ホーム > 産業・働く > 労働・雇用 > 労働関係・労働相談・外国人労働者支援 > 神奈川県労働委員会 > 命令の状況 > 神労委令和3年(不)第10号及び令和4年(不)第20号事件命令交付について
更新日:2024年7月2日
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神奈川県労働委員会は、標記の事件について、申立人の不当労働行為救済申立ての一部を救済する命令を交付しました。
申立人 X(組合)
被申立人 Y(会社)
本件は、【1】会社が、組合員Aの労働問題を交渉事項とする団体交渉において誠実に対応しなかったこと、【2】会社が、組合員B及び組合員Cの労災問題等を交渉事項とする団体交渉の申入れに応じなかったこと、【3】会社又は会社の元役員が、A又は組合を被告として訴訟を提起したこと、【4】会社が、組合が発行した機関紙の記事によって会社の社会的信用を毀損されたことを理由として組合に金銭を支払うよう求める内容を記載した書面を送付したことが、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であるとして、組合から救済申立て(以下「本件申立て」という。)のあった事件である。
⑴ 主文
ア 会社は、組合が申し入れた団体交渉事項のうち、「Aに対するハラスメントに係る事実関係の調査及び対処を行うこと」について、誠実に協議しなければならない。
イ 会社は、組合が申し入れた、「B及びCのセクシュアルハラスメント被害について」及び「B及びCの労災職業病について」を交渉事項とする団体交渉に、誠意をもって応じなければならない。
ウ 会社は、組合が発行した機関紙の記述について、組合に対して同機関紙の内容について事実確認や問合せを行うなどの労使交渉を申し入れることなく、組合に金銭を請求してはならない。
エ 会社は、本命令受領後、速やかに陳謝文を組合に交付しなければならない。
オ その余の申立てを棄却する。
⑵ 争点及び判断の要旨
(争点1-1)
会社の会長とAの面談の際に、同会長がAを工程管理部門に復職させるととれるような発言をしたにもかかわらず、その後に開催された「Aの復職にあたって業務内容及び労働条件に係る会社の方針を明らかにすること」を交渉事項とする団体交渉において、会社が、Aを営業部門に復職させると発言したことは、不誠実団体交渉及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
(判断の要旨)
会長は、面談において、Aの具体的な異動の提案をしたとまでは認められないこと及び会社の規定上、Aの復職先が休業前と同じ営業部門であることについて説明をしていたことからすれば、その後に開催された組合との団体交渉において、会社がAを営業部門に復職させると発言したことをもって、いずれの不当労働行為にも当たるとはいえない。
(争点1-2)
「Aの復職にあたって業務内容及び労働条件に係る会社の方針を明らかにすること」を交渉事項とする団体交渉において、会長を出席させなかったにもかかわらず、会社が、同会長の不在を理由に組合の質問に回答を差し控える旨発言したことは、不誠実団体交渉及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
(判断の要旨)
会社は組合の要求に対して相応の説明や回答をしていること及び会長が団体交渉に出席しなかったことにより団体交渉が進展しなかったとはいえないことから、同会長の不在を理由に回答を差し控える旨の発言があったとしても、このことのみをもっていずれの不当労働行為にも当たるとはいえない。
(争点1-3)
「Aに対するハラスメントに係る事実関係の調査及び対処を行うこと」を交渉事項とする団体交渉において、会社が、回答を検討する旨述べたにもかかわらず、その後も回答をしなかったことは、不誠実団体交渉及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
(判断の要旨)
会社は、Aに対するハラスメントの事実関係について、組合からの調査報告書の求めに対し、調査の結果を回答するか否かも含めて検討する旨述べるだけで、その後の団体交渉においても調査を行ったか否かについてすら明らかにしていない。このような会社の対応は、組合との見解の対立を可能な限り解消する努力をしているとはいえず、また団体交渉を形骸化するものであるから、不誠実団体交渉及び組合の運営に対する支配介入に当たる。
(争点1-4)
「Aに対するハラスメントに係る事実関係の調査及び対処を行うこと」を交渉事項とする団体交渉において、組合が、同交渉事項に係る会社の認識について質問をしたことに対して、会社が訴訟の対応があることを理由に回答を拒否したことは、不誠実団体交渉及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
(判断の要旨)
会社は、組合の質問に対して具体的な回答を行ったとは認められず、組合の理解を得る努力に欠けたものといわざるを得ない。またこのような会社の対応は、団体交渉を形骸化するものであるから、不誠実団体交渉及び組合の運営に対する支配介入に当たる。
(争点2)
組合が、会社が提起した訴訟の取下げを求める不当労働行為救済申立てをすることは、労働委員会規則第33条第1項第6号の「請求する救済の内容が、法令上又は事実上実現することが不可能であることが明らかなとき」に当たるか否か。
(判断の要旨)
労働組合が請求する救済内容は、いかなる救済命令を与えることが妥当かを検討する際の目安であり、労働委員会がこれに拘束されることはない。本件申立てにおいて、組合が訴訟の取下げを命じるよう求めていることは、会社の訴訟提起により引き起こされた労使紛争を適切に解決することを望む趣旨と解することができ、労働委員会規則第33条第1項第6号に定める申立ての却下事由には当たらない。
(争点3)
会社が、Aを被告として、会社はAに対してハラスメントに基づく損害賠償債務を負担しないことの確認を求めて債務不存在確認請求訴訟を提起したこと及び控訴したことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
(判断の要旨)
Aの組合加入及び組合の団体交渉申入れが会社の訴訟提起の契機と認められること、会社とAの間で会社が債務不存在確認訴訟を提起せざるを得ないほどの金銭紛争が存在したとは認められないこと及びそのことを会社が認識していたと認められること、その後も、Aが会社に損害賠償請求を行った等の事情は認められないにもかかわらず会社が控訴したことからすると、会社の裁判を受ける権利の保障を考慮してもなお、会社による訴訟提起及びその控訴は、合理性を欠くものであり、労働組合又は組合員の権利・利益を侵害することを目的とし、組合の弱体化を企図してなされたものと認められる。また、会社による同訴訟の提起及び控訴によりAには経済的、精神的負担など不利益が生じていたといえることから、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たる。
(争点4)
会社が、組合を被告として、本件申立てが違法であるなどとして損害賠償請求訴訟を提起したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
(判断の要旨)
不当労働行為救済申立てを不法行為と主張する使用者による損害賠償請求訴訟の提起は、労働組合の不当労働行為救済申立てが明らかに根拠を欠き、専ら使用者の権利・利益を侵害されるような場合に限って認められると解されるものであるところ、会社による訴訟の提起は合理性を欠くものであり、ことさら労働組合の不当労働行為救済申立てを抑制又は妨害し、ひいては組合組織の弱体化を企図してなされたものといえるから、組合の運営に対する支配介入に当たる。
(争点5)
会社の元役員が、Aを被告として、同元役員の職場での信用を著しく毀損したことが不法行為に当たることを理由に損害賠償請求訴訟を提起したこと及び控訴したことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い、組合員に対する報復的取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
(判断の要旨)
元役員がAに対して提起した訴訟は、同元役員自らの名誉を回復するという目的のもとなされた個人的行為と認めるのが相当であり、控訴の提起も、同様の目的のもとなされた側面を否定できないことから、いずれの不当労働行為にも当たらない。
(争点6)
会社が、Aを被告として、Aが会社にメールを送信し、会社の業務を妨害したこと等が不法行為に当たることを理由に損害賠償請求訴訟を提起したことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
(判断の要旨)
メールを送信したのはAであると特定した会社の主張の根拠はいずれも薄弱であるといわざるを得ないことや同訴訟における会社の消極的な訴訟追行を併せ考えると、会社の裁判を受ける権利の保障を考慮してもなお、会社による訴訟提起は、合理性を欠くものであり、労働組合又は組合員の権利・利益を侵害することを目的とし、組合の弱体化を企図してなされたものと認められる。また、会社による同訴訟の提起によりAには経済的、精神的負担など不利益が生じていたといえることから、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たる。
(争点7)
会社が、組合のB及びCの労災問題等を交渉事項とする団体交渉の申入れに対して、直近の団体交渉における組合の態様を理由に団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。
(判断の要旨)
組合の団体交渉における態様に、将来行われる団体交渉の場において暴力行使の蓋然性が高いといえるような態様は認められないから、会社が、組合の態様を理由に団体交渉を打ち切り、その後の団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
(争点8)
会社が、組合が発行した機関紙の記事によって会社の社会的信用を毀損されたことに対する損害賠償として、金銭を支払うよう求める内容を記載した書面を組合に送付したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
(判断の要旨)
組合が発行した機関紙の記載は、組合の事実認識あるいは意見表明の域にとどまるものといえ正当な組合活動の範囲を超えるものとは認められない。これに対し、会社が、意見表明の域を越え、組合に対して、機関紙の記載内容について事実確認や問合せ等を行うこともなく金銭を請求する書面を送付したことは、組合の運営に対する支配介入に当たる。
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