当所では、都市益を効果的に活かす都市農業経営について研究を進めています。
1970年代、神戸賀壽朗氏(※)は、当時の神奈川県内の農業経営を研究する中から、農業に対してマイナスに作用する都市化の影響を「都市圧」、プラスに作用する都市化の影響を「都市益」と呼び、都市農業を都市圧と都市益のせめぎあいにあるものとして捉えました。
※ 神戸賀壽朗(1973)『都市農業-農業と緑の最前線-』 農政調査委員会
県内農業のこうした状況は、都市圧と都市益の中身に変化はありますが、概ね現在においても変わっていません。
図1 都市益と都市圧がせめぎあう都市農業
都市圧には、高地価、高賃金などがあります。特に高地価は、高額な課税をもたらし、農家は相続などを機に農地の転用を余儀なくされ、現在も都市農業にマイナスに作用しています。
図2は、地価が高い地域ほど、農地が転用されてしまうことを示しています。
図2 地価と農地転用面積割合の相関
資料:
神奈川県政策部(2008)「市区町村別用途別平均価格・平均変動率表」
農林水産省(2008)「平成20年耕地面積(7月15日現在)」
神奈川県農地課調べ農地法に基づく農地転用の許可又は届出の面積(2008年分)
注:農地面積の小さい一部市町村は除いています。以下同じ。
一方、都市益には、農産物販売上有利な立地、資材購入上有利な立地、整備された社会資本(道路など)、労働力の確保の容易さなどがあります。
地価が高い地域ほど、人口密度は高く、農産物を購入する多くの消費者が農家の近隣に暮らしていると見ることができます。すなわち、地価が高い地域では、農産物を消費者に直接販売しやすいという都市益が存在します。
図3は、地価が高い地域ほど、消費者に直接販売する農家が多い傾向にあることを示しています。寒川町、開成町、湯河原町についてはこの傾向からはずれていますが、この3町を除いた場合の相関係数は0.5151です。
図3 地価と消費者に直接販売している農業経営体割合の相関
資料:
神奈川県政策部(2008)「市区町村別用途別平均価格・平均変動率表」
2010年農林業センサス
結果として、都市農家は都市圧に対抗して都市益を活かし、都市農業を営んでいる、ということができます
。図4は、地価が高い地域ほど、農産物販売金額700万円以上の農家が多い傾向にあることを示しています。川崎市についてはこの傾向からはずれていますが、これを除いた場合の相関係数は0.4975です。
図4 地価と販売金額700万以上の経営体割合の相関
資料:図3と同じ
注:三浦半島型の経営である横須賀市と三浦市は除いています。
このような農産物販売上有利な立地に加え、近年は新たな都市益が現れています。「就農まで至らないが耕作してみたい」という都市住民が近年増えており、こうした都市住民の存在は、援農などにより農家をサポートする新たな都市益として捉えることができます。
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