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更新日:2024年2月29日
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農業技術センターで実施している研究内容について紹介するページです。
私たちが普段食べている野菜の過半を外食・中食が占めています。こうした加工・業務需要には、定時、定量、定質、定価格という4定が求められます。一方、生産地では天候の影響で収穫時期も収量も品質も変動するため、4定対応は容易ではありません。私が初めて研究職に就いた三浦半島は柔らかい春系キャベツのブランド産地でしたが、加工・業務でよく使われる千切りキャベツには、肉質の硬い寒玉系キャベツが必要とされていました。寒玉系キャベツは、生理的特性から4~5月に花が咲いてしまうため、愛知などの寒玉系キャベツ産地では、3月までに収穫したものを大型冷蔵庫に貯蔵して流通させています。ちょうど三浦に異動した年に、「端境期の4~5月に寒玉系キャベツを作る!」という農林水産省のプロジェクト研究が始まり参画させていただきました。4~5月に花が咲く寒玉系キャベツと咲かない春系キャベツというところから、キャベツの抽苔(花茎が伸びる現象、とう立ち)が研究テーマになりました。
キャベツの定植
葉の硬度調査
周年的に需要のある加工・業務用途に対応するため、端境期(4~5月)に寒玉系キャベツを収穫する研究をしました。種苗メーカーが開発した抽苔しにくい品種を使い、播種時期や栽植密度等の条件を変えて栽培試験を行いました。また、実需者の協力で加工適性を評価し、貯蔵キャベツとの比較なども行い、4~5月どり作型を開発しました。
開花品種間差
生育モデルの手法を用いて、収穫時期や収量の予測ができます。光合成の生産効率を日射量、温度、播種日から推定するモデル式を作り、全球気候モデルMIROC5及び温暖化ガス排出シナリオRCP8.5から予測される2050年の温度を入力して、9月7日~10月12日播種(三浦)の2050年における収穫期は2017年比で6~56日前進、29~212%増収すると定量評価しました。
異常気象などで収穫期を迎える前に抽苔する現象(早期抽苔)は、キャベツ産地にとって大きな損失になります。結球しない場合だけでなく、結球内部で抽苔し、外観から判別できないまま出荷され、カットキャベツの製造工程中に花茎や花蕾が混入して取引停止になるケースもあります。三浦の主要品種「金系201号」を対象に、花芽分化期の結球葉数が概ね6.5枚以下のとき早期抽苔リスクが高いことを明らかにし、花芽分化期を推定するDVRモデル及び結球葉数を推定する一次関数式から早期抽苔リスクを予測する手法を開発しました。
花芽分化調査
球内抽苔
これまでに得たキャベツの栽培データを農研機構に提供し、収穫時期や収量等を高い精度で予測する生産支援システムの開発を目指しています。また、温暖化を始めとする気候変動が顕在化し、農業生産への影響が懸念されていることから、気象と生育との関係解析や生育モデルの手法を利用して、キャベツやダイコン以外の作物、例えば施設トマトや施設イチゴのデータ解析にも役立てています。「生育モデルは未来を予測するだけでなく、植物の今の状態を客観視するためのツールである」と、初めての学会発表で声をかけてくれた方に教わりました。諸先輩方から教わったことやこれまでの経験で得たことを、次世代を担う中堅、若手の研究者へ伝えていきたいと思います。
成績発表会
このページの所管所属は環境農政局 総務室です。