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更新日:2024年2月20日
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自然環境保全センターで実施している研究内容について紹介するページです。
神奈川県内の水道水の約9割は、相模川と酒匂川の2水系から取水されています。これら河川の源流は、県西部の丹沢山地をはじめとした山地であり、そのほとんどが森林です。森林に降った雨は、一部は蒸発しますが多くはいったん地中に浸透して地下水となり、時間をかけて下流の河川に流出します。このような森林の水循環の過程で、私たちの暮らしに欠かせない水源かん養機能(洪水緩和・水資源貯留・水質浄化)は発揮されます。
ところが、2000年頃には、戦後に植林された人工林の間伐遅れや、山地で増えてしまったニホンジカの影響により、広範囲で森林の下層植生(地面を覆う丈の低い植物)が衰退する事態となりました。下層植生が衰退して裸地になると、雨水が地中に浸透しにくくなることから、水源かん養機能の低下が危惧されました。
こうした近年の水源地域の課題に対し、県では2007年度から水源環境保全税による対策を進めています。この対策は自然生態系を相手とし不確実性を伴うため、モニタリングによる効果検証を合わせて行い、対策を柔軟に推進していく必要があります。そこで研究部門では、事業部門が進める森林の各種対策と連携し、水源かん養機能を定量的に評価して対策の効果を検証するためのモニタリングを行っています。
森林の水循環
シカの影響により下層植生が衰退した広葉樹林
〇県内4か所の試験流域と水文(すいもん)観測
水源かん養機能の評価にあたっては、森林の水循環を定量的に把握する必要があります。特に精度の高い水文観測が基本であり、数ha程度の集水面積の試験流域において、降水量と流域末端の流量を常時測定します。加えて、気温や日射等の気象、土壌水分や地下水の変動、水質、土砂流出動態のほか、流域内の森林や下層植生の状態も把握します。
また、森林の水循環は立地環境によっても異なるため、県内水源地域の狭いながらも変化に富んだ自然環境に対応し、地質等の異なる4地域にそれぞれ試験流域を設定しています。
良好に管理された人工林と流量観測施設
流量観測施設での水質測定
〇対策の効果検証
人工林の間伐やシカ管理等の対策によって下層植生が回復し、水源かん養機能が維持改善されることを検証するため、各地域の試験流域では、対策実施区と非実施区の2つの小流域で比較実験を行っています。これまでに、過密な人工林を間伐することによる流量の安定化、フェンスによりシカを排除し下層植生が回復した流域での水の濁りの低減化等が確認できています。しかし、森林の水循環は複雑で変動も大きいことから、各測定結果を用いて構築したシミュレーションモデルも活用し、対策の効果予測に取り組んでいます。さらに、こうした効果検証を通して、これまでほとんど知られていなかった県内森林の水循環の実態が明らかになってきています。
フェンスを設置しシカを排除した場所での下層植生回復
近年危惧されてきた下層植生衰退による森林の水源かん養機能低下に関しては、対策も進捗しており、水源環境の再生は進んでいます。しかし、一方で、全国で最近みられる長時間の強い豪雨など、森林を取り巻く状況も変化してきています。令和元年東日本台風では山崩れが多く発生し、県内森林では約50年ぶりの大規模な豪雨災害となりました。過去の災害と異なり良好に管理された森林でも山崩れが発生したことから、今後も多発すれば水源かん養機能発揮にも影響する恐れがあります。このため、被害復旧はもとより、長期的な視野で十分な検証を行い今後の森林の管理に役立てていく必要があります。山崩れの要因となる水の動きは森林の水循環の一側面でもあるため、やはり豪雨災害を考えた場合でも地域ごとの水循環の把握は欠かせません。こうしたことから、これまで取り組んできた水源かん養機能のモニタリングの成果も活かしつつ、豪雨災害等の新たな森林の課題に対応するための研究にも取り組んでいきたいと考えています。
このページの所管所属は環境農政局 総務室です。