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更新日:2019年10月1日
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自然環境保全センター常設展示「丹沢再生絵巻」の解説ページです。
「丹沢再生絵巻」は、丹沢大山の自然再生を時系列別・視覚的に学べる壁面イラストであり、当センター本館1階に常設展示しています。
このページでは、イラストの解説を時系列ごとに掲載しています。
かつて人々は、自然との深いかかわりの中で、山のめぐみを受けながら、さまざまな生き物とバランスをとって暮らしていました。現在と、どんなちがいがあるでしょうか。
※イラスト内の番号が、以下の解説文のカッコ付き番号に対応しています。
かつての丹沢地域では大山詣が盛んでしたが、参道となる道以外ではスズタケ(32)などが生茂り、山には山岳信仰の修験者(2)等が入る程度でした。また、うっそうとしたブナ林(4)やモミ林が広がり、カモシカ(5)やツキノワグマ(11)、ヤマネ(13)などの様々な哺乳類、クマタカ(1)やフクロウ(3)などの肉食鳥類、クルマユリ(31)やクガイソウ(17)、サガミジョウロウホトトギス(8)といった、今では希少となった植物を含め、多様な動植物が生息していました。このような森林の土壌は、草木やその根、落ち葉によってスポンジのようになるため、降った雨水をたっぷりと蓄えてから、少しずつ川に流す「緑のダム」のような役割を果たします。
ガソリンなどの化石燃料が一般的になる1950年代までは、炭や薪が日々の主要な燃料でした。当時の丹沢には薪炭林(15)や炭焼小屋(7)(21)が点在し、家庭などで使う燃料を生産していました。山は猟師(10)の猟場や、藁葺き屋根の材料のススキなどを採る茅場(9)として、また、江戸時代以降に相模川上流で盛んになった、木材生産の場として活用されていました。当時の丹沢東部は幕府の「御料林」(12)となり、そこに生育するツガ、ケヤキ、カヤ、モミ、クリ、スギは「丹沢六木」と呼ばれて特に大切に守られ、活用されてきました。切り出された木材は厚木などの集積地まで、川の流れを利用して運ばれました(33)。
山のふもとでは、棚田(27)や里山(19)などが広がり、今はもう見られないトキ(23)やオオカミ(20)といった動物の住処でもありました。人々は、雑木林(6)から炭や薪、肥料の材料を、川ではアユやカジカ(24)などの食料を、石切場(22)からは七沢石などの資材を得るとともに、水車や帆掛け船(26)など、自然の力をうまく使いながら暮らしていました。
シカ(ニホンジカ)は、もともとは雪が少なく、明るく開けた平野部や低山帯林に住む動物で、平野部を中心に生息していました。江戸時代のシカ駆除に関する記録からは、神奈川県内では平地から海岸近くまでの広い範囲で生息していたことが分かります。
丹沢では、人と自然との関わり方が変わったことで自然環境の劣化が進みました。
なぜ、どんなことが起こり、また、私たちの毎日のくらしにどんなかかわりがあるか考えて見ましょう。
※イラスト内の番号が、以下の解説文のカッコ付き番号に対応しています。
1923年に発生した関東大震災によって、丹沢山地の多くで崩壊が起きました。その面積は丹沢全山の約20%とされ、その後の台風や豪雨で土砂災害が続きました。
1970~1980年代からは、奥山のブナやモミの立ち枯れ(35)(61)が見られるようになりました。ブナは、平野部の都市化や工業化(65)による大気汚染(49)や、ブナハバチという昆虫による葉の食害、高温など、悪条件が長く続くと弱っていき、立ったまま枯れてしまいます。1990年代からはまとまった立ち枯れが発生し、ブナ林にすき間ができましたが、新しく種から育つブナなどの稚樹がシカに食べられて森林になれず、草地化(60)しました。草地は森林にくらべて「緑のダム」としての働きが弱く、土壌流出(36)も起こりやすくなります。
第二次世界大戦後には、国の施策で全国的にスギ・ヒノキなどの植林が促進され、人工林が急激に広がりました(40)。
しかし、林業の不振が続き、手入れがされない暗い人工林(58)(64)が増えました。暗い人工林では十分な日光が入らず、増加したシカの影響もあって地面に草木が育たず、雨で土壌が流されやすくなります。
林業をはじめ、森林や里山での仕事が減り、住人も少なくなったことで、放置された広葉樹林(55)や田畑(50)が「やぶ化」しました。その結果、ニホンザル(47)やイノシシ(51)、ツキノワグマ(54)などの野生動物が山から下りて来やすくなり、畑での獣害(48)が頻繁に起こるようになりました。
シカは平野部の都市化(65)に伴い、山地や奥山へ移り、狩猟の影響も受け、1950年頃に頭数が激減しました。しかし、拡大造林(40)に伴う餌場の増加や禁猟により頭数が増え、シカは山地や奥山で高密度化していきました。餌不足となったシカは、スズタケや木の芽、樹皮なども食べざるを得なくなり(44)(63)、草地化や土壌流出の原因となっています。
アライグマ(53)やガビチョウ(52)など、もともと生息していなかった動植物(外来種)の移入(43)や、人工構造物による生息圏の断絶(45)、ブナ林の変容、シカの影響などにより、ニホンリスやムササビ、ノウサギなど、丹沢にもともと生息する動植物の生息環境の悪化が懸念されています。
1955年に国体の会場となったことをきっかけに、丹沢では登山道や山小屋(37)が整備され、多くの登山者が訪れるようになりました。しかし、登山者の集中により、深く掘れてしまった登山道(66)や、ルール・マナーを守らない利用(59)、不法投棄(38)、植物の踏み荒らし(46)、盗掘(56)などが問題となっています。
丹沢のゆたかな自然を保全・再生し、次の世代に引きついでいくため、神奈川県では県民の方々と協力しながらいろいろな取り組みを行っています。どんな場所で、どんな人が、どんなことに取り組んでいるでしょうか。
※イラスト内の番号が、以下の解説文のカッコ付き番号に対応しています。
丹沢の自然環境の劣化をうけて行われた「丹沢総合調査」(1993~96年度及び2004~05年度)の結果、劣化は人間の営みによる影響が積み重なり、複雑に絡み合って引き起こされていることがわかりました。そこで、市民団体、学識経験者、企業、行政などで組織される「丹沢大山自然再生委員会」(95)のもとで、丹沢大山自然再生の取り組みがスタートしました。また県は、そうした取り組みの実行機関として、2000年に「自然環境保全センター」(89)を設立し、自然再生に関する展示や活動団体による環境学習(76)の支援など、協働・普及啓発の拠点として活用しています。
気象観測センサー(81)による観測や植生調査(87)などにより、ブナ林の衰退の仕組みがおおむね明らかになりました。こうした成果を基に、ブナ林の再生に向け、シカの採食を防ぐ植生保護柵(71)(94)や土の流出を防ぐ土壌保全工(69)(93)の設置、ブナハバチの調査(85)などを行っています。
林道から近い人工林では、森林整備で発生する間伐材など県産木材の有効活用(91)を図りながら、草木が育つ明るい人工林として維持し続け、林道から遠い人工林では、針葉樹と広葉樹が混ざる混交林に誘導することを目指し、間伐(68)などに取り組んでいます。また、渓流への土砂流入防止を図るなど、渓畔林の再生(72)にも取り組んでいます。
豊かな森林に降った雨は時間をかけて川に流れだし、ダム(74)でせき止められ、飲み水や水力発電などに利用されます。そこで、森林整備による沢の水への影響を知るため、水文観測(75)などを行っています。
シカやニホンザル、イノシシ、ツキノワグマなどによる農作物被害に対し、地域が主体となって行う広域獣害防止柵(78)の設置や、里地里山の保全再生を目指す活動団体による体験農業(79)の実施など、様々な取り組みを支援しています。
県猟友会への委託や、奥山の山稜部等における専門の職員「ワイルドライフレンジャー(83)」によるシカの管理捕獲(90)など、シカの個体数と植生とのバランスを取り戻すための取り組みを進めています。
絶滅のおそれがある希少な動植物を守るため、植生保護柵を設置するなど、様々な保全対策を進めています。
また、外来種の監視と防除に取り組み、様々な生き物がお互いの関係をバランスよく保てるよう、生物多様性に配慮した緑化手法の検討や、種子を回収するリタートラップ(88)による丹沢産の苗木生産なども進めています。
登山道巡視ボランティアなどからの情報をもとに、草木を踏みつけから守る「構造型階段」(70)や「木道」(86)をはじめとした登山道の整備(92)を行っているほか、環境にやさしい山岳トイレ(82)への切り替え支援などを進めています。
また、ボランティア団体と協力し、登山道の補修(67)や、シカの樹皮剥ぎを防ぐための樹皮ネット巻き(73)などを行っているほか、県立ビジターセンターなどを通して自然公園の利用マナーを広げる活動を行っています。
自然相手の取り組みは、すぐに結果が出るものではありません。人も自然もいきいきとした丹沢大山を目指して、神奈川県では積極的に自然にかかわり、50年後・100年後をみすえた取り組みを行っていきます。
※イラスト内の番号が、以下の解説文のカッコ付き番号に対応しています。
シカの生息密度の低下等により林床植生が回復し、土壌が保全され、多様な樹種による階層構造が発達し、希少動植物も生育する生物多様性の保たれた自然林を目指します。
林道沿いでは、森林資源の活用による持続的な森林管理の行われている人工林。林道から離れたところでは、多様な生きものが生息する針葉樹と広葉樹が混生した森林を目指します。
渓流の人工構造物の生態系への影響が最小限に抑えられ、水生生物や魚類をはじめとして渓流に生育・生息する生物の多様性や生息環境が保全され、水質・水量が健全になった渓流を目指します。
シカやイノシシ等の被害が少なくなり、多様性の高い二次的自然(人が手入れをすることで良好な環境が管理・維持されてきた自然環境)や農林業をはじめとする自然にやさしいなりわいがある里地里山を目指します。
このページの所管所属は 自然環境保全センターです。