国立成育医療研究センター総合診療部
統括部長窪田 満 先生
小児慢性特定疾病児童の自立に際して重要な、トランジション医療、移行期医療という言葉も、ようやく少し広まってきたかなと思います。
ただ、「今までの先生にはもう診てもらえないのではないか」「肩をたたかれ、追い出されるのではないか」という誤解も多いようです。そのため、Q&Aという形を借りて、トランジション医療に対する理解を深めていただければと思います。
A確かに以前は、患者さんに対し、「ずっと(一生)診ていく」という小児科医の思いや約束もあったと思います。
しかし、医学の進歩で多くの子どもたちを救命できるようになった反面、原疾患やその合併症を持ちつつ成人になる、小児慢性特定疾病を持つ患者さんが増えてきました。 そして、出産を含む成人としての健康管理や、小児ではなじみのない成人病への対応がいっそう重要になってきました。
そうした課題に対しては、成人を専門に診療している診療科の方がより良い医療を提供できます。小児科医は小児医療に特化してきており、成人期の診療をしたいと考えても確信を持って行える状況ではありません。
以上のことより、「ずっと診ていく」ということが実現困難な状況になり、「ずっと診ていく」から、「最善の医療を考える」にシフトするべきだと考えるようになりました。
成人期を迎えた患者さん一人ひとりにとって、最も適切な医療は何であるか、どこで誰が診療を担うべきなのか、それらを患者さん、そして御家族と一緒に真剣に考え、小児慢性特定疾病を持つ患者さんにとっての最善の利益を求めていくのがトランジション医療です。
A確かに、御指摘のように、疾患に詳しい成人診療科がないことがあります。そのような場合は、基本的には完全転科ではなく、小児科医が司令塔になり、関係する成人診療科と連携をとって成人期の診療を継続すべきと考えています。
それでもなかなか協力できる成人診療科がない場合もあります。しかし、数年後に医療情勢が変化して成人診療科の理解が得られることもあります。
今は成人診療科への移行が実現しなくても、将来に向けて一歩ずつ、一生が診られる体制を成人診療科と協働して実現する努力を止めないことが重要です。
A子ども自身が自分の病気を子どもなりに理解し、症状や治療にまつわる症状や気持ちに自分で気づきコントロールする力を支援することが「トランジション医療」の中心でもあります。
その子の年齢に合わせた取り組みであり、これをヘルスリテラシーの獲得といいます。そのための移行期支援プログラムや移行期支援看護師がいる病院もあります(国立成育医療研究センターは「トランジション外来」を開設し、この問題に精力的に取り組んでいます)。
確かに成人診療科への転科が困難な場合はあります。しかし、だからといって、ヘルスリテラシーの獲得がないがしろにされてはいけません。
まずは、自分の病気の病名が言えるのか、どういった病気であるか言えるか、飲んでいる薬があれば、その名前や作用が言えるかから始まります。
意外に多いのが、病名を知らない子ども達です。話をしてみると、「何か、訊いちゃいけないのかと思っていた」「知らなくてもいいって言われた」と子ども達は答えます。薬に関しては、「飲めと言われているから飲んでいる」が多いようです。
診察室で、医師と保護者だけが話していることがあります。それに対しても、「自分の事を大人が二人で話していて嫌だなぁと思っていた」「二人で話したいんだろうと思って口を挟まなかった」という子ども達の答えを聞きます。
以上のことから、遅くとも中学生になった時点で、疾患に関して詳しく教え、診察室では状況を自分で話せるようにし、服薬の意味を考えながら薬を自己管理するようにしていくことが大切だと考えています。それが自立に向けたヘルスリテラシーの獲得です。
Aリテラシーとは、元々、“letter”=「文字」が由来で、読み書き能力のことです。つまり、書かれたテキストを理解し、評価し、利用し、取り組む能力と言うことができます。
その上で、ヘルスリテラシーとは、以下の能力を指します。
1と2は、基本的なヘルスリテラシーです。
3と4はインタラクティブなヘルスリテラシーといわれるもので、より高度です。これは、自分が生きやすくなるための能力ともいえます。
5がさらに高度なヘルスリテラシーで、自分の利益だけでなく集団の利益に結び付くもので、患者会活動などが挙げられます。クリティカルなヘルスリテラシーと呼ばれています。これらを身につけることによって、疾患を抱えながら生きていく「大人」になることが何よりも大切です。
将来、「大人」になりゆく人をどう支援するかがポイントです。何でも手助けすることが重要なのではなく、「大人」としての能力を身につけてもらうことが重要なのです。
その年齢に合った、より良い医療を受けるために、より良い移行期を過ごすために、移行期を支える全ての登場人物に役割があると考えています。子どもは成長し、「大人」になります。彼らを取り巻く私たち大人も、それぞれの役割をもって、もっと成長すべき時ではないかと思います。
神奈川県では、小児慢性特定疾病をお持ちの方の自立を応援するために、イベントを開催しました。
日時 | 平成30年8月29日(水) 13時~16時 |
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場所 | 湘南台文化センター 市民シアター |
窪田 満 氏(国立成育医療研究センター 総合診療部統括部長)
慢性疾病を抱えながら、進学・就職された方やご家族の方等に、体験談をお話していただきました。
県立総合療育相談センターのスタッフがお手伝いをして、ご本人の状態に応じてご参加いただきました。
神奈川県 福祉子どもみらい局
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