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更新日:2024年5月15日

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令和4年度第2回インクルーシブ教育推進フォーラム

令和4年度第2回インクルーシブ教育推進フォーラム『県立学校における「インクルーシブな学校」づくり』をテーマに開催しました

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日時・会場・内容

日時 令和4年11月26日 土曜日 13時30分から16時30分まで
会場 県立総合教育センター
内容 1.開会挨拶2.趣旨説明3.実践報告4.会場参加型ディスカッション5.閉会挨拶

 1.開会挨拶

神奈川県教育委員 笠原 陽子

 笠原委員総合教育センターの入口正面の額縁には、「ともに学び、ともに育つ」という、長洲元神奈川県知事の自筆の書があります。この言葉を掲げて、当時から地域の方々と共に取組が進められてきました。そして今、私たちはここでインクルーシブ教育推進フォーラムを開催しています。それぞれの地域・学校で長きに渡って神奈川県がめざしてきたものに、取り組んでいただいていることを改めて実感しています。
 今日は、川崎北高等学校、えびな支援学校、相模原向陽館高等学校の神奈川県立学校3校から実践報告をしていただきます。そして、後半では、さらに詳しくお話を伺いながら、県立学校におけるインクルーシブな学校づくりについて、成果だけではなくて、困っている点や改善が必要だという点も含めて、参加されている県民の皆様と情報を共有していきたいと思います。


 2.趣旨説明「神奈川のインクルーシブ教育の推進」

インクルーシブ教育推進課 藤森 広一郎 グループリーダー兼指導主事

 趣旨説明の内容は、「小・中学校における『インクルーシブな学校』づくり」をテーマとした第1回フォーラムと重複いたします。それは学校種によって、インクルーシブ教育推進の考え方や、理念は変わるものではないからです。

 最近、インクルーシブ教育という言葉を、様々な場面で見かけるようになりました。研修や講義で「障がいのあるものとないものがともに学ぶことだけが、インクルーシブ教育なのか」「すべての子どもが同じ場に一緒にいれば、インクルーシブ教育なのか」というような質問をよくいただきます。これらはインクルーシブ教育の一つの側面ではありますが、すべてではありません。

 はじめに、インクルーシブ教育を考える際に大切だと考えていることについて説明します。
 一つ目は多様性の理解についてです。ときどき、多様性を受け入れるというような表現を聞くことがあります。この表現の背景には、普通か普通じゃないか、という二項対立のような考えがあるのではないでしょうか。また、多数の普通の中に、少数の多様な一部の人がまざっていると考えていないでしょうか。多様性の理解には、異質な他者を理解して受け入れることではなく、自身が多様性の一部であるという認識が大切です。多様性というものは、ある特定の物差しで測れるものではありません。つまり、平均、標準、普通の子どもは存在しないということです。多様性を理解することは、誰かが誰かを受け入れたりするような、方向性のあるものではありません。
 二つ目は、意識をインクルーシブにしていくということです。
4つの状態図の4つは、社会組織、集団等の状態を示す言葉です。どのようなスケールで見るかによっても見方が変わりますし、自分が社会をどう見ているか、と考えてみても、見方が変わるかもしれません。インクルーシブ教育を推進していく際には、状態や形としてのインクルージョンだけではなく、意識をインクルーシブにすることが必要ではないでしょうか。

 次に、世界的な教育目標としてのインクルーシブ教育について説明します。平成6年、万人のための教育の目標実現に向け、サラマンカ宣言が採択され、初めてインクルーシブ教育が国連で示されました。すべての子どもがともに学び、ともに育つことのできる万人のための学校をつくっていくことが、万人のための教育を実現していくとされました。サラマンカ宣言の前書きには、「万人のための学校とは、インクルージョンの原則に基づき、すべての人を含み、個人主義を尊重し、学習を支援し、個別のニーズに対応する施設」とあります。誰も排除されず、すべての一人を尊重し、ニーズに適切に対応することが求められていることがわかります。平成27年の国連サミットでは、「誰一人取り残さない」というインクルージョンの理念のもと、17の持続可能な開発目標(SDGs)が設定されました。教育に関する目標4では、包摂的、つまりインクルーシブな教育の実現が明記されています。このように、インクルーシブ教育は現在、世界共通の教育目標として位置付けられています。
 神奈川県では、平成19年に策定された、かながわ教育ビジョンにおいて、インクルーシブ教育の推進の基本的な考え方を「支援教育の理念のもと、共生社会の実現に向け、すべての子どもが、できるだけ同じ場でともに学び、ともに育つことをめざす」としました。支援教育とは、すべての子どもたちを対象に、一人ひとりの教育的ニーズに適切に対応していくことを、学校教育の根幹に据えるという神奈川県独自の教育理念で、平成14年に報告書が出され、各学校では、一人ひとりの子どもを支える取組が充実しました。対象者を限定せず、多様性を尊重し、子どもの主体性を大切にしながらニーズに対応していくという本県の理念はサラマンカ宣言での「万人のための学校づくり」の考え方と重なります。藤森グループリーダー
 ともに学びともに育つとは、一緒の場にいさえすればいいという形優先の考え方ではなく、他者と共生していくことが社会の本質であることから、学校教育でも、多様な仲間と協働的に学び、自己の学びを深めていくことが、必然的であるという考え方に基づいています。学校教育にはその必然性をつくり出す役割があると考えられます。
 また、後期中等教育段階では、義務教育段階と比べて、社会接続という部分で大きな役割を持っています。したがって、共生意識を持った社会の担い手が育つ場としても、県立学校におけるインクルーシブ教育の推進はとても重要であると考えています。令和6年度から、インクルーシブ教育実践推進校は18校に増えますが、本県のインクルーシブ教育の推進は、実践推進校だけで行われるものではなく、すべての県立学校において大切であると考えています。
 インクルーシブな学校教育に向けては、一人ひとりに教育が届くように、子ども、教職員、保護者、地域の全員が対等な参加者として、インクルージョンの意識で、学校教育を見直し続けること、つまり、教育のあり方、本来の教育の原点を改めて見つめていくことが大切です。現状の学校の教育システムに子どもを合わせていくような指導・支援から脱却し、インクルージョンの意識で、学校教育が目の前にいる子どもに合わせて変化することができる柔軟な枠組みになっていくことが求められます。各学校で在籍している子どもや環境が違うため、決まった方法や取組はありません。各校にふさわしい取組を考え、実践していくことで、インクルーシブな学校づくりが進んでいくと考えています。

 そこで、本フォーラムでは、3校の県立学校から実践報告を通して各校のインクルーシブな学校づくりを知り、会場参加型ディスカッションを通してインクルーシブ教育について考えを深めていきたいと考えています。参加していただいている皆様とともに、各自の学校にふさわしい取組とは何だろうか、自分にできることは何だろうか、ということをともに考えていきたいと考えています。


 3.実践報告

実践報告1 川崎北高等学校 相馬 大佑 教諭、大西 隆太 教諭

 インクルーシブ教育実践推進校は、知的障がいのある生徒が高校で学ぶ機会を拡大し、相互理解を促進するという目的のもと指定されました。知的障がいのある生徒を対象とする特別募集で入学した生徒は、他の生徒と同じ教室で学びます。指定された14校がそれぞれ、より良いインクルーシブな学校に向けて、日々、努力しています。
 川崎北高等学校は、間もなく設立50周年を迎える川崎市の北部にある学校です。インクルーシブ教育実践推進校特別募集の実施から3年目となり、今年度、初めて全学年に特別募集で入学した生徒が在籍しています。特別募集で入学した生徒は約40名のクラスの中に3名程度在籍し、共に学んでいます。現在の3年生は、進路決定に向けて頑張っているところです。
 本校では、特別募集で入学した生徒が学ぶ学校設定科目として週2時間、「キャリアデザイン」という科目を設定しています。そこでは、少人数授業で自分の進路を見つけたり自分の進路に向けて学習したりしています。

 本校の生徒全体の様子を少しお話しします。相馬教諭
 授業中のグループワークやペアワーク、クラス活動を見学していると、多くの生徒から他者を尊重する姿勢が見られます。お互いに相手のことを理解して、思いやってサポートし合おうという、このような姿勢が、今後も広がり続けてほしいと考えています。本校では、そういった相互理解の姿勢を育む共生に向けた学習として、相互理解学習会を実施しています。これまでに、共生、合理的配慮、合意形成、SDGs、ユニバーサルデザイン等をテーマに、クラスごと、学年ごとで学習してきました。今年度実施した例をご紹介します。合意形成をテーマとし、「若者が関心を持っている課題は何か」という題で、19項目の社会的課題について班で話し合い、関心が高いであろう順に順位付けする課題でした。始めに合意形成をするために、相手の話を最後まで遮らずに聞くなどの注意事項を話しました。次に自分自身の意見をまとめた後、班でお互いの意見を発信し合い、班としての意見をまとめ上げるという内容です。その中で生徒たちは積極的に活動していました。学習後には、「今まで多数決が多かったが、合意形成して決めるとみんなが納得できる」「大変だけど、まとまったときの達成感がすごい」「部活で意見がぶつかることが多いので生かしたい」という感想がありました。自分の生活に照らし合わせて、誰もが納得できる意見をまとめあげることの大変さ、苦労、必要性を学んだと思います。

 次に、本校が積極的に取り組んでいることを紹介します。
 インクルーシブ教育実践推進校の指定を受けた時は、正直なところ、何から始めればよいのか戸惑う部分がたくさんありました。その中で最初に行ったことは、学校の核となる(1)授業改善と、それに伴う(2)学習環境の改善です。

 (1)授業改善 授業のユニバーサルデザイン化をテーマに、特別募集で入学した生徒も含めたすべての生徒にわかりやすく、取り組みやすい授業をめざしています。
具体的な取組を3つ紹介します。
 一つ目は、ティーム・ティーチング(以下、TT)という、2人の教員で授業を行う取組です。本校ではTTは主に国語・数学・英語、一部の実技教科で行っています。教員が2人になり、教室での授業中に個別に対応できる時間が増えたので、生徒の様子や授業内容によって、様々な対応を考えられるようになりました。質問できる機会が増えたことで、生徒がわからないところを教員に聞きやすくなって、学びに参加しやすくなっているという面が見られます。また、グループ学習など複数人での活動の時も、生徒主体の活動に対して、支援しやすくなっているために、主体的な学びの実現に向かっているように感じます。大西教諭
 二つ目は、ICT機器の活用です。新型コロナウイルス感染症の対応でオンライン授業を行ったこともあり、教員の中で機器の活用方法についてだいぶ浸透しました。本校はプロジェクター、ノートパソコン、書画カメラ、マグネットスクリーンを全教室に整備しています。ただICT機器を使うということではなく、そこにユニバーサルデザインの視点を入れるというのが、我々の取組です。取り組みやすさを意識し、内容を明確にするスライドを教職員で研究しています。
 三つ目は、Googleクラスルームというアプリの活用です。教員と生徒が同じものを利用しています。このアプリの長所は、いつでも内容を視覚的に確認できるところです。定期試験の範囲を掲載するなど教職員側からの発信だけでなく、遠足等の校外活動中の連絡手段としての活用や、生徒から提出してもらった写真を使ってクラスで思い出を振り返るスライドを共同で編集する学習をすることもできます。そこでは、生徒自らが考えて取り組むことにつながるよう、教職員側から情報を提供しすぎないように気をつけています。また、このアプリのおかげで生徒が自分の意見や考えをより多く伝え合うようになりました。例えば、文化祭のスローガンを皆で考えるときに、それぞれのアイディアを送信してもらったところ、挙手して発言を促してきた今までと比べ、とても豊かなアイディアが多く出てきました。

 (2)学習環境の改善 すべての生徒にとって学びやすい学習環境づくり、校内のユニバーサルデザイン化に取り組みました。その中で3つの取組をご紹介いたします。
 一つ目は、フロントゼロです。黒板の周りにプリントや連絡事項等を一切掲示しないという取組を全教室で徹底しています。二つ目は、今まで黒板に書かれていた連絡事項(教科からの連絡や委員会の案内)などを、教室の横側の壁掛けホワイトボードに統一することにしました。デザインを統一し、進級してクラスが変わっても連絡事項などをわかりやすくしていくことがねらいです。三つ目は、ピクトグラムを校内に用意しました。各教室を表すピクトグラムを、美術部の生徒が時間をかけて考えました。教室表示が視覚的にわかりやすくなり、生徒や教員から、また外部の方からも褒めていただけるようなものになっています。

 教育活動の見直しの成果として、教職員は、誰もがわかりやすいユニバーサルデザインの視点を持って授業をしています。紹介したとおり、目からうろこの方法があるではなく、今まで当たり前にやってきたことをもう一回見直して、明確さ、わかりやすさをもう1回考えて改善しています。ある生徒は、中学の時よりも、提出物が出しやすくなったと話してくれました。もちろん本人の成長もあると思いますが、提出方法など、我々が明確な指示をすることを意識するようになったから、生徒がそのように実感してくれているのではないかと考えております。


実践報告2 えびな支援学校 齋藤 千草 総括教諭

 えびな支援学校は、県内で2番目に新しい特別支援学校で、開校7年目になります。肢体不自由教育部門と、知的障害教育部門とがあり、それぞれの部門が、小学部、中学部、高等部に分かれています。
齋藤総括教諭 学校教育目標の一つ目は「一人ひとりに応じた教育を行い、地域社会と将来を見据え、生きる力を育成し、自立と社会参加を促進する」、二つ目は「インクルーシブ教育を実践・推進することにより、共生社会の実現に貢献する」としています。本校では、この2つの学校教育目標を具現化し、達成するための教育活動の骨格づくりとして、全職員が7つのプロジェクトチームに分かれ、それぞれのプロジェクト研究に取り組んできました。その7つはどれもインクルーシブ教育を推進する上でも大切なプロジェクトですが、本日は、(1)後期中等教育に関わる中央農業高等学校との連携による実践と、(2)センター的機能の充実について紹介します。

 (1)中央農業高等学校との連携 中央農業高校は本校から道路を挟んで向かい側にあり、物理的な距離が近いことが連携の一助になっています。
 中央農業高校との連携は、本校高等部の生徒だけでなく、小中学部の児童生徒もそれぞれにできる形で行ってきました。中央農業高校の自由選択科目の一つに「福祉と農業」がありま、毎年初めに本校の教員が、本校の児童の生徒理解について授業をしています。本校の生徒の余暇活動の授業体験も行いました。
 また、本校の肢体不自由教育部門小学部「生活」の授業では、「中農ハッピータイム」として月1~2回、中央農業高校の生徒(以下、中農生)とナスや枝豆の苗植え、トラクターの乗車、田んぼの泥んこ体験など、自然や動物との触れ合いの学習に取り組んでいます。
 これらの活動の内容や方法等については、平成30年度に立ち上げたコミュニティ・スクールの部会の1つ「切れ目ない支援部会」で話し合っています。以来、両校の教頭、関係教職員が参加し、現在は学期に1回程度開催しています。
 連携がスタートした平成28年度は、お互いの存在を知り合うことから始まりました。本校高等部の園芸班が、中央農業高校の畑をお借りして野菜の栽培を行っていたので、その活動を一つの柱と位置付け、園芸班の作業姿勢を中央農業高校の先生方に見ていただきました。それ以降、農作業を通した生徒間交流が生まれました。3学期には、中央農業高校の授業に本校生徒が参加し、中農生と一緒に作業しました。平成29年度には、中央農業高校に「福祉と農業」という選択科目ができ、本校が中央農業高校の畑で育てている野菜の栽培を一緒に行う、という共同学習が始まりました。本校生徒が活動内容を理解しやすいよう、中農生が視覚的なツールを用意したり、本校の生徒から話し掛け、わからないことを自分から質問する姿が見られたりしました。当初、中農生の授業レポートには、「障がい理解」「どう教えていいか」「戸惑い」などの言葉が多くありましたが、1月のまとめのアンケートでは、「お互いに経験が生きた」「これからはお互いに頑張っていこう」という声が多く上がりました。一方、本校生徒からは、「教えてくれて」という言葉から、「一緒にできて」という言葉が多く挙がるようになっていました。お互いのよさを知り、認め合い、助け合うという視点が、双方に育っていることが伺えました。
 子ども同士のかかわり合いが生まれるように環境設定をしたことで、本校生徒は体験を豊かにし、コミュニケーション力や意欲の育ちに繋がりました。また、中農生は、障がいのある多様な人への理解が深まり、ともに学び合う活動に繋がったのだと思います。まさに身近に生まれた小さな共生社会であり、インクルーシブ教育の大切な柱となる部分ではないでしょうか。

 (2)センター的機能の充実 開校当初から、地域の学校の特別支援教育を支援するセンター的機能を担ってきました。昨年度から、「共生社会実現に向けたインクルーシブ教育を推進するためのセンター的機能のあり方に関する研究」、いわゆる「人的交流」事業がスタートし、海老名市立今泉小学校との関わりが始まっています。「人的交流」事業では、本校からコーディネーター的役割の教員が派遣され、今泉小学校の先生方とともに考え、実践して、インクルーシブな学校づくり・学級づくり・授業づくりに取り組んでいます。
 派遣された教員が、今泉小学校で「インクルーシブな学校に向けて」というテーマで研修会を開催したり、それぞれの専門性を生かしながら一緒に教育活動に取り組んできたりしました。また、「インクルーシブチーム」が分掌に位置付けられ、多くの教員が参加してチーム会議が行われたり、海老名市教員委員会とも連携し、今泉小学校で市内外の小中学校の教員も参加してインクルーシブ座談会が毎月行われたりしています。
 派遣された教員は、小学校に勤務しているので、子どもの普段の様子を詳しく把握し、タイムリーに相談でき、一緒に考えることができます。巡回相談でもめざしているそれぞれの専門性を生かしながら、一緒に考えるというコンサルテーションが、今まで以上にできており、派遣された教員は「センター的機能の新しい形」と表現しています。
 本校の校内では、この「人的交流」事業が始まったことをきっかけに、改めて、共生社会やインクルーシブ教育について校内研修会等を行い、インクルーシブ教育の考え方やインクルーシブな学校づくりについて共有し、議論しました。地域の小中学校について知り、連携の仕方について改めて考える機会にもなっています。また、従来のセンター的機能の取組に加え、今年度は、居住地交流を実施するにあたり、教育相談コーディネーターが、双方の児童生徒にとってより学びがあるように、双方の教員の授業づくりの橋渡しをしたり、出前授業を行ったりしています。居住地交流を実施する前に行った小学校での出前授業では、本校の紹介や、「みんな違ってみんないい」という話をしました。感想には「他の人と違うのは良いことなんだと気が付きました。」「私は考え方が他の人と違うので、駄目だと思っていたけれど、違っていいんだと、自信がつきました」と書いた児童もいました。
 本校では、教育相談コーディネーターだけがセンター的機能に取り組んでいたわけではなく、日々の教育活動そのものがセンター的機能に繋がっていると理解しています。「人的交流」事業が始まったことで、さらなるセンター的機能の充実や、校内の教職員のインクルーシブについての意識の醸成に繋がっていると考えています。

 本校のインクルーシブ教育推進の取組として大切にしていることは、「発信」です。障がいのある子どものことにとどまらず、インクルーシブに関わるいろいろなことを周りの人に伝え、一緒に考えるきっかけを作りたいと思います。
 また、「自分の中の心の壁を取り払い、思考をやわらかくして、一緒に考える」ということも大切にしています。すべての子どもたちが、ともに学び合える環境設定をするときには、例えば、青色と黄色がまじり合うと緑色になるように、青色のまま、黄色のままで考えていくのではなく、それぞれの専門性を生かしながら、2つがまじり合って、緑として一緒に考えていくことが大切なのではないかと思います。そうすることで、特別支援学校と地域の小中高等学校の双方、また、その場にいるすべての子どもたちにとって、学びのある教育活動が実現し、身近に小さな共生社会が生まれていくのではないかと思っています。小さな積み重ねが、インクルーシブ教育の推進であり、共生社会の実現になっていくと思います。


実践報告3 相模向陽館高等学校 内田 和幸 校長 

 本校は県内に2校しかないフロンティアスクールという県立高等学校です。フロンティアスクールは昼間に学べる定時制の学校のことです。夜間部はありません。単位制普通科で午前部、午後部があり、それぞれ45分の授業を4コマ設置しています。じっくり学習を進めて4年間での卒業をめざすという特徴があります。3年で卒業することも可能です。入学者選抜では、在県外国人等特別募集を実施しており、午前部、午後部それぞれの募集があります。また、校内には座間養護学校の分教室があります。

 (1)「多様性のある学校」 本校には、外国につながりのある生徒や小・中学校で不登校を経験している生徒、療育手帳等を有している生徒、家庭状況等の様々な背景からこれまでなかなか学びに向かうことができなかった生徒も在籍しています。だからといって本校が特に「多様性のある学校」とは思いません。すべての人が多様性の中の一人なので、いうならば、どの学校も同じように「多様性のある学校」であると私は考えています。内田校長

 (2)本校の教育に対するポリシー 私が今年赴任したときに、先生方に次のことを話しました。それは、「一人ひとりを大切にする教育をしていきましょう」「必要としている人には、必要な支援をしていきましょう」「必要としてない人にも便利な支援をしましょう」です。また、「どの生徒に対しても合理的な配慮をしましょう」と話しました。それは生徒から何かしらの対応が必要であると申し出があったときには、生徒と話し合って必要な配慮について調整していくということです。ただ、私が着任した時には、すでに、このような対応のできる学校の形ができていました。開校から少しずつ積み上げて、この状態ができていたのです。
 学校全体として、今年度から取り組んでいることとして学校からの配付文書のフォントを丸ゴシック体に統一しました。これは全員が読みやすいものにしていこうという工夫です。

 (3)本校教職員のミッション 生徒保護者向けの学校案内の冊子についてです。冊子では、どの生徒も安心して通うことができるよう、生徒との確かな関係を作ることを本校教職員のミッションとして掲載しています。そのミッションは、「生徒を信頼する」「生徒を受容する」「生徒を励ます」「生徒を支援する」「生徒を尊敬する」「生徒の言葉を傾聴する」「生徒と意見の違いについて話し合う」の7点です。

 (4)標準服 本校は制服がありません。標準服はあり、着用している生徒は全体の半数ぐらい、年次が上がるともう少し、着用率が下がります。中には制服を着たくない、という生徒もいます。制服がないことを理由に本校へ進学してきた生徒もいます。

 (5)生徒指導で大切にしていること 頭髪、服装等に関しては、規定はありません。ただ、反社会的行為や他人に迷惑をかける行為に関しては、もちろん本校でも指導しています。大切にしていることは、生徒が「同じことをしたからといって決して同じ指導過程とは限らない」ということです。ゴールは一緒です。悪いことは悪いと分かるようになるということです。指導の経過として、興奮していて話が落ち着いて聞けない状況の生徒には、少し時間をおいてから伝えたり、何回かに分けて伝えたりするなど、一人ひとりに合わせた指導をすることが大切だと考えています。

 (6)特色のある授業 大きく3つあります。「すこやか」「ステップ」「日本語」という授業です。「すこやか」では、総合的な探求の時間を使って、自分の気持ちを付箋に書いてクラスで共有したり、自分の取扱説明書を作るという活動を通して自分を見つめ直したりして、自己理解を深めています。また、フラフープを使ったグループ活動などを通して、コミュニケーション能力を深められるようにしています。「ステップ」は、中学校までの学び直しの科目です。国数英の3科目の基本を復習していこうという授業です。「日本語」は、母語が日本語でない生徒に向けて、日本語の学習をするものです。
 今年の授業改善の目標は「わかりやすい授業をやっていきましょう」です。わかりやすい授業とは「簡単な授業」ということではありません。いかに生徒が理解するかを意識し、めあてや見通しをもった授業をするかということです。例えば、どの授業でも共通のルールができていれば、生徒は安心して授業を受けられると思います。加えて、やさしい日本語を使うよう意識しています。外国に繋がりのある生徒にはもちろん、どの生徒にもやさしい日本語で説明することは、内容を理解するのにとても有用だと思います。また、視覚教材を積極的に取り入れ、多くの授業で板書や配付プリントにルビを振っています。

 (7)生徒情報の共有 職員会議や年次会(入学年次ごとの職員による会議のこと)で必ず生徒情報の交換をしています。また、保健室は様々な情報が集まります。校長、副校長、教頭も年次会と保健室の情報に必ず目を通して、どういう生徒が今どういう状態なのかを把握するようにしています。私もなるべく生徒と接するために、時間がある時は教室の中に入って、生徒の様子を見たり声をかけたりしています。最近では関係性ができ、私を呼びながら手を振ってくれる生徒がとても多くなりました。生徒の様子を見て回ることがとても大事だと思います。先生方が職員室で生徒の授業中の様子や体調のことなど、様々な情報交換をよく話されていることも大事なことです。
 高校に入学する前までに様々なことがあって、生徒どうしや教職員との距離感がわからなかったり、コミュニケーションが取れなかったり、教職員を信用できなかったりします。それぞれに背景があり、必要な土台が違います。保護者も同様です。しかし、本校で過ごしていくうちに、少しずつ相手のことを理解し、信頼できるようになる生徒が増えてきています。現状において、必ずしも全員が学校に来られているわけではありません。入学式から登校できていない生徒もいます。頑張ったけど夏休みで疲れてしまった生徒もいます。しかし、たとえどんな状況であっても、本校では何らかの支援をして、学校に来られるような努力をしていきます。

平等と公平 本校に異動してきたばかりの先生は、当初は生徒指導に対して、生徒によって指導方法が違うと「平等ではない」と言ったりします。これは「平等」と「公平」の違いについて考えることが必要なのかもしれません。先生方も生徒と一緒に育っていきます。平等(誰に対しても同じ対応)から公平(目的を達成するために個に応じた対応)に意識が変わっていきます。
 私は、「普通」という言葉に違和感があります。特別支援学校に勤務していたころから「普通」という言葉がとても使いづらくなりました。「普通」の反対は「特別」です。みんな「普通」でみんな「特別」で良いのだと思っています。

 最後に、ハード面を整備することはとても大事だと思いますが、一番大事なことは、「一人ひとりを大切にしていこう、一人ひとりを見ていこう」という意識なのだろうと私は思います。本校は、生徒を信頼し、受容しながら、生徒の居場所になるように、教職員一同頑張っていきたいなと思っています。


 4.会場参加型ディスカッション
県立学校における「インクルーシブな学校」づくりとは

登壇者
 長沢 弘 氏(川崎北高等学校 総括教諭)
 齋藤 千草 氏(えびな支援学校 総括教諭)
 内田 和幸 氏(相模向陽館高等学校 校長)
司会進行
 栗原 昌広 (インクルーシブ教育推進課 指導主事)
 伊藤 紀貴 (インクルーシブ教育推進課 指導主事)

ディスカッション全景栗原:先ほど、3校にご発表いただきましたが、会場で参加されている方からご質問やご意見をお願いします。

県職員:私の勤務する部署では、保健体育科の授業研究に取り組んでいます。
 川崎北高校の取組について、2点お聞きします。1点目は保健体育科の実技の授業で、TTはどのような取組をしているのか。2点目は相互理解学習会について、今年度1回目のテ―マは合意形成だったそうですが、今後はどのような計画で行われるのか、また、生徒に投げかけるテーマの決め方で配慮された点も教えてください。
長沢:1点目のご質問ですが、現在のところ本校では保健体育科の実技及び保健の授業においてはTTを実施しておりません。数学、国語、英語のTTは、同じ教科の教員免許を持つ教員どうしで行います。調理実習や理科系科目の実習など、怪我のリスクのある学習場面では、インクルーシブ教育推進支援員がサポートに入り、授業の進行がよりスムーズで安全・安心に進むようにしています。
 2点目の学習会については、若者が関心を持っている話題にスポットを当てて話をしました。このテーマを選んだ理由は、これから社会に出ていく高校生にSDGs等の問題に関心を持ってもらいたい、との考えからです。根拠を上げながら多様な意見、考え方に触れていく過程を大切にすることがねらいでした。今後は2回目として、本校に分教室がある高津養護学校の先生から、特別支援教育の視点から本校の生徒や取組がどのように映るか知ることと、インクルーシブ教育のさらなる発展、推進のための講演を計画しています。また、テレビ局の方とタイアップし、障がいがありながらもご活躍されている方の講演を通して多様な考え方、物事の見方に結びつけようという計画もあります。

県職員:えびな支援学校の取組について1点質問があります。農作業など身体活動を伴う活動を、肢体不自由部門の生徒が高校生と一緒にやるときに、どういったところに配慮したえうで、取組を実現されたのか教えてください。
齊藤:肢体不自由部門と言っても、子どもの状態は様々です。本校のほとんどの生徒は車椅子に乗って生活をしています。それぞれの子どもにどういう支援をしたらやりたい活動ができるのかを考えて、一人ひとりに応じてサポートしています。配慮の面では、泥んこの中に入るなどの活動でも、まずは怪我をさせないことに一番気をつけながら、子どもたちが体験できるという点を大事にしています。決して「やらせる」のではなく、子どもが自分から「やってみたい」と思えるようなセッティングをしていくことを意識しています。

県職員:相模向陽館高校の実践報告を聞き、多様な子たちがともに学ぶことをめざしていきたいと思っています。何かご助言いただけたら嬉しいです。
内田:当然一人ひとりそれぞれ持っているものが違います。生徒に合わせて、丁寧に教えていくだけだと思っています。別に障がいの有無は関係ないと思います。

 

中学校教員:中学校で、特別支援学級の子が通常の学級に入って交流している時に一番困るのは、評価・評定の部分です。インクルーシブ教育実践推進校では評定をどういう形でつけているか、教えていただければと思います。
長沢総括教諭長沢:本校には一般募集と、特別募集で入学してくる生徒がいますが、みんなが同じ教室で同じ授業を、同じ教科書等を使って学んでいます。全日制普通科高校の川崎北高校を卒業するので、評価評定について、基本は全員同じです。ただし、生徒の状況に応じて、到達度を設定した個別の教育計画の個人内評価の考え方も踏まえて、全体の評価を出しています。

 

伊藤:発表の中でいろいろ取組をお伝えいただきましたが、インクルーシブな学校づくりを進めていく上で、どんなものが障壁なのかお聞きしたいと思います。
齋藤:本校は職員が100名以上います。インクルーシブ教育の推進において、知識や考え方がそれぞれ違うところが障壁かもしれません。物事を進めていくにあたって、違っているところがうまく伝わらなかったり、今やっていることの意味が伝わらなくて形だけが残ってしまったりすることがあったりして、うまくいかないことがあると感じることがあります。しかし、考え方が多様であることはいいことだと思っています。教職員の中で、意識がひとつに醸成されていくことが必要だと思います。校内での研修会などを活用し、少しずつみんなが同じ方向を向いて一緒にやっていけると良いと思います。
長沢:川崎北高校が指定を受けたときに、インクルーシブ教育を進めていくノウハウがあまりないと感じました。どのようにインクルーシブという言葉を読み取っていけばいいのか、本校がどのように見られていけばよいのかということを、手探りの状態で考えていかなければいけないところが一番の障壁でした。「インクルーシブ教育」という言葉から考えてしまうと、世界的な視野から大きく考えてしまって、あれもこれもやっていくのか、どうやって予算を使っていくのか、どうやって人をうまく動かしていくのかいうことを、余りにも大きく感じ取ってしまった自分の考え方自体も、障壁になったという気がしています。
 本校では、推進のための3つのポイントである学校づくり・学級づくり・授業づくりについて、まずはユニバーサルデザイン化という視点で授業づくりから取り組み始めました。その後、様々な校種を経験された方々も着任され、一緒に試行錯誤しながら取組を進めています。一つひとつ落ち着いてやっていこうと気持ちを寄せ合って取り組む中で、その辺の障壁が少し解消されてきた実感があります。
内田:私は、障壁は子どもたちではなくて、大人の意識だと思います。大人が「普通」と「特別」と区分けをしてしまう意識がなくならない限りは進んでいかない。支援について教職員がもっと勉強していかなければならないと思います。本来は教科の専門性の中に、いろんな子どもたちを教えるという視点が入っているはずですが、そこが抜けていて、支援の視点に立った教え方が足りていないと感じます。インクルーシブとは、最終的には、一人ひとりの子どもたちをよく見て大切にしていくということを、まずみんなで共有するということではないかと思います。

 

伊藤指導主事伊藤:障壁となる「大人の意識を変えていく」ヒントがあれば聞かせてください。
長沢:私は実体験として、授業や学級経営の中で、言葉の捉え方は人によって多様であることを学びました。どんな工夫をしたらよりよく伝わるかを考えるきっかけとなりました。インクルーシブ教育実践推進校の指定があったからということに関係なく、我々は生徒から学んでいる場面は日常的にあります。
齋藤:私も気づいたことが多くありました。インクルーシブってどういうことだろう。一緒に学ぶってどういうことだろう。どうやったら、この子どもたちが一緒に活動できるのだろう。そういうことを考えるきっかけを作るために発信することも、一つの方法だと思います。考える余裕もなく仕事をしてしまう時もありますが、少し立ちどまって、居住地交流や中央農業高校との連携でわかったことを、周りの人に少しずつ伝えることは、小さいことかもしれませんが、自分たちができる手だてになっていくと思います。

 

栗原:大人の考え方が、障壁になっているということについて、会場の皆さんはどのようにお考えでしょうか。
高校教員:我々大人は、自分が考えていることが「普通」だと思っていて、それ以外のことは「特別」と考えてしまっているところがあると思います。私が普通だと思っていることは、隣に座ってらっしゃる方には普通じゃない。変えていかねば、と思います。
内田校長内田:普通ってなんだろうと思います。突然ですが、目玉焼きにみなさんは何をかけますか。一般的には醤油をかける方が多いかもしれませんが、多数派の醤油は普通でしょうか。僕はソースです。我が家ではソースが普通だと思っています。みんな自分の価観で自分が当たり前だと思っているけど、それが当たり前じゃないよっていうことを認めていく。今回は目玉焼きを例にあげましたが、価値観もそれと同じじゃないかなと思っています。

 

保護者:私には発達障がいのある子どもがいて、現在、特別支援学級に在籍しています。子どもの通う学校の支援級の先生に、支援方法についてお願いしたことがあります。しかし、「それをこの子だけにやったら他の子はどう思うのか」と言われ、なかなかスムーズに支援を受けられない状況になっているように感じました。親としてもそのやりとりで傷つくことも多く、我慢をすることが続いています。インクルーシブの考えはすばらしいと思います。インクルーシブ教育実践推進校や通級指導導入校では考え方が広まってきていますが、そうではない県立学校では、まだ進んでいないのではないかという思いがあり、もう少しこの考えが広ってほしいという願いを持っています。
内田:私は、やれることをやるべきだと思っているので、「他の子と違うから」ということは絶対あってはならないと思います。先ほど、「平等」と「公平」という話をしましたが、背が低い人には塀があって台がないと見えない、背の高い人は別に台がなくても見える。背の低い人への支援が駄目だと言われると、当然、その低い人は、塀があることで見えないわけです。だからやれることはやるべきだと私は思います。その考え方は、インクルーシブ教育実践推進校だからとか、特別支援学校だからとかではなく、県立学校全体に広がっていかなければいけないと私も思いますし、このフォーラムが、その一歩かなと思っています。これを機会にいろんな学校が、必要な支援はしていくというスタンスになればいいなと思います。

 

栗原:「支援」は、一人ひとりにフィットした形というイメージ、「指導」は、みんな一緒に同じ基準でというイメージがあるような気がします。先生方はどのように捉えていますか。
齋藤総括教諭齋藤:事実として、大人たちが枠の中にはめようとすることで、うまく入れない子どもたちがいます。みんな違ってみんないい、ということを自分自身で感じることができると、大人の意識は変わっていくと思います。そのためには、一緒に過ごす時間を、たくさん経験することが必要です。ただその場にいるだけではなく、一人ひとりにとって必要な学びになる活動にできるかを、教職員だけではなく保護者も含めた大人が、諦めずに考え続け、自分の思考を変える。そうしていくと子どもたちは自然に関わり合いながら学び合っていくと思うので、今自分たちができることをできるところから始めていこうと思っています。
長沢:全体として安心安全な学校にしていくためには、ある程度のルールを守ることが必要となります。それとともに生徒一人ひとりを大切にすることも必要です。この2つの折り合いをつけなければいけない部分に、教員として苦労するところはあります。全体のルールと個々の多様性は対比するように考えられがちですが、どちらか一方だけにならないように対応していく必要があると思っています。子どもたちは集団の中で今後も育っていくし、個を大事にするから集団もしっかり育っていきます。一番の理解者である保護者と連携し、目の前の子どもと向き合っていくことで、新たな発見をしながらいろいろな答えを探っている感じです。
内田:指導が必要な場面では、指導はしなければいけないと思います。ただ、その仕方が一律ではなく、一人ひとりに合った支援的な指導をしながら、必ず最後には「これはいけなかった」と生徒が理解することが、大切なのだと思います。指導に時間がかかる生徒もいますし、逆にすぐにわかる生徒もいます。経過として、人それぞれに合わせた指導をしていくことが大切だということです。また、指導と支援は、相反するものではないと私は思っています

 

栗原:今日のお話から、会場のみなさまはどのようなご意見をお持ちでしょうか。
大学教員:私は、えびな支援学校の開設から3年間ぐらい関わりましたが、今日のインクルーシブ教育推進フォーラムは、歴史的な会議じゃないかと思いました。というのは、特別支援学校の教員がこのフォーラムで発表するというのは初めてだと思います。これまでのフォーラムは、インクルーシブ教育を高等学校でどう進めるかがテーマになっていて、私たちはそれを心から応援していましたが、まさか私たちが主役になって、檀上で話ができるとは思ってもいませんでした。この場を作っていただいたことに、元校長として大変感謝しています。
 インクルーシブ教育は、障がいのある人やない人にかかわらず、多様な人たちが関わることによって学んでいくということを痛感しました。インクルーシブ教育はともに学びともに育つことをめざすことですが、育つ方に中心が置かれていて、学びの面では、薄かった気がします。しかし、えびな支援学校の発表では、「ありがとう」から、「ともに学ぶ」「一緒に」という言葉がたくさん出てきたという報告がありました。つまり、彼らは中農生と関わって新たな学びが生まれた。そういう機会を作ったという神奈川県の取組自体も素晴らしいと思いますし、感謝しています。
高校教員:学ぶ選択肢が増えてきていることはとてもいいことだと感じましたが、一方で、自分がどこで学ぶのが最適かを考える情報も必要かと思います。例えば知的障がいのある生徒は特別支援学校に行って学ぶのがいいのか、インクルーシブ教育実践推進校で学ぶのがいいのか、それともクリエイティブスクールや定時制か、様々な選択肢から考えます。しかし、それは全員にとって同じことで、すべての子どもが、どこで学ぶのがいいのか、いろいろな視点で選べる。そのための情報、考え方、知識は、子どもにも保護者にも、広く一般に知られていかなければいけないと改めて感じています。
 また、私の職場でも障がいのある方が働いています。ともに働いているからこその難しさを感じる場面がありますが、「ともに学び、ともに育ち、ともに働く」というところから共生社会ができると思っています。それから、公平と平等の考え方については、とてもいいキーワードだと思います。それぞれの場面で何が平等で、何が公平なのか、一人ひとりはもちろん、みんなで一緒に考える必要性を改めて感じました。

 

栗原指導主事栗原:最後に一言ずつお願いします。
内田:インクルーシブって、難しく考えないことが大切だと思います。子どもたちだけではなく大人も含めて、一人ひとりを大事にしていきましょうということ。一人ひとりがお互いを認め合い、大事にしていくということです。今、神奈川県教育委員会にはインクルーシブ教育推進課があります。将来的に、この課はなくなったほうがいいと思います。インクルーシブになってないから一生懸命推進しようとしているわけですから。今すぐにとは言いませんが、インクルーシブという言葉もなくなって、それが当たり前になってほしいと思っています。そのために私も頑張ろうと思います。
齋藤:身近なところ、できるところから取り組んでいくことが、インクルーシブ教育とかインクルーシブな学校づくりになるのかなと考えます。身近に小さな共生社会をたくさん作っていくと、きっと、いろんな人たちが、それぞれの個性を生かしながら一緒に生きていく社会ができると思います。だから、今のままでいようとするのではなく、一歩踏み出して動き始めることを、みんなでできたらいいと思っています。
長沢:川崎北高校は、この3年間授業づくりを中心にしてきたので、これからは学級づくりに力を入れていきたいと個人的には思っています。日々生徒と話したり接したりしていて我々にとって一番やりがいになるのは、いろんな取組で生徒が変容する、あるいは生徒がそこで学びやすいという環境づくりができ上がっていくことです。身近なところから、ひとつずつコツコツ実践していくことがテーマだと思っています。

栗原:一人ひとり考え方が違う、違うからこそ話し合って、今後もインクルーシブ教育とは、何をしていくことだろうと考えていただけたら大変ありがたく思います。


 5.閉会挨拶

神奈川県教育委員 笠原 陽子

 私はこのフォーラムの第1回からすべて参加しておりますが、フォーラムは、その時代時代を反映したものだと改めて実感しました。今日の報告、ディスカッションに参加していただいた先生方の言葉は、確かな実践に裏付けられていると感じました。
 また、会場の方から「ともに働く」というキーワードをいただきました。そういう状況になるまでのプロセスを、私たちはこれからも作っていかなければならない。それぞれの地域で、それぞれの学校で、自分たちが納得する形でのインクルーシブな学校とはどういうものかということを考えながら、これからも実践を続けていかなければいけないと改めて思いました。
 今後も皆様からたくさんのご意見を寄せていただき、次に繋がる言葉を見つけ、取組を実践できるようにしていきたいと思います。今日の趣旨説明の中に、「決まった方法や取組はない、各学校にふさわしい取組を」とありました。神奈川県がめざしてきたインクルーシブ教育は、最初から形があると決めて取り組んできたわけではありません。それぞれの学校の中から生み出される実践を通して、地域、保護者、先生方が納得できる取組をぜひこれからも引き続きお願いしたいと思います。そういう声を教育委員会の中で反映し、具体的な形につなげられるよう努力をして参ります。今日はたくさんの方々にご意見をいただき、本当にありがとうございました。


 

 今回のフォーラムは、今後の神奈川のインクルーシブ教育の推進を考える上で、大変有意義な機会となりました。神奈川県教育委員会では、すべての子どもができるだけ共に学び共に育つ中で、一人ひとりの人間性や多様な個性を尊重し、お互いを理解していくことが大切だと考えています。すべての地域において「インクルーシブな学校」づくりに向けた取組を進め、共生社会の実現につなげてまいります。


主催 神奈川県教育委員会


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