「悪性新生物(小児がん)」は、小児慢性特定疾病に認定されている児童の人数が比較的多い疾患群です。医療の進歩で全体としては治る可能性が上がってきていますが、さまざま問題点も指摘されています。
たとえば、子どもは発育途中にあるため、治療の合併症がその後何年も経ってからあらわれることがあります。これを晩期合併症といいます。
また、がんに対して抗がん剤治療や放射線治療を行うことで、精巣や卵巣の機能が弱まり、妊娠する能力(妊孕性)が低下してしまうことがあります。
このように、小児のがんは、成人のがんとは異なる点も多いので、特別な支援が必要とされています。
今回は、小児がん治療の中核を担う神奈川県立こども医療センター 小児がん相談支援室の小児がん相談員 竹之内直子さんに、その取り組みについて伺いました。
地方独立行政法人 神奈川県立病院機構
神奈川県立こども医療センター 小児がん相談支援室 相談員
小児看護専門看護師
小児がんに関わって20年以上
地方独立行政法人神奈川県立病院機構が運営する神奈川県立こども医療センターは、昭和45年に設置された小児総合医療・福祉機関です。
こども医療センターは、平成25年2月に厚生労働省より小児がん拠点病院として指定を受け、同年4月に小児がん相談支援室を設置しました。そして、より効果的に、組織横断的に小児がんに対応できるよう、平成27年6月1日に「小児がんセンター」を設置しました。
小児がんセンターでは、情報提供や相談支援を積極的に行っています。お子様やご家族の「おはなししたいこと」にしっかりと耳を傾け、問題や悩みの解決が図れるように一緒に考えていくことに努めています。その役割の中心になっているのが小児がん相談支援室です。
室長は、小児がんセンター長でもある医師が務めています。
私は小児がん相談支援室の専従です。他にもこの病院のソーシャルワーカー全員が小児がん相談支援室も兼ねて担当しています。
学習面の相談では、こども医療センターの中に神奈川県立横浜南養護学校という病気の子のための特別支援学校がありますので、そこの教育コーディネーターさんの力を借りることもあります。
入院したらなるべく早い段階で、私は原則としてすべてのご本人・ご家族とお会いするようにしています。
そのときには、私が相談員であること、小児がん相談支援室があり、相談できる場所や人がいることを最初に説明します。また、支援内容によっては他のスタッフに振り分けます。スタッフはそれぞれ得意分野が異なりますので、それを得意とするスタッフにお願いしています。
具体的な相談もありますが、一番多いのはご家族の漠然とした不安や思いなどで、その気持ちを受け止めることが大切です。
他にもいろいろな心配ごとの相談に乗ります。
たとえば、主治医から治療の方法をいくつか提案されたときに、その相談を受けることがあります。セカンドオピニオンを聞かれることもあります。
他にも医療者に対する思いを打ち明けられることもあります。
入院の初めのころには、学校とか周囲に病気のことをどのように伝えたらよいか、お子様にどのように説明するか、ごきょうだいにどのように説明するのが良いか、などを聞かれることも多いです。
退院後の相談もあります。
就学や就業のことは、ご本人からも、親御さんからも相談されます。
復学支援については、南養護学校の教育コーディネーターさんが強い味方です。復学時には地元校の先生と連携して会議を行ったりしています。
就業支援については、晩期合併症があったりすると仕事に就くのは簡単ではない場合もあるので、一緒に考えていきます。
医療費の相談もあります。医療費の補助をはじめ、社会資源の説明はソーシャルワーカーが得意です。個人個人に合わせて利用できる各制度を説明したり、作成したリーフレットを使って情報提供したりしています。
AYA世代(Adolescent & Young Adult 思春期・若年成人)のがん治療では妊孕性のことが問題になることがありますが、ここは年齢の低いお子様が多いので、該当する支援の対象者は多くはありません。ただ、年齢的にご本人に話をすることが大切で、必要な時にはその説明を手伝うこともあります。
また、院内、院外からのメールを利用した相談もあります。
基本的に、相談は私だけの秘密にすると約束して話を聞きます。
それでも、私だけの秘密にしていても良いことがないな、と思うこともあるので、そのようなときにはご本人の許可を取って、周囲に相談をすることもあります。
そして、どうしたら良いのかを関係するスタッフと一緒に考えています。
入院している方には、「AYAの会」のイベントを年に3回くらいしています。
ここに入院しているのは年齢の低いお子様が多いので、どうしても行事は小さいお子様を対象としたものが中心になります。
そこで「中学生以上だけ」が参加できるイベントとして、「花火」・「映画」・「ゲーム大会」などを開催しています。
ゲーム大会では、ただゲームをするだけではもったいないので、彼らが語れる機会をつくる、などの工夫をしています。たとえば、「この場だけの秘密」というルールで、「自分が一番つらかったこと」や「嫌いな病院食」などをきっかけに話してもらったりします。
そのような場を通して、ご本人たちはたくさん考えていることや、思いを言語化して伝えられることなどが分かります。
また、病棟では「Teen's Room」として、18時以降に中学生以上の子が自由に使える部屋を用意しています。そこではワイワイガヤガヤおしゃべりをするのも、みんなでDVDを見るのもOKです。
退院した方に向けては、「経験者の会」を年に1回実施しています。高校生以上の治療が終わった方に案内しています。
この会の回数を重ねるうちに、ご本人だけでなく、ご家族にも支援が必要なことが分かってきました。そこで、「経験者の会」には希望するご家族も一緒に来ていただいてよいことにしました。そこではまず、集まった皆さんに向けて私たちから情報提供をします。次に親と子で分かれて、それぞれの思いを話す場を用意しています。
中高生以外にも、家族教室といって治療を終了した方が集まる機会を年に1回程設け、治療後の生活、晩期合併症、自立支援の話などを提供するほか、ご本人やご家族が抱えている悩みなどを共有する場を設けています。
絶対に、助けてくれる人はたくさんいます。「こうしてほしいな」、「助けてほしいな」と思ったことは、誰でも構わないので、言える相手に言ったほうが良いと思います。
たとえば「留年したくない」、「高校に行きたい」など、あなたの希望を伝えてください。周りの人は、一緒に考えてくれるはずです。
それでも、誰のせいでもない、仕方のない場合もあるかもしれません。
たとえば治療の時期や状況によっては、進学や進級などの希望がかなわない、などです。
それでも、今思っていることは、誰かに伝えると、そのことについて、少しでもいい方法を考えることができるので、伝えたほうが良いです。「もっともっと、発信していいんだよ」ということを知ってほしいと思います。
あなたが乗り越えてきたことは、ものすごい経験です。
でも、だからといって、その分頑張らなければならない、ということでもありません。
がんを乗り越えた経験を周りの人に伝えるのも、伝えないのも、あなたの自由です。とらわれすぎると辛いかもしれません。
正解はありません。自分を信じて、またそうしたい時は、誰かに頼ったりしながら、自分の居心地の良い生き方をしてください。
がんになったとしても、自分らしく生きて、ということを伝えたいです。
神奈川県立こども医療センター 本館1階7番窓口 「小児がん相談員」をお尋ねください。
神奈川県 福祉子どもみらい局
子どもみらい部 子ども家庭課 家庭福祉グループ
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