県内で広がる生涯学習

インタビュー

県内で広がる生涯学習についてお伝えします。
地域に根ざした取り組みなども生涯学習の一つです。

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ボランティアが主体的に活動する
自然環境保全センター

今回ご紹介するのは、厚木市にある「神奈川県自然環境保全センター」で、自然環境の保全・再生に取り組み、学びを深めながらボランティア活動をなさっているお二人です。野生動物救護ボランティアとして活躍されている渡辺さんと、神奈川県フィールドスタッフとして自然観察会等を担当されている小松さんにお話を伺いました。

自然環境保全センター本館2階ブナの森ギャラリー

「軽い気持ち」で「たまたま」見かけた募集広告から

自然環境保全センターでボランティアを始めたきっかけを教えてください。

渡辺:1997年に、傷病鳥獣保護ボランティアのメンバー募集広告を見て申し込みました。1期生です。もともと野生動物が好きで、『ひなを育ててみませんか?』という楽しそうな広告が目に留まって、軽い気持ちではじめました。10年ほど活動を続けているうちに、ボランティアとして言われたことをやっているだけでは幅が広がらないことに気づき、もっと普及啓発というか、鳥獣保護の現状を広く伝えていきたいと考え、2006年に野生動物救護の会を立ち上げました。その後、2007年にはNPO法人格を取得し、正式に理事長にさせられて(笑)、すっかりのめり込んでしまいました。

小松:私がフィールドスタッフのボランティアを始めたのは58歳の時、定年2年前になります。子どものころから兄と一日中お昼ご飯も食べずに、自然豊かな山の中を遊び場にしていました。大人になると、職場に山好きの後輩が入ってきてさらに行動範囲も広がり、一緒に色んな所に行きました。ある日、尾瀬の植生回復の現場に遭遇し、泥がぐちゃぐちゃに荒れた状況を目の当たりにした時、「これはひどいな」と思い、「何か自分にできることはないか」とずっと考えていましたが、現役時代は何もできませんでした。そして、定年を間近に控えた時に、たまたまボランティアの募集を見かけて参加することになりました。ちょうど酸性雨が話題になっていた時だったかな。昔はブナの木が覆いかぶさるように茂って薄暗かった丹沢が、いつの間にか木が枯れ、空が見えるくらいスカスカ。それに危機感を覚えたことも重なりました。

野生動物救護ボランティアの渡辺さん

やりがいは、「自然環境保護」と「自分の活動」とのつながり

活動している中でやりがいや喜びを感じるのはどのような時ですか。

渡辺:野生動物を自然に返す時ですね。保護動物の中でも、私は特に猛禽類にはまったのですが、猛禽類は治療が終わっても訓練をしないと野生に戻れないんです。狭いケージで長期間すごしていたので、自分で狩りができるところまで、体力や筋力をもとに戻してあげることが必要です。すっかりはまってしまった私は、鷹匠に弟子入りをして、猛禽類の訓練ができる知識と技術を身につけました。センターで保護した鳥を家であずかり、毎日外でとばす訓練をします。まず腕に乗せることから始め、つけた紐を少しずつ延ばすことで飛距離を伸ばしていき、最終的には、紐を外してもフリーで返ってくるようになるまで。オオタカなどで2か月、小さめのチョウゲンボウなどは1か月ほどかかります。訓練をしているうちに、目つきが変わってくるんですよ。

小松:子どもの発見が面白いですね。ある観察会で、蝶が飛んできて、大人は蝶ばかり見ていたのですが、低い木の葉っぱの裏に「何かいるよ」ってカメムシを見つけた子どもがいました。これが、丹沢では非常に珍しい種類だったのでびっくりです。子どもの「おじさんこれなぁに?」が大切だと思っています。子どもは本来虫が好きなはずなのに、親が嫌いだと子どもも嫌いになってしまいます。「好き」をいかに大切に長く続けられるか、そしてそんな子どもたちの気づきや目線を、自然環境保護につなげるのがセンターの役割であると思っています。それがやりがいにつながりますね。

 神奈川県 フィールドスタッフの小松さん

活動の要は、「人」

活動の中で難しさを感じることはありますか。

渡辺:まず、ボランティア同士の調整ですね。最終的に目指す目的や方向性は同じでも、いろいろな考え方がある中で、会を円滑に運営していくこと、全員に気持ちよく活動していただくことに難しさを感じることがあります。楽しいだけではできないことも多いですから。また、イベントに追われてしまう時も大変です。特に秋は集中しますね。学校から突然環境教育の依頼が入ることもあります。あとは、保護した動物を野生に放つ時、喜びもあるけれど、やっぱり寂しいかな。訓練しているとコミュニケーションが取れるようになってくるので、最後は、野生に戻っても人に近寄らないようにわざと嫌われるようにします。捨てるような気持ちにならないといけないので辛いです。

小松:スタッフの確保が大変かな。120人の幼児と観察会なんてこともあるんです。私がフィールドスタッフになった当時80人ほどいたメンバーが、今は38人になってしまいました。現在、二つの団体(NPO法人かながわフィールドスタッフクラブと神奈川県自然公園指導員連絡会)を運営していますが、どちらも人材確保と高齢化が課題です。山の中を歩くので、高齢になればなるほど大変ですし、知識を覚えるのもひと苦労です。

子どもたちに説明をする渡辺さん

事前の講習や研修での「学び」はもちろん、実際の活動から得る大きな「学び」

自然環境保全センターでボランティアとして活動を始めるには、一定の研修会や講座等を受講し、初めて登録証が発行されるそうですが、ハードルが高いと感じることはなかったのでしょうか。

渡辺:動物が好きで始めたことなので、講義を受けて知識を得ることは、むしろ楽しかったです。正直言うと、大切なこととはわかっていても、難しい座学が1日中となると眠たいときもありましたけど(笑)。

小松:ボランティアを募集する時に「基本的に知識や経験は必要ない」とは言いつつも、やはり、実際ガイドとして人に説明をするわけですから、ある程度の勉強は必要だと思います。やはり、好きでないと活動はできません。

活動を通して、自己の成長というか、学びを感じることはありますか。

渡辺:ボランティア同士の関わりが一番の学びとなっています。いろんな職業の人がいて、年齢も、考え方も違う人が集まっているので、関わり自体が刺激にもなるし、勉強になります。それと、そう多くはありませんが、普通ではとても関わることのできないような獣医の先生や動物の専門家の方とお会いできる機会もあり、大きな学びにつながります。

小松:子どもからの質問ですね。得意分野じゃないと、すぐに答えられない時もあります。そんな時は、「あれは何だったんだろう?」って、必ず後で調べるので一番の学びにつながります。ガイド中に質問を受けて答えるには勉強が必要ですし、答えられないと悔しい思いもします。調べたことは、次のガイドに活かしていきます。

ミニ観察会で解説をする小松さん

「自分が何をやりたいのか」を見極めて、「やりたい時が始め時」

これから何かを始めようとしている人への応援メッセージをお願いします。

渡辺:「自分が何をやりたいのか」ですね。自分に向かないことをしても続かないので、何が好きか、何をやりたいのかを見極める必要があると思います。とはいえボランティアですから、失敗を恐れず、気軽に考えてはいかがでしょう。まずは、好きから始められると長く続けることができるのではないでしょうか。

小松:私は、健康のことを考えて76歳から合気道を始めました。「やりたい時が始め時」。いくつになっても、そういう思いでやっています。皆さんも、やりたい時に始めてください。私は、80歳でも何かやりたくなったらきっと新しいことを始めていると思います。やってみなかったらつまらないですよ。

意識をしなくても、毎日が「生涯学習」

あなたにとっての生涯学習とは。

渡辺:あまり難しく考えたことはありません。今は、家族も巻き込んで、すっかりボランティア活動が生活の中心です。動物を自然に返したい、環境を守りたいという思いを大切に、毎日が学習だと思って活動しています。人間のせいで傷つく動物がいること、小さなことですがごみの捨て方ひとつでも環境破壊とか動物の生態系にも影響しているんだということを、皆さんに知ってもらうための橋渡しとでもいうのでしょうか。

小松:勉強はもともと好きでした。文章を書くことも苦ではありません。昔から、植物図鑑と動物図鑑を常に持っていました。今日の観察会でも、わからなかった虫がいたので、「あれは何だったんだろう?」と考えています。これから調べないと(笑)。日々が勉強だと思います。ホームページに掲載している写真も、ネットから引っ張ってくれば簡単ですが、ほとんどが自分の手で撮った写真を使っています。そうしないと覚えられないし、勉強になりません。記憶の引き出しに入れていって、使うときに取り出せるようにしておきたいですね。近頃は、植物の分類が変更されるなど、情報が新しくなることもあって大変ですよ。でも、好きなことなので、独学ですが、時間を見つけて学び続けています。

最後に、ひとことメッセージをお願いします。

渡辺:難しいことですが、人間と野生動物とが共存できる社会を目指していきたいと思っています。今、野生動物による被害などが社会問題になっていますが、そこに、ゴールはないんじゃないかな。傷病鳥獣が減ることはないので、保護活動が途絶えないように次世代にしっかりつなげていきたいです。

小松:「やりたい時が始め時」。このことを一番伝えたいです。

取材に訪れた自然環境保全センターは、敷地内に入ったところから「自然」を体で感じることができる施設で、空気まで違うように感じました。建物内にも様々な展示があり、資料も充実しています。そのような環境の中でボランティア活動をされているお二人は、インタビュー中もとてもイキイキとされていて、お話も楽しくて、本当に自然や植物、動物がお好きなんだなぁと感じました。しかも、枠に収まらず、自分で団体を立ち上げて自主的に活動の場を広げていくその行動力には、感服です。ボランティア活動がすっかり生活の一部になっていて、まさに「生涯学習」を体現されていらっしゃる方の、大変貴重なお話をうかがうことができました。ご協力ありがとうございました。

2024/07/25

プロフィール

神奈川県自然環境保全センターのボランティア

自然環境保全センターでは、丹沢や箱根など、かながわの豊かな自然を次世代に引き継ぐため、自然環境の保全再生に取り組んでいます。
URL:https://www.pref.kanagawa.jp/docs/f4y/top.html

神奈川県フィールドスタッフ
センターをはじめ県内各地において、自然保護思想の普及啓発を行っています。ミニ観察会やクラフト教室などの行事の指導や、学校等からの依頼を受けて実施する自然観察会のリーダーとして活動します。 小松さんは、NPO法人かながわフィールドスタッフクラブの中心メンバーとして、センターの他、七沢森林公園等でも自然観察会を実施。その他にも、自然環境保全センターで委嘱している自然公園指導員として、県内登山道の巡視や登山者へのマナー啓発・自然解説等のボランティア活動にも積極的に取り組んでいます。

野生動物救護ボランティア
けがや病気などで救護された野生動物(哺乳類・鳥類)の飼養、野生復帰と、保護動物たちの小屋の掃除や餌やりなどの世話、救護動物を通じた環境教育・普及啓発活動を行っています。 ※2024年7月現在、新規の野生動物救護ボランティアの募集は休止中。 渡辺さんは、NPO法人野生動物救護の会の中心メンバー(理事長)として、センターにおける傷病鳥獣救護業務の活動だけではなく、ボランティアグループを設立し、組織的に野生動物の救護を展開する形をつくり、本県における野生動物救護ボランティアのパイオニアとして活躍しています。