更新日:2024年7月2日
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子ども支援WEB講座
吉中 季子(よしなか としこ)氏 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部社会福祉学科准教授 NPO法人女性サポートあじーる代表理事 著書:『子どもの貧困を問い直す』法律文化社(共著) 『あたりまえの暮らしを保障する国デンマーク』明石書店(共編著)など |
感染症や災害は人を選ばないはずであるが、コロナ禍はそれまで社会が覆い隠していた格差や潜在的問題を炙り出した。女性や子どもの貧困は今に始まったことではなく、それ以前から存在した。子どもは子どもが原因で貧困にならない。子どもをとりまく周囲が貧困になっていてそれに引き込まれて貧困になる。つまり、子どもの貧困は社会や大人の貧困である。
貧困は「お金がない」ことが直結すると考えられるため、日本では、可処分所得を基に算出する相対的貧困率がその指標として用いられる。日本の相対的貧困率は15.7%、子どもの貧困率は14.0%で、7人に1人が貧困状態である。また、子育て世帯のうち大人が二人の世帯(多くは夫婦と子ども)より、その多くが母子世帯であるひとり親世帯の貧困率が顕著に高い。これはOECD諸国のなかでもトップクラスである。
しかし貧困は、「お金」のことだけでなく、「相対的剥奪」の概念が必要とされる。相対的剥奪とは、権利や自由が奪われていることであり、ある人の生活状態をある基準に照らした場合に、基準よりもその生活状態が何らかの点において剥奪され、不利益な状態に陥っていることである。子どもの貧困において具体的には、「朝ご飯が取れているか」、「勉強部屋があるか」などの事象が、貧困との因果関係に影響しているということである。
これらの剥奪指標は、貧困調査に用いられ、内閣府の「令和3年子供の生活状況調査分析 報告書」(2021年12月)でも、子どもと親の生活実態が明らかにされている。
子育て世帯の実態は、一言でいえば、より低所得世帯、あるいは二人親世帯よりひとり親世帯のほうが、生活が不規則になったり困ったりする経験が多くなっている。例えば、食料や衣料が買えなかった経験、あるいは、「朝食」が不規則になる頻度などである(図2、図3)。必要なものが買えない経験は、コロナ禍以降もひとり親世帯や低所得世帯に経験が多くなっている(図4)。別の調査であるが、子どもの体重がコロナ禍で約10%減ったという報告もある(図7)。
なぜコロナ禍での貧困は見えにくいのかは、「家のなか」であることと、暴力や経済的打撃も伴って女性や子どもである当事者が、その「声」を出す力や機会がないからでもある。国連は、コロナ禍が始まってすぐ、「影のパンデミック」と称して問題視した。内閣府も家庭のなかの「女性不況」(She-cession)が生じているとした。
コロナ禍では、相対的にひとり親世帯や低所得世帯に揉め事が多く生じる傾向があり(図6)、子どもたちは大人たちのストレスを一気に受けることになる。子どもたちは親との関係のなかで、言葉を発せずして、希望を失っていくことになりかねない。子ども自身の進学の希望は、残念ながら所得比例しながら高学歴志向となり、低所得世帯やひとり親世帯ほど高学歴志向は低くなる(図8)。これは、その後の人生の機会の喪失にもつながることになる。さらに、子ども期のみならず、⾧期にわたって子どもが大人になったときの世代間の連鎖となることもある。子どもの貧困は、社会や大人の貧困を解決することが先決である。
図1 厚生労働省(2019)「国民生活基礎調査」、厚生労働省(2016)「全国ひとり親世帯等調査」
図2~6、図8 内閣府(2021) 「子供の生活状況調査の分析 報告書」
図7 シングルマザー調査プロジェクト(2021)「コロナ禍におけるひとり親世帯の子どもの状況」
電話 045-210-4690
このページの所管所属は福祉子どもみらい局 子どもみらい部次世代育成課です。