資料2-4 障がい福祉施策の充実強化が必要ではないか(論点案〜大事項) 日中活動のあり方についてどう考えるか(論点案〜中事項) (1)現状・課題 〇平成18年に障害者自立支援法が施行され、公的な障害福祉サービスの対象に、支援費制度では対象ではなかった精神障がいの人が加えられるとともに、日中活動としての障害福祉サービスを提供する事業所の開設を、社会福祉法人に限らず、NPO法人や営利法人にも広げられたことなどから、障害福祉サービスの利用者の数と同提供事業所数は年々増加し、今日、障がい者の地域生活を支える重要な社会資源となっている。 〇日中活動の障害福祉サービスを提供する事業所の種別としては、生活介護と就労支援B型の事業所がボリュームゾーンであり、実際の活動プログラムは、運営主体の自由度が高く、一人ひとりの希望や願いに沿った個別支援計画を策定した上で、状態像に応じた食事や入浴、排せつの援助といった身体介護を中心とするものから、芸術文化活動や農業、漁業との連携により生産活動を行うものなど、様々である。 〇障害者自立支援法に基づく障がい福祉の制度のスタートから、途中、障害者総合支援法に基づく制度の改変を経て、13年以上が経過したが、公的な障害福祉サービス提供事業所の実態を調査した、厚生労働科学特別研究事業(平成29年度)(※)によれば、@利用者の高齢化が進んでいること、A重度、多様な障がいの利用者が増えており、とりわけ行動に課題のある人や医療的ケアが必要な人の支援に苦慮していること、B支援員の人材確保が難しくなっていること、などが課題となっているとしている。 〇また、障害福祉サービス利用者のサービス等利用計画を、同じ法人の相談支援事業者が作成している場合があり、権利擁護の観点から問題ではないかとの指摘もされている。具体的には、生活介護事業所では約30%、就労支援B型事業所では約22%が同じ法人の相談支援事業者が作成しており、入所施設の利用者が利用する日中活動としての生活介護においては、約60%が同じ法人の相談支援事業者が作成している調査結果であった。 〇さらに、事業所の設置者に着目すると、ここ数年、生活介護事業所及び就労B型事業所については、NPO法人や営利法人が新規に事業を開始した例が増加している傾向にあり、経営のノウハウ不足についても課題とされている。 〇就労系の日中活動に着目すると、神奈川県内の障害福祉サービス事業所の賃金(工賃)については、令和2年度は、前年から微減しているものの、近年は増加傾向にあり、就労継続支援B型事業所の令和元年度の平均工賃月額は15,119円(前年度14,696円)で、また、就労継続支援A型事業所(雇用型)の平均工賃月額は83,380円(前年度80,508円)となっている。しかしながら、特に就労継続支援B型事業所では全国平均よりも低い水準であり、地域で自立して生活するには決して十分な水準とはなっていない。 〇また、「チャレンジド(障がい者)を納税者にできる日本」を標榜して活動してきた障がい福祉事業者も存在する。最先端科学技術で、障害のある人を、働ける人、社会の支える側へ、という考えである。このような当事者や支援者のこれまでの取組みに応えるように、現行の公的障がい福祉サービスは、一般就労につながる支援についても重視してきた。 〇厚生労働省の最新の調査(※)によると、障害福祉サービス利用者が一般就労に移行する人の割合は、就労移行支援事業所では平成25年の47.7%から令和元年度は54.7%と大きく上昇しているものの、就労継続支援A型事業所では、平成25年の24.7%から令和元年度は25.1%、就労継続支援B型事業所では平成25年度の15.6%から令和元年度は13.2%となっており、今後も、障がい当事者の働きたいという願いを実現する取組みが求められる。 ※ 第113回社会保障審議会障害者部会資料(R03.06.28) 〇神奈川県の第5期障害福祉計画(平成30年度〜令和2年度)における就労移行支援事業の利用者数については、令和2年度目標の4,152人に対し、実績は4,412人となり、この目標は達成している。しかし、一般就労に移行する利用者の割合(就労移行率)について、同移行率が3割以上の事業所の数を令和2年度までに全体の50%とする目標としたが、実績は27.3%となり、達成できなかった。 〇この他、障害者総合支援法に基づき、障がい者の地域での生活を支援するため、市町村が、その地域の実情に合わせて、柔軟に支援内容を組立てることのできる「地域生活支援事業」があり、日中活動メニューとして、地域活動支援センターなどがあるが、財源が潤沢ではないことや手続きが煩雑であるといった理由から、いわゆる個別給付との組み合わせでより一層の地域生活を支援するといった機能を果たせていないという指摘もある。 (2)検討の方向 (事業所数の増加に対応した適切な運営支援) 〇日中活動の場は、障がい当事者の仲間づくりの場であり、地域において、いのち輝かせて生き生きと暮らすことのできる重要な社会資源であり、事業者等は、一人ひとりの心の声に耳を傾け、福祉的就労も含め、願いや希望に応じた質の高い事業を進めることが重要である。行政は、指定障害福祉サービス事業所を指定した責任の下、必要な指導助言に取り組む必要がある。行政は、今日の事業所数の増加に適切に対応してくために、事業情報の幅広な公開の推進、国保連データによる支援内容の分析、自主点検の督励、当事者によるモニタリングの導入などを進めることとしてはどうか。 (利用者の高齢化、行動に課題のある人、医療的ケアが必要な人への対応) 〇近年、日中活動系の障害福祉サービス事業所の利用者について、高齢障がい者、強度行動障がいのある人、医療的ケアの必要な人の利用が増えているという調査結果が報告されており、管理者も含め、支援者には支援技術の向上、専門的知識の習得が求められている。このため、事業所等は、最新の支援理論、支援技術を学ぶ機会を設けるよう努めることとし、行政も、その実現に向けて、支援を行うこととしてはどうか。 〇その際、広域のエリアにおいて、研修・研究の機会を設けることが効率的であり、かつ、事業所及び支援員の広域的な連携も図られることから、県は、例えば、障がい保健福祉圏域毎に担当者(広域支援のマネージャー)を配置するなど、効果的な取組みを進めることとしてはどうか。 (サービス等利用計画) 〇市町村の公的サービスの支給決定の前提となるサービス等利用計画は、本人の願いや望みを最大限反映させたものとすべきであり、権利擁護を図る観点から、できる限り、利用サービスの設置者とは異なる相談支援専門員によるものであることが望ましい。このため、県は、今なお不足しているとされる相談支援専門員の養成に注力するとともに、質の確保を図るため、事業者団体と緊密に連携を図り、研修・研究の機会を設けるなどの必要な支援を行うこととしてはどうか。 〇また、サービス等利用計画の策定に際しては、現在、県が推進している、意思決定支援の仕組みを導入し、多職種によるチームを編成の上、本人の心の声にしっかり耳を傾けられる態勢を整備するよう取り組むこととしてはどうか。なお、多職種チームには、できる限り、ピアサポーターの参加を奨励することとしてはどうか。 (小規模な事業所の経営支援) 〇日中活動のサービス提供事業者は、経営規模が小さく、設立して間もない法人が多いことから、行政は、指定事業所として指定した責任を踏まえ、経営相談の機会を設けたり、緩やかな共同事業の実施について助言指導、支援の質の向上に向けた研修受講の督励を行うなど、その健全な経営の確保を図る観点からの支援を行うこととしてはどうか。 〇この場合、経営指導についてのノウハウのある公益性の高い法人・機関と連携を図ることとしてはどうか。 (就労支援事業所の事業内容の充実等) 〇今日、全国の就労支援事業所は工賃の向上に向けて取組みを進めており、好事例(失敗事例)は数多くある。事業所等はこういった様々な事例に学びながら、関係機関、関係団体、地域の人たちと連携しつつ、当事者の働きたいという願いに応えることが重要であり、県は、そうした努力がきちんと見える形になるよう、研修や情報交換の機会を向けるなどの支援を行うこととしてはどうか。 〇この場合、就労支援に関しての情報の蓄積、企業者とのコーディネート力、障がいの状態像に応じた就労支援の技術力などを備えた公的な機関・団体との連携を図ることとしてはどうか。 〇また、障害者支援施設の利用者においても、その人に合った日中活動としての福祉的就労に取り組むことにより、その人らしく、いのちを輝かせて生き生きと暮らすことにつながることが報告されている。生活介護も生産活動のメニューが想定されており、事業者等は、本人の状態像に応じた就労の機会を創出するよう努めるべきである。そのために、県は、障害者支援施設の日中活動の実態を把握し、必要な助言指導に努め、日中活動系の障害福祉サービス提供事業者との連携を図る機会を提供するなど、障害者支援施設の日中活動の充実のための支援を行うこととしてはどうか。 (企業との連携) 〇障がいのある人が、一般就労の機会を得るためには、企業の理解を促し、企業との連携を図っていくことが重要である。単独の障害福祉サービス提供事業者では、支援員等が企業に出向き、連携・協力関係を築くことは難しい。県は、就労支援に取組む事業所相互の連携強化と、企業とのマッチングの機会を設けるなど連絡調整役を務めることとし、例えば共同受注窓口といった連携機関の機能強化を図っていくこととしてはどうか。 〇施設外就労は、福祉的就労から一般就労への転換が図りやすいとされることから、事業所等は、企業と福祉の連携をより一層強化してくことが重要である。県は、事業所等が施設外就労の機会を得やすくするよう、上記と同様、連絡調整役を務めることとし、連携機関の設置または機能強化を図ることを検討することとしてはどうか。 (地域生活支援事業の活用) 〇地域支援事業は創設来、実施事業のメニューが徐々に増加するとともに、一方で個別給付への一部メニュー移行が行われるなど、制度変更が実施されている。それぞれの地域の実情に応じて柔軟に実施できるという利点に着目し、日中活動についても、個別給付で対応できない部分の支援が期待されている。県は、各市町村の実施事業の実態をしっかりと把握する仕組みを構築し、より効果的な執行について、市町村に対し助言を行うよう努めることとしてはどうか。 ※就労の支援、互助・共助の地域生活支援については、別途さらに検討する予定。 これまでの主なご意見(日中活動に関して) 〇日中活動を入所施設の中で行い、外へ出ないということを短期的には改めてもらいたい。日中はどこか外に出ることが必要だと思う。外へ出るときの制度的な問題はあるかもしれないが、外へ出たときの受入れ先、地域でそれを受け止めるという、地域社会のあり方も改めていかなければならない。 〇利用者が、入所施設の外に出られずに、嫌な思いをする機会すらないという、そういう実態がいま続いている。今、日本全国でそういう状態だと思うので、外へ出ていって、嫌な思いもするし嬉しい思いもするというようなチャンスを、短期的な視点であっても、是非この神奈川からスタートしていただきたい。 〇多様な活動を用意することと、そこに挑戦していくことが、一人ひとりの可能性を導いていくことになる。地域移行の鍵は、日中活動である。 〇入所している障がい当事者に関わる人が多ければ多いほど、本当に尊厳ある生活、また行動障がいが回復していく。このことに関して、多くの入所施設は、利用者を囲い込んでしまっているのではないか。 〇入所施設は、しっかりとした見立てを持って、利用者に日中は外に出てもらい、他者に委ねていく。このことが、通過型施設をつくる最も重要なポイントになってくる。それが本当に県立施設、今の立地、また利用・運営形態でできるかを議論できればと思っている。 〇法人や事業者が、自分たちだけで何とかしようとすると、どうしても本人たちの目線から外れてしまう。自分たちでできないところを、他の法人に応援してもらうことは大事である。 〇企業等への啓発等を実施することが重要。 〇入所施設の中で日中活動をするという制度的な枠組みも含めて、おかしいと言う必要がある。利用者さんが生き生きとした顔をされている取組みを、他の入所施設や国の施策に反映しなければいけない。 〇障害者総合支援法に変わってから、障害者支援施設も報酬体系が分かれて、昼間の生活介護について他の事業所を使うという実例もある。法人内外の日中活動を使って事業を展開することに取り組んでいる法人もあり、そういったことが、例えば県立施設の場合に、エリア的な問題や日常的な受入場所の課題も含めて、現状を変えていける状況にあるのかないのかということもチェックすべきではないか。 関係団体ヒアリングでの主なご意見(日中活動に関して) 〇意思決定をやったというが社会との接点が少ない。決められた時間に決められたことをやっている。施設では「これが好きなんだね」というが、それしかやることが無い。(神奈川県自立生活支援センター) 〇昼間も同じ敷地の中で活動していると、仕事に行ったという感じがしないと思う。(にじいろでGO!) 〇通勤が結構大変なので、同じ敷地内だと楽でいいかもしれない。(にじいろでGO!) 〇施設内で支援が完結しやすく、支援の中心が「施設内での生活の充実」に偏りがちである。(神奈川県身体障害施設協会) 〇施設機能だけでは限界があるので、外部サービスが活用できる制度上の規制緩和が必要。(神奈川県知的障害施設団体連合会) 〇人間関係を大切にする取組みが重要だが、施設では物理的にも難しい。ヘルパーやガイドヘルパーなどを利用して、外のサービスを使ったり、ご飯を食べにいくことが難しい。(神奈川県自立生活支援センター) 〇日常的にガイドヘルパーなどの施設外サービスを使った上でなければ、意思決定できない。施設外サービスを利用することで、地域生活における課題が明確となり、利用者本人の理解が進む。地域と連携し、施設外で過ごす機会を設けることを地道にやる必要がある。(日本グループホーム学会) 〇仲間と話をしていると、自分達のことを自分で決めたり、仕事も頑張らなきゃいけないという気持ちになるが、施設ではそれができない。(ピープルファースト横浜) 〇同じ仲間たちがピアサポートできるような仕組みを考えてほしい。仕事としてやりたい仲間がいると思う。(にじいろでGO!) 〇自立して、基本的人権が保障される生活を営むことが出来るため、働ける人は働く、いわゆる就労の支援が必要と考える。(神奈川県肢体不自由児者父母の会連合会) 〇経済的に収入を支える生産活動や芸術活動、就労支援の充実が欠かせない。まだ指定基準の工賃3,000円を下回るB型事業所が何カ所かある。指定申請の時点での精査も必要ではないか。(神奈川セルプセンター) (参考資料)神奈川県内の障害福祉サービス事業所数(日中活動系サービス、横須賀・三浦、湘南東部、湘南西部、県央、県西は障がい保健福祉圏域、横浜市、川崎市、相模原市は政令市) 左から区分、横須賀・三浦、湘南東部、湘南西部、県央、県西、横浜市、川崎市、相模原市、合計か所数 生活介護、56,49,59,60,27,239,86,77,653 療養介護、2,0,1,1,2,4,1,2,13 自立訓練機能訓練、1,1,1,1,2,2,1,0,9 自立訓練生活訓練、4,2,2,5,1,24,14,7,59 自立訓練宿泊型、0,1,1,0,0,3,2,0,7 就労移行支援、14,24,9,24,5,80,38,16,210 就労定着支援、8,14,7,18,2,43,21,9,122 就労継続支援A型、9,6,7,9,1,31,16,11,90 就労継続支援B型、43,45,58,79,30,195,54,63,563 出典:「障害福祉情報サービスかながわ」(令和3年6月30日時点)