あなたのみらいを見つけに行こう!

「あなたのみらいを見つけに行こう!」は、慢性疾病にり患する児童のすこやかな成長と自立を支援するwebサイトです。
神奈川県子ども家庭課が運営しています。

メニュー

明日につながる「音楽」との出会い
~芸術活動を通じた小児慢性特定疾病児童の支援~

闘病中に音楽と出会った少年と、音楽で彼を励ましたシンガーソングライター石橋和子さん、彼を支えたご家族のエピソードです。

いきなり即興でセッション ~入院中の音楽との出会い~

横浜市の一知(イチ)くん(当時6歳)は、前駆B型細胞急性リンパ性白血病の治療のため、神奈川県立こども医療センターに長期入院していました。
小学校に入学するのを楽しみにしていたのですが、入学式から10日ほどしか小学校に通えないまま始まった入院生活でした。

長い入院期間中、病棟を移ったことがありました。仲良くしていた看護師さんやお友達と離れ、寂しい時間を過ごすことになりました。
しかも口内炎が酷くて食事を2週間ほど取れなかったので、栄養点滴をしている状態。体力も筋力も落ちてしまい、歩けないため車椅子を使用していました。

つらい日々を送っていたある日、スマイリングホスピタルジャパンから、シンガーソングライターの石橋和子さんの訪問がありました。
そのときの活動は「歌とリズム遊び&こどもジャズ」でした。

一知くんがピアノを弾いている様子

石橋さんは、ピアノでメロディを奏でながら、プレイルームに素敵な歌声を響かせました。その音楽を聴いて、入院中の子どもたちや、付き添いのご家族は、どんどん笑顔になっていきました。

活動中、ずっと興味津々でピアノを見ていた一知くん。その様子に気づいた石橋さんが、「弾いてみる?」と声を掛けました。
すると一知くんは、いきなり両手で演奏。無心で鍵盤を叩き続けました。
それならと、石橋さんが低音でブルースを弾き、高音で一知くんが自由に弾く。即興のセッションになりました。

周りにいた人たちは「一知くん、すご~い!」と驚きました。
一知くんが音楽に目覚めた瞬間でした。

入院生活に音楽がある喜び

その日の活動後、一知くんのお母さんが、石橋さんに打ち明けました。一知くんを音楽教室に通わせたかったのに、いくつかの教室に断られてしまった、と。
お母さんの悲しそうな様子を見て、何かしたいと思った石橋さん。スマイリングホスピタルジャパン代表理事の松本さんや、病院の了解も得て、一知くんと特別な時間をもつことにしました。

スマイリングホスピタルジャパンの活動が終わってから、プレイルームで一知くんと電子ピアノで遊びました。
もともと音に興味があった一知くんは、その時間をきっかけに、ピアノが大好きになりました。

訪問後、一知くんは徐々に元気を取り戻しました。
ご飯も食べられるようになり、笑うようになり、看護師さんやお友達とも関わりをもつようになりました。

そして、その年のクリスマスには、なんとサンタさんから電子ピアノのプレゼントがありました。
ボタンを押すといろいろな音色が出るピアノに、一知くんは夢中になりました。

一知くんのお母さんが振り返ります。
「スマイリングホスピタルジャパンの訪問時に子どもが笑顔になることで、私も心が安らぎました。時には子どもそっちのけで親である私が真剣に参加することもありました。そして、親子で次の訪問を楽しみに待つようになりました。」

退院から7年、今も音楽が好き

一知くんの入院期間は1年以上になりましたが、8歳のお誕生日の直前に退院。それから7年が経ちました。
当時のことを聞くと、一知くんは「薬はイヤだったけれど、ピアノは楽しかった。」と振り返ります。つらい治療のことも、ピアノに触れたことも、どちらも入院生活の思い出になっているようです。

音楽に興味をもち続けている一知くんは、お祭りの和太鼓にハマったこともありました。今でも音楽が大好きで、聴くことはもちろん、聴きながらキーボードを弾いたりして楽しんでいます。

いつか車を運転してみたい、という夢もあります。

そんな一知くんを見て、お母さんは「闘病中に病院で音楽に出会えたことが、こうして今につながっていると感じています。スマイリングホスピタルジャパンの活動に感謝しています。」とおっしゃいました。

音楽に夢中になっているイメージ

アーティストの思い~音楽を通して魂が触れ合うような瞬間を作り出したい~

「一知くんは、初めてブルースセッションをした男の子です。今では訪問活動の最後にピアノでブルースの連弾をするのが恒例になっていますが、あのときに一知くんがチャレンジしてくれたことがきっかけ。それが今につながっています。」

2012年からスマイリングホスピタルジャパンの活動に参加している石橋さんは、一知くんのチャレンジ精神に感謝しながら、当時のことを振り返っていました。

ベッドサイドで石橋さんがピアノを演奏している様子

石橋さんに、病院で活動するときの思いを聞きました。

「限られた自由の中で、家族から離れてつらい治療に耐えている子ども達に、一瞬でも、痛みを忘れて、少しでも楽しいと感じてくれる時間が作り出せたら、と思っています。 病気の子どもたちとは、もちろん医療的・心理的ケアは必要になりますが、基本的には健常者と同じように、自然に接するようにしています。尊厳を持った人間対人間として向き合い、ほんの一瞬でも、音楽を通して魂が触れ合うような瞬間が作り出せれば幸せです。」

石橋さんは、最近はスマイリングホスピタルジャパンの在宅訪問学習支援「学びサポート」の活動にも参加し、お子さんの自宅を訪問して「音楽」を通してコミュニケーションすることの楽しさを学んでいるそうです。
「実際の楽器を弾くことはできなくても、少しでも動かせる視線や指や頬の筋肉等を利用すれば、デジタルでいろいろな音を出すことができるようになりました。 先日は、重度のハンディキャップがありながら機器を使いこなして演奏した男の子とセッションしました。彼のリードで歌う私は、完全に音楽の中で対等で、お互いが今を生きている実感がありました。鳥肌が立つほど感動しました。」という素敵な体験も教えてくれました。
「社会全体で、病気やハンディキャップのある方たちとの距離が縮まってほしい」。石橋さんはそう願っているそうです。


シンガー・ソングライター 石橋 和子さん

1978年 コカ・コーラ主催の「フレッシュ・サウンズ・コンテスト」で全国大会優勝。1981年 ビクター・インビテイションより全作自作の1stアルバム「Nice to Meet You」でデビュー。続いて2ndアルバム「ノラが扉をあける時」リリース。ラジオ、CM、コンサート等の活動後、結婚・出産・育児のため音楽活動を一時休止。
「もっと歌ってほしかった。」という母の一言で、20年ぶりにカムバック。2007年CD「祈り」リリース後、都内を中心にライブ活動する傍ら、認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパンにて音楽で子ども達に笑顔を届ける為に奮闘中。

石橋和子さん顔写真

闘病を頑張った経験を自信に、将来への力に変えていって

松本惠里さんからの応援メッセージ (認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン代表理事)

松本 惠里さん顔写真

松本 惠里さん

この活動を始める前、私は院内学級の教員をしていました。自由のきかない環境で、病と闘い、つらい治療を受けながらも、授業に参加したりベッドの上で宿題をしたりしながら頑張っている子どもたちの姿に心を動かされたものです。そして、他人の痛みをわかり支え合う思いやりの深さや、治療を頑張ろうとする健気さには圧倒されました。

私自身、交通事故で奇跡的に命を取り留めて長期入院した後に教員免許を取得した、という経緯があります。そして配属された院内学級。自分こそが病院の子どもたちに寄り添える、という思いで迎えた初日早々、子どもたちこそが、大切なことを身を以て教えてくれることを知りました。
そのような、頑張ること、我慢することの多い子どもたちに、ワクワク夢中になれるような活動を定期的に届けたいと始めたのが、現在運営しているスマイリングホスピタルジャパンです。

私たちは入院生活に参加型の芸術という情操活動を届けるために病棟や施設に行きますが、院内学級の時と同じ、やはり応援を受けるのはむしろ私たちのほうです。 芸術活動に夢中になって豊かな感性を発揮する姿そのものに大きな勇気をもらうのです。
ある芸術家は「芸術は自己満足だ」と言っていました。しかし、芸術こそが人を元気にする、ということを子どもに教えてもらい、自信を取り戻したそうです。

病気を治すことを目的に病院にいると、医師や看護師の指示に従いますし、一日の生活スケジュールが病棟の事情に合わせて決まっているため、どうしても受け身になりがちですね。しかし、何かを描いたり作ったり、または音楽を聴いたりして様々なアートに触れ、自分を表現してみてください。物理的に制限が多い中でも、何かに夢中になっていると、心はきっと自由に解放されます。

入院中の活動範囲は病棟の中だけで、会いたい人に会えないこともあるでしょう。不自由な生活の中で時には投げやりな気持ちになったり、将来を不安に思ったりするかもしれません。そんな中でも、創作したり文章を書いたり自分らしくいられる時間を作り、それを支えに入院生活を乗り越えていってください。

人生において新たな困難にぶつかることもあるかもしれません。でも大丈夫、闘病を頑張った経験を自信に、将来への力に変えていってください。


松本 惠里さん

東京大学医学部附属病院内 都立北特別支援学校院内学級英語教員、国立成育医療研究センター内 都立光明特別支援学校院内学級同教員として勤務後、病院や施設で闘病する子どもにプロによる参加型の芸術活動を、在宅医療を受ける重度障がいの子どもに学習支援を提供するNPO法人スマイリングホスピタルジャパンを設立。
「不自由な中でも芸術や学びを通して生きる力を育み、心の自立を目指し、豊かに成長してほしいと願っています。さらにそのような経験を様々な困難に立ち向かうための原動力にしてほしいと思っています。」

スマイリングホスピタルジャパン ロゴ(別ウィンドウが開きます)

認定NPO法人 スマイリングホスピタルジャパン

“Happiness Helps Healing” 「楽しむことは治癒を助ける」 を理念とし、闘病中の子どもたちに本物のアートを届ける非営利団体です。

公式ウェブサイト:https://smilinghpj.org

公開:2020年9月
PAGE TOP