二ノ倉開発採石場増設事業(以下「本件事業」という。)は、株式会社二ノ倉開発が、これまで事業を行ってきた既存採石場(約58.2ヘクタール)が終掘に近づいていることから、県内の骨材の安定供給を図ることにより地域経済に貢献することを目的として、既存採石場の北側に隣接する足柄上郡山北町谷ヶ1258番地外の面積26.7ヘクタールの土地(以下「実施区域」という。)に採石場を増設しようとするものである。
実施区域は、山北町の南西部、谷ヶの集落の中心地から約2.5キロメートル離れた場所に位置し、足柄山地の主要な山塊である矢倉岳、鳥手山を結ぶ稜線の西側に所在するスギ、ヒノキ、サワラ植林を中心とした山林となっている。
実施区域の一部を含む周辺地域は、保安林及び自然環境保全地域に指定されており、実施区域の西側には酒匂川の支流である畑沢が流れている。
実施区域及び周辺地域ではスズムシソウなどの貴重な植物種の生育やクマタカなどの希少猛禽類の飛翔が確認され、畑沢ではカジカなどの貴重な水生生物の生息が確認されている。
本件事業は、このような自然豊かな地域において現採石事業に引き続き、今後更に約30年間にわたり総量892万立方メートルの岩石を採取するものである。生産規模は同程度を維持するとはいえ、現採石事業が既に周辺地域に少なからず影響を及ぼしている状況の中で新たに樹木の伐採や地形の改変が広範囲に行われることから、周辺環境、特に動植物の生息及び生育環境、景観などに大きな影響を及ぼすことが懸念される。
このため、事業の実施に当たっては実施区域にとどまらず関連区域等も含めた環境保全のための対策(以下「環境保全対策等」という。)を実施し、環境影響を可能な限り軽減する必要がある。
また、本件事業の長い事業期間には周辺環境が変化することも想定されるため、事後調査等の結果により環境保全対策等の効果を確認し適宜改良を図っていく必要がある。
したがって、事業者は、環境影響予測評価書の作成に当たっては、次の点を踏まえ、適切な対応を図る必要がある。
現採石事業による降雨時の濁水が、畑沢における水生生物の生息環境に影響を与えているとの認識に立ち、現況を改善する対策として道路の敷砕石に硬質でシルト分の少ない材料を使用することやダンプトラックによる泥の巻出しを防止するためのタイヤ洗浄機の設置等を追加するとともに、これらも含めた環境保全対策等については事後調査等により効果を検証し、改良を重ねながら実施すること。
なお、事後調査等の実施に際しては、環境保全対策等の効果の検証をできる限り定量的に行えるよう、次の点に留意すること。
近年の短時間に激しい雨が降る傾向を踏まえ、調整池の容量を常に確保できる適切な管理方法を具体的に示すこと。
環境保全対策として移植を行うとあるが、種と生育環境の双方を保全することが最善であることから、その可能性について検討し、検討内容と結果を示すこと。
なお、結果として移植による環境保全対策を実施する場合は、次の点に留意すること。
湿性植物は生育環境の変化に敏感であることから、予測結果や環境保全対策の効果には不確実性が伴うため、事後調査を実施すること。
また、景観では複数の事業計画案の比較検討を行い環境保全対策の妥当性を示しているが、イカリガ沢に生育する湿性植物についても同様に環境保全対策の比較検討を行うこと。
哺乳類の確認種として「コウモリ目の一種」とあるが、種を特定するとともに、注目すべき種として選定し、環境保全対策を検討すること。
クマタカに係る予測及び評価、環境保全対策、事後調査等について、次の内容を実施するとともに、その検討の経緯と結果を示すこと。
カジカなどの水生生物に対しては、十分な調整池容量を確保するなどの環境保全対策を実施することにより、新たに大きな影響を与えることはないとしている。しかし、現況で採石由来とみられるシルトが畑沢に流入しており、水生生物が影響を受けやすい産卵時期に浮遊物質が高い濃度となっているため、現況の改善も含めた環境保全対策等をできる限り追加して実施すること。
最終残壁の小段部にはクロマツ、ヤシャブシなど今まで実績がある種や潜在自然植生の構成種等を植栽するとしているが、終掘後の植栽が成長し安定した時期の植生を想定した上で、ハコネウツギやオオバヤシャブシなど、既存採石場の復元地に自生している種についても植栽樹種の候補として検討し、森林の適切な回復を図ること。
なお、上記(1)〜(4)については、専門家の意見を参考にして適切に実施すること。
環境保全対策として樹木の伐採方法、植栽樹木の種類等に配慮したとあるが、その効果はフォトモンタージュによる予測だけではわかりにくいことから、住民への説明責任を果たすためにも、フォトモンタージュで示された裸地面積の変化を数値化するなど定量的に予測及び評価を行うこと。
地元住民の不安を解消し、理解を得るという観点から、生活環境や水生生物の生息環境等について現況の改善を含めた環境保全対策等を確実に実施し、その効果についても情報提供すること。
その上で、必要に応じてダンプトラックの走行に伴う粉じん及び騒音等のモニタリングを行い更なる対策を講じるなど、丁寧な対応をすること。
予測評価書では、次の点に留意してわかりやすい表現とすること。
本文ここで終了