ホーム > 教育・文化・スポーツ > 社会教育・生涯学習・スポーツ > スポーツ振興 > スポーツ情報や動画を見る > 第37号(平成21年度/2009)
更新日:2010年5月3日
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体育センターレポート。指導研究部の4室が行った研究と、体育センター長期研修員の授業研究により構成されております。これらの研究につきましては、抄録のみの掲載となっておりますが、研究報告書を掲載しておりますので、併せてご活用いただければ幸いに存じます。
神奈川県立体育センター所長 安斉 講一
このたび、当体育センター指導研究部の平成21年度の研究報告書をまとめた「体育センターレポート第37号」を発刊する運びとなりました。
本号は、指導研究部の研修指導室、スポーツ科学研究室、生涯スポーツ推進室、スポーツ情報室(平成22年度より事業部、指導研究課研修指導班、調査研究班、生涯スポーツ課スポーツ推進班、スポーツ情報班に改編)が行った各室の研究報告と、体育センター長期研究員の授業研究報告により構成されております。これらの研究報告につきましては、抄録のみの掲載となっておりますが、当センターのホームページに研究報告書の全文を掲載しておりますので、併せて御活用いただければ幸いに存じます
体育センターは、子どもから高齢者まであらゆる年齢層の方たちが、各自のライフステージにおいて、心身共に明るく豊かで活力ある生活を営むことができるよう、県の体育・スポーツ振興の中核機関として県民のスポーツライフを総合的にサポートしております。今後も、心と体の健康つくりをめざす体育・スポーツ活動を促進し、質の高いサービスを提供していくとともに、指導者及び実践者への支援、スポーツ情報の提供、調査研究に取り組んでまいりますので、益々の御指導、御鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。
最後に、本号掲載の研究推進に、御協力を賜りました皆様に厚くお礼申し上げ、発刊のことばといたします。
研修指導室 野間基子 幸田隆 石井美乃 磯貝靖子 瀬尾一幸 瀬戸隆紀 納富崇典
研究アドバイザー 順天堂大学 今関豊一
60年ぶりの教育基本法の改正を背景に、文部科学省から平成20年3月28日に小学校、中学校の新しい学習指導要領が告示され、平成21年3月9日には高等学校の学習指導要領が告示された。今回の改訂における基本的な考え方の礎となる平成20年1月17日の中央教育審議会答申では、「小・中・高等学校の12年間を見通して指導内容の明確化・体系化を図る」ことが提言されている。いうまでもなく現行の学習指導要領においても、体育・保健体育で学習する運動の内容(教材)は、児童生徒の発育発達や運動の系統性を考慮して配列されている。しかし、運動の取り上げ方の弾力化や学び方の重視など自ら学ぶ力の育成を重点に運動を選んで学習できるように例示されていることから、内容の系統的な配列が読み取りにくいことや生徒が未学習の領域・種目を選択する状況もみられ、系統的な指導が難しいとの指摘もされてきた。
このようなことから今回の学習指導要領の改訂では、小・中・高校学校12年間の2年ごとに目標と内容を設定し、「いつ」、「どこ」で、「何」を学ばせるかといった発達の段階に応じた指導内容の明確化・体系化が図られた。
そこで、本研究では、「何を教えれば、その動きができるようになるのか」といった運動の技能の基となる知識を探り、この知識を基に、新学習指導要領解説における技能(運動)の内容の[例示]について小・中・高等学校を合わせて整理することによって、それぞれの段階で身に付けさせたい学習内容が、より具体的になるのではないかと考え、本テーマを設定した。
各運動の技能の基となる知識を探り、それらを手がかりに、新学習指導要領解説の各領域・種目における「技能(運動)」の内容の〔例示〕に示されている動きや技等を実現するために必要な知識の例を学習内容として、系統的に整理し、配列する。
〇資料収集・文献研究により、学習内容の系統を整理する意義や根拠(理論)を特定する。(平成19年度)
〇現行の学習指導要領解説に示された各領域、種目における技能(運動)の基となる知識を探るとともに、それらの系統性を考慮して整理する。(平成19年度)
〇明らかにした技能(運動)の基となる知識を踏まえ、小・中・高等学校の新学習指導要領解説の各領域、種目における技能(運動)の解説の[例示]で示された動きや技等を実現するために必要な知識を探り、小・中・高等学校12年間を通して整理する。(平成20、21年度)
〇「体育学習ハンドブック」を作成する。(平成21年度)
(1)学習内容の捉え方の理論
学習内容は、「名称」「方法」「概念(考えの枠組み)」の分類が考えられる。ここで示した3番目の「概念」すなわち考えの枠組み(その運動が成立する原理・原則、法則性)」が、知識として身に付ける重要な学習内容となり、「何を教えるのか」(学ぶのか)の具体の部分にあたると思われる。
教師が学習内容を明確にして授業に臨むことは、「知識・理解」の観点のみならず、「関心・意欲・態度」「思考・判断」「運動の技能」の観点においても、有効な学習方法を考え、つまずいている児童生徒への指導・支援を見出すことに有効であると考えられる。
(2)学習内容の抽出の仕方の理論
学習内容に関する、全般的なとらえ方は次のようなことが考えられる。
〇学習内容を特定することは、「何を」教えるのかを明確にすることができる。
〇学習内容には、「名称」「方法」「考えの枠組み」で分類されるものがある。
〇学習内容は一般的であり、客観的である。多くの場面や事柄に共通するものであり、抽象的である。健康(運動)に関連することを一般化したものである。
本研究でいうところの「知識」は「抽象」、「具体」の階層にとらえることができる。中学校第3学年の陸上競技の短距離走を例に挙げると、「中間走へのつなぎを滑らかにするなどして速く走ること」(新学習指導要領本文)が「抽象」であり、「スタートダッシュでは地面を力強くキックして、徐々に上体を起こして行き加速すること」(新学習指導要領解説の〔例示〕)が「具体」となる。新学習指導要領解説では、指導内容が「具体」の階層まで明確化され、発達の段階に応じて体系化されている。
本研究では、この「具体」の内容をどうすれば身に付けることができるかという子どもの学びの姿に近い内容を学習内容とし、特定、整理している。前述の短距離走に当てはめると、「(具体の内容)には、スタート後3~7歩目までは前傾姿勢を保ち、大腿(膝)を上体に引きつけるように上げ、地面をしっかりと押すようにキックすること」となり、「何を」教えるのか、新学習指導要領解説の〔例示〕よりさらに具体化し、〔例示〕の動きや技等を実現するために必要な知識として示している。
小・中・高等学校の12年間を一覧できるように整理表を作成した。フォーマットは、小学校第1学年から第4学年を「様々な動きを身に付ける時期」、小学校第5学年から中学校第2学年を「多くの運動を体験する時期」、中学校第3学年から高等学校を「少なくとも一つのスポーツに親しむ時期」に位置付け、新学習指導要領の区分を基本として表記した。また、学習(指導)内容等には、新学習指導要領解説の〔例示〕の達成に向けた、動きや技等を実現するために必要な知識を記載した。
表1 運動の技能の基となる知識の示し方
整理表には、[例示]の達成に向けた、動きや技等を実現するために必要と考えられる知識を、学習(指導)内容の一例として記載した。「学校段階の接続及び発達の段階に応じて指導内容を整理し、明確に示すことで体系化を図る」と示されている。この基本方針を踏まえ、指導内容の体系化がわかるよう整理し、表に配置した。
次に各領域・内容・種目の整理の考え方を示す。
(1)体つくり運動
「体ほぐしの運動」は解説には系統的な技能や動きが〔例示〕として示されていないため、取り扱わないこととした。
(2)器械・器具を使っての運動遊び、器械運動
運動ごとに整理表を作成した。
(3)走・跳の運動(遊び)、陸上運動、陸上競技
競走、跳躍、投てきに分けて整理表を作成した。
(4)水遊び、浮く・泳ぐ運動、水泳
新学習指導要領本文には泳法のみ示されているのでスタート及びターンは取り扱わないこととした。
(5)ゲーム、ボール運動、球技
柔道、剣道、相撲に分けて整理表を作成した。
(6)武道
競走、跳躍、投てきに分けて整理表を作成した。
(7)表現リズム遊び、表現運動、ダンス
創作ダンス、フォークダンス、現代的なリズムのダンスに分けて整理表を作成した。
〇整理表、単元計画例(マット運動、水泳、サッカー)、静止画と動画による技能のポイント(マット運動、水泳、サッカー)を授業で実践する際の参考として活用できるように作成した。
今回の研究では、新学習指導要領解説の[例示]で示された動きや技等を実現するために必要な知識の一例を示した。今後はこの知識を踏まえた授業づくりの有効性を実証するために、研究の成果をできるだけ多くの学校に広め、実践から分かったことをフィードバックしてもらうことが必要である。それにより、授業づくりに向けてより役立つ内容として再整理することが可能となる。
また、今回は技能の内容のみに着目したが、態度や思考・判断の内容についても学校段階の接続及び発達の段階を踏まえて身に付けることができるようにすることが求められている。この態度や思考・判断の内容についても、授業で生かせるような内容の整理が必要と思われる。
今後、新学習指導要領及び新学習指導要領解説において、明確化された内容の評価について研究を進めたいと考える。
本研究では、小・中・高等学校の新しい学習指導要領及び解説を読み解き、答申の内容や理論的な背景を鑑み、発達の段階ごとに解説の例示を達成するために必要な技術を項立てして配置し、それを実現するために必要な知識の一例を記載し、整理表として示した。このことにより、例示を達成するための技術の具体的な行い方のみならず、学習内容が発達の段階に応じてどのように変化し、また12年間のどこに位置付けられているかを把握できたことが、今回の研究の大きな成果だと考える。
スポーツ科学研究室 藤川未来 重本英生 黒岩俊彦 中村徳男 柳瀬実
研究アドバイザー 日本体育大学 西山哲成
子どもの体力は昭和60年頃から長期的な低下傾向にあるとともに、自分の身体をコントロールする能力の低下も指摘されている。その原因としては、外遊びやスポーツの重要性の軽視など大人の意識の問題や、都市化・生活の利便化等の生活環境の変化といった要因が絡み合い、結果として子どもが体を動かす機会が減少しているということが考えられる。
生活が便利で豊かになり、日常生活の中で身体を動かすことが少ない今の子どもたちには、意識的・計画的にスポーツや運動に親しむ機会を確保していくことが必要であり、その中で子ども自身が身体を動かすことの楽しさを発見し、さまざまな動きを身につけることは、その後の体力・運動能力の発達に大きく影響すると考える。
そこで、子どもの体力・運動能力を向上させるためには、子どもの活動に直接働きかけることと同時に、大人の意識を変えることを目指した取組こそ重要であると考え、『子どもの体力・運動能力向上プログラム』を作成し、その効果を検証することとした。
県内2つの幼稚園に協力を依頼しプログラムを実践した。
(1)運動プログラムの実践と見直し
(2)体力・運動能力測定
(3)体力・運動能力測定結果フィードバック
(4)アンケート調査(園・保護者)
(5)研究のたより発行による情報提供
体力・運動能力測定結果やアンケートの回答により、プログラムの効果を検証した。
基本的運動技能に焦点をあて、運動あそびの中で様々な動きを経験することができるように配慮して作成した。実践期間は、体力・運動能力事前測定から事後測定までの約5ヶ月間として各園に依頼したが、行事予定がほぼ確定した後であったため、保育活動の中へ組み込むことができず、両園とも「自由遊び」の時間帯をメインに、用具を常設することで生活活動の中で実践できるような工夫をされての取組となった。そのため、"どの園児"が"どのプログラム"を"どの程度"実践したかということを把握することが難しく、運動プログラムの検証としては不十分なものになってしまった。
(1)測定項目の平均値及び標準偏差より
測定項目別に、事前測定・事後測定の平均値を幼稚園別、男女別、園別・男女別に比較した。
ア 25m走
〇すべてのグループで、事前測定に比べ事後測定の平均値が高かった。
〇女児に比べ男児の平均値が高かった。
イ 立ち幅とび
〇すべてのグループで、事前測定に比べ事後測定の平均値が高かった。
〇女児に比べ男児の平均値が高かった。
〇男児は事前測定に比べ事後測定のばらつきが小さく、女児はばらつきが大きかった。
ウ テニスボール投げ
〇すべてのグループで、事前測定に比べ事後測定の平均値が高かった。
〇女児に比べ男児の平均値が高かった。
〇すべてのグループで、事前測定に比べ事後測定のばらつきが大きかった。
エ 両足連続跳び越し
〇すべてのグループで、事前測定に比べ事後測定の平均値が高かった。
〇すべてのグループで事前測定に比べ事後測定のばらつきが小さかった。
(2)研究対象園・全国調査・神奈川県調査の変化率の比較
研究対象園は、平成21年に実施した事前測定と事後測定の年中園児のデータ。全国調査は、2008年幼児の運動能力全国調査1)の、神奈川県調査は、平成20年度幼児の運動能力測定事業2)の、どちらも5歳前半・5歳後半の幼児のデータの変化率を比較した。
〇研究対象園男児は、全国調査男児・女児、神奈川県調査男児・女児、研究対象園女児に比べ、すべての項目で変化率が大きかった。
〇研究対象園女児は、25m走・両足連続跳び越しで対象園男児に次いで変化率が大きかった。
(1)園アンケート
ア 運動プログラム実践後の園児の様子
〇「体力が向上した」という設問に、"とても思う""思う"と回答した割合が高かった。
イ 体力・運動能力測定及び測定結果フィードバック後の先生の意識の変化
〇「体力の現状が分かった」「体力の向上に興味をもった」「運動を重視するようになった」「体力の個人差を考えるようになった」という設問に、"とても思う""思う"と回答した割合が高かった。
(2)保護者アンケート
ア 研究のたより「元気にあそぼう!」で印象に残った情報
〇”体力・運動能力低下の原因"という回答が多く、次いで"運動が脳を育む””外で遊ばない子どもたち”という回答が多かった。
イ 生活習慣に関して意識や行動の変化
〇生活習慣に関しての意識や行動の変化は"ある"という回答が約70%であった。
〇どのような変化があったかについては、"子どもの体力に関する意識が高くなった"という回答が多く、次いで"健康の意識が高まった""親子あそびが増えた"という回答が多かった。
(3)アンケートの回答による群分けと測定結果
保護者対象の事前アンケート・事後アンケートの回答により群分けをし、体力・運動能力測定のすべての項目の測定値を平均値と標準偏差で比較した。
ア お子様の体力への関心
〇すべての項目で事前測定・事後測定ともに、”少しある・あまりない群”に比べ"とてもある群"の平均値が高かった。
イ お子様がスポーツ・運動あそびをする頻度
〇すべての項目で事前測定・事後測定ともに、”1日・0日群”の測定値が低かった。
ウ お子様と親子あそびをする頻度
(ア)男性保護者
〇両足連続跳び越しの事前測定以外は、”月に1回程度・年に数回程度群”に比べ"週に3回以上・週に1回程度群"の平均値が高かった。
(イ)女性保護者
〇すべての項目で事前測定・事後測定ともに、”月に1回程度・年に数回程度群”に比べ”週に3回以上・週に1回程度群”の平均値が高かった。
エ きょうだい
〇すべての項目で事前測定・事後測定ともに、”上にきょうだいなし群"に比べ”上にきょうだいあり群"の平均値が高かった。
(1)運動プログラム
プログラムの効果については検証できなかったが、的当て用のボードや垂直ジャンプ用の用具を常設することで、子どもたちの活動に変化があったことは確かである。
特に、「投げる」動作については日常の生活で頻繁に見られる動きではないため、意識的に運動あそびの中で経験させることが必要であると考える。
(2)体力・運動能力測定
測定やフィードバックにより、体力の向上に対する意識が高まった先生方が、運動を重視した保育活動を展開することが期待される。また、家庭においても体力や健康に対する意識が高まった保護者が、生活習慣を見直すなど、意識の変化による行動の変化が期待される。
(3)研究のたより「元気にあそぼう!」
印象に残った情報は、先生も保護者も"体力・運動能力低下の原因"という回答が多く、関心はあるが詳しくは知らないという状況ではないかと推測される。
また、保護者の回答で次に多かったのは"運動が脳を育む"という情報で、「保護者の関心は体力よりも知力・学力にある」ということが推察される結果となったが、"身体を動かすことは脳や精神の発達に影響を与える"ことに主眼を置いて、運動あそびやスポーツを推進する方策も検討される余地があるのではないだろうか。
子どもの体力低下の原因として「仲間・空間・時間の三間が足りない」といわれて久しいが、最近は「手間を加えて四間」とも言われている。子どもの体力・運動能力を向上させるためには、今以上に子どもの動きに目を配り、手間を惜しまず見守り、励まし、支えていくことが大切であると思う。
<参考>
1)森司朗他『2008年の全国調査からみた幼児の運動能力』
2)西山哲成他『平成20年度幼児の運動能力測定報告書』
スポーツ科学研究室 柳瀬実 重本英生 黒岩俊彦 中村徳男 藤川未来
研究アドバイザー 慶應義塾大学 大谷俊郎
中学校・高等学校期においては、各種目の専門的トレーニングを始める前段階として、基礎体力をバランスよく高めるトレーニングに重点を置くことが、スポーツ傷害の予防や競技力を向上させる上で重要であると考える。
体育センターでは平成15年度より競技力向上コースを設け県内の競技団体(運動部、クラブチーム等)や個人競技者を対象に、体力測定及びスポーツドクターによるメディカルチェック、トレーナーによるフィジカルケア等を実施している。
そこで本研究は、同コースにおける基礎体力等の測定結果及び活動実態調査の分析をとおして、中学校・高等学校期競技者の基礎体力とスポーツ傷害の状況を把握し、スポーツ傷害の予防のための基礎資料を得ることを目的とした。
過去2年間の調査・研究の結果を基に、傷害発生の多い部位(下肢部、腰背部)及び傷害なし選手と傷害あり選手間の体力測定値の差(ハムストリングス筋力両脚バランス、体幹部筋力前後バランス、比体重脚伸展筋力差)に重点を置いたトレーニング推奨プログラムを作成し、研究協力校に実施してもらい、その検証を行う。
競技力向上コースに参加している県立高等学校男子3校(以下「A校、B校、C校」と言う。)41人、女子3校(以下「D校、E校、F校」と言う。)54人、合計95人
推奨プログラム実施の事前と事後に次の項目について調査し、分析を行った。
(1)体力測定
背筋力、脚筋力、立ち幅とび、上体起こし、反復横とび、全身反応時間、長座体前屈
(2)傷害の状況
(3)実施後意識調査
ア 推奨トレーニングの実施状況(種類、頻度)
イ 推奨トレーニングの目的意識
体力測定項目の平均差の比較には対応のあるt検定を、比率の分析にはカイ2乗検定を用いた。
男子3校においては、推奨トレーニングの実施頻度の一番高いのはC校で、次いでB校、A校の順であった。
女子3校においては、推奨トレーニングの実施頻度の一番高いのはD校で、次いでE校、F校とほぼ同じ頻度であった。
男子全体では、6項目(脚伸展筋力両脚、脚屈曲筋力両脚、上体起こし、全身反応時間)において有意差がみられた。また3校中、最も多くの項目で有意差がみられたのはC校で、7項目(脚伸展筋力両脚、脚屈曲筋力両脚、上体起こし、反復横とび、全身反応時間)であった。
女子全体では、9項目(背筋力、脚伸展筋力両脚、脚屈曲筋力両脚、上体起こし、反復横とび、全身反応時間、長座体前屈)において有意差がみられた。また3校中、最も多くの項目で有意差がみられたのはD校で、8項目(背筋力、脚伸展筋力両脚、脚屈曲筋力両脚、上体起こし、全身反応時間、長座体前屈)であった。
(1)男子選手の傷害状況
〇下肢部の傷害発生率は推奨トレーニング実施後においてはB校、C校で減少し、A校は増加した。
〇腰背部の傷害発生率は推奨トレーニング実施前、実施後においてはA校、B校、C校全ての学校で大きな変化はみられなかった。
(2)女子の傷害状況
〇下肢部の傷害発生率は推奨トレーニング実施後においては、D校、E校、F校全ての学校で減少した。
〇腰背部の傷害発生率は、推奨トレーニング実施後においては、E校、F校ともに減少した。また、D校は変化がみられなかった。
推奨トレーニング実施前、実施後の女子選手全体の比体重脚屈曲筋力利き脚/逆脚の平均値を比較すると、最もバランスのよい値1.0に近づき、標準偏差も小さくなった。
推奨トレーニング実施前、実施後の比体重脚屈曲筋力利き脚/逆脚の数値と下肢部の傷害発生状況について、傷害のない選手と傷害のある選手を比較したところ、有意差はみられなかった。逆に、下肢部に傷害が発生している選手の方が比体重脚屈曲筋力利き脚/逆脚のバランスがよくなっていた。
推奨トレーニング実施前、実施後の女子選手全体の上体起こし/比体重背筋力(体幹部)の平均値及び標準偏差を比較すると、平成20年度研究の基準内※に近づいた。
(注)過去5年間の競技力向上コースに参加した女子選手(328人)の上体起こし/比体重背筋力の平均値±1×標準偏差を基準内、それ以外を基準外としてバランスの良い悪いの判断基準とした。
推奨トレーニング実施前、実施後の上体起こし/比体重背筋力の数値と腰背部の傷害発生状況について、傷害のない選手と傷害のある選手を比較したところ、有意差はみられなかった。
推奨トレーニング実施前、実施後の男子選手全体の脚伸展筋力平均値を比較すると両脚ともに有意差がみられた。
推奨トレーニング実施前、実施後の比体重脚伸展筋力の測定値と下肢部の傷害発生状況について、トレーニング実施後の傷害のない選手と傷害のある選手の平均値を比較したところ傷害のある選手の平均値は両脚ともに低く、有意差がみられた。
研究協力校の男女95人に対して、事後測定時に推奨トレーニングを実施する際の意識についてアンケート調査を行った。項目については語群選択とし、複数回答可とした。
(1)男子選手の意識
男子選手では、トレーニングの際に意識した項目の割合は、「技術向上」が36.7%で一番高く、次いで「体力向上」、「傷害予防」が28.3%であった。また、「意識無し」選手の割合は6.7%であった。
(2)女子選手の意識
女子選手では、トレーニングの際に意識した項目の割合は、「体力向上」が43.7%と一番高く、次いで「傷害予防」の27.6%であった。また、「意識無し」の選手の割合は3.4%であった。
推奨トレーニングを実施したことにより、男女ともに「筋力」、「筋持久力」、「敏捷性」の数値が上がっていること、トレーニングの実施頻度により実施前と実施後の体力測定平均値に有意差のあった項目数に差が出ている事からも推奨トレーニングプログラムは選手の体力の向上に効果的であると考えられる。
推奨トレーニングを実施したことにより、男女ともにハムストリングス筋力の両脚バランスはよくなった。しかし、下肢部傷害は減少しているにも関わらず、下肢部に傷害ある選手は推奨トレーニング実施前、実施後ともにバランスの善し悪しに関係なく傷害の発生がみられた。さらに推奨トレーニング実施後に下肢部傷害が発生した選手は、ハムストリングス筋力のバランスがよくなっている率が高かった。したがって、下肢部の傷害とハムストリングス筋力の左右バランスとの関連性は認められなかった。
推奨トレーニングを実施したことにより、女子選手は体幹部筋力の前後バランスはよくなった。しかし、腰背部傷害は減少しているにも関わらず、腰背部に傷害ある選手は推奨トレーニング実施前、実施後ともにバランスの善し悪しに関係なく傷害の発生がみられた。したがって、腰背部傷害と体幹部筋力の前後のバランスの関連性は認められなかった。
推奨トレーニングを実施したことにより、男女ともに脚伸展筋力測定値は向上し、下肢部の傷害も減少した。
下肢部に傷害のある選手は、推奨トレーニング実施前では測定値に関係なく傷害発生がみられた。推奨トレーニング実施後に下肢部に傷害が発生した選手の特徴をみると、脚伸展筋力の測定値は下肢部傷害なし選手と比較して測定値が低く、下肢部に傷害があると、筋力測定値の抑制につながることが推察される。
事後アンケート調査から、トレーニングの目的は、男子選手では「技術向上」の割合が最も多く、女子選手では「体力向上」が最も多く、「傷害予防」はその次であった。このことは男子選手は競技パフォーマンスをよくしたい、女子選手は身体を強くしたいという意識が働いていることが推察される。
推奨トレーニングの実施は、選手の瞬発力を除く「体力向上」には効果的であったと考えられる。しかし、トレーニングをおこない、ハムストリングスの両脚バランス及び体幹部の前後のバランスが改善された選手にも傷害発生がみられることからも、必ずしもバランスの善し悪しが傷害の予防につながらないことが示唆された。
また、トレーニングに臨む選手のアンケート結果からも、基本的にトレーニングは自分のパフォーマンスや技術、技能、身体強化の向上のためにおこなうものと考えている選手が多く、傷害予防はトレーニングの副産物的な意味合いが強い。しかしながら、傷害の発生により、選手の競技力の低下や停滞が起こることは周知の事実であり、競技力向上と傷害予防は決して切り離して考えることはできない。
平成22年度の研究では下肢部、腰背部の傷害発生の原因を多角的な視点から検証し、傷害予防トレーニングのハンドブック作成に繋げたいと考える。
スポーツ科学研究室 中村徳男 重本英生 黒岩俊彦 柳瀬 実 藤川未来
研究アドバイザー 法政大学 日浦幹夫
生活習慣病予防のための健康・体力つくりには、日常の生活において積極的に運動を行い、全身持久性や柔軟性、筋力・筋持久力および身体組成などの健康関連体力(health-related fitness)を高める必要がある。特に、健康・体力つくりのための運動等を処方する場合、全身持久性の維持・向上が大きな要素となるので全身持久性を測定・評価することが必要になる。
全身持久性を評価し、効果的な目標運動負荷を設定するために使われる一般的な指標としては心拍数が考えられるが、測定のために最大努力に近い運動負荷を与える必要があったり、運動中に測定が必要になったりすることもある。特に、中高齢者にとっては安全性重視の視点から強い運動負荷をかけずに測定でき、かつ運動実践時に煩雑さの無い方法が望まれる。
安全で簡便な全身持久性の指標としては主観的運動強度(rating of perceived exertion)、(以下「RPE」と言う。)が考えられる。RPEは生体にかかる運動負荷を運動者がどの程度の「きつさ」として感じているかを測定するものであり、全身持久性の測定・評価および有酸素運動時における効果的な強度設定に際して有用であると考える。
本研究では、ウォーキング時における中高齢者のRPEと生理的運動強度の指標である心拍数との相違と、体力、体組成や運動習慣等との関連性を分析し、中高齢者の運動指導のための基礎資料を得ることを目的とした。
平成21年4月から平成22年3月
平成21年4月から平成22年11月までの40歳以上の「健康・体力つくり支援コース」参加者のうち研究の目的及び測定内容を説明し、研究協力の同意を得た方。なお、分析に当たっては、平成19年4月より平成21年12月までに得られたデータを使用した。
(1)問診票(身体各部症状、罹患暦、通院・入院・手術暦等)
(2)運動・生活習慣等に関するアンケート
(3)形態、体組成の計測
(4)脈拍の測定
(5)フィットネステスト
ア 柔軟性:長座体前屈
イ 筋力・筋持久力:30秒上体起こし
ウ 瞬発力:脚伸展パワー
エ 平衡性・脚力:開閉眼片足立ち
(6)RPEの尺度表
本研究では、0から10で表現された11段階RPE尺度表と6~19で表現された15段階RPE尺度表を使用した。
(7)RPEの測定方法
被験者にRPE尺度表の説明後、運動負荷試験を実施し、カルボーネン法(表1)における運動強度が25%、35%、45%、55%、65%、75%、85%の心拍数時に、被験者の前方に掲示したRPE尺度表から感じるRPEを数字で答えてもらい記録した。
(8)メッツについて
運動負荷試験におけるメッツは、表1のとおりである。
表1 運動負荷試験におけるメッツ
ステージ | W-UP | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|
メッツ | 1.9 | 4.6 | 7.0 | 9.0 | 11.0 | 12.1 |
(注)メッツ:安静座位の酸素摂取量を3.5(ml/kg/分)を1メッツとし運動の強さを示したもの。
健康・体力つくり支援コースの年代別と性別の属性は表2のとおりであった。
表2 年代別・性別の属性(単位:人)
年代 | 40歳代 | 50歳代 | 60歳代 | 70歳以上 | 全体 |
---|---|---|---|---|---|
男性 | 8 | 19 | 78 | 44 | 149 |
女性 | 24 | 55 | 100 | 44 | 223 |
全体 | 32 | 74 | 178 | 88 | 372 |
11段階尺度表、15段階尺度表ともに出現率上位3つの運動強度は"ややきつい""やや楽である""楽である"であった。また、両尺度表ともカルボーネンの運動強度が65%以上になると"ややきつい"以上のRPE出現率が50%を超えていた。
RPEと心拍数の相関係数は11段階尺度表では0.604、15段階尺度表では0.649であった。また、90%以上の被験者において個々のRPEと心拍数の相関係数が両尺度表とも0.80以上であった。
RPEとメッツの相関係数は11段階尺度表では0.649、15段階尺度表では0.667であった。また、85%以上の被験者において個々のRPEと心拍数の相関係数が両尺度表とも0.80以上であった。
分析に当たっては、測定値を有する項目はパーセンタイル順位により低群と高群とし、その他の項目については状況により2群にしたうえで、メッツ(1.9メッツ、4.6メッツ、7.0メッツ、9.0メッツの4段階)ごとにRPEを比較した。2群間のRPEの平均の差の検定にはt検定を用いた。
(1)RPEと性別の関係について
RPEと性差の関係を比較したところ、男女とも有意差は認められなかった。
(2)RPEと形態・体組成の関係について
BMI、体脂肪率、腹囲、ウエストヒップ比の関係を各項目低群と高群に分け、メッツごとにRPEを男女別で比較したところ、両尺度表ともすべての項目に関して有意差は認められなかった。
(3)RPEとフィットネステストの関係について
フィットネステストの関係を各項目低群と高群に分け、メッツごとにRPEを男女年代別で比較したところ、長座体前屈と上体起こしでは両尺度表ともに男女の60歳以上でメッツ別での有意差が多く見られ、高群が有意に低かった。
また、開眼片足立ちでは両尺度表とも男女の4.6メッツ以上の運動強度で高群のRPEが有意に低かった。
(4)RPEと粘り強さ、我慢強さ、競争心等の関係について
粘り強さや我慢強さ、競争心等の項目を得点化し、低群と高群に分け、メッツごとにRPEを男女別で比較したところ、男性の7.0メッツ以上で高群のRPEが有意に低かった。
(5)RPEと生活状況の関係について
食欲や睡眠等の項目を得点化し、低群と高群に分け、メッツごとにRPEを男女別で比較したところ、両尺度表とも男性は4.6メッツで、女性は4.6メッツ以上で高群が有意に低かった。
(6)RPEと運動習慣・運動暦・運動内容について
運動習慣・運動暦、ウォーキング実施状況等を各項目あり群(実施群)・なし群(非実施群)に分け、メッツごとにRPEを男女別で比較したところ、運動習慣において両尺度表とも女性の9.0メッツで、あり群が有意に低かった。
また、ウォーキング実施状況では両尺度表とも男性の1.9メッツ、4.6メッツで実施群が有意に低かった。
(7)RPEと身体状況・疾病状況について
身体状況、疾病状況の関係を各項目あり群・なし群に分け、メッツごとにRPEを男女別で比較したところ、両尺度表とも有意差は認められなかった。
RPEを11段階尺度表と15段階尺度表の両方で測定した被験者のうち、男性は5名全員が、女性は6名中5名が個々のRPEと心拍数の相関係数が両尺度表とも0.9以上であった。
11段階尺度表において、RPEと心拍数の関係を低強度区間、中強度区間、高強度区間に分け、性別、年代別、測定項目別に3区間のRPEと心拍数の回帰直線の傾きを比較したところ、全年齢と女性では低強度区間の傾きが中強度区間に比べ有意に大きかった。また、低強度区間の傾きが中強度区間と比べて有意に大きい項目が多数見られた。
カルボーネンの運動強度が65%以上になると"ややきつい"以上のRPEの出現率が全体の50%を超えていたことからカルボーネン法における運動強度65%は"楽"という言葉を含む運動強度と"きつい"という言葉を含む運動強度の切り替わるポイントと考えられる。
RPEは心拍数やメッツとかなり相関があることも認められた。このことから、運動強度を設定する際には心拍数だけでなくRPEを併用したり、メッツ表等により自分に合った運動を選択したりすることで安全で効果的な運動実践ができるであろう。
測定項目別のRPEとメッツの関係では、健康関連体力がRPEの判断に影響を与えることがわかった。このことから、中高齢者にとってウォーキングを実践しながら柔軟性を高めるストレッチや筋力トレーニングを行うことで、より楽にウォーキングをすることが可能となり、運動の継続につながるであろう。
食欲や睡眠等の生活状況についても、RPEの決定に影響することが示唆された。特に、女性はジョギングやランニングレベルでの運動強度で、生活状況が男性よりもRPEに影響すると考えられる。
RPEを11段階尺度表と15段階尺度表の両方で測定した被験者の心拍数とRPEの相関係数は高く、RPEと心拍数は再現性が高いと言える。ただし、低強度の運動では"きつさ"が自覚的に認識しにくく、RPEを心拍数と併用する場合は注意が必要である。また、中・高強度の運動に関しても、特に高齢者の運動強度を指導する際には、個人差が大きいことを考慮に入れながら、安全に配慮した強度設定を心がける必要があろう。
中高齢者の至的運動強度設定に当たっては、どの程度"きつい"とかその運動によってどの程度疲れを感じているか、といった知覚面はあくまでも主観的なものであると判断され、酸素摂取量や心拍数を中心とした生理学的指標が用いられる傾向が強かった。しかし、人間は強度を感じながら運動をしており、その時の気分や体の調子、暑さ寒さなどで調整をしているのは明らかである。
したがって、心拍数に代表されるような生理的側面での至的運動強度の設定のみならず、運動者の知覚を取り入れたRPEを理解し、身につけ、活用することがこれからの中高齢者の運動強度設定に当たって求められてくるであろう。
生涯スポーツ推進室 亀谷学 塩浦健吾 小峰譲二 市川嘉裕 末包博
平成12年に告示された「スポーツ振興基本計画」(平成18年改訂)では、生涯スポーツ社会の実現のための重点施策として、全国の各市区町村において少なくとも一つは総合型地域スポーツクラブ(以下「総合型クラブ」という)を育成することを到達目標としている。
本県においては、平成21年3月1日現在、13市町、39の総合型クラブが創設されている。未育成市区町村における総合型クラブの育成が求められてはいるが、創設済み総合型クラブや今後創設される総合型クラブが、地域に根づいて継続的に運営し続けるための支援も課題となっている。
そこで、本研究を行うことにより、今後の総合型クラブに係る施策展開のための基礎資料を得るとともに、県内の総合型クラブの普及・定着のさらなる推進のために、本テーマを設定した。
平成20年12月に実施した県内の創設済み総合型クラブ38クラブのスタッフならびに、小中学生の総合型クラブ会員とその保護者を対象とした実態・意識調査と、1年次の県内総合型クラブの調査を踏まえ、本年度の市町村に対する「総合型地域スポーツクラブに関する実態・意識調査」及び「県内総合型クラブ聞き取り調査」を参照し、総合型クラブと学校や地域との連携方法について考察した。
(1)アンケート調査対象者
ア 県内総合型クラブ38クラブのスタッフ(38名)
イ 県内総合型クラブ31クラブの小学生クラブ会員(620名)とその保護者(620名)
ウ 県内総合型クラブ16クラブの中学生クラブ会員(320名)とその保護者(320名)
(2)調査期間
平成20年12月から平成21年1月
(3)有効回収標本数
ア 県内総合型クラブ38クラブのスタッフ有効回収標本数33サンプル、有効回収率86.8%
イ 県内総合型クラブ31クラブの小学生クラブ会員有効回収標本数290サンプル、有効回収率46.8%
ウ 県内総合型クラブ31クラブの小学生クラブ会員の保護者有効回収標本数281サンプル、有効回収率45.3%
エ 県内総合型クラブ16クラブの中学生クラブ会員有効回収標本数111サンプル、有効回収率34.7%
オ 県内総合型クラブ16クラブの中学生クラブ会員の保護者有効回収標本数108サンプル、有効回収率33.8%
総合型クラブの運営方法は、総合型クラブに参加しやすい運営体制を整え、積極的に地域活動へ貢献しようと努めている。
総合型クラブの今後の方向性は、会員数を増加させていくことで、スポーツ指導者の確保が必要となり、また、スポーツ指導者を増加することにより会員数の増加が促され、ひいては安定的な運営につなげていきたいと考えていることも伺える。
さらに、一貫指導のできるクラブにするために、子どもから成人までの発達段階に応じたスポーツ指導者の確保を図ることで会員数の維持・増加にもつながることが考えられる。
以上のことから、スポーツ指導者の増加を図るためには、それに伴う財源確保が必要となるため、会員数を増加させ、会費や参加費の増益による財源確保につなげていきたいことが推測される。
総合型クラブの運営方法は、指導者及び活動場所が整っている種目が展開されていることで、進んでクラブに参加していることが伺える。
今後の方向性は、各種大会やイベントの実施に期待を寄せている。また、一貫指導及び競技力向上ができるクラブにしてほしいことを望んでいることがわかり、数多くの大会やイベント等に参加し良い結果を残したいことを期待していることがわかった。
総合型クラブの運営方法及び今後の方向性について、小学生と同様の意見であることがわかった。
総合型クラブの運営方法は、現状の会費金額に満足しており、全体的にも現状に満足していることがわかった。
総合型クラブの今後の方向性は、一貫指導をおこなうとともに競技力向上が期待できるクラブになることと、それに伴うスポーツ指導者の増加を望んでいる。一貫指導ができるクラブや競技会等で良い成績を残せるクラブにするためには、活動日数・活動時間の増加や会費等が高額となることを理解してもらう必要がある。
(1)総合型クラブの運営方法の比較
活動場所では、運営者は、安価な公共施設や学校施設を利用しているクラブが多いが、施設を利用する際、優先利用ができる総合型クラブは少なく、他団体と同じ利用申請を行っており、抽選や抽選結果が利用直前に決まることなどにより、年間を通したスケジュールを立てにくい状況であり利用施設の調整に苦慮している。
また、他の地域の学校等の公共施設にも活動場所を探り確保に努めて、活動場所の確保ができた場合に利用をしているが、活動場所が遠くなることを危惧していることが伺える。
スポーツ指導者数では、運営者側は、活動している種目や教室に開催日ごとで参加人数に増減があり、人数の多い場合にスポーツ指導者を増やして配置できず、十分な指導者の確保ができないことを約半数のクラブが感じている。
また、toto助成金を活用し運営継続をしている総合型クラブが多く、toto助成が受けられなくなった場合に、市町村からの委託事業等の情報も重要ではあるが、会費収入が主な財源となっているため、会員数の増加を図ることや会費金額を高く設定変更したいと思われ、今後の運営継続に不安を抱いている。
(2)総合型クラブの今後の方向性の比較
スポーツ指導者を増加したいかでは、活動者側の保護者はきめ細かい指導を望みスポーツ指導数の増加を期待していることが伺える。
運営者側は、会員数の増加や種目数の増加を図るため、スポーツ指導者数の増加を望んでいるが、地域のスポーツ指導者の情報が少なく、スポーツ指導者の確保に苦慮していると思われる。
そこで、地域スポーツ指導者の登録や情報提供の充実と総合型クラブの認知度向上を図る広報活動も必要不可欠である。さらに、市町村が掌握しているスポーツ指導者と体育センターとのネットワークの充実や連携が必要であると考える。
また、各種目のスポーツ指導者育成やスポーツ指導者数の増加を図ることには、ライフステージに応じた指導が可能なスポーツ指導者の育成や指導者の質の向上に向けた取組も必須である。
競技力向上ができるクラブにしたいかでは、運営者側は、今まで競技力について重要視して活動している総合型クラブが少なく、学校部活動の受け皿としての活動をしている総合型クラブもあったが、多志向の目的もあることから、新たに競技力向上を目指し会員の維持・増加を図ることで安定的な運営継続につなげていきたいと考えていることが伺える。競技力向上に関する情報提供をするとともに、スポーツ指導者のスキルアップを図ることが必要であると考える。
子どもから成人まで一貫指導ができるクラブにしたいかでは、今後さらに多世代の活動に拡大し会員の維持・増加を図り安定的な運営継続につなげていきたいことが伺え、ライフステージに応じたスポーツ指導者の育成はもとより、総合型クラブと学校部活動が連携することで総合型クラブから中学生や高校生の時期は学校部活動で活動し、その後総合型クラブに戻り活動することができるなどの一貫指導システムの構築や一貫指導プログラムの作成が必要になると考える。
本研究の結果と考察から、総合型クラブの運営方法については、活動者側は現状に満足していることがわかった。運営者側は、活動場所の確保ができていない点やスポーツ指導者の確保ができていない点についての課題が浮びあがった。
総合型クラブの今後の方向性については、活動者側からは、子どもから成人まで一貫指導できるクラブにしたいことや競技力向上ができるクラブにしたいニーズがあり期待を寄せていることがわかった。運営者側からは、学校施設の利用による活動場所の拡大、スポーツ指導者の増加や競技力向上ができるクラブにしたいニーズがあることが明らかになった。
体育センターが機能を有する広域スポーツセンターは、効果的な支援をおこなうために、体育センターの4室の連携や広域スポーツセンターアドバイザーとの協働はもとより、県スポーツ課や(財)県体育協会との支援方策におけるコーディネート機能を充実させ、機能強化を図らなければならない。
平成18年9月に改定された「スポーツ振興基本計画」では、体育センターが機能を有する広域スポーツセンターは、総合型クラブの創設や運営、活動とともに、スポーツ活動全般について効果的に支援するということが課題として掲げられている。その施策遂行のためにも、人や情報のネットワークづくりの橋渡しをするともに、広い視野での総合型クラブや県民の生涯スポーツ振興への支援方策の構築していきたい。
スポーツ情報室 田所克哉 江守哲也 土井義浩 落隆久
横浜国立大学 海老原修
多様化する県民のスポーツニーズに対応するため、高度な専門的知識と実践的指導力を兼ね備えたスポーツ指導者の育成は不可欠である。
しかし現状では、スポーツ指導者が最低限身に付けておくべき基礎・基本の知識・技能等について、統一した指標が示されていない。
こうした中、平成20年度に、スポーツ指導者を対象に最低限身に付けておくべき、基礎・基本の知識・技能等を収集・体系化すると共に、その水準を自己評価できる観点別評価基準を試論した。しかしながら、類似した項目があったり、1つの項目に複数の問いかけが含まれているなどの問題があり、本質的な質問の意味を精選し、日常的な言葉に変換する必要があった。そこで試論が多くのスポーツ指導者に活用されるためには、さらなる改善と精選、及びスポーツ指導を受ける人の意見を反映させる必要があると考えた。
以上から、平成21年度は、平成20年度に作成した観点別評価基準を、様々な分野のスポーツ指導者の意見を踏まえ、改善と精選をした後、指導を受ける側からも見解を求め、より実際的な基準を作成することとした。
平成21年4月から平成22年3月
(1)評価基準検討のためのワーキンググループ結成
(2)ワーキンググループによる検討
(3)アンケート調査の実施
(4)ワーキンググループによる検討
(5)観点別評価基準の改訂
様々な分野のスポーツ指導者に協力を依頼した。
平成20年度に作成した観点別評価基準50項目(8カテゴリー)の精選に向けて、残すべき重要な項目について検討し、次の5つの項目があがった。
(1)実践的指導力の向上、(2)基礎的な知識・技能、
(3)目標に基づいた評価、(4)活動記録、
(5)いじめ等への対応
(注)「カテゴライズの再検討が必要ではないか」という指摘あり。
(1)平成20年度にスポーツ指導者を対象に実施したアンケート調査の結果(観点別評価基準による自己評価(3段階))を用いて、因子分析(主因子法、固有値1以上の値についてバリマックス回転)した。
(2)因子分析の結果、因子負荷が1つの因子について0.4以上で、かつ2因子にまたがって0.4以上の負荷を示さない37項目を選出し、9つの因子が抽出された。
(3)因子毎に3項目以内になるように次の点を踏まえ精選した。
ア ワーキングにおいて重要とされた5つを残す項目とした。
イ カテゴリー内に4つ以上の項目がある場合は、信頼性分析により、関連の少ない3項目(クロンバックのα係数が低い組合せの3項目)に精選した。
ウ 9つの因子には次のように命名した。
第1因子:対人的指導力
第2因子:指導目標・計画
第3因子:人間性
第4因子:知識・理解
第5因子:マネジメント
第6因子:要支援者への対応
第7因子:関わり方
第8因子:創造性
第9因子:安全管理
エ 評価基準を23項目(9カテゴリー)に精選し、調査票を作成した。
4 アンケート調査の概要
(1)対象:スポーツ指導を継続的に受けている成人750名
ア 総合型地域スポーツクラブの成人会員 375人
イ 民間のスポーツクラブの成人会員 375人
(2)時期 平成21年10月から11月
(3)方法 各クラブ代表者が、対象者へ調査票を配付・回収し、郵送により体育センターに返送。
(4)回収結果 有効回答率は54.1%であった。
(5)回答者の属性
回答者の年代は60歳以上の方が約45%と多く、性別は女性が約72%と多かった。指導を受けている運動・スポーツの種目は、水泳が132名(約33%)と多いほかは、多岐にわたっていた。指導を受けている講座(教室)の主催者は、総合型地域スポーツクラブが約51%、民間のスポーツクラブが約49%とほぼ1対1の割合であった。また、スポーツを実施する際、重要と考えていること(1位として回答した項目)は、フェアプレーが約45%、スキルが約53%、勝利が約4%であり、勝利志向の者が、フェアプレーやスキル志向の者に比べて極端に少なかった。
(6)スポーツ指導を受けている人の指導者評価の結果
「よい」、「おおむねよい」がほとんどであり、「不十分」という評価は、どの項目も5%以下であった。
(7)指導者評価の結果に基づく因子分析
観点別評価基準による指導者評価(3段階)を用いて、因子分析(主因子法、固有値1以上の値についてバリマックス回転)した。結果は、3つの因子が抽出されたが、作成した調査票の9つのカテゴリー(因子)とは一致を見ない結果となった。
平成21年度に作成した調査票の9つのカテゴリーを基本とし、平成21年度の調査結果(因子分析)及び関係する文献等を参考に、項目の内容を吟味しながら作成した観点別評価基準案について検討した。
<主な意見>
本研究では、指導者の自己評価結果及び指導を受けている人の指導者評価結果により、2回の因子分析をしたが、指導者の自己評価と指導を受けている人による指導者評価では、因子構造が似ているとは言い難く、指導者と指導を受けている人では、評価のものさしの種類が一致しているとは言えなかった。
また、指導を受けている人の価値感により評価のものさしに違いがないか検討するため、「重要と考えること(フェアプレイ、スキル、勝利)」の回答によりグループ分けし、グループ毎の因子分析(主因子法、固有値1以上の値についてバリマックス回転)を試みた。(※勝利重要視群は、サンプル数が少なく分析が行えなかった。)その結果、フェアプレイ重要視群では5つの因子が抽出され、その因子構造は、指導者の自己評価を元に作成した調査票の9つのカテゴリー(因子)との一致を見なかったが、同様に5つの因子が抽出されたスキル重要視群では、因子数に違いはあるものの調査票の9つのカテゴリー(因子)と因子構造が概ね一致していることがわかった。
つまり、スキルの向上を重要視する人の指導者評価は、スポーツ指導者の自己評価と因子構造が似ており、両者は似た評価のものさしを持っていると考えられる。
以上のことから、指導者の認識する評価のものさしは、技能の向上を重要視する人たちとは似ているが、フェアプレイを重要視する人たちとは違いがある可能性が示唆された。
本研究により、スポーツ指導者には、「これが必要である」とひとまず、10項目を示すことができた。このことは、スポーツ指導者及びスポーツ指導者を目指す人の資質の向上に役立つだけでなく、当センターのようなスポーツ指導者の研修機関における的確なスポーツ指導者研修の構築にも寄与できると考えている。
今後の課題
今後は、この10項目の観点別評価基準を基軸とし、価値観の違う指導対象者毎の基準や種目毎の基準など、それぞれの指導現場によりあてはまる基準の作成や、さらには今回作成した評価基準のバージョンアップが必要であると考える。
大井町立大井小学校 高橋壮芳
今回の研究では、子どもたちが楽しく夢中になって取り組むことができるような運動課題を用意していきたいと考え、人数が1人から2人、3人、4人、6人と増えていく挑戦的な運動課題を設定することにした。この挑戦的な運動課題とは、段階的に難しくなっていき、子どもたちが何回も取り組みたくなるようなものととらえている。
この運動課題を設定することによって、子どもたちはグループで夢中になって何回も取り組み、1人での動きができるようになり、さらに、みんなでできるようになることで楽しさが得られるのではないかと考える。
以上のようなことから、3年生の学習内容として新たに設定された体つくり運動(多様な動きをつくる運動)における挑戦的な運動課題へのグループでの取組など、授業実践をもとに授業づくりに役立つ提案を行いたいと考えた。
平成21年9月18日(金曜日)から11月6日(金曜日) 8時間扱い
大井町立大井小学校
第3学年1組(36名)
体つくり運動
運動への関心・ 意欲・態度 |
いろいろな運動に楽しく取り組もうとする。 また、きまりを守って友だちとなかよく運動 |
---|---|
運動についての 思考・判断 |
運動が楽しくできるように行い方を考えた り、工夫したりできるようにする。 |
運動の技能 | 体を移動する動き、用具を操作する動き、 それらを組み合わせた動きができるように する。 |
ねらい1: | みんなとかかわり合いながら、体を動かす楽しさを味わう。 |
ねらい2: | 動きを確認しながら運動し、体を移動する動き、用具を操作する動きができる。 |
ねらい3: | 基本的な動きを組み合わせた動きができる。 |
ねらい4: | 動きを選び、工夫しながら運動する。 |
今回の体つくり運動では、挑戦的な運動課題として、グループの中で人数が増えていく活動を設定した。行った運動は、表1である。このような運動に夢中になって取り組むことで、体の基本的な動きができるようになってほしいと考えた。
表1 人数が増えていく活動
今回の授業では、時間ごとに「~人でできるように頑張ろう」とめあてを教師の方から子どもたちに投げかけている。基本的には、この投げかけためあてを、子どもたちはめあてとして取り組んでいた。
学習カードの「自分のめあてに向かって何回も練習できましたか」という質問に対する回答の結果から、2~3時間目は71%以上の子どもたちが、4~8時間目にかけては86%以上の子どもたちがめあてに向かって何回も取り組んでいることがわかった。
このことから、人数が増えていく活動が挑戦的な運動課題になったと考える。
今回の授業では、単元を通して同一メンバーでグループを構成し、人数が増えていく活動に取り組んできた。
図1は、子どもたちの友だちとの人間関係を評価する形成的授業評価の「協力」次元の平均と5段階評価の推移である。この次元は、「なかよく運動」「協力学習」の2つの項目で構成されている。授業が進むにつれて「協力」次元の評価が高くなっていることから、子どもたちはよい人間関係の中で学習していたと考える。
図1 「協力」次元の推移(形成的授業評価)
このことから、人数が増えていく活動にグループで取り組むことで、協力して、なかよく運動することができたと考える。
表2は、各段階までにねらった動きができた人数、めあてに達したグループの割合を表したものである。
子どもたち一人ひとりの動きに注目すると、「8、4、2、1のリズム」の運動は段階が進んでいっても3%の子どもができなかった。それ以外の運動では、段階が進んでいくうちに全員の子どもたちが1度はできるようになった。特に、「ムカデ歩き」「大なわケンパ」では、1段階でできた子どもが97%、88%だったが、段階が進む中で100%となっている。
グループとしての活動に注目すると、10の運動のうち、7つで80%以上の子どもたちがグループのめあてを達成することができた。「ムカデ歩き」、「みんなでジャンプ」、「バウンドさせて走ってボールキャッチ」では100%子どもたちがグループのめあてを達成していた。しかし、「キャッチフープ」は達成できなかった。
表2 各段階までにねらった動きができた人数、グループの割合
このことから、人数が増えていく活動に取り組む中で、ほぼ全員の子どもたちがねらった動きができるようになった。また、多くの子どもたちが、人数が増えても友だちの動きに合わせてできるようになったと考える。
子どもたちの運動欲求の充足度を評価する形成的授業評価の「関心・意欲」次元の平均と評価の結果は、どの時間も5段階評価の4という評価であった。この次元は、子どもたちにとって体育授業が楽しかったかどうかのバロメーターとなるものである。
このことから、人数が増えていく活動に取り組むことによって、体を動かす楽しさを味わうことができたと考える。
本研究では、体つくり運動(多様な動きをつくる運動)の授業における挑戦的な運動課題へのグループでの取組など、授業実践をもとに授業づくりに役立つ提案を行うことを目的に研究を進めてきた。
その結果をまとめると次のようになる。
〇 グループで取り組む人数が増えていく活動は、挑戦的な運動課題となり得る。
〇 単元を通して同一メンバーで取り組むことは、協力態勢など学びを深めるのに有効である。
〇 運動課題の達成が、楽しさに結び付く。
以上のことを踏まえ、体つくり運動(多様な動きをつくる運動)の授業において、「挑戦的な運動課題に取り組む」、「単元を通して同一のグループで行う」ことを適宜、授業に取り入れていくことを提案したい。
また、今後の展望として、運動を楽しく行う中で動きの習得をすることが重要視されているので、楽しみながら取り組める手立てを考えていくことが大切であると思う。私は、その手立ての1つとして、人数が増える活動を考えたが、その他にも回数、速度、距離など様々な課題があると思われる。子どもたちの実態や取り入れる動きなども考えながら、楽しみながら取り組める手立てを考えていく必要があると思う。
相模原市立大野北中学校 鈴木留美子
大野北中学校の2年女子生徒の実態調査からは、「体育の授業が嫌い・どちらかというと嫌い」と感じている生徒が2割おり、その理由に全員が「運動に対して苦手だから」と答えている。これは、これまで運動に対する成功体験があまりなく、苦手意識ばかりが先行してしまうためと考える。体育の授業では、すべての生徒が、「できた」という成功する体験を積み、自信をもって学習に取り組むことが重要と感じる。
また、「ベースボール型」のゲームでは、「ヒットを打つ」ことによって、攻防が展開される。つまり、「打てる」ことが、進塁や得点をする楽しさや、それらを阻止する楽しさを感じるカギとなっている。よって、「打てる」ようになることは、「ベースボール型」の特性を味わうために不可欠なものであり、生徒一人一人が確実なバット操作を身に付けていく過程で、「打てる」成功体験を積み重ねることにより、苦手意識をもつ生徒が自信をもって活動に取り組むものと考える。
そこで、本研究では、「ベースボール型」の領域を取り上げ、一人一人が打つ楽しさを味わえる学習を目指し、望ましいフォームでミートできるバット操作を身に付ける過程において、打撃の充実感を味わえる授業を、実践・検証し、ソフトボールの授業改善の一助を目的とする。
平成21年9月28日(月曜日)から11月25日(水曜日)13時間扱い
相模原市立大野北中学校
第2学年3組・4組女子(40名)
球技「ソフトボール」
ア 「運動への関心・意欲・態度」
ベースボール型の特性に関心をもち、楽しさや喜びを味わえるように取り組もうとする。また、お互いを尊重するなどフェアなプレイを守ろうとすることや、互いに分担した役割やチームの課題解決に向けて自らの考えを述べるなど、積極的に話し合いを通して学習の援助をしようとする。さらに練習場や用具の安全・体調の変化に留意して練習や競技をしようとする。
イ 「運動についての思考・判断」
運動の技術を身に付けるために、自己やチームの課題を見付けたり、課題に応じた練習方法やポイントを選ぶことができるようにする。また、仲間と役割に応じた協力の仕方や、運動を安全に行うための方法を選ぶことができるようにする。
ウ 「運動の技能」
基本的なバット操作と走塁での攻撃、ボール操作と定位置での守備などによって攻防を展開できるようにする。
エ 「運動についての知識・理解」
ベースボール型の特性や学習の進め方、技術の名称や具体的な行い方、関連して高まる体力などを理解するとともに、試合におけるルールを言ったり、書き出したりできるようにする。
ねらい1:基本動作を身に付ける。
ねらい2:身に付けた力でゲームを楽しむ。
生徒が、バットにボールを当て「打てる」ようになるための手立てとして、ティーボール、トスボール、スローボールといった場の工夫によるミートする学習と、ミニスイング、ハーフスイング、フルスイングの段階的な過程でフォームを作るための学習を行い、この2つの柱を同時に展開し、打撃の技術を高める過程において、充実感を味わわせることに取り組んだ。
図1は、1時間目と13時間目におけるスキルテストにおいて、ティー、トス、スローボールでのミート確率を比較したグラフである。ティーボールは1時間目から比較的に安定したミート数ではあったが、5本中4.1本から4.6本へと、より確実にミートすることができていた。トスボール、スローボールにおいては単純に比較することはできないが、トスボールは2.1本から3.1本へ、スローボールは1.6本から2.5本と、ミートする確率が伸びていることがわかる。
図1 事前・事後スキルテスト「投球ボールミート数の比較」
このことから、投球ボールが選択できる場の工夫により、生徒が自分の能力に合った投球ボールを正しく選択し、打撃練習に取り組む中でミートするバッティングを身に付けることができたと考える。
図2は、事後アンケート「大きなスイングが身に付きましたか」における人数の割合を示したものである。「とても身に付いた」「身に付いた」と答えた生徒を合せると、38名中36名で、全体の約95%であった。
図2 事後アンケート「大きなスイングが身に付きましたか」
図3は、事前・事後アンケート「正確なフォームができましたか」、における人数の割合を比較したものである。事前では「とても身に付いた」「身に付いた」を合わせて3名と少数であったが、事後では31名が、「とても身に付いた」「身に付いた」と答えており、全体の約82%の生徒が正確なフォームを身に付けたとしている。
図3 事前・事後アンケート「正確なフォームができましたか」
このことから、小さい動作から、大きい動作への段階的な学習を進める中で、生徒は正確なフォーム作りの技術ポイントを意識し、自分の能力に応じて打撃練習に取り組み、大きくて正確なフォームが身に付いたと考える。
図4 事前・事後アンケート「ボールを打って気持ちがいいと感じますか」
図4は、事前・事後アンケートの比較による「ボールを打って気持ちがいいと感じますか」における人数の割合を比較したものである。「とても感じる」「感じる」と答えた人を合わせると事前では38名中35名で、全体の92%であった。また事前では「あまり感じない」「感じない」と答えた生徒を合わせると3名であったが、事後では「とても感じる」と答えた生徒が12名増加し、「あまり感じない」「感じない」と答えた生徒は0に減少した。
図5は、事後アンケートによる「授業に取り組む中で、前よりも打てるようになってきたと感じましたか」における人数の割合である。「とても感じる」「感じる」と答えた生徒を合わせると38名中35名であり、全体の92%であった。
また、「あまり感じない」と答えた生徒は3名おり、「感じない」という生徒は0名であった。
図5 事後アンケート「授業に取り組む中で・前よりも打てるようになってきたと感じますか」
全員の生徒が、ボールを打って気持ちがよいと感じており、(図4)ほぼ全員の生徒が、学習に取り組む中で前よりも打てるようになってきたことを感じていた。(図5)また、学習を進める過程で、毎時間、上達感に関するコメントが生徒の感想に表れ、心地よさに関するコメントも、多くはないが時々感想に表れていた。打撃に興味をもった生徒には、その理由に上達感や心地よさについて述べている者が見られた。
このことから、生徒は学習を進める過程において、上達感や心地よさを感じる経験をし、打撃の充実感を味わっていたと考える。
打撃に着目した授業展開は効果的だった。多くの生徒に大きくて正確なフォームでミートするバッティングが身に付き、打撃の充実感を味わわせることができた。しかし、打撃に重きを置いたことで、ボールを持たないときの動きや、投げる・捕るといった技術を充分に習得させることができなかったことが反省である。また、話合いの場面も充分に設定できたとは言えず、短時間での話合いからは、仲間と連携した動きでの攻防や、課題に応じた運動の取り組み方を工夫するまでには至らなかった。もっと、グループでの活動を充実させるためにも互いの考えを伝え合う時間を確保し、生徒間の理解を深める必要があった。これはなによりも、自分自身のベースボール型の授業経験が浅く、13時間で身に付けなければならない豊富な技術に対して、見通しの甘い単元計画を立ててしまったことにある。
これを踏まえ、今後、授業を計画する際には、まず、小学校ではどのようにベースボール型の授業が行われているのか見学することから始め、生徒の実態を自分の目で確かめた上で学習内容の選定を行い、限られた時間の中で有効に学習ができるマネジメントを行っていきたい。そのためには、学習指導要領をよく理解し、例示を参考にしながら生徒に合った学習方法を考えていきたい。
県立津久井浜高等学校 佐藤登
今回の研究では、器械運動における「マット運動」を取り上げ、単元前半に出来映えについての共通理解を図り、後半では新たな技を取り入れることによって演技内容を豊かにし、出来映えを追求する演技づくりを中心とした授業を行うこととした。こうした活動によって、技ができる・できないだけに関心を向けることなく、自己や仲間の課題を考え、それに取り組み、生徒同士の教え合いが促され、演技する楽しさを味わうとともに、演技の質が向上すると考え、本主題を設定した。
平成21年10月5日(月曜日)から11月11日(水曜日)14時間扱い
県立津久井浜高等学校
第1学年男子
器械運動・マット運動
運動への関心・意欲・態度 | マット運動の、技のいろいろな組み合わせで表現できる楽しさや喜びを味わおうとする。 練習や演技を行う際に、グループで互いに助け合い教え合おうとする。また、仲間のよい動き方やよい演技を客観的に評価しようとする。 活動場所の安全を確かめ、健康・安全に留意して練習や発表会をしようとする。 |
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思考・判断 | 自己の技能や体力の程度を踏まえて、目指す技や技の組み合わせ方を工夫できるようにする。さらにそれらの技を組み合わせて自己に適した演技構成の仕方を工夫できるようにする。 技や技の組み合わせの習得や演技の出来映えを高めるための自己の課題に応じた練習方法を工夫できるようにする。 |
運動の技能 | 回転系や巧技系の基本的な技を滑らかに行うことができるようにする。条件を変えた技、発展技を行うことができるようにする。自己に適した技で、技の連続や組み合わせを行うことができるようにする。また、技の組み合わせの流れや技の静止に着目して、演技を行うことができるようにする。 |
知識・理解 | マット運動の、技の系統性に基づいた練習内容や方法及び、技の出来映えを高めるための練習内容や方法について、言ったり書き出したりできるようにする。また、自己の演技の出来映えを高めるための課題や課題を解決する方法及び、演技構成の仕方について、言ったり書き出したりできるようにする。 |
ねらい1:基本的な技を組み合わせ、演技の出来映えを高める。
ねらい2:自己に適した技を組み合わせ、構成して演技の出来映えを高める。
(1)「イメージ映像」について
教材としての器械運動において演技の質を判断する際に、まずは演技の理想像についての共通理解が重要であると考えられる。そして授業においては、生徒の実態に応じた演技の理想像をつくり、生徒に「どういう出来映えの演技を目指すのか」ということを具体的に示し理解させることが大切である。今回の研究では、演技の質を演技内容と出来映えから捉え、演技内容を「技」「技の組み合わせ」「マットの使い方」「姿勢の美しさ」とし、それぞれの出来映えを具体的に示し生徒との間に目指す演技の姿を共通理解した。(表1)
表1 生徒に示した演技内容とその出来映え
また、演技の採点においては、それぞれの演技内容の出来映えに関する理解を促すために、出来映えチェックシート(図1)を使用して演技内容ごとに、その出来映えを評価することとした。さらにこうした出来映えを理解し、追求することができるための手立てとして、映像資料や学習ノートなどの活用や、全員ができる技で構成された規定演技と、新たに技を取り入れた自由演技を行うことにした。
図1 生徒が記入した、規定演技の姿勢の美しさについての出来映えチェックシート
図2に示したように、6時間目の学習ノートに出来映えに関するコメントを記述した生徒は92%であった。このことにより、多くの生徒が出来映えについて理解したと考えることができる。
図2 「発表で頑張ること」における出来映えのコメント記述率(6時間目の学習ノート)
図3に示したように、演技の練習について、楽しかったと答えた生徒が、事後アンケートでは82%であった。このことにより、多くの生徒が演技づくりの活動を通して、演技の出来映えの高まりや練習に楽しさを感じていたと考えることができる。
図3 「演技の練習は楽しかったか」(事前・事後アンケート)
図4に示したように、グループで協力して練習できたと回答した生徒が98%であった。このことにより、発表会の採点方法の工夫やビデオカメラを活用した活動によって、多くの生徒の教え合いが促進されたと考えることができる。
図4 「グループで協力して練習できた」(事後アンケート)
図5に示したように、自由演技の構成に使われた技は、規定演技に入っている技からの、系統性に沿った発展技を多く取り入れていたことが分かった。このことにより、演技の内容が豊かになったと考えることができる。
図5 前転と後転及び側方倒立回転の技の系統と技の出現数
★印は規定演技及び自由演技の必修技
図6に示したように、側方倒立回転を大きく実施できる生徒が、単元後半に増加していることが分かった。このことにより、自由演技に必ず入れる技としたことや、技の出来映えとして学習した、大きさや腰の高さを意識した練習によって、出来映えが高まったと考えることができる。
図6 側方倒立回転の大きさと滑らかさ及び姿勢
*3・4組は4時間目の映像を使用した
今回の研究では、出来映えに着目した演技づくりを中心とした授業を行った。その結果生徒は、出来映えについて理解し、演技する楽しさを味わうことができた。つまり、できるようになった技をどのように演技として発表すればよいのかといった、技の習得の最終目標として演技があることを理解することができたのではないかと考えられる。このことから、入学年次は、出来映えに着目させた活動を行い、マット運動の「演技する楽しさ」を味わわせ、その次の年次以降は、技を習得する活動を積極的に取り入れ、演技内容をより豊かにして、「演技する楽しさ」がさらに広がるような指導計画を立てることが考えられる。
その計画の一例として、ここでは、単元前半に演技の流れは全員同じだが、中に含まれる技を選択してできる課題演技を行い、入学年次に理解した出来映えを再確認しながら、技を系統的に習得していく活動を行う。そして、単元の後半では、さらに技の習得に取り組みつつ、これまで行ってきた出来映えを追求する活動で得た知識を、最大限活用した自由演技を構成し、より質の高い演技の発表を目指した活動を行うことを考えた。
図7は今回の検証授業で使用した規定演技をもとに、津久井浜高校の生徒の実態から作成した課題演技である。この演技の中には、技を選択する箇所が5つあり、それぞれ同じグループの系統的な発展に沿って配置されている。これによって、例えば開脚後転ができる生徒は、伸膝後転を目指すといった、技の系統に沿った活動ができる。こうした計画を実践することにより、発展技をいろいろと組み合わせるおもしろさや、一人ひとりが自分らしさを表すことができる演技の楽しさが、さらに広がることを期待したい。
図7 技の系統的な発展により技を選択する課題演技(案)
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