人材不足時代の本格到来 重要性を増すカルチャーフィット

これまで以上に人材が不足する時代がやってくる

今回は、人材不足時代が本格的に到来している現在、カルチャーフィットの重要性について説明し、その上で就職氷河期世代の採用・活用にどのようにその考え方を生かすことができるのかを考えてみたい。

 

グラフは、近年の完全失業率と、有効求人倍率の推移です。2019年から3年ほどコロナウイルスの蔓延により、外食業や観光業などの産業を中心に雇用状況が悪化したため、完全失業者が増加し、有効求人倍率も低下しました。しかしながら、2009年や2010年のリーマンショック後の基調路線であった人手不足感はコロナ禍においても社会全体では失業率もそこまで高まらず(雇用調整助成金などの効果があったと考えられます)、また有効求人倍率も2021年の1.13倍を底にその後は上昇傾向にあります。

有効求人倍率は、1求職者あたりどれくらいの求人案件が競合するかを示す数値で、この数値が高くなるほど採用が難しくなると考えられています。このように考えると、2010年代後半の人手不足が社会問題として認識されていた状況に近づいてきていると考えられます。

コラム画像
(総務省統計局 「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」を基に筆者作成。2024年有効求人倍率は1月〜3月分の平均値)

今更繰り返すまでもありませんが、現在の日本は人口減少が続いており、毎年のように子どもの数が戦後最少という報道がされています。大学進学率の上昇により大学卒業者数は横ばいが続いてきましたが、これも今後は減少していくことが見込まれています。労働力を確保するために高齢者や女性の社会活躍を官民一体で推進してきていますが、人手不足、労働力不足はこれからのスタンダードとなってくるのは間違いないようです。

下のグラフは、職業別の就業者数(就業者シェア)の推移です。

日本では中期的には、工場における生産ラインや、小売店の販売業務など、定型の業務を行う人材のニーズは減少してきた一方で、高度な専門知識や技術を用いて付加価値を生み出す人材や、非定型のサービスを提供する業務を行う人材のニーズが高まってきていることが分かります。労働経済白書では、「定型業務の人工知能やロボットによる置き換えが進めば、このような非定型業務の重要性が高まる流れが更に加速していくことが予想される」と述べられています。

今後も、今の人手不足はなかなか解消されないことが予想されているのです。

コラム画像
(令和4年度「労働経済白書」から抜粋)

「労働供給制約社会」という言葉が、話題を集めています。

この言葉は、若者の雇用問題について研究している古屋星斗氏を中心にまとめられたレポートで提起されたものです。2040年に向けての労働力不足のシミュレーションが立てられ、これからは人手不足を前提とした経営や人事労務に転換していく必要性について述べられています。

とりわけ2030年頃から急激に労働供給量(働きたい人の量)と、労働需要量(雇いたい量)のギャップが開いていく様が描かれており、今のうちに対応策を検討しなければ、いずれ多くの企業が経営に困ることが分かります。

採用活動におけるカルチャーフィットの重要性

人手不足の時代に人事労務の観点で取り組むことは、「採用活動を頑張る」ことと「早期退職を減らす」という2つです。

採用活動を頑張って、自社にとって適材を採用することができれば素晴らしいのですが、バスタブに水をどれだけ入れても、栓が抜けていればせっかく入れた水がどんどん抜けていってしまいます。どちらを優先して取り組むべきかと考えた際に、まずはバスタブの栓を閉めることから始めたいです。採用活動を無駄にしないために。

早期離職と通常の離職は、多くの場合で理由が異なるとされています。早期離職は「思っていた仕事と違う」「思っていた環境と違う」など、入社前に思い描いていた仕事内容や職場環境、人間関係が実際とは違っていたことから、ダメージが大きくなる前に辞めてしまうものです。他方、通常の離職では人間関係のもつれや軋轢、給料や処遇の問題、成長実感が持てないことや本人のライフイベントによる環境の変化など離職理由も多様で、複合的であるといえます。離職を劇的に減らすということは経営者が抜本的な変革を行うなどすれば可能かもしれませんが、組織風土や処遇、働き方、事業内容を人が辞めないようにシフトさせていくには時間も権限も労力も必要となります。そのため、ここでは、より手早く対策を講じることができる「早期離職の予防」について取り上げたいと考えます。

「最近の若者は辞めやすい。」という言葉はもう20年も30年も前から言われているような気がします。3年で3割辞めるというのもよく言われますが、実はそれは昔も今もそれほど変わりません。大きな変動要素は、景気の良し悪しです。

好景気であれば、どの企業も採用活動を頑張るので、求人市場が盛り上がります。そうした時に若者に限らず、転職希望がある人や、今の職場に不満を抱える人は、「今なら転職もうまくいく」という思いを抱き、転職活動をするのです。自分の友人知人が転職して、耳よりな情報(「前よりも給料が良くなった」など)を聞けば、とりあえずインターネットで求人サイトに登録して転職活動を始めるきっかけになるかもしれません。好景気や有効求人倍率が高い時期に早期離職は増加するのです。

先ほど、現在、そしてこれからの有効求人倍率や人手不足状況の予想などを紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。今も、これからも人手不足の状況は(業種にもよりますが)進んでいくのがほぼ確実です。そうなってきた時に、早期離職のリスクはこれまで以上に高まることが考えられ、企業にとっては、この部分に注意して採用活動に取り組む必要性が出てくるのです。

早期離職が起きてしまうと、採用した企業にとっていくつものデメリットが生じてしまいます。これは改めていうまでもありませんが、採用した経費が無駄になってしまうことだけではなく、教育にかけた人件費や経費、指導側の徒労感や落胆、残った職場メンバーの仕事の増加などです。早期離職によりギスギスした職場になって、連鎖退職につながるリスクも抱えています。

それでは早期離職を予防するために、何ができるのでしょうか?

先にも述べましたとおり、早期離職の原因は「イメージと現実とのギャップ」が大半だと言えます。そう考えると、入社前と入社後のイメージと現実を近づけることが最適な方法だと言えます。具体的には、①入社後の現実を入社前にしっかりと伝える、②会社の組織風土や人間関係、仕事内容にフィットする人材を採用する、を指します。

 つまり、「カルチャーフィット採用」を実施することで、早期離職を減らすことができるのです。

就職氷河期世代のカルチャーフィット

一般的に年齢が上がるにつれて、職場への定着率が高いとされています。

コラム画像
(厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」より抜粋)

         

いくつかの調査や統計がありますが、新卒と中途入社の社員を比較しても、総じて中途入社社員の方が定着率は高いようです。

         

これにはいくつか想定される理由が挙げられます。一つは、働くことに対する現実感が職務経験を通じて獲得されることや、イメージと現実とのギャップがなくなることです。就職氷河期世代ともなると、これまで多様な職場で多様な上司や同僚と、様々なマネジメントの仕方の中で仕事をしてきた経験があります。苦労した経験、辛酸をなめた経験があれば、入社前にそれほど大きな期待は抱かないでしょうし、入社後の働くイメージができる職場を自分で選択することが可能です。そうとは言え、40歳や45歳、または50歳という節目の歳ごとに求人数が減ってくる状況の中では、無理して就職先を選択することもあると思うので、そうした場合はイメージと現実とのギャップに気付いていながら入社することになります。こうしたケースではフォローアップが欠かせません。ともあれ、中途社員、とりわけ就職氷河期世代で多様な経験を積んできた人材は、そもそも現実の仕事をイメージできていることが多く、カルチャーフィットしやすい人材であると言えるでしょう。

         

企業の皆様にとって、どうすれば早期離職が少ない採用活動=カルチャーフィット採用を実現することができるのでしょうか。

         

よく知られている方法に、RJPという手法があります。これは「Realistic Job Preveiw」という英語の頭文字をとったもので、英語で表されている通り、「現実的な仕事内容を事前に見せる」というものです。この有用性はかなり以前から証明されており、具体的な活動として、「インターンシップ」や「職場見学」、「求人情報ページでの先輩社員の一日、仕事内容の紹介」などの工夫がされています。

         

就職氷河期世代に対しても、こうした施策が有効なのは言うまでもありません。確かに人生経験、多様な職場での経験が豊富だと言っても、自社のカルチャーは実際に入ってみなければわかりません。就職氷河期世代採用においても、事前の職場見学や社会人インターンシップ制度を生かす取り組みがこの間(2020年度からの就職氷河期世代集中支援期間)でも進められてきました。社会人インターンシップといえば大袈裟ですが、体験入社と捉えると比較的ハードルは下がるのではないでしょうか。実際にその職場で1日でも2日でも働いてもらい仕事内容を把握してもらうことや、職場のメンバーと話をしてもらう、一緒に昼食をとるといっただけでも、その会社のカルチャーを肌身で知ることができるはずです。

         

また採用選考においても、これまでのコラム記事で何度か紹介してきましたが、本人がどのような経験を積んできたのか、どのような職場で働いてきたのかを詳しく面談で聞くということは採用担当者側で行えるカルチャーフィット採用です。どのようなことに興味関心があるのかを聞き、またどのような理由でこれまでの職場を退職してきたのか。その理由を聞いていく中でその求職者が合う職場像や人間関係像が見えてくるはずです。本人自身が把握していない可能性もありますので、共感の姿勢を持って話を聞き出すことができる同世代の人が人事の方とは別に同席してもらえたら、面談時の話の幅も広がると思います。

著者・藤井

藤井 哲也(ふじい・てつや)

株式会社パブリックX代表取締役。1978年生まれ。大学卒業後、規制緩和により市場が急拡大していた人材派遣会社に就職。問題意識を覚えて2年間で辞め、2003年に当時の若年者(現在の就職氷河期世代に相当)の就労支援会社を設立。国・自治体の事業の受託のほか、求人サイト運営、人材紹介、職業訓練校の運営、人事組織コンサルティングなどに従事。2019年度の1年間は、東京永田町で就職氷河期世代支援プランの企画立案に関わる。2020年から現職。しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当も兼ねる。日本労務学会所属。