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更新日:2024年10月25日
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神奈川県立新羽高等学校の活動内容を紹介するページです。
本校の学校図書館は生徒昇降口に面した自習室の真上に位置し、校内のどこからでもアクセスしやすい場所にあって「飛ぶ図書館」の愛称で生徒に親しまれています。このネーミングには、3つの意味が込められています。
1)本校の校名にちなんだ「新しい羽で飛ぶ」イメージ 2)ドイツの児童文学者ケストナーの名作『飛ぶ教室』へのオマージュ 3)いろいろな良い意味でぶっ飛ぶ図書館を目指す |
これは、学校図書館法第2条に規定されている学校図書館の2つの目的「学校の教育課程の展開に寄与する」「児童又は生徒の健全な教養を育成する」に則った活動方針を反映したもので、教科活動も教科外活動も同等に重視した支援を行っています。
飛ぶ図書館を使った授業の概要は以下の通りです。令和2年度~令和3年度のコロナ禍状況下での休校やオンライン授業が多数の時期以降は、少しずつ利用が増えてきています。
授業利用数 | 担当教諭数 | 実施教科 | |
---|---|---|---|
R2 | 53 | 7 | 国語、英語、美術、家庭、総合 |
R3 | 40 | 11 | 国語、英語、美術、家庭、総合 |
R4 | 106 | 21 | 国語、英語、家庭、地歴公民、総合 |
R5 | 137 | 26 | 国語、英語、地歴公民、情報、数学、総合 |
Wikipediaの「新羽高校」の項目を充実させる国語の授業、新聞データベースで新聞記事検索を学ぶ国語の授業、戦国武将を調べて紹介し合う日本史の授業など、各クラス2〜3コマ程度の授業が多いですが、中には年間を通じて何度も探究プロセスを繰り返しながら学ぶ英語や世界史の授業も行われています。
毎週水曜午後2コマ連続の授業で、受講者は9名でした。現代世界史の枠組みの中で生徒が学びたいテーマを出し合って決定することから始める大学のゼミのような授業です。テーマのアイディアや調査のための資料が揃っているだけでなく、ディスカッションから発表まで、さまざまな場面にフレキシブルに対応できる学びの場に相応しいとして、年間を通して飛ぶ図書館で授業が行われました。
1学期は担当教諭の知人が国際支援機関で働いていることから「カンボジア」をテーマとし、現地とオンラインで繋いで生徒が質問をし、それに答えてもらうことでカンボジアの現在について学ぶことを目標にしました。どのような質問をするかがポイントなので、質問作りに時間をかけました。質問作りのための授業の流れを生徒の活動で示したのが以下です。
1)点検読書(本を丸ごと全部読む前に「読む本を決めるために読む」方法)のワークショップを通してアナログ資料の使い方を学ぶ 2)データベースについてのガイダンスを通してデジタル資料の使い方を学ぶ 3)アナログ・デジタル両方の資料を使ってカンボジアについて調べながら、質問したい疑問を疑問文の形で付箋に書き出す 4)付箋をカテゴリーごとにグループ分けし、担当したいカテゴリーに分かれて疑問文を精選・ブラッシュアップして質問を作る |
最終的に「政治情勢」「教育」「文化」などのカテゴリーが作られ、若者のカルチャーから教育や人身売買の問題まで多様な質問の準備ができました。
オンライン交流会の当日は現地のストリートの様子をリアルタイムで見せてもらい、練りに練った質問に一つ一つ丁寧に答えていただいて充実した授業となりました。講師の方からは「ずいぶんいい質問ばかりですね。よく調査したことが分かります。」とお褒めの言葉をいただきました。生徒は振り返りで「内戦が今も尾を引いているため、なかなか完全には立ち上がれていない」といったカンボジアの情勢そのものだけでなく、「インタビューを通して本やインターネットの情報よりも新しく、カンボジアの実情を細かく知ることができて色々と考えさせられた」や「他の国に視点を置いて本を読むことの面白さを感じることができた」など情報源についての気づきも得ていました。
2学期は生徒の関心が集まった「ポリコレ※」がテーマに決まりました。最終的なゴールはポリコレに関連する自分の問いを立て探究しまとめて発表することです。授業の流れを生徒の活動で示したのが以下です。
※ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)・・・社会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないよう、偏見や差別を含まない中立的な表現や用語を使用する考え方や活動のこと。
1)ポリコレとは何かについて共通理解を深めるために同じ本を一緒に読み、意見交換する 2)ポリコレをめぐるディベートを行う 3)「ちびくろサンボ問題」をポリコレの事例として学び、この問題について根拠を挙げて自分の意見を述べる練習をする 4)ポリコレに関連する自分の問いを作る 5)自分の問いを探究する 6)探究した結果をまとめて発表する |
ポリコレの基本概念の共通理解を図り、与えられた問いで探究の練習をしたことで、本格的な探究活動では自分の問いを作ることに時間をかけることができ、探究がより深まりました。「ディズニー作品におけるポリコレの状況」「ゲームにおけるポリコレの日米の違いとはどのようなものか?」「高校の制服とポリコレの関連はどのようなものか?」など、生徒それぞれに自分の興味が反映されたオリジナルの問いを作ることができていました。発表には多くの先生方や他のクラスの生徒たちも参加し、活発な意見交換を行うことができました。
事後の振り返りでは、それぞれの発表内容から新たな知識や気づきを得たばかりでなく、友人の発表を聞いて「世界史で習った単語がいっぱい出てきて、その単語を自分が覚えていたことが嬉しかった」と、教科の知識と探究の知識が結びついた瞬間を喜ぶ発言も見られました。
発表の成果は飛ぶ図書館前の廊下に掲示して、多くの生徒や先生方に見てもらっています。
飛ぶ図書館は探究のすべてのプロセスに関わる用意ができています。学校図書館は決まったテーマについての情報を調べる場面で使うことが想定されがちですが、実はテーマ設定のための下調べやアイディア探しにこそ力を発揮します。多様な資料をあちこち見ることで、ぼんやりした考えを焦点化するきっかけを見つけたり、自分が意識していなかった問題意識が呼び覚まされる場所だからです。キーワードを見つける、集めた情報をメモする、まとめる、発表のアウトラインを考えるなど、探究のすべての場面で使える様々なシンキングツールやワークシートなどの教材も用意しています。授業計画の段階から担当教諭と相談を重ねることで、このような教材や学校図書館の情報資源を適切なタイミングで十分に活用してもらえるようになります。事例で紹介した現代世界史の授業でも、資料の使い方、質問づくり、テーマ設定の場面を中心に全プロセスで支援を行いました。
本来、教科活動での学びは教科外活動や学校外での生活で応用できるようになるためのものです。飛ぶ図書館は教科活動の支援が個々の生徒のその先の学びにつながる信頼関係を築くことを意識しています。ですから、生徒が様々な要望を口に出し、それを実現するための支援を重視しています。廊下に貼られた映画のチラシが欲しいといったささやかな要望でも、それを安心して口に出せるような雰囲気ができるまでには少し時間がかかりますが、一旦その環境が整うと、生徒は安心して必要な資料をリクエストしたり、様々なイベントを企画したりするようになります。これまで生徒発の様々なイベントが飛ぶ図書館でも行われてきました。保健体育科の教師を講師にした「手話ワークショップ」、外部講師による「けん玉ワークショップ」、1分間で何回お皿に載せられるかを競う「けん玉チャレンジ」、ショーウインドウを個人の推しグッズで埋め尽くす「ショーウインドウジャック」などです。委員会でも部活動でもクラスでももちろんいいのですが、それ以上に個人単位でやりたいことが実現できるように特に気を配っています。
教科活動も教科外活動も1人の生徒から見れば地続きです。飛ぶ図書館は、生徒がどの活動場面でもインフラのように使えて当たり前の存在になることを目指しています。
神奈川県立新羽高等学校
電話:045-543-8631
(掲載内容は掲載日現在のものです。最新の情報は各県立学校のホームページでご確認ください。)
このページの所管所属は教育局 総務室です。