県立中井やまゆり園における利用者支援外部調査委員会調査結果報告書

令和4年9月5日
県立中井やまゆり園における利用者支援外部調査委員会
 

目次
Ⅰ 調査の概要	1
1 経緯	1
2 調査事案(91件)	2
3 メンバー	2
4 開催状況	3
Ⅱ 調査結果	4
1 調査期間	4
2 調査方法	4
3 調査結果の概要	6
Ⅲ 調査結果に関する考察	20


 
Ⅰ 調査の概要
1 経緯
○ 県立中井やまゆり園(以下「園」という。)では、令和2年度に設置した「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」の指摘を受け止めて、利用者支援の改善に向けた検討を進めてきた。
○ これまでの取組として、長時間に及ぶ身体拘束の実施状況の市町村への情報提供や、県ホームページによる見える化を図りつつ、有識者の意見を入れながら、改善に向け、検討を進めてきた。
○ さらに、昨年度に設置した「当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会」の議論の方向性も踏まえ、利用者支援の改善に向けて検討を進めてきた。
〇 令和3年9月には、この取組をより一層加速化するため、外部有識者による「中井やまゆり園の当事者目線の支援改革プロジェクトチーム(以下「支援改革プロジェクトチーム」という。)」を設置し、検討を行ってきたところである。
【支援改革プロジェクトチームの取組】
・ 身体拘束ゼロなど当事者目線の利用者支援の向上
・ 通過型施設など県立施設の当面の役割を見据えた施策の検討
・ 令和元年7月31日に発生した骨折事案の再調査に係る助言
〇 県は、支援改革プロジェクトチームの取組を進めていく中で、令和元年7月に発生した骨折事案に関する職員ヒアリングを実施し、事実であれば不適切な支援と思われる情報を複数把握した。
〇 そこで、不適切な支援と思われる情報が他にもないか確認するため、令和3年12月から令和4年1月にかけて園の職員等を対象にアンケートを行い、事実であれば不適切な支援と思われる情報を職員ヒアリングと合わせて、38件把握した。
〇 県は、その把握した情報について徹底的に調査を行うため、支援改革プロジェクトチームの構成員による「県立中井やまゆり園における利用者支援外部調査委員会」(以下「外部調査委員会」という。)」を令和4年3月3日に設置した。
〇 また、外部調査委員会で調査を進める中で、新たに把握した9件の不適切な支援に関する情報も調査対象とした。
〇 4月26日に公表した調査結果(第一次)では、事実であれば、虐待と言わざるを得ない8事案について、優先的に調査を実施した。このうち、5事案は、県が把握した情報の一部又は全部が事実であったことから、県として関係自治体に虐待通報をすべきと判断した。
〇 また、こうした事案の背景には、人権意識の大きな欠如が生じていることや、職員間の対立や風通しの悪さなど、人間関係に問題があったこと等を確認した。
〇 外部調査委員会では、残る事案について、関係資料の確認や、約130人に及ぶ園職員や関係者等へのヒアリングなどを実施し、最終的には、家族へのアンケートで把握した情報などを含め、91件の調査を実施した。

2 調査事案(91件)
  調査事案の内訳は次のとおり。
(1)令和4年4月の調査結果(第一次)までに把握した事案	47件
(2)令和4年5月に実施した家族アンケートで把握した事案	7件
(3)令和4年6月の職員ヒアリング等で把握した事案	7件
(4)令和4年7月以降の職員ヒアリング等で把握した事案	24件
(5)県が実地調査で把握した事案	2件
(6)外部調査委員会で調査が必要と判断した事案
(過去3年間の死亡事案の検証)
	4件
3 メンバー
                                 (五十音順、敬称略)
氏名	所属	区分
大川 貴志	社会福祉法人同愛会 てらん広場統括所長	施設関係
小川 陽	特定非営利活動法人 かながわ障がいケアマネジメント従事者ネットワーク	意思決定支援
小西 勉	ピープルファースト横浜 会長	当事者関係
佐藤 彰一
(委員長)	國學院大学 法学部 教授  	学識関係
隅田 真弘	足柄上地区委託相談支援事業所相談支援センター りあん ピアサポーターフレンズ	当事者関係
野崎 秀次	汐見台病院 小児科、児童精神科、精神保健指定医 医師 	医療関係
渡部 匡隆
(副委員長)	国立大学法人横浜国立大学大学院教育学研究科 教授 	学識関係

4 開催状況
〔第1回〕開催日 令和4年3月11日(金)
議 題 ・ 調査の進め方の確認
・ 個別事案の意見交換
〔第2回〕開催日 令和4年3月25日(金)
      議 題 ・ 個別事案の意見交換
〔第3回〕開催日 令和4年4月11日(月)
      議 題 ・ 個別事案の意見交換
〔第4回〕開催日 令和4年4月26日(火)
      議 題 ・ 個別事案の意見交換
・ 調査結果(第一次)のとりまとめ
〔第5回〕開催日 令和4年6月7日(火)
議 題 ・ 調査の進め方の確認
・ 個別事案の意見交換
〔第6回〕開催日 令和4年7月8日(金)~20日(水)<書面開催>
議 題 ・ 個別事案の意見交換
〔第7回〕開催日 令和4年8月2日(火)
議 題 ・ 個別事案の意見交換
・ 調査結果報告書(案)の議論
〔第8回〕開催日 令和4年9月1日(木)
議 題 ・ 個別事案の意見交換
・ 調査結果報告書のとりまとめ 
Ⅱ 調査結果
1 調査期間
(1)優先的に調査を実施した8事案
令和4年3月3日から同年4月26日まで
 (2)(1)のうち、調査継続とした5事案及び残る83事案
令和4年4月27日から同年9月1日まで

2 調査方法
(1)書面調査
調査事案に関連する利用者について、園に存在する関係書類の全てを調査した。
・利用者台帳/アセスメントシート/個別支援計画書/モニタリング票
・情報提供のあった時期の生活支援記録/身体拘束関係資料
・通院記録/医療記録/看護記録
・診療情報提供書/医療カルテ
・事故報告書/ひやりはっと報告書/確認・情報共有シート
・寮日誌/寮会議報告書

(2)ヒアリング調査
調査事案に関連する異動した職員や退職した職員も含めた園職員、利用者本人やその家族のほか、医師などの専門家に対して、令和4年3月18日から同年8月31日までの間に、実人数で131名、延べ人数で213名の関係者に対面及び書面のほか、電話や電子メール等の方法によりヒアリングを行った。
さらに、専門的な見地から所見が必要な事案については、事案発生時に利用者を診察した医師や、事案の内容に関係する消化器外科・皮膚科等専門医の所見を伺った。

(3)実地調査
園職員へのヒアリング調査に加え、外部調査委員や県本庁職員が情報提供の内容を園に出向き、現場を直接確認し、利用者とも面会するなど、実地調査を行った。

(4)家族へのアンケート
令和4年5月7日から同年5月27日までの間、園の運営に対する率直なご意見等を伺うため、利用者の家族と成年後見人104名に対し、アンケートを実施した。
回答の一部には、「過去のけがも不適切な支援によるものではないか。」といった疑念の声や、事案発生当時の支援内容がどうだったのか調査 してほしいという要望をいただき、外部調査委員会の調査事案として調査を行った。
ア 回答状況
32件(回答率:30.7%)
イ 回答の概要
・ 回答の多くが、外部調査委員会の調査結果(第一次)に関して、「調査結果や報道を見て、衝撃を受けた」、「利用者のことを思うと胸が痛い」といった悲嘆の声であった。
・ また、「なぜこのようなことが起きていたのか、しっかりと検証してほしい」、「これまで事故と聞かされていたものも職員によるものではないかと疑心暗鬼になってしまう」といった調査結果(第一次)に対する意見や、園の運営や利用者支援(施設の雰囲気や風通し、人員配置、マネジメント、施設の閉鎖性、支援力向上など)についての指摘・要望もあった。
 
3 調査結果の概要
【調査結果の概況】
○ 「虐待が疑われる事案」「不適切な支援等であり、速やかに支援方法等を見直すべき事案」「過去の虐待事案で通報・公表済等、その他の事案(死亡事案を除く)」の計41件について集計したところ、中井やまゆり園にある7つの寮のうち、4つの寮から事案が確認された。
○ 上記41件の事案の平成27年度から現在(令和3年度内)までの年度ごとの出現状況は、平成30年度までは各年度1~2件程度であったが、令和元年度に9件となり、令和2年度は4件となったが、令和3年度は12件だった。さらに、直近までの複数年にわたって行われていた事案も9件あった。なお、一部時期が明らかになっていないものもあった。
○ 利用者について、実人数28名の利用者が被害にあっており、最も多い利用者では8件、2名の利用者が6件と続き、5名の利用者は3件の事案に関わっていた。
○ また、園や寮等を単位として職員全体が関与したとされる事案は12件、個別の職員が関与したとされる事案は29件、関与したとされる職員は、全体で実人数76名であった。
○ 個別の職員が関与したとされる事案のうち、1名の職員が関与した事案で、最も多いのは6件、1名の職員が4件、1名の職員が3件、2名の職員が2件であった。

(1)虐待が疑われる事案(25件)
県が把握した情報の一部又は全部が事実であったことから、障害者虐待防止法に規定される虐待が疑われ、県として関係自治体に虐待通報した。

ア 早く食え、早くしろと利用者の隣で言い続ける等したとされる事案
虐待が疑われる行為を行ったとされる職員は否定しており、事実の特定には至らなかったが、当該職員が早く食え、早くしろと利用者の隣で言い続けていた、浴室やトイレで複数の利用者に対して身体的な暴力をしていた、利用者が不穏になると突き飛ばして居室に入れて施錠していたとする目撃情報がある事案であり、心理的虐待や身体的虐待が疑われる。

イ 職員が利用者の両腕を後ろでクロスさせ、腕を押さえながら歩かせていたとされる事案
移動中に利用者が衝動的に行動することを防ぐために、多くの職員が利用者の両腕を後ろにクロスさせ、腕を押さえながら歩かせていた事案であり、正当な理由のない身体拘束として身体的虐待が疑われる。

ウ 居室の天井が便まみれとなっている環境で生活をさせていた事案
利用者が居室で便をして、その便を天井に投げつける行動に対して、園職員は有効な手立てを取っておらず、清掃や消毒はしているとのことであったが、天井が汚れた状態が常態化した中で寝食など、生活させていた事案であり、ネグレクトが疑われる。
なお、県本庁はモニタリング、監査を実施しているにも関わらず、この状態を把握していなかったことは問題である。

エ 共用スペースであるデイルームで、利用者を全裸にしてボディチェックを行っていたとされる事案
特定の利用者について、日々の生活の中で、けがをしていないかを確認するために、ボディチェックを行う際、他の利用者などから見えるデイルームで、全裸にさせて行うこともあった事案である。また、このボディチェックで内出血が見つかった際には、記録を残すために、デジタルカメラで、内出血やあざができた部位を含め、利用者を全裸にし、撮影、記録していた事案であり、心理的又は性的虐待が疑われる。

オ 背中に不自然なあざがあったにも関わらず、園は調査をしなかったのではないかとされる事案
情報提供があった不自然なあざができた際に、園ではその原因究明などの調査を行っていた。しかし、この利用者に対する日頃のボディチェックでは、内出血が見つかった際に、記録を残すためにデジタルカメラで、内出血やあざができた部位を含め、利用者を全裸にして、撮影、記録されていた事案であり、心理的又は性的虐待が疑われる。

カ 利用者の顔を平手打ちし、こぶしで額を殴ったとされる事案
食堂の床に座り込む利用者を台車に乗せて移動させようとしたところ、利用者が職員の腕を噛んだため、制止しようと、顔を平手打ちし、こぶしで額を殴った事案であり、身体的虐待が疑われる。
また、事案発生当時の記録には、強く押した、食堂で過ごしていた時にどこかにぶつけてあざができたとの記録があった。
なお、当該事案については、関係自治体から虐待認定された。

キ 利用者の足を蹴ったとされる事案
デイルームと思われる場所で、床に座っていた利用者が窓を複数回蹴っていたところ、その行為を制止しようとした職員が利用者の足を蹴った事案であり、身体的虐待が疑われる。
なお、当該事案については、関係自治体から不適切な支援と考えられる事案とされた。

ク 職員が利用者を手のひらで小突いたとされる事案
虐待が疑われる行為を行ったとされる職員は否定しており、事実の特定には至らなかったが、職員が寝ている利用者を手で小突いたとする目撃情報がある事案であり、身体的虐待が疑われる。

ケ 脱衣場で服を脱がない利用者をふろ場に入れて、服を着たままシャワーをかけたとされる事案
利用者に対して、服を着たままシャワーをかけた場面を見たとする情報があり、情報提供者が一緒に目撃したとする職員に確認をした。当該職員は目撃したことはないと証言し、また虐待が疑われる行為を行ったとされる職員も否定し、事実の特定には至らなかった。
しかし、ヒアリング調査の中で、別の職員から利用者が便で全身が汚れているにも関わらず、衣類を脱がない場合には、服を着たままシャワーをかけて、汚れを落とすことがあったとの証言を得た事案であり、心理的虐待が疑われる。

コ 利用者が落とした食器を拾えと職員が大声を上げたとされる事案
虐待が疑われる行為を行ったとされる職員は否定しており、事実の特定には至らなかったが、利用者に対して大声で高圧的な支援を行っていたとする目撃情報がある事案であり、心理的虐待が疑われる。

サ 服薬用のコップの水等に、塩や砂糖が混ぜられていたとされる事案
異物を入れたと疑われた職員は否定しており、入れた職員は特定 できなかったが、利用者の水等に異物が入っていた事案であり、身体的虐待が疑われる。
(調査結果(第一次)で公表した事案)

シ 利用者の肛門内にナットが入っていた事案
利用者の体内にナットが入っていたことは事実であり、現時点で、ナットは肛門から入った可能性が高く、職員が入れた可能性が高いと考えられ、身体的虐待が疑われる。
(調査結果(第一次)で公表した事案)
なお、この事案については、調査結果(第一次)公表後、引き続き、ナットがいつ、どのように体内に入ったのか、職員や利用者本人へのヒアリング調査を継続したが、特定には至らなかった。

ス 数百回に及ぶ回数のスクワット等の不適切な運動プログラムをさせたとされる事案
当初、運動不足の解消を目的として行われていたが、個別支援計画に定めず、シーツ交換を行う条件などとして、一部では数百回に及ぶ過度なスクワットを一部の職員がやらせ、それが寮内で見過ごされてきた事案であり、身体的虐待や心理的虐待が疑われる。
(調査結果(第一次)で公表した事案)
なお、この事案については、他の利用者にも行われていた可能性があるため、調査結果(第一次)公表後も、引き続き、調査を継続したところ、24名の利用者がスクワットや腹筋、踏み台昇降などの運動を行っていた。これらのうち、理学療法士の指導を受け、個別支援計画に目的や頻度などを記載するとともに、適正な運動を実施していた事案は18名であった。
一方で、この24名のうち、6名は運動プログラムの検討や実施評価等が実施されておらず、2名については、強迫的に運動を促していた事案も確認され、これらも身体的虐待や心理的虐待が疑われる。

セ 利用者に洗濯カートをぶつけたとされる事案
虐待が疑われる行為を行ったとされる職員は否定しており、事実の特定には至らなかったが、職員が利用者に洗濯カートをぶつけたとする目撃情報がある事案であり、身体的虐待が疑われる。

ソ 水の入ったバケツを持って「お水をかけるよ。」と言って、トイレから出てもらったとされる事案
虐待が疑われる行為を行ったとされる職員は否定しており、事実の特定には至らなかったが、職員が水の入ったバケツを持って、利用者をその場から動かすために「水をかけるよ。」と声をかけたとする目撃情報がある事案であり、心理的虐待が疑われる。

タ 食事中に利用者を突き飛ばして蹴りを入れようとしたとされる事案
虐待が疑われる行為を行ったとされる職員にヒアリングは実施できておらず、事実の特定には至らなかったが、職員が食事中に利用者を突き飛ばして蹴りを入れようとする行為を制止したとする目撃情報がある事案であり、身体的虐待が疑われる。

チ 利用者が起きてから寝るまで、廊下を歩かせ続けたとされる事案
運動による体重コントロールを目的として、職員が特定の利用者に対して起床後から就床前まで断続的に廊下を歩かせ続けた事案である。
また、利用者に発熱があり、解熱剤を服用した後でも、歩行や運動をさせていた事案である。この運動は個別支援計画に位置付けられていたが、医師は解熱剤服用後に運動をさせることを了解していないにもかかわらず、担当職員が運動をさせてよいと捉えて、職員に対して、運動の支援を行わせ、解熱状態に至っていない利用者に運動を強いていた可能性があり、身体的虐待が疑われる。

ツ 失禁で汚すという理由で利用者に寝具を提供しないとされる事案
虐待が疑われる行為を行ったとされる職員にヒアリングは実施できておらず、事実の特定には至らなかったが、特定の利用者に対して、寝具を提供しない、利用者が寝ていても布団を片付けていたとする目撃情報がある事案であり、ネグレクトが疑われる。

テ 利用者にコーヒーの提供を交換条件として、課題遂行をさせていたとされる事案
特定の利用者に対して、「排便があったら、お尻を触らなかったら」といったことを交換条件に、本人が好きなコーヒーを提供していた事案であり、心理的虐待が疑われる。

ト 職員が殴打した、又は興奮した利用者を居室施錠したまま放っておいたことで、顔が腫れ上がったとされる事案
書面調査やヒアリング調査の結果、当時、利用者の自傷が激しかったことから、けが防止のための緩衝材が張られた居室に隔離していた。また、居室施錠の間、30分以上、状況を確認せず、結果として、部屋中に血が飛び散るほどのけがを負ってしまった事案であり、興奮した利用者を居室施錠したまま放置したことは、ネグレクトが疑われる。

ナ 職員が怒り、殴ったことで利用者が頭を打ち、失神したとされる事案
虐待を行った疑いのある職員本人は事実を否定し、事実の特定には至らなかったが、目撃情報がある事案であり、振り払ったとしても身体的虐待が疑われる。
(調査結果(第一次)で公表した事案)

ニ 4名の利用者に対し、食事の際に多量のオリゴ糖シロップをかけて食べさせていたとされる事案
オリゴ糖シロップを摂取させること自体は問題ないが、多くの職員が個々の判断で多量のオリゴ糖シロップをかけ、また、組織のチェック機能が働かず、職員個人の判断で多量に購入されていた事案であり、身体的虐待や経済的虐待等が疑われる。
(調査結果(第一次)で公表した事案)

ヌ 水やみそ汁を多量に飲ませていたとされる事案
利用者が水分摂取の拒否が強い場合に、代わりにみそ汁を薄めて多めに提供していたことは事実である。さらに利用者に対して、1名の職員が後ろで羽交い絞めのようにして、別の職員が吸い飲みを使い、無理やり飲ませていた場面を見たとする目撃証言がある事案であり、身体的虐待が疑われる。


ネ 利用者の頭に剃り込みをいれていることを職員が問題視していないとされる事案
剃り込みに関する不適切な対応について生活支援記録では確認できなかったが、利用者の散髪について、理容師から不適切な整容であることを指摘されており、障害者支援施設での理容実施の方法や考え方を整理することが必要である。
また、前髪を一部だけ残して他は丸刈りにした髪型については、3名の職員が見たことがあると証言しており、身体的虐待が疑われる。

ノ 複数の利用者に対して、顔をタオルで薄皮が剥けるほど洗っていたとされる事案
皮膚疾患のある利用者に対して、清潔を保持するために、タオルでぬぐった際に、皮が剥け、出血させてしまったことは事実であった。
また、垢すりタオルを洗顔に用いて、力まかせに行っていたとする目撃証言もある事案であり、身体的虐待が疑われる。

(2)不適切な支援等であり、速やかに支援方法等を見直すべき事案(12件)
県が把握した情報の一部又は全部が事実であるが、外部調査委員会では、虐待が疑われる事案とするか、不適切な支援等とするか、判断が難しかった事案であった。

ア 利用者の行動範囲が制約され、プライバシーへの配慮もされていない居住空間
県本庁が現地調査を行った際に、一部の寮では、改善が必要な状態にあることを確認した。
・ ホーム出入口が施錠され、利用者が自由に出入りできない。
・ 洗面所やトイレに鍵がかかっていて、利用者が自由に使えない。
・ トイレ内の個室の扉や便座が壊されたままになっており、カーテンもない。
・ トイレ内の洗面台の蛇口が外され、手が洗えない。
なお、こうした状況を園に確認したところ、いずれも壊されてしまう、水を飲み過ぎてしまう等の利用者の行動を理由として、こうした状況が常態化しており、園では、各寮を点検し、環境の改善や補修などを進めている。

イ 利用者が職員に掴みかかり、もみ合いになった時、職員が振り払い、離れようとしたところ、利用者が転倒し、後頭部裂傷したとされる事案
利用者が職員に掴みかかり、職員が止めるよう声をかけても、やめずもみ合いになり、職員は腕を振り払う形で引き離したところ、利用者が後方に転倒し、後頭部を裂傷した事案である。
利用者にけがを負わせてしまったことは事実であり、支援方法を見直すべきである。

ウ 利用者に対し、指差しをして部屋に入るよう命令したとされる事案
一部の職員は、利用者を居室に誘導する際に、視覚的に分かりやすく伝える方法として指差しを用いることがあることは事実であった。
こうした行為は、情報提供者から「命令」や「人間扱いしていない」と捉えられており、支援方法を見直すべきである。

エ 利用者に濃いインスタントコーヒーを飲ませて、利用者を寝かせないようにしたとされる事案
情報提供者は、幹部職員に報告したと証言しているが、その後の対応を含めて、幹部職員の回答は判然としない。園はしっかりと調査すべきだった。
また、本調査において、令和元年度のインスタントコーヒーの購入量が、ヒアリングから得たコーヒーの提供頻度と乖離があることが分かった。コーヒーは、利用者のお小遣いから徴収したお金で購入したもので、適正に提供すべきであり不適切な支援だった。嗜好品の提供や管理方法について見直すべきである。

オ 利用者が歩けなくなったのは、園の支援体制が問題だとされる事案
利用者が腰椎圧迫骨折をしたこと、また、網膜剥離などにより失明に近い状態であったことは事実であり、入所期間中に身体機能が悪化し、歩けない状態となっていたことは事実であった。
園では、利用者の身体状況や家族からの要望を踏まえながら、医務課や理学療法士と連携したり、園内の嚥下評価を行う等、個別支援計画を見直して支援を行っていたが、日々の支援やその評価が十分にできていなかった。
さらに、骨折時の救急対応や、骨折直前の排泄支援、家族に退所を促す手紙を渡すなど、園の不適切な対応も確認した事案である。
こうした園の対応が家族などの関係者の不信感につながっており、利用者支援のために必要な情報を複数関係者で共有することの重要性を再認識するとともに、現在の支援体制と支援提供方法を評価し、必要な再構築を行うべきである。

カ 利用者がまだ食事を食べているのに、食事を捨てたとされる事案
虐待が疑われる行為を行ったとされる職員にヒアリングは実施できておらず、事実の特定には至らなかった。
しかし、食中毒防止の観点から、食事提供は原則調理終了後2時間までと園の食事に関する申合せ事項でなっており、職員からは、「食事に集中できなくて、食べられそうもないのに、食べると言い続けることがあり、時間が経過したため、捨てることはあった。」との証言もあった。さらに、「食事支援後の業務が進まないことを理由に、食事中に片付けている場面を何度か見かけ、注意したことで、口論になった」との証言もあった。
こうした状況が当時あったことについて、当時、園はしっかりと調査すべきだった事案であり、食事支援の方法について検証、改善すべきである。

キ 電気シェーバーで出血するまで深剃りしたとされる事案
髭剃りの結果、カミソリ負けと思われる出血や、頬や顎に引っ掻き傷様と思われるけががあったことは事実であった。
出血させてしまうまで髭剃りを続けたことは、不適切な対応であり、痛みがないか声をかけ、確認する等、支援方法を見直すべきである。

ク ホーム内で見守り中に職員がスマートフォンを使い、ゲームをしているとされる事案
園では、業務中のスマートフォンの使用について、一部の職員に対して注意したことがあった。また、日頃から業務に専念するよう、職員に対して注意喚起を行い、今回の情報提供の内容を受けて、改めて、職員に注意喚起していた。
職務専念義務の徹底を注意喚起するだけでなく、利用者支援において、利用者と関わり、向き合っていく時間を大切にしていくか、しっかりと理解し、議論すべきである。

ケ 行動制限(ホールディング)を前提とした支援が日常的に行われているとされる事案
自傷他害の行為に至る可能性のある複数の利用者に対し、特定の寮の職員が予防的に日々ホールディングを行っていた。
利用者支援の基本が理解されておらず、抜本的に支援方法を見直すべきである。

コ 昔のけがが事故ではなく職員による虐待ではないかとされる事案
情報提供の内容は、家族アンケートにより把握した内容であり、ご家族へのヒアリング調査では、調査結果(第一次)を読んで疑心暗鬼になってしまったとするもので、特定の時期のけがを虐待と疑う情報ではなかった。
しかし、今回の情報提供の背景には、園の説明責任が十分に果たされていなかったことが伺われ、園に対する関係者等からの信頼の回復に努めるべきである。

サ 夜尿してしまうことを理由に、利用者や家族の同意を得ず、夜間に職員の判断で勝手におむつを使用したとされる事案
トイレで排泄できる利用者にも関わらず、夜尿などを理由に、職員個々の判断で夜間におむつを着用させていたことは事実であった。利用者本人に声をかけ、同意を得て着用していたとの証言もあったが、アセスメントシートや個別支援計画では、おむつの着用に関する記述や、十分なアセスメントもなく、必要性を十分に議論されていなかった。
おむつを使用することでトイレに行くことが減り、排泄機能の低下や人権を侵害する恐れがあるため、直ちに支援方法を見直すべきである。

シ 園内の医務課は外部の医療機関の通院に非協力的で、通院した際の検査データも家族に渡さないとされる事案
利用者は園内の診療所を受診することが原則であると理解している職員がいた。また、外部の医療機関を受診した際の検査データを求められた時に、提供できないと伝えた事実もあった。
こうした対応が関係者の不信感を招いたことも事実であり、改善すべきである。

(3)事実の特定が困難な事案(17件)
県が把握した情報が推測や伝聞による情報で、書面調査やヒアリング調査でも事実関係が明らかにならない等、事実が特定できなかった。
こうした事案の中には、園が把握した時点で徹底的に調査を行っていれば、事実究明ができていた可能性がある事案もあり、当時の園の対応が不十分だった。
・ 居室の照明の点灯と消灯を繰り返して、寝ている利用者の睡眠を妨害したとされる事案
・ 職員が利用者を殴ったと話していたとされる事案
・ 利用者から便を投げつけられ、利用者を殴打したとされる事案
・ 利用者を蹴り倒して、洗面台の角に頭をぶつけて、けがをさせたとされる事案
・ 誰もいない時に、利用者を怒鳴りつけ、陰で殴る蹴るの暴行をしたとされる事案
・ 利用者の顔に消毒液をかけたとされる事案
(調査結果(第一次)で公表した事案)
・ 職員が蹴り、消化管穿孔で救急搬送されたとされる事案
(調査結果(第一次)で公表した事案)
・ 明らかに熱いお湯で入浴させていたとされる事案
・ ドアの扉を蹴ってトイレの中にいた利用者の額にけがをさせたとされる事案
・ 利用者がてんかん発作で呼吸停止してしまった時の記録を改ざんさせられたとされる事案
・ 食堂で利用者を恫喝する声が聞こえたとされる事案
・ 利用者が余暇で使用しているブロックを隠して、故意に不穏にさせたとされる事案
・ 利用者を怒鳴るような声が聞こえたとされる事案
・ 不自然な場所にあざができているとされる事案
・ 利用者預り金が紛失したとされる事案
・ 年間を通じてけがが多いとされる事案
・ 夜間、寝ない利用者について、居室の天窓を開けて、居室内を寒くさせることで、布団から出ないようにしたとされる事案

(4)事実が判然としていない事案(24件)
7月以降に把握した事案などは、現時点で情報提供者へのヒアリングができていない等、調査を継続する必要がある。
・ 部屋に蹴り込むとされる事案
・ 食事をテーブルから払いおとす、食席に着かない利用者を膝蹴りして座らせるとされる事案
・ 見て見ぬ振りをするとされる事案
・ 利用者の座っている食席に意図的に食事を投げるとされる事案
・ 利用者の着席中、食席に腰をかけるとされる事案
・ 利用者の顔にお茶をかけるとされる事案
・ 食器を大音を出してシンクに投げるとされる事案
・ 利用者を蹴るとされる事案
・ 利用者の服を持って引きずり回すとされる事案
・ 利用者を殴るとされる事案
・ 大声を出して怒鳴る、威嚇、恫喝するとされる事案
・ 襟首を持って壁に押し付け、恫喝するとされる事案
・ 引きずり回し衣服を破くとされる事案
・ 利用者を不衛生状態に放置し汚いために支援放棄したとされる事案
・ 居住空間・トイレの衛生に無関心
・ 利用者の居室に私物(荷物)を置き休憩室化するとされる事案
・ 見守りを怠った為の事故に尤もらしい言い訳の記録をしているとされる事案
・ トイレの水を飲水する利用者への関心が低いとされる事案
・ 業務以外の作業を持ち込み利用者への見守りを怠るとされる事案
・ 誤嚥性肺炎で亡くなった利用者は、職員が食べさせすぎたことが原因ではないかとされる事案
・ 転倒による当時の事故は転倒では考えられないほどのけがだったとされる事案

以下の過去3年間の死亡事案の検証では、4件のうち、3件については、死亡に至るところは、救急も含めて、適切に対応していたが、利用者の体調不良等に早期に気づくことができなかったのか、また、誤嚥性肺炎になるまでの、栄養摂取の仕方に問題がなかったのか、検証が必要である。
・ 食事の際、意識が朦朧とし、救急搬送され、入院となるが、誤嚥性肺炎のため、入院当日に亡くなった。
・ 食事が摂れないことから入院となり、点滴治療とともに摂食を試みたが、回復せず、誤嚥性肺炎で亡くなった。 
・ 園内受診で、腹水と胸水があり、低蛋白血症、肝硬変の可能性もあり、入院となるが、誤嚥性肺炎のため、亡くなった。

いずれの事案も、事実が判然としていないことから、今後は、外部調査委員会で培ったノウハウを活用して、県と園が調査を行い、事実を明らかにし、必要な対応をしていくべきである。

(5)事実ではなかった事案(8件)
県が把握した情報が情報提供者の事実誤認であったり、ヒアリング調査で異なる証言を複数確認し、信憑性が低いと考えられたり、県が把握した情報は事実ではなかったと判断した。
・ 寿司にワサビをたくさん盛りつけて利用者に食べさせたとされる事案
(調査結果(第一次)で公表した事案)
・ 利用者にあざがあったが調査しなかったとされる事案
・ 利用者が、手を拭きたいと言った時、スプレーのカビキラーみたいなものを吹き付けたとされる事案
・ 利用者に対して、職員による激しい暴力行為があって報道がされた事案の直後に、別の職員が同じ利用者に対して激しい暴力行為を行っているが、その件は公表されず、隠ぺいしているとされる事案
・ 園の資料で不適切対応の情報を見たとされる事案
・ 利用者を殴った職員を正座させていたとされる事案
・ 熱いコーヒーを利用者の顔にかけて、顔に火傷をさせたとされる事案
・ 職員が記録に残さない居室施錠をしているとされる事案

(6)過去の虐待事案で通報・公表済等、その他の事案(5件)
令和元年11月に職員が利用者に水をかけたとして虐待認定された事案等、過去に虐待通報や職員の処分、県としての公表等を行っていた事案であった。
・ 職員が利用者に水をかけた、利用者を叩くなどの行為をした事案
・ 利用者を殴る、蹴るなどの行為をしたとされる事案
・ 利用者に水をかけた事案
・ 当時、職員によって暴行され、目撃している職員が複数いたにも関わらず、隠ぺいを試みていたとされる事案
・ 食欲不振が続いていたことから、検査通院した結果、癌であることが判明し、入院した。その後、緩和ケアのできる病院に転院を検討していた途上で亡くなった。

 各事案の調査結果の詳細は別添のとおり
 
Ⅲ 調査結果に関する考察
○ 人権意識の大きな欠如が生じている。
〇 今回、県が把握した91件の事案を調査した。その結果、調査の過程で、虐待として対応を行う必要のある事案が複数あることが分かった。外部調査委員会が立ち上がるまで、それら問題事案を、県と園の管理職等両者が、認識できていなかったと思われる。
〇 多くの事案に共通していることは、園内生活の中において、支援職員の多くが、根底に誤った環境設定意識を持っていたことがあり、疑問を抱いた時であっても、支援の適性さにつながる施設内部体制の欠如があったことが考えられる。こうした結果、利用者が人間らしい生活を送れなくなっており、また、支援職員も利用者を人間として見られなくなっている状況である。
以下、具体例を列挙する。例えば、
・ 動かないからといって台車で運ぶという行為が、なんのためらいもなく行われている。
・ 食事の提供について、監視という形で提供しており、人間らしい食事ではない。
・ 利用者が使うトイレはあまりに汚いので、職員が使うことはなく、職員が使わないようなトイレを利用者に使わせて、トイレを使う場所を利用者と職員とで分けている。
・ 天井に便が付いていても、それを放置している、施設全体をきれいにしていない。
・ 一般的に居室の中で排泄をさせていて、ポータブルトイレを破壊した場合に、バケツで排泄をさせるといったことがかつてはあった。
・ 清掃は委託業者に任せているといった状況が、支援員の意識であった。
このことや、前記した排泄関連の事案から、利用者支援にあたって、園内環境整備という大事なことも、縦割りでなく、すべての職員一体として、考えるべきという基本姿勢が欠如していると思われる。
虐待と判断される事案を中心に、どの事案でも、不適切な行為の多くは、支援職員の何らかの当たりどころのない不安・不満などが、結果として、支援職員の利用者への不適切な行為となっていると思われる。その行為や、行った職員、それを確認した職員の行動すべてが、非常に稚拙な心性のなか、行われている。ある意味、あまりに幼稚である。
〇 この状態については、これまでの施設開設以来の経緯を可能な限り遡って、不適切な園内環境が形成されていった原因について調査していく必要がある。施設の今後の適性化を考えるうえで、重要である。
〇 調査で、不適切な対応を受けた利用者の多くは、民間の施設での支援・対応が困難という理由で、県立施設で受け入れてきた背景がある。こうした状況の、受け入れ段階で、地域との連携が途絶することとなり、その結果、閉鎖的な環境の中での不適切な支援が、常態化することとなった。したがって、入所背景や流れも重要な要因であると考えられ、振り返りと改善が重要である。支援職員・園の管理者双方にあった意識の中に、本来は利用開始時には、今後、生活支援を開始する時点という意識を持つべき時期に、受け入れたという事実だけから、困難の解決をすでに相当程度終えているという誤った意識があったと思われる。
〇 また、県としても、入所させることに留まって、その後の各利用者の生活状況の変化を定期的に把握しようとすることを行わずに、放置していた。その結果、利用者の心身の状況はより重度化したと思われる。
〇 今回、調査した91件について、総じて、利用者の支援についての支援計画書及び日常の記録、園内の会議など、すべての面で、種々の課題を繰り返して考えるという、アセスメントが不足している。
〇 また、なにより、重要なこととして、可能な限り、利用者本人が望む生活を組み立てていくという意識が欠如している。
〇 入所後に加齢が要因でなく、利用者の理解不足が要因となり、活動への参加ができなくなった結果、身体機能の消失、低下が起きて入所前よりも重度化しているケースが散見される。他の施設で対応困難とされる利用者を受け入れる事で役割を果たしていると理解してしまっている。受け入れた後の利用者一人ひとりの暮らしを創る為にも重要な居場所と活動への参加が抜け落ちている。結果、入所施設の大切な役割である人間としての尊厳回復ができずに重度化している。
〇 また、繰り返しになるが、現場の支援職員から管理職(園長)に至るまで、「虐待」という事象に対する知識及び意識ともに欠如しており、日常の衣食住のすべての部分で、不適切な対応が横行していた。県本庁は、こうした状況を適切に指導・修正の基礎となるはずの施設監査等を行う際において、現場を十分に見ることはなかった状況も重大な問題である。現状の改善はもとより、この部分の改善、あるいは何らかの第三者の点検なくして、今後の再発の予防に対しての不安は解消されないと考える。
〇 虐待が疑われる事案に関係する利用者だけでなく、現時点においても、他の利用者への支援のなかでも、同じような問題がある可能性が高いことが非常に懸念される。
〇 さらに、支援や対応が難しい利用者が入所する寮では、利用者の支援について職員同士で話し合う環境になく、職員間での対立や風通しの悪さなど、支援職員同士の人間関係の問題があった。個々の職員に対しての対応のみならず、こうした不適切な園内の風通しの悪さという実態を把握していた幹部職員は、適切に対応ができておらず、利用者の実態把握を踏まえることさえもせずに、管理職の行うべき、マネジメント機能も失われていた。
〇 利用者一人ひとりに対するケアマネジメントが機能しておらず、入所後の継続されなければならない地域の各資源との機関連携が行われてこなかった状況があり、その結果、施設内だけの、自己完結型の支援となってしまっている。このことは、振り返りだけでなく、今後の支援のあり方を構築する際には、重要な課題と位置付けるべきである。

<委員意見>
【利用者支援について】
〇 家族アンケートにあった、「犯人探しではなく、原因をしっかりと突 き止めて、支援をより良くしてもらいたい」という言葉が重要である。事故等、虐待事案の調査に留まることなく、いかにして、本来の適切な支援改善につなげるシステム作りが重要である。
〇 他の資源との連携を形成する中で、園での生活に留まらず、外部を体験すべきだと思う。現状では、利用者が外に行きたいということに支援職員が気づいていない。
〇 障がい者の働き場所が全然ない。障がい者の就職についても意識をしてほしい。
〇 職員の動きや、時間帯で利用者ごとにどのような支援をするのかといった支援方法や配慮する点、さらには利用者の表情を見たり、声掛けしたりするといったことも含めて、マニュアル化して、新人職員が分かりやすく、長くいる職員も振り返る機会にもなるので、園として、マニュアルがあった方が良い。
【園のマネジメントについて】
〇 事案が繰り返されないためにも、調査の段階で明らかになった不適切な支援について、施設内での責任の押し付け合いのような体質を変えないといけない。
〇 職員同士のグループで話し合える環境、上司に問題提起できるような雰囲気づくりをしていく必要がある。
〇 園のマネジメントについては会議の場で、声の大きい人の意見で他の職員が発言できなくなるようなことがないように寮長などの上司が仕切るべきだと思う。
〇 職員同士の関係性の悪さが指摘されたが、関係性の改善だけでなく、他人を黙らせる声の大きい人は必要ないのではないかと思う。職員が平等に発言できるように、会議を仕切る議長が適切にマネジメントすべき。
〇 トイレに扉がない、便座がない状況というのは、おかしいと思う。壊されるから付けない、修理しないということではなく、職員を張り付けて破壊行為に及ばないように支援するべきである。
〇 園の支援やそのほかにもおかしいと思っても、段々、それをおかしいと思わなくなることはよくあること。
〇 利用者特性による支援の困難さや職員同士の関係性の悪さ等が、混然としていることが今回の事案を難しくしている。

【県庁全体の問題について】
〇 本事案に関係した職員、園の責任は重いが、園だけの問題ではない。その実態を看過してきた県の責任も極めて重いと言わざるを得ない。
〇 こうした関係者が責任を自覚していないことが、虐待の温床を作っている。
○ 第三者が見ればトイレに扉がない、便座がないといった状況をおかしいと思うが、そこで働き、慣れるにつれ、扉がないことが当たり前で、直しても壊れてしまうからそのままにしておく対応となってしまう。
○ こうした構造的な問題に、県として速やかに対応し、直すことができないということがあれば、それも虐待であり、予算の仕組みを含め、県庁全体の問題として考えていくことが、県立施設の在り方にもつながる。
【運営指導・監査について】
〇 これまで監査やモニタリングで園を訪れていた県は、こうした事実をどれだけ把握できていたのか今一度明らかにしてほしい。さらには、県立施設に限らず、法令で定められている監査で把握できることはどれほどあるのか、検証する必要がある。
〇 本庁職員の常駐がいつか終わるのであれば、外部委員等と一緒に監査を行うなど、本庁等が定期的に外部委員等と一緒にチェックする体制を強化するなどの対策が必要ではないか。
【人材育成について】
○ 県の中で、福祉専門職をどう育ててくかも考えていく必要がある。
〇 多くの問題が挙がっている背景として、職員の昇進の仕組みがあるのではないか。失敗しても、昇進にチャレンジできる仕組みが必要である。
〇 昇進にだけ焦点を当てるのではなく、モチベーションの維持を可能とするためには、どのような方法が必要であるのかという点にも焦点をあてる方がよい。
〇 人材育成の観点からすると、入庁後の人材育成も大切かもしれないが、県が本気で福祉人材の育成に中学生、高校生のころからボランティアなどで人材育成を始めるのがよいと思う。
【改善の方向性・県立施設のあり方について】
〇 県立直営施設の問題、構造的問題がなぜ県で把握できないのか、事案が多発している時期に施設で何があったのか。職員の研鑽や支援技術の適切な教育、それがあったとしたら継承はされていたのか。これから先も、時が経って、元の園に戻ってしまわないよう、施設の改革につなげるためにも、なぜ、こうしたことが起こったのか、その教育に関しての背景も含め、分析する必要がある。
〇 県立施設の課題や在り方も含めて、県立施設の改革の見通しが必要である。 

おわりに

〇 外部調査委員会による調査は終了する。しかし、まだ事実が明らかになっていない事案があり、また、今回の調査では、事案が発生した背景を分析することができなかった。
〇 そこで、県においては、現時点で事実が判然としない事案について、引き続き調査すること。
〇 また、二度と同じことを繰り返さないために、なぜこうした事案が起きたのか、できうる限り遡って、不適切な風土が醸成された背景を分析すること。
〇 今回、調査が始まった目的は、事実関係を明らかにし、利用者支援の改善をしていくための課題を明確にすることであって、一時中断している支援改革プロジェクトチームを再開し、園の改革プログラムを改めて、より適正に作成する必要がある。
〇 この改革プログラムを作成するにあたっては、外部調査委員会の考察を踏まえること、背景の分析で明らかになったことを議論の遡上に上げて検討すること、さらには、今もなお、不適切な対応が続いていないのか支援の現場を直接確認すること、こうした踏み込んだ介入を踏まえて、改革プログラムを作成すること。
〇 なお、県は、年度内に、不足部分も含んだ調査結果を取りまとめ、支援改革プロジェクトチームに報告し、事実を明らかにしてほしい。