更新日:2024年5月9日
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農業体験農園の起源をたどると、1991年に横浜市が提示した七色農園モデルにたどりつきます。農業体験農園を、畝売り、観光農園、貸付型の市民農園、援農、就農研修、手続きを経ない農地貸借などと、明確に区別できるよう改めて定義しました。
図1 農業体験農園の園主による講習風景(横浜市内)
近年、農業体験農園が新たな農業経営部門として注目されています。神奈川県内でも横浜市や川崎市を中心に開設されています。
農業体験農園とは何でしょうか?
一言でいうと、
園主による指導のもと、複数の利用者が耕作に携わり、その結果による収穫物及び指導等サービスの対価として園主が利用者から利用料を徴収する
という経営部門です。この方法では農地の貸借は発生しません。あくまで園主が耕作している農地において、利用者に農業を体験させている、というスタイルです(図2)。
図2 農業体験農園のしくみ
「農業体験農園とは何か」をもう少し深く考えるために、その起源をたどってみましょう。
農業体験農園の起源については、練馬区在住の農家が、『神奈川県横浜市で展開されていた「栽培収穫体験ファーム」などの先駆的事例を視察、さらに自分たちの理想に近づけるために様々な工夫を凝らし、平成8年度に練馬区に農業体験農園第1号の「緑と農の体験塾(園主:加藤義松氏)」を開設した。』とされています(注1)。
(注1)原修吉(2009):「農業体験農園におけるナレッジマネジメント」、『農業経営研究』、46(4)、pp.43-51.
では、先行して横浜市で展開されていた「栽培収穫体験ファーム」の起源はどうでしょうか。
1991年、横浜市は、農地の担い手、労働力をいかに確保するか、という観点から、新たな事業構想を検討し『「農」を販売する新たな農業経営システム』を掲げました。その「新たな農業経営システム」の一つとして収穫適期が長い作物を園主が植付け、利用者が農園に入った時にはすでに5~6種類が栽培され、その後の肥培管理と収穫を利用者が行う方式を展開する「七色農園モデル」を提示しました(注2)。
(注2)横浜市緑政局・(社)農村生活総合研究センター(1992):『横浜市農地有効活用等総合計画策定調査報告書 新たな農地の担い手・労働力対策と農地の流動化対策』
1992年、市は、七色農園モデルの発想を発展させた「栽培収穫体験ファーム」事業の展開を検討しました。農家委託による「栽培収穫体験ファーム」実証圃を市内2ヵ所に設置し、市民利用モニターや開設農家の意見を聴取しました。なお、実証圃はA、B、Cタイプの3種類が設置され、区画面積はいずれも30平方メートルに設定されました(図3)。
図3 七色農園モデルから実証圃へ
本実証試験の報告では、市民利用モニターアンケート結果及び開設農家の評価、相続税納税猶予の適用を考慮すると、Bタイプに可能性があると結論づけています。また、区画面積は30平方メートルであること、水道、日陰棚、スチール物置、ベンチなどの施設整備を行うこと、播種・定植から収穫までを農家の指導のもとに利用者が行うこと、園主は作付計画を作り、種や苗を準備すること、園主は栽培講習会をひらくこと、などが見出されています(注3)。
(注3)横浜市緑政局緑化センター・(株)並木設計(1993):『農家が経営する市民向け農園 栽培収穫体験ファーム概要設計報告書』
市はこれらの経緯を受け、1993年から「栽培収穫体験ファーム」開設者を支援する事業を展開し、現在、多数の農業体験農園が市内に開設されています。
図4 利用者による作業風景
1999年には、農業体験農園を新たに開設した農地について、相続税納税猶予の適用を申請する全国で初めての事例が横浜市内で発生し、要件を満たすには、収穫物は入園者に販売する必要があり、利用者から収穫物代金を取ること、不作の際は補償することを契約書に明確に記載する必要のあること等が明らかとなりました。
これらの経緯を踏まえた上で、農業体験農園を、畝売り、観光農園、貸付型の市民農園、援農、就農研修、手続きを経ない農地貸借などと、明確に区別できるよう改めて定義すると、農業体験農園とは、以下を満たす経営部門であると定義することができます。
(1)園主が作付け計画を立て、
(2)利用者との契約において農地の権利移動がなく、
(3)園主が用意した資材を用いて、
(4)園主が講習会により非営利目的の利用者を指導し、
(5)作付け期間中継続的に利用者に農作業を体験させ、
(6)利用者から入園料及び収穫物代金を徴収して、
(7)一定区画における収穫物の全量または一部を利用者に販売する。
当所では、現在、県内における農業体験農園の多様な展開を捉え、その可能性を検討する研究を実施しています。
参考文献
佐藤忠恭(2011):「農業体験農園の起源および構成要素からみた定義の考察」,『農業経営研究』,49(1).pp.69-74
佐藤忠恭(2012):「農業体験農園の立地と経営上の意義-市街化区域内外の比較分析-」,『農業経営研究』,50(3),pp.17-23
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