ・取組報告だけでなく、例えば「らっかせい」に通いだして、どのような変化があったのか、モニタリング会議に参加して、どのような発言があったのか、そういう利用者の変化を知りたい。 ・アクションプランに基づく取組の中で、成育歴や人となりシートは家族にも共有してもらいたい。 イ 園と県本庁の取組 アクションプランに掲げる4つの柱ごとに取組を進めている。 (ア) 人生に共感し、チームで支援する これまでどのような人生を歩んできたのか、成育歴から利用者の人生を理解し共感するため、次の取組を進めている。 a支援改善アドバイザーとのカンファレンスを通じた成育歴の理解と人となりシートの作成 ・利用者87名中45名のカンファレンスを実施(令和5年12月現在) b利用者本人と、園長をはじめとした園職員との面談を実施 ・利用者69名の面談を実施(令和5年12月現在) cモニタリング会議に利用者本人が参加 ・利用者40名が会議に参加(令和5年12月現在) (イ)暮らしをつくる 施設の中だけで完結していた暮らしから、当たり前に地域で活動する暮らしに向け、次の取組を進めている。 a秦野駅前拠点「らっかせい」での活動の充実 ・花壇整備や公園清掃に加え、商店街でのリサイクル活動等の開始 ・利用者実人数38名、延べ735名が参加(令和6年1月現在) b近隣農家や他事業所との連携による、農作業を通じた地域連携の取組 ・令和5年7月にキックオフミーティングを開催し、現在、地域の農地を活用し、3か所で農作業を実施 c園外の事業所への通所 ・体験利用を含め、利用者19名が通所(令和6年1月現在) (ウ)いのちを守る施設運営 利用者一人ひとりのいのちを守るという強い意識をもち、次の取組を進めている。 a一人ひとりの利用者の健康状態の再アセスメントを実施 ・健康診断結果を経年の推移で確認 ・服用している薬の開始時期や目的を再確認 ・食事リスクのある利用者のリストを作成 b園外の医療機関を受診し、園内では実施できない検査を積極的に行い、体調不良の根本的な原因究明を実施 (エ)施設運営を支える仕組みの改善 a利用者満足度調査を実施中 bICF(国際生活機能分類)を活用した研修を実施 c職員の不安、悩み、ストレスを解消するための取組の一環として全職員を対象にしたアンケートを実施 d他の民間施設へヒアリングを行い、人員配置体制等を検討 ウ 取組状況の振り返り (ア)取組実績と改善が必要な点 a 取組実績 ・全利用者の半数程度が「らっかせい」を利用したり、園外の事業所へ通所した利用者数は昨年度の2倍になるなど、日中活動の充実が進んでおり、その結果、1名が通所していた事業所近くのグループホームに移行した。 ・園外活動を通じて、収穫用のはさみを使えるようになった、活動場所までバスで移動ができたなど、本人の新たな可能性が引き出されている。 ・園外活動によって、利用者の明るい表情、積極的な行動、日々の成長等を職員が目の当たりにし、利用者への共感を深めている。 ・本人の活動状況や嗜好などに関する支援記録が充実してきており、ICFを活用しながら、本人の理解や支援の見直しにつながる取組も始まっている。 b 改善が必要な点 ・寮単位や個々の職員単位で見た場合に、支援に対する意識や支援技術にばらつきがみられる。 ・その結果、例えば、水道栓を閉める、洗面所の施錠、ポータブルトイレが設置された居室内での食事、扉やカーテンのないトイレ、穴の開いたままの壁など、改善に向けた試行錯誤しながらも、改善に至っていない寮がある。 ・また、過去に作ったマニュアルにしたがって、入浴が週3回のみ、水分補給は決まった時間だけなどの支援が継続されており、本人の意思や行動に基づく生活が実現できていない寮もある。 ・今後、一部の寮で進んでいる改善状況を、全園に広めていくことが必要となる。 (イ)取組を進める中で気付いた課題 a利用者の機能低下に関する課題 ・園の再整備(平成12年)で入所した20~30代の利用者が現在40~50代の若さで歩行機能の低下により車椅子を利用するようになった。 ・現在、車椅子を利用している利用者24名のうち、16名は、40~50代で、このうち9名は入所後に車椅子を利用していた。 b栄養に関する課題  低栄養が懸念される利用者は36人、食事形態に配慮が必要な利用者は58人と食事リスクのある利用者が多い。 c医療に関する場面での課題 ・眼科検診で白内障の所見を受ける利用者は年々増加(令和4年度39人、令和5年度42人)しているが、受診して治療等をしている利用者は10名のみである。(令和5年8月現在) ・てんかん薬の処方にあたって、園では定期的に脳波検査をしているが、一部利用者は障害特性のため脳波検査を受けられないと職員が判断し、検査せずに服薬しているケースがある。 ・職員に健康管理に必要な知識が不十分で、日常の生活場面において健康面の変化に気づくことができていなかった。 (2)第三者による進捗確認 令和6年1月23日に、県立中井やまゆり園改革アドバイザリー会議(以下「アドバイザリー会議」という。)委員による現地視察を行い、次のとおり意見をいただいた。 <主な意見> ・らっかせい等、日中活動は賑やかで、活発に行われており、利用者の生活も変わってきていると感じられた。 ・寮内は、居室施錠はほぼ無くなったが、寮やホームの扉は依然として施錠されており、開錠を進めていく必要がある。 ・長時間の居室施錠を行ってきた利用者について、居室施錠が長期に渡ることで、何らかの疾病により機能低下が著しくなっている。 ・タイムアウトの名の下で居室施錠を続けていることは非常に危険で、命を脅かす、全国的な問題として、検証してもらいたい。 ・利用者の昼食開始時間が早い、2時間経つと食事を廃棄、昼を過ぎて外部通院から戻ると補食は提供するが昼食を食べられない場合がある等、現在も漫然と支援者目線の支援が行われている。 ・風呂が好きな利用者で、シャワー浴ができていても、20年間湯船に浸かれていない現実もある。入浴の支援ができる環境・機器も整えていく必要がある。 ・診療所の役割として、各診療科の医師、看護師が上手くつながって、利用者の長年の行動制限や高齢化に対応していく必要がある。 ・利用者の医療アクセス、機能低下の課題に向き合い、対応していくことが必要である。 ・こうした問題は、中井やまゆり園だけでなく、全国的にも障害者支援施設共通の課題であることを発信していくべきである。 ・外部の目が入って変わってきているが、元に戻らないようにするためには、園だけでなく、県福祉職全体の人材育成が課題である。 (3)今後について ・引き続き、アクションプランに示したスケジュールに基づき、県本庁と園が一体となって具体的な取組を進めていく。 ・令和6年3月頃に第2回アドバイザリー会議を開催し、進捗状況を確認するとともに、必要に応じて、アクションプランを見直す。 ・アクションプランの取組やその中で明らかになった課題については、有識者や大学などと連携しながら、必要なデータや記録の収集を開始するなど、地方独立行政法人化後に速やかに研究を始めるための準備を進める。