1枚目 受命裁判官認印 和解調書 事件の表示、令和4年(ネ)第386号 期日、令和6年7月1日午後1時30分 場所等、大阪高等裁判所第4民事部和解室 受命教判官、阪本勝 裁判所書記官、柳雄一郎 出頭した当事者等 控訴人代理人、浦功 同、藤原航 同、網本知昇 同、長岡健太郎 同、東奈央 同、青木佳史 被控訴人代理人、杉山洋史 手続の要領等 当事者間に次のとおり和解成立 第1、当事者の表示(黒塗り) 控訴人(黒塗り) 同代表者理事長(黒塗り) 同訴訟代理人弁護士 浦功 同、藤原航 同、網本知晃 2枚目 別紙 和解条項 当事方双方は、以下の裁判所の所見を踏まえ、次のとおり和解する。 (裁判所の所見) 本件は、別紙物件目録記載1の1棟の建物(以下「本件マンション」という。)の区分所有者全員により構成される建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。) 3条前段所定の団体である(黒塗り)(以下「本件管理組合」という。)の理事長であり、同法25条1項所定の管理者である被控訴人が、控新人に対し、控訴人が賃借した本件マンションの 専有部分である同目録記載2及び3の各建物(以下「本件各住戸」という。)を障害者グループホームとして使用することは、「区分所有者は、その専有部分を住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」 と定めた本件管理組合が定めた管理規約(以下「本件管理規約」という。)12条1項に違反し、同法6条3項が準用する同条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するとして、同法57条4項が準用同条1項に基づき、本件各住戸をグループホーム事業の用に供する行為の停止を求めるとともに、本件管理規約によって定められた違約金の支払を求めた事案である。 原審は、@本件管理規約12条1項にいう「住宅として使用」しているというためには、生活の本拠として使用しているとともに、その客観的な使用の態様が、本件管理規約で予定されている建物又は敷地若しくは附属施設の管理の範囲内であることを要すると解した上で、 A控訴人が利用契約を締結した利用者の生活の本拠として本件各住戸を使用していると認めたものの、 B控訴人が本件各住戸をグループホームとして使用していることに伴い、本件管理組合が防災対象物点検義務を負担し、共同住宅特例の適用を維持するための対応を余儀なくされたなどとして、本件各住戸の客観的な使用の態様が、本件管理規約で予定されている建物等の管理の範囲外のものと認め、 C本件各住戸をグループホームとして使用することは、本件管理規約約12条1項に違反する行為であり、上記「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当すると判断した。 しかしながら、当裁判所は、本件管理規約12条1項にいう「住宅として使用する」に該当するか否かは、その文言及び趣旨に照らし、居住者の生活の本拠として使用されているか否かによって判断すべきであり、本件管理規約で予定されている管理の範囲内にあることも要件であるとする根拠はないと解する。 したがって、本件各住戸は、グループホームの利用者の生活の本拠として使用されているから、本件各住戸をグループホームとして使用することは、本件管理規約12条1項に違反せず、同項違反があることを前提に上記「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するとはいえないと判断する。 そして、本件管理規約12条の4は障害者グループホームには適用されず、また、本件管理規約12条の5を追加する平成28年11月の改正については、区分所有法31条1項後段の要件を充足すると解することに疑義がある。 地域共生社会の実現により障害の有無にかかわらず多様性を認め合いながら地域で共に生活することを目指すとする障害者基本法の基本理念と、消防法令の遵守による防火、防災が、相反するものであってはならず、当事者双方の相互の理解と協力の下に安定的な解決を図るために、下記条項による和解が相当であると思料する。 当裁判所が、上記の観点から和解勧告を行ったところ、両当事者の真摯な検討の結果、以下のとおり、和解が成立するに至ったものである。 (条項) 1、控訴人と被控訴人は、地域共生社会の実現により障害の有無にかかわらず多様性を認め合いながら地域で共に生活することを目指す障害者基本法の基本理念を共有し、障害者グループホームが障害者の地域生活を支える住宅であることを確認するとともに、共同住宅において消防法令等(本件マンションが適用を受けている共同住宅特例を含む。以下同じ。)の遵守が区分所有者らの共同の利益のために重要であること、本件各住戸の利用が、本件管理規約12条1項、同条の4及び5に違反しないこと、現在本件各住戸が消防法令等に適合していることを相互に確認し、今後も本件各住戸を含む本件マンションが消防法等に適合するべく相互理解と協力関係の構築に努めるものとする。 2(1)、控訴人と被控訴人は、本件管理組合が定めた障害者グループホーム開設運営細則5条及び6条に基づき、控訴人において各規定が定める各費用を負担すること、及び、控訴人において各費用額の相当性に疑義がある場合に協議を求めることができることを確認する。 (2)、控訴人と被控訴人は、消防法令等の改正により、本件マンションあるいは控訴人が開設する障害者グループホームにおいて対応が必要となったときは、消防法令等の遵守のため、すみやかに協議するものとする。 なお、控訴人は、本件マンションの防火管理の必要上、本件各住戸内の自動火災報知設備と火災通報装置を連動させ、火災時には自動通報により本件マンション1階防災センター等に通報させることを約束する。 3、控訴人は、本件マンションにおいて、障害者グループホームを新たに開設しようとするときは、障害者グループホーム開設運営細則3条に従い予め被控訴人に申し出る上、障害者グループホームを開設したときは、同4条に従い被控訴人に届け出るものとする。この場合において、控訴人と被控訴人は、消防法令等の遵守のために必要があるときは、相互に情報共有するとともに、すみやかに協議するものとする。 4、被控訴人は、控訴人に対し、その余の請求を放棄する。 5、控訴人と被控訴人は、本件に関し、控訴人と被控訴人との間に、本和解条項に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。 6、訴訟費用は、第1、2審を通じ、各自の負担とする。 以上 第1、管理規約(抜) (専有部分の用途) 第12条1項 区分所有者は、その専有部分を住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。 (グループホームの禁止)【平成28年11月の改訂】 第12条の4、12条1項の規定に基づき、区分所有者または占有者は、専有部分をグループホーム(専有部分の全部または一部を活用して、認知症の高齢者が少人数で共同生活を送りながら、専門スタッフによる身体介護と機能訓練、レクリエーションなどを受けるものをいう。)に供してはならない。 (特定防火対象物となる用途の禁止)【平成28年11月の改訂】 第12条の5、12条1項の規定に基づき、区分所有者または占有者は、占有部分を特定防火対象物となる用途(専有部分の全部または一部を活用して、別表第5に定める16項ロ以外のものをいう。)に供してはならない。 (特定防火対象物となる用途の禁止)【令和6年6月の改訂】 第13条の5、区分所有者または占有者は、専有部分を特定防火対象物となる用途(消防法施行令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項又は(九)項イが掲げる防火対象物の用途をいう。)に供してはならない。 ただし、消防法令(対象物件が適用を受ける共同住宅特例を含む。以下同じ。)に適合する障害者グループホームは、この限りでない。 2、前項但書による障害者グループホームの開設および管理については、別に定める細則に従うものとする。 第2、細則 障害者グループホーム開設運営細則 (目的) 第1条 規約12条の5第2項に基づき、対象物件における障害者グループホームの開設および運営に関し、消防法令(対象物件が適用を受ける共同住宅特例を含む。以下同じ。)の遵守、ならびに、共用部分の維持管理、消防用設備を含む防火管理および防火体制等の運用の適正および効率化を図ることを目的として、次のとおり障害者グループホーム開設運営細則(以下「本細則」という。) を定める。 (遵守義務) 第2条 区分所有者または占有者は、対象物件において障害者グループホームを 開設および運営するにあっては、消防法令ならびに管理規約、本細則およびその他の細則を遵守するものとする。 (申出) 第3条 区分所有者または占有者は、その専有部分において障害者グループホームを開設しようとする場合、次の各号に掲げる時までに、当該各号に定める手続きにより申し出るものとする。 @内装工事、消防用設備設置その他の開設準備工事の着手時 その障害者グループホームの計画が消防法令に適合していることについて、 消防当局における事前相談を経たうえ、その相談結果とともに、その専有部分において障害者グループホームを開設予定であること、および、その開設予定時期を理事長に書面により申し出ること。 A障害者グループホーム開設時 そのグループホームが消防法令に適合していることについて消防当局における種認を経たうえ、その確認を受けたことのわかる書面等を添付して理事長に書面により申し出ること。 2 前項各号の申し出をした者は、理事長から、開設しようとする障害者グループホームの消防法令適合性に関する説明を求められた場合、これに誠実に応じるものとする。 防火管理および防火体制に関する協議を求められた場合も同様とする。 (届出) 第4条 その専有部分において障害者グループホームを開設した区分所有者または占有者(以下「開設者」という。)は、遅滞なく、福祉当局の事業所定を受けたことを証する書面を添えて、理事長に以下の事項を書面により届け出るものとする。 @障害者グループホームの名称 A事業所指定に係る主たる事業所の名称・所在地・連絡先 B管理者氏名・連絡先 C入居定員 2 前項に変動が生じた場合、開設者は、遅滞なく理事長に書面により届け出るものとする。 (防火対象物定期点検報告) 第5条 対象について実施すべき防火対象物定期点検報告(消防法第8条の2の2に基づく点検報告をいう。)に要する費用については、開設者が負担する(開設者が複数存在する場合、開設した障害者グループホームの住戸数の割合に応じて分割して負担する。)。 なお、開設者は、費用額の相当性に疑義がある場合、理事長に協議を求めることができる。 (消防用設備等点検) 第6条 障害者グループホーム内において消防法令に基づき実施すべき消防用設備の点検(前条の点検を除く。)に要する費用については、当該障害者グループホームの開設者が負担する。 なお、開設者は、費用額の相当性に疑義がある場合、理事長に協議を求めることができる。 (協議) 第7条 理事長は、対象物件における共同住宅特例の維持、消防法の遵守、共用部分の維持管理、消防用設備を含む防火管理および防火体制等の運用の適正および効率化を回ることを目的として、開設者に協議を求めることができるものとし、開設者は、これに誠実に対応するものとする。 2 対象物件における障害者グループホームの運営に影響のある消防法令の改正があった場合、開設者は、対象物件における共同住宅特例の適用維持および消防法令の遵守のため必要な対処について、理事長と協議するものとする。 (細測の改廃) 第8条 本細則の変更または廃止は、総会の決議を経なければならない。 (附則) 本細則は、令和、年、月、日から効力を発する。