1枚目表紙 障害者グループホーム訴訟 マンション住民による住まいの差別から画期的和解(大阪高裁2024.7.1)へ 障害者グループホーム訴訟弁護団 弁護士 青木佳史(大阪・きづがわ共同法律事務所) k3802@skyblue.ocn.ne.jp 2枚目 1どのような事案か 原告(裁判に訴えた者) 大阪市内にある大規模マンションの管理組合 被告(裁判で訴えられた者) このマンションの2部屋を、区分所有者から賃借して、障害者グループホームを運営している社会福祉法人○○○会 3枚目 1どのような事案か 大規模マンションの2住戸を借りて、20年以上にわたり、障害者グループホームとして、必要な支援を受けながら住み続けてきた知的障害のある6名について、マンション管理組合の住民の皆さんが、消防法の改正により、マンション内にグループホームがあることで本件マンション全体が「特定防火対象物」として扱われ、新たに消防用設備の設置や定期点検報告義務の対象となるとの指摘を消防署から受けたことをきっかけに、2016年6月の総会で、障害者グループホームとしての使用を禁止し、居住してきた障害者を退去させようとした。 4枚目 1どのような事案か このグループホームを運営する法人は、これに応じなかったところ、2018年6月、大阪地裁に、管理規約12条1項の「住宅として使用」していない、また新たに改定した規約12条の4、12条の5に違反し、区分所有法6条の「共同の利益」に反するとして、グループホームとしての使用を禁止することを求める訴訟を起こしてきた。 5枚目 2大阪地裁のひどい判決 大阪地裁第22民事部は、令和4年1月20日、管理組合の請求を認め、障害者グループホームとして使用してはならない、とする驚くべき判決を出した。 【本裁判の主な争点】 @本件グループホーム利用が管理規約12条(住宅として利用する)に違反するか A本件に管理規約12条の4、5が適用されるか Bマンション全体の共同利益背反行為に該当するか Cこの停止要請等は障害者差別であるか 6枚目 2大阪地裁のひどい判決 この判決は、このグループホームが、住んでいる障害者たちにとって「生活の本拠」であることは認めた。 それなのに、管理規約12条1項の「住宅として使用」といえるためには、それだけでは足りずに、「管理規約で予定する『管理の範囲内』で使用」されていることが必要だ、という(これま で誰も言っていない)「独自」の判断基準を持ち出してきた。 そして、グループホームがあることで、このマンション全体が「特定防火対象物」となり、その結果、(今はそんなことにはなっていないけれども)将来、建物全体に消防設備を設置しなければならなくなり数千万円もの負担がかかるかもしれない、防火対象物点検等の金銭上・手続き上の負担が生じるかもしれない、といった将来の抽象的な可能性があるとした。 7枚目 2大阪地裁のひどい判決 それは、管理規約で予定された「管理の範囲外」であるから、「住宅として使用」することにあたらないので、管理規約12条1項に違反し、マンション住民の「共同の利益に反する行為」に該当するかどうかの要素として重視されるべき。 そして、管理組合が、グループホームの使用停止を求めたことは、「障害者グループホームであること」ではなく「管理規約に違反すること」を理由とするものであるから、障害を理由とする差別に該当しない、とした。 8枚目 2大阪地裁のひどい判決 大阪地裁判決の考えによれば、全国に数多くある共同住宅内の障害者グループホームは、すべて「住宅の利用」ではないとして廃止せざるをえなくなる。 障害者の「生活の本拠」=「住宅」として発展してきた障害者グループホームの歴史的意義を根本から否定し、地域共生社会の理念にも反する不当な判決。 この判決は、分譲マンションや公営共同住宅で、障害者グループホームとして生活している全国の多数の障害者や支援者に、生活の基盤を揺るがす事態として大きな関心をもたれてきた。 9枚目 3大阪高裁でのリベンジの闘い 私たちは直ちに控訴し、大阪高裁で、大阪地裁判決の各争点を洗い直し、2年にわたる審理がなされた。 私たちは、大阪地裁判決が「抽象的な可能性がある」とした建物全体に消防設備を設置しなければならなくなる可能性はほぼないことや、消防法上で求められる点検等の具体的な負担は軽いものにすぎないことを、大阪市の消防局の協力で証明したところ、管理組合もそれを認めざるをえなくなった。 結局のところ、住民全体にとって過重な負担にはならないのに、グループホームの使用を禁止したのは、障害者の住まいの大切さを理解しない不当な障害者差別であることを裏付けるものになった。 10枚目 4大阪高裁で画期的和解へ 審理は2023年9月で終了し、判決予定は2024年1月末とされた。ここから、大阪高裁からの積極的な和解の提案があり、半年以上かけて、何度も協議をした結果、2024年7月1日、極めて異例の画期的な和解が成立することとなった。 和解では、今までどおり障害者グループホームとして6名が住み続けることを管理組合が認めたことはもちろん、今後、新規のグループホームの開設をすることも認め、相互理解によって十分な対話をすることで、継続的に住まいとして利用していくことができるように規約や細則も制定したもので、逆転勝訴以上の内容の和解が成立した。 11枚目 4大阪高裁で画期的和解へ まず、大阪高裁は、和解では異例となる前文の見解で、大阪地裁の基準を真っ向から否定した。 つまり、管理規約12条1項の「住宅として使用する」にあたるかどうかは、あくまで「生活の本拠として使用」されているかどうかで判断すべきであり、「管理規約で予定されている『管理の範囲内』にあること」も要件とする根拠はない、との見解を示した。 その上で、このグループホームは、利用者の「生活の本拠」として使用されているから、管理規約12条1項に違反せず、かつ「共同の利益に反する行為」にも該当するとはいえないとした。 12枚目 4大阪高裁で画期的和解へ 続いて、大阪高裁は、 「地域共生社会の実現により障害の有無にかかわらず多様性を認め合いながら地域で共に生活することを目指すとする障害者基本法の基本理念と、消防法令の遵守による防火、防災が、相反するものであってはならず、当事者双方の相互の理解と協力の下に安定的な解決を図る」ことが必要であるとして、管理組合と障害者グループホームの双方に対し、和解による解決をすべきであると、勧告を行った。 13枚目 4大阪高裁で画期的和解へ 和解本文では、次のことが確認された。 @双方当事者が、地域共生社会の実現により障害の有無にかかわらず多様性を認め合いながら地域で共に生活することを目指す障害者基本法の基本理念を共有し、障害者グループホームが障害者の地域生活を支える住宅であること A共同住宅において消防法令等の遵守が区分所有者らの共同の利益のために重要であること Bグループホームとしての使用は、住宅として使用するものであり、消防法令にも適合していて管理規約に違反するものでないこと C今後も、新規のグループホームを含め、本件マンションが消防法令等に適合するべく相互理解と協力関係の構築に努めること、そのための規約改正と細則の新設をしたこと 14枚目 5全国のグループホームへの影響 この裁判で問題となった管理規約の条項は、広く全国各地の共同住宅で用いられているものと同じである。 この和解を前提とすれば、このマンションに限らず、他の共同住宅においても、障害者グループホームとしての使用が管理規約に違反するものではなく、むしろ障害者グループホームが共同住宅内に存在することは地域共生社会を体現していることになる。 さらに、消防法規の各種規制について、マンション管理組合と障害者グループホームが建設的対話により、「住宅としての使用」を継続するための協力の一方策を、規約改正等により示すことにもなった。 15枚目 (参考資料)本件マンションの管理規約 管理規約12条1項(専有部分の用途) 「区分所有者は、その専有部分を住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」 管理規約12条の4(グループホームの禁止) 「12条1項の規定に基づき,区分所有者または占有者は,専有部分をグループホーム(専有部分の全部または一部を活用して,認知症の高齢者が少人数で共同生活を送りながら,専門スタッフによる身体介護と機能訓練,レクリエーションなどを受けるものをいう。)に供してはならない。」 管理規約12条の5(特定防火対象物となる用途の禁止) 「12条1項の規定に基づき,区分所有者または占有者は,専有部分を特定防火対象物となる用途(専有部分の全部または一部を活用して,別表第5に定める(16)項ロ以外のものをいう。)に供してはならない。」 16枚目 (参考資料)区分所有法 区分所有法6条 「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。」 区分所有法57条1項 「区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。」 17枚目 大阪市の差別解消にかかる 相談対応から地域における住まいの差別をなくす取り組み ※大阪市福祉局障がい福祉課より許可を得て転載 18枚目 大阪市の差別解消にかかる相談対応についての図 相談者(障がい者事業者等)が大阪市の相談窓口に相談。 大阪市の相談窓口と福祉局障がい福祉課が連携。 事例検討会(毎月実施)から福祉局障がい福祉課に助言。 大阪市から、大阪府広域支援相談員に支援依頼。 大阪府広域支援相談員から大阪市に助言等。 解決に向けて、助言、調整、担当職員を交えた話し合いの場など。 解決。 大阪市の相談窓口 各区役所 各区障がい者期間相談支援センター 地域活動支援センター(生活支援型) 大阪市人権啓発・相談センター 計58か所 19枚目 相談対応の流れと事例検討会議の役割について 相談、右矢印、調査方法の決定、右矢印、事実確認・聞き取り調査・現地調査等、右矢印、事業者等へ・注意喚起・アドバイス、右矢印、啓発・ビラ・パンフレット 事例検討会が調査方法の決定、事業者等へ・注意喚起・アドバイス、啓発・ビラ・パンフレットへの助言を行う。 調査後の事実確認・聞き取り調査・現地調査等の報告を事例検討会義に行う。 事例検討会議 開催頻度:月1回(年12回) 構成員:有識者3名(学識経験者、弁護士)+障がい福祉課担当者 相談件数:令和4年度28件 令和5年度32件 令和6年度30件(12月末時点) 20枚目 【賃貸借契約書における不適切文書】 精神障がい(3級)の方が転居にあたってマンションの賃貸借契約書を読み返したところ、差別的な文言が含まれていたことがわかった ★記載内容 賃借人の同居者、関係者で精神障がい者又はそれに類似する行為が発生し、他の入居者又は関係者に対して財産的、精神的迷惑をかけた場合は、賃貸人は契約を解除することができる。 貸主・借主双方了承のうえで、文言を修正し、個別の事案としては解決! 21枚目 【賃貸借契約書における不適切文書】 事例検討会議に図り、宅建業者への指導権限のある大阪府の担当者とともに、本件の契約書のもとになったひな形の確認をするため、貸主及び仲介事業者を訪問 貸主:当該契約書は10年以上前に作成したことから参考にしたひな形は不明。 ただし、今後使用する様式からは文言を削除した。 仲介業者:宅建協会が提示しているひな形を使用。 差別的な文言はない。 大阪府と連携し、宅建協会を通じて今後締結する契約書の文言について十分に確認するよう注意喚起を行った。 22枚目 大阪市福祉局障がい者施策部障がい福祉課作成リーフレット「障がいがあることを理由に入居を断るのは差別です!」の図 【事案】 明確な理由なく、障がいがあることのみを理由に、家主が障がい者の入居を拒否 【原因】 家主側の障がいや障がい者に対する理解不足 【対応】 障がいがあることを理由に入居を断るのが差別であることを、ビラを作成し配布 23枚目 【市営住宅関連事例まとめ】 大阪市内の市営住宅において、自治会をめぐって、障がいを理由とする相談事例が寄せられている。 @入居の際のあいさつで自治会長に何年かに1回は班長をしなければならない旨を言われたが、精神障障がいがあるためできない旨を伝えると、差別的な発言をされた。 住宅管理センターが間に入り、自治会長と本人の話し合いがもたれ、和解し無事に入居することができた。 A障がいのため自治会活動に参加できていないことから退会を促されたと勘違いし、自治会の退会届を自治会長に届け出た際に、自治会長から差別的な発言をされた 自治会長に注意を促したうえで、当事者が希望する自治会への再加入ができた 24枚目 【市営住宅関連事例まとめ】 B障がいのため班長ができない旨を自治会役員に説明したところ、みんなの前でできない理由を説明してほしい旨依頼され悩んでいる。市営住宅に掲示している啓発ビラを見て相談に至った。 市(市は別途本人からも事情を聴取)、住宅管理センター、自治会で話し合いがもたれ、対応の問題点や本人の意向などについて理解を促し、今後の対応について配慮を依頼した。 ◆事案発生以降、大阪市ではできる範囲で対応を実施 啓発ビラの作成 「市営住宅だより」に記事を掲載 25枚目 大阪市福祉局障がい者施策部障がい福祉課作成リーフレット「障がいを理由とする差別と感じたら…まずは窓口に相談してください!」の図 【事案】 障がいのある人が市営住宅等へ入居後も、周りの人からの障がいへの理解が不足しているがために、ストレスを抱えている場合が多い、との声 【対応】 上記の点を踏まえ、障がいを理由とした入居拒否が差別にあたることとあわせて、ビラを作成し、相談窓口等に加え、市営住宅へも配布 以上。