1枚目、表紙
共生社会に向けた地域づくり
当事者目線の権利擁護支援全国フォーラムin神奈川
同志社大学永田祐

2枚目
今日の内容
Part.1権利擁護をめぐる制度改正の展望
成年後見制度の見直しや社会福祉法の改正を展望した権利擁護支援のあり方、身寄りのない高齢者等への支援の方向性などについて簡単に概観します
Part.2「人の中にいること」の応援
権利擁護支援を通じた地域づくりについて、当事者参加を市民参加と民間の多様な主体の参加によって応援していくというビジョンについてお話しします。

3枚目
Part.1権利擁護をめぐる制度改正の展望
成年後見制度の見直しや社会福祉法の改正を展望した権利擁護支援のあり方、身寄りのない高齢者等への支援の方向性などについて簡単に概観します。

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社会福祉法の改正に向けた議論
令和2年改正社会福祉法の附則において、法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律の規定について、その施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要
があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずる旨を規定
「地域共生社会のあり方に関する検討会」(令和6年6月~)の論点
①地域共生社会の実現に向けた取組について
包括的支援体制の整備の現状と今後の在り方について
重層的支援体制整備事業の現状と今後の在り方について
分野横断的な支援体制づくり・地域づくりの促進等について
②身寄りのない者が抱える課題等への対応について 
身寄りのない者が抱える生活上の課題への支援の在り方について
身寄りのない者を地域で支える体制の在り方について
③成年後見制度の見直しに向けた司法と福祉との連携 強化等の総合的な権利擁護支援策の充実について
法制審議会における議論等も見据えた総合的な権利擁護支援策の充実の方向性等について

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成年後見制度等の見直しに向けた検討と総合的な権利擁護支援策の充実に向けた検討の動向
成年後見制度の見直し
法務省の主な動き
成年後見制度の見直しに向けた検討を進めるため、「成年後見制度の在り方に関する研究会」(座長:山野目章夫)が令和4年6月に設置され、制度改正に向けた検討が進められてきた。
令和6年2月に成年後見制度の見直しについて、法制審議会に諮問された。

総合的な権利擁護支援策の充実
厚生労働省の主な動き
成年後見制度以外の権利擁護支援策を総合的に充実させるため、「持続可能な権利擁護支援モデル事業」(令和4年度~)による実践事例等を通じて、意思決定支援によって本人の金銭管理を支える方策などを検討
社会福祉法改正も念頭に、福祉制度・事業の必要な見直しの検討を進める。
総合的な権利擁護支援策の充実
日常生活自立支援事業等との連携、体制強化
他制度との連携の推進、実施体制の強化
他制度等との役割分担の検討方法についての周知

新たな連携による生活支援・意思決定支援の検討
市町村の関与の下で、市民後見人養成研修修了者等による意思決定支援によって、適切な生活支援等のサービス(簡易な金銭管理、入院・入所手続支援等)が確保される方策等の検討
上記の意思決定支援等に際して、権利侵害や法的課題を発見した場合に、司法による権利擁護支援を身近なものとする方策の検討

都道府県単位での新たな取組の検討
寄付等の活用による多様な主体の参画の検討
公的な関与による後見の実施の検討

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民法の改正と社会福祉法制の改革は一体
地域における権利擁護支援策の充実を一体的に進めていく必要がある
民法改正と社会福祉法の改正は両輪
成年後見制度
限定
総合的な権利擁護支援策
拡大
司法と福祉の連携を橋渡しする
中核機関の法制化

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高齢期の問題解決の場面の例どんなことで困るのか

生前
状態像
場面ゼロ
ゼロ自立した生活を営んでいる

場面①
①家事などの日常生活行為が難しくなる

場面②
②入院し、重大な医療処置を受ける

場面③
③退院後の生活を再構築する

場面④
④さらに機能低下しサービスや居住場所を見直す

場面④’
④終末期医療に関する意向を表明する

場面⑤
⑤死後事務に関する意向表明と手続きをする

死後
⑥自分の死後に遺るものを適切に処分する

出所:日本総合研究所「身寄りのない高齢者の生活上の多様なニーズ・実態把握調査」2024年。

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身元保証人がいないと入退院・転院が制約される。
身元保証がない患者・利用者の入退・転院先や施設入所等は制約されていると思いますか? (N=366)
大いに思う75%
やや思う20%
分からない・どちらでもない 3%
あまり思わない2%
全く思わない0%

『身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン』および『「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」に基づく事例集』について
伺います。(N=366)
知っている、活用している23%
知っているが活用していない50%
知らない27%

「入院に際し、身元保証人がいないことのみを理由に、医師が患者の入院拒否することは、医師法第19条第1項に抵触する(厚生労働省「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒
否することについて」

保証人がいないことで入院を断っていはいけないと通知し、ガイドラインを策定しているが、現場では保証人が求められてしまう現実がある。

権利侵害の状況!

出所:東京都医療ソーシャルワーカー協会「身元保証に関するアンケート調査報告書」2022年。

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自治体・行政の施策の方向性

施策としては、大きく二つの方向性で議論されている。
1.市町村のコーディネート機能を強化して、多機関協働で解決する
保証人に求められてきた機能を分解し、多機関が重ね合わせて支援するプロセスをコーディネートする役割を市町村が担うと同時に、必要な社会資源を新たに創出していく方向性。各地で進められているガイドラインの制定などもこうした方向性。
2.公的な体制で高齢者終身サポート事業のような事業を創設する
契約・日常生活支援・死後事務などをパッケージにして、社会福祉協議会などが実施する。
現実的には所得制限を設けることになる蓋然性が高く、一定所得以上は、民間の高齢者終身サポートの活用という立て付けになる可能性がある。

私見では、1.と2.を組み合わせながら、さらに民間事業者の規制を強化していくことで体制を整えていくことになると考える。

→第5回地域共生社会の在り方に関する検討会議の資料も参照。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40780.html

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あらゆることが事業(契約)でよいのか?
入院した時に、いつも買っていた和菓子屋の饅頭が食べたくなった。
通院するのに一人では心細い。
葬儀は簡素でいいけど、誰かに見送ってほしい。
何でも事業(=契約)や専門職で解決しようとすると、かえって持っていたつながりを奪ってしまう恐れもある。
同じような境遇にある人が、入院時の支援や買い物の支援を相互に行う取り組みや、見守りや葬儀への参列を行う取り組みなど(やどかりプラス、抱樸、知多地域権利擁護支援センターなどの互助会の取り組み)。
→入院、入所、入居は、手段であって目的ではない。「尊厳ある本人らしい暮らし」に向けては、地域福祉の取り組みをあわせて考えていく必要がある。

11枚目
制度と契約の「副作用」支援対象者化
専門職はどうしても、被後見人の○○さんという形で、その人を理解しようとする(支援対象者化)。
①本人を「支援される側」に固定してしまう。
成年後見制度を利用すると、本人は【被】後見人、【被】保佐人などと呼ばれる。制度上「支援される側」とされ「支援する側」になる可能性がない。
②本人の「孤立」を固定してしまう。
成年後見制度を利用すると、成年後見人が身元保証・死後対応等の問題を「ひとりで」すべて解決してくれる。本人は、成年後見人以外とつながる必要がなくなる。その結果、本人が施設入所しても「遊びに来る人」はおらず、本人の最期にあっても本
人を見送り弔う人は成年後見人ただひとり・・・NPO法人やどかりプラス理事長芝田淳

孤立の解消(人の中にいることの応援=参加支援)とそれが可能な地域づくりに目を向ける必要がある。

12枚目
Part.2「人の中にいること」の応援
権利擁護支援を通じた地域づくりについて、当事者参加を市民参加と民間の多様な主体の参加によって応援していくというビジョンについてお話しします。

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第二期基本計画における「権利擁護支援」
権利擁護支援:「地域共生社会の実現を目指す包括的な支援体制における本人を中心とした支援・活動の共通基盤であり、意思決定支援等による権利行使の支援や、虐待対応や財産上の不当取引への対応における権利侵害から
の回復支援を主要な手段として、支援を必要とする人が地域社会に参加し、ともに自立した生活を送るという目的を実現するための支援活動」(p.4)
共通基盤としての権利擁護支援は、二つの当事者参加を規定している(「支援プロセスへの参加=意思決定支援」と「地域社会への参加=参加支援」)。→権利擁護支援は、本人の保護(権利侵害から回復)と同時に本人の意思に基づ
いて、本人が社会に参加することを目指すことを明確にしている。
⇒そして、これは成年後見制度だけではなく、「包括的な支援体制の共通基盤」として位置付けられている。

14枚目
(参考)成年後見制度の利用促進に当たっての基本的な考え方及び目標
第二期基本計画では、「地域共生社会の実現という目的に向け、本人を中心にした支援・活動における共通基盤となる考え方として「権利擁護支援」を位置付けた上で、権利擁護支援の地域連携ネットワークの一層の充実などの成年後見制度利用促進の取組をさらに進める」とされている。
→地域共生社会を実現するために、権利擁護支援を推進していくこと、成年後見制度はその中のしくみの一つであることを明確に位置づけた。成年後見制度を使うことが目的ではなく、その人の暮らしを支えるひとつのしくみとしてこの制度が役割を果たすことができるよう、地域の体制を
整備していくことが重要になる。

意思決定支援
権利侵害の回復支援
権利擁護支援(本人を中心にした支援・活動の共通基盤となる考え方)
自立した生活と地域社会への包容
高齢者支援のネットワーク
障害者支援のネットワーク
子ども支援のネットワーク
地域社会の見守り等の緩やかなネットワーク
生活困窮者支援のネットワーク
権利擁護支援の地域連携ネットワーク
包括的・重層的・多層的な支援体制と地域における様々な支援・活動のネットワーク
成年後見制度利用促進法第1条目的
地域共生社会の実現

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地域共生社会
地域共生社会は、制度・分野の枠や「支える側」と「支えられる側」という従来の関係を超えて、住み慣れた地域において、人と人、人と社会がつながり、すべての住民が、障害の有無にかかわらず尊
厳のある本人らしい生活を継続することができるよう、社会全体で支え合いながら、共に地域を創っていくことを目指すものである(厚生労働省)。
地域福祉の推進は、地域住民が相互に人格と個性を尊重し合いながら、参加し、共生する地域社会の実現を目指して行われなければならない(社会福祉法第4条第1項)。

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共生社会の実現を目指した「二つの当事者参加」に必要な支援
意思決定支援と参加支援の確保
権利侵害の状況にあると、その回復支援に重点が置かれ、意思決定支援や参加支援を多様な主体が支えるという議論につながらない。
どのような政策・事業を構想するにしても、本人の意思に基づいて(意思決定支援)、本人らしい暮らしを実現するための参加を応援すること(参加支援)が、確保されていることが重要になる。
支援対象者化されるだけでなく、ともに社会を創る仲間として、社会参加を応援できる地域社会づくりをどのように進めることができるか?

17枚目
「人の中にいること」
「ケンジさんは依存症である。『何もしない時間をどう使ったらいいかわからないんだよ。暇だと飲んじゃうんだよ。だからお金預かってよ』。依存行動が止まらない人の金銭管理をどうするかということは非常に重要な問題
だ。お金が入るということが依存行動への引き金になる人は少なくない。依存行動が止まってからも本人と共同で管理して、お金の使い方を練習していくことが必要な人もいる。最近、ケンジさんは、週一回バザールカフェで
ボランティアをするようになった。お金の管理だけでは依存行動は止まらない。生活のサイクルを整えていくこと、そして『人の中にいる』ことの再チャレンジを始めた」。
⇒「人の中にいる」ことを応援するには?
出所:松浦千恵他(2024)「バザールカフェばらばらだけど共に生きる場をつくる」学芸出版社

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2つの当事者参加を進めるには①
市民参加による当事者参加の推進
専門職としての鎧を着ていない人、本人と人格的にかかわれる存在が権利擁護支援にかかわること。
モデル事業(簡易な金銭管理等を通じ、地域生活における意思決定を支援する取組)では、市町村の関与の下で、市民が担う意思決定フォロワーによる意思決定支援を組み込んだ日常的な金銭管理などの支援等を行う事業が試行
されている。
権限を持たないからこそ、徹底的に本人に寄り添い、本人の意思形成や表明を支え、社会参加につながる事例が生まれている。
患者やクライエントとしてではなく、その人に「人格的に」(〇〇さんとして)関わることで、潜在的な意思や思い、希望を引き出し、本人の物語を動かす。
⇒権利擁護支援に市民がかかわる取り組みや事業が重要になる。

19枚目
フォロワーと市民後見人の違いは?
「体調が悪く周囲の方に話をしても信じてもらえず悩まれていました。ご本人から手術をしたほうが良いですかと聞かれ、フォロワーとしては決められませんと答え、本人の言葉で病院の先生に体調が悪いことを相談されたらどう
ですかと、何度も何度も時間をかけて寄り添い、後押しをしました。その後、本人自身で手術をすることを決めて、先生にお願いをされました。手術後は体調も改善され、明るくなられました。これを機会に意思を相手に伝えられ、
自身で物事を決定されるようになりました。不安な思いが自信につながったのではと思います。本人から、今の生活がとても楽しく、こんなに幸せになれると思わなかった、という言葉を聞いて感激しました。寄り添うことでこんな
に喜んでもらえると思わなかった。それ以上に、いろいろな経験をさせていただき、寄り添うことの大切さに気付くことができました。」
出所:令和6年度権利擁護推進シンポジウム・とよた市民後見人養成講座事前説明会でのフォロワーの方のコメント

20枚目
市民後見人はなぜ重要か
「ヘルパーやケアマネジャーは、本当はもっと本人と関わりたくても業務に追われ、じっくり話しを聞く時間が取れないのかなと思います。市民後見人として本人に寄り添うため、『最低でも1時間はじっくり話しを聞くぞ』と訪問していました。何も話すことがない時もありますが、その
時は一緒にテレビを見て過ごしました。スポーツ番組を見て、『以前ゴルフをしていた』という話しや、好きな芸能人も教えてもらい、本人の好みを知ることができました。本人の好みや考え方、気持ちを知り、寄り添って本人を支える姿勢が市民後見人の強みと思います」
→権限はあっても、その人に人格的に(支援対象者化せず)関われる可能性がある点が市民後見人の強み。共生社会の実現には権利擁護支援に市民が関わることで、当事者参加を後押ししていくことが重要になる。
出所横浜市健康福祉局福祉保健課よこはま成年後見推進センター「権利擁護・成年後見制度に関する相談事例集 成年後見人等選任のチーム支援」(令和6年3月)

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2つの当事者参加を進めるには②
「人の中にいること」の応援(参加支援)
地域の多様な関係者が協力して、人の中にいることを応援するプラットフォームを作る。
「とよた多世代参加支援プロジェクト」(豊田市)
既存のサービスには該当しない「小さな困りごと」を解決するために、市内の福祉関係者や企業がヨコ連携で解決策を作り出すプロジェクトを創出。現在、参加法人は、70法人を超え、福祉の分野に限らない法人も参加している。
権利擁護センターや中核機関がこの役割を担うというよりは、市町村の包括的な支援体制と一体的に「人の中にいること」を応援をしていくプラットフォームや体制を整備していく必要がある。

課題例えば
障害事業所、介護事業所や地域のボランティアが協力し、休耕地を使って麦ストローをつくるプロジェクトがスタート。
https://toyota-mps.com/

22枚目
3つの「参加」を通じた共生社会の実現
当事者参加
支援プロセスへの本人の参加(意思決定支援)と地域社会への参加(参加支援)を地域連携ネットワークや地域の支援ネットワークの共通基盤として位置づける。

市民参加
「地域共生社会の実現のための人材育成や参加支援、地域づくりという観点で市民後見人の育成を進める」。→支援対象者化しない市民の活躍(参加)を応援する。

多様な主体の参加
多様な主体が参画する地域連携ネットワークによって、当事者および市民の参加を応援していく。
体制を整備する。

本人の権利擁護・参加
当事者参加
意思決定支援と参加支援

市民・民間の社会貢献・参加
市民参加
権利擁護への市民の参加と参加のプラットフォーム

支援関係機関や専門職
地域連携ネットワーク

支援機関や専門職が、当事者や市民の参加を応援することで、参加し、共生する社会を実現していきたい。

23枚目
参考として法改正に向けた試論

意思決定支援と社会参加の支援(二つの当事者参加)の社会福祉法上の位置づけの明確化。
社会福祉法第3条(福祉サービスの基本理念)については、少なくとも障害者基本法(第23条第1項)や障害者総合支援法(第42条第1項、第51条の2第1項)に準じて、意思決定支援を共通理念として示すべきではないか。

「福祉サービスの利用援助事業」(第80条~87条)
意思決定支援と参加の支援が確保された事業として、ふさわしい名称と見直しが必要。
市民が意思決定支持者として参画する新たな事業の事業化(モデル事業の事業化)。

中核機関の法制化
司法と福祉の連携は当然として、意思決定支援と社会参加を促し、包括的な支援体制との連携を強化する中核としても、法律上明記する。

成年後見制度利用促進法の名称変更
障害者権利委員会からの総括所見での第二期基本計画への「懸念」。包括的な支援体制の共通基盤としての権利擁護支援を「促進」する法律だとすれば、それにふさわしい名称と内容に改称すべきではないか。