ホーム > 教育・文化・スポーツ > 社会教育・生涯学習・スポーツ > スポーツ振興 > スポーツ情報や動画を見る > 第31号(平成15年度/2003)
更新日:2004年5月3日
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体育センターレポート。指導研究部の4室が行った研究と、体育センター長期研修員の授業研究により構成されております。これらの研究につきましては、抄録のみの掲載となっておりますが、研究報告書を掲載しておりますので、併せてご活用いただければ幸いに存じます。
神奈川県立体育センター
所長 藤原 三津男
このたび、当体育センター指導研究部の平成15年度の研究報告書をまとめた「体育センターレポート第31号」を発刊する運びとなりました。
本号は、指導研究部の4室(研修指導室、スポーツ科学研究室、生涯スポーツ推進室、スポーツ情報室)が行った研究と、学校体育長期研修の先生方の授業研究により構成されております。これらの研究につきましては、抄録のみの掲載となっておりますが、下記のページに研究報告書を掲載しておりますので、併せてご活用いただければ幸いに存じます。
体育センターは、県民の皆様に明るく豊かなスポーツライフを送っていただくために、施設の利用者に満足度の高いサービスを提供するとともに、体育・スポーツに関する時代の要請に則した人材の育成や医学的サポート、活動組織の育成・支援、情報の提供やネットワーク化を図ってまいりたいと考えております。今後とも、益々のご指導、ご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。
最後に本誌の発刊に際しまして、ご協力を賜りました皆様に厚くお礼申し上げ、発刊のことばといたします。
【研修指導室】中村ふじ、久保寺忠夫、中川裕志、郡山強、白井功、落合浩一
キーワード:学習評価、目標・評価規準、作成の手順
体育センター研修指導室では、昨年度学習評価についての理論及び授業研究を行い、「中学校保健体育の学習評価に係る調査研究」として報告書にまとめた。
今年度は、高等学校における「評価の観点及びその趣旨」が国立教育政策研究所より示されたことから、前年度の研究を踏まえ、高等学校保健体育の学習評価及び評価資料の活用方法について研究し、各学校が学習評価計画を作成する際に活用できる評価資料集を作成することとした。
1.学習評価に係る先行研究
2.学習評価に係る理論研究
3.学習評価に係る資料の作成
4.中間のまとめ
5.研究協力校における授業実践
6.授業結果のまとめ
7.報告書の作成
8.研究のまとめ
学習評価の基本的な考え方と評価計画を作成する手順を理解するために、評価の目的、内容、時期、方法等について文献研究を行い、次の項目ごとに質問を設定し、解説した。
学校・教師にとっての評価は、学校・学年・単元等で立てた教育目標を実現するために、生徒がその目標に照らしてどのように変容しているかを明らかにするために行うものです。
生徒にとっての評価とは、自分は何ができ、何が不十分なのか、次にどのような学習をすれば現在抱えている課題が解決できるのかなどが理解できるとともに、今行っている学習を振り返り、次に行う学習に意欲を持って取り組めるようにするために行われるものです。
何を評価するのか?は生徒にどんな学力を身に付けさせたいかと同義であると考えます。
したがって、何を評価するのかを明らかにするには、学力の内容を明らかにする必要があると考えます。
観点別学習状況の評価とは、1つの教科の成績を1つの数値等で評価する総合判定に対して、1つの教科について複数の観点を設け、観点ごとに評価する方法です。
高等学校の科目「体育」では、「関心・意欲・態度」「思考・判断」「運動の技能」「知識・理解」の4つの観点が、科目「保健」では、「関心・意欲・態度」「思考・判断」「知識・理解」の3つの観点が示されています。
目標に準拠した評価とは、学習指導要領に示す目標に照らして生徒の学習の実現状況を見る評価のことです。
生徒一人ひとりの学習展開に応じて、あらかじめ教育目標を分析して設定した評価規準に照らして、その目標がどの程度実現されたかを評価するものです。
学習評価は、「診断的評価」と「形成的評価」によって進められます。診断的評価によって、これから始めようとする学習に関する能力や感想・経験等を生徒・教師ともに理解し、連続的な形成的評価によって生徒の変容等を確認し、必要に応じて学習指導の方向性を修正します。
また、単元の終わりや学期末等に学習指導の一部あるいは全過程について、当初の目標に照らして、どの程度学習成果が得られたかどうかを把握するために「総括的評価」を行います。
評価の方法としては、ペーパーテストやスキルテスト以外に観察・面接・質問・レポート・学習ノート・発言などがありますが、それぞれの特徴を考慮し、どんな方法で評価することが生徒の成長や教師の授業の振り返りに役立つかを理解する必要があります。
学習目標に照らして、実現していると認められる具体的な状況を教師間で共通理解をして、授業に臨むことが大切です。
また、教科・学年・単元・1単位時間等のねらいと評価規準を予め、生徒や保護者に提示し、学習や評価に関して、共通理解を得ることも重要です。
シラバスとは各学校の教育活動に関する詳細な計画書のことです。シラバスには、教科、科目をはじめとするさまざまな教育活動について、目標と内容、使用教材、指導計画、指導方法、評価方法等が記載されます。
シラバスに評価規準を記載することにより、教員も生徒も教科・科目等で扱う学習内容について、評価の視点となる評価規準をしっかり意識することができます。そのことにより目標に向けた学習が実現しやすくなり、生徒がより意欲をもって学習に取り組むことになります。
保健体育科の評価規準を作成するにあたり、次の点に配慮しましょう。
ア.第1段階…目標の設定
イ.第2段階…評価規準の作成
ウ.第3段階…「おおむね満足できる」内容の確認
エ.第4段階…評価規準の工夫・改善
学校の教育活動は、計画→実践→評価→改善という一連の活動を繰り返しながら、生徒のよりよい成長を目指した指導が展開されなければなりません。
すなわち、指導と評価は別物ではなく、評価の結果によって後の指導を改善し、さらに新しい指導の成果を再度評価するという、指導に生かす評価を充実させること(いわゆる指導と評価の一体化)が重要です。
今年度は2年継続研究の1年目ということで、学習指導要領の趣旨を生かす評価の考え方、評価を組み入れた年間指導計画の作成方法及び観点別学習状況評価の活用方法等について文献をもとに理論研究を行った。そして、それらを「学習評価の考え方と手順」としてまとめた。
まとめるにあたっては、次の点に留意した。
来年度は、今年度まとめた「高等学校保健体育の学習評価ハンドブック―学習評価の考え方と手順―」をもとに実際の授業場面での課題を明確にしつつ、その解決を目指して授業研究に取り組む予定である。そして、その結果をまとめることで各学校が評価計画を作成する際に活用できる評価資料集を作成していきたいと考える。
これらの課題を踏まえて、次のように次年度の研究につなげていきたい。
これらの取組により、児童生徒が生涯にわたる豊かなスポーツライフの基礎を培えるような、よりよい学習展開ができるよう、それぞれの内容に応じた指導計画、評価計画等を作成する際の参考となる体育学習の指導資料を作成していきたいと考える。
【スポーツ科学研究室】田所克哉、小野文生
【研究アドバイザー 慶應義塾大学スポーツ医学研究センター】木下訓光
キーワード:体脂肪率、最大酸素摂取量、OBLA、スピード
競技力の向上には、ジュニア期の指導が最も重要であるが、我が国においては、ジュニア期からの長期的・継続的な指導(一貫指導)が行われにくい状況にある。
このような状況を踏まえ、神奈川県においても一貫指導マニュアルの作成等、長期的な展望を視野に入れた取り組みが始まっている。効果的な一貫指導を行うには、体力等の縦断的な把握やその正しい解釈、そしてそれらをもとにした個別のトレーニング計画の作成など、きめの細かい指導が必要になってくる。
陸上競技は、体力がパフォーマンスに大きな影響を与える種目であり、我が国においても体力とパフォーマンスの関係を扱った研究が、今までに数多く報告されてきた。
しかしながら、ジュニアの陸上競技選手に関して、縦断的に行われた研究報告は少なく、その中でも高校生女子中長距離選手に関して、縦断的に行われた事例は、まだないようである。
そのような中で、高校生女子中長距離選手は、どのように体力が発展していくのか、また、体力と競技成績は、どのような関係にあるのかなどを縦断的に研究し、発表することは、一貫指導を考えるにあたっても有用であり、指導現場のニーズとも一致するのではないかと考えた。
そこで平成13年度に高校1年生になった、女子中長距離選手の体力測定を3年間継続して行い、どのような体力発展が見られるか、また、競技力がどのように形成されていくか、追跡することにした。
以上のことから、本報告はこの研究のまとめとして3年間の測定結果(体脂肪率、最大酸素摂取量、乳酸値等の変化)と競技成績について検討しようとするものである。
1.被験者:神奈川県内でトップレベルにある高校女子駅伝チームの選手4名(4名は中学校時代に1500mを4分57秒前後で走り、県内では下位入賞を果たしている。)
2.実験時期:高校3年間で、ほぼ半年おきに、計6回の測定を実施した。
3.測定内容及び方法
(1)体脂肪率(%):A&D社製の水中体重計で測定した。
(2)最大酸素摂取量(ml/kg/min)
埋め込み式のトレッドミルでランニングを行い、ダグラスバッグ法によって測定した。その際のプロトコルは、多段階漸増負荷法で、走力に応じて10分前後でオールアウトするよう負荷を設定した。
(3)乳酸値(mmol/l)・・・(1年おきに計3回の測定)
屋外トラックにおいて、ステージ毎にスピードを徐々に上げていく600mのペース走を行った。測定では、各ステージ直後の1分間のインターバルにアークレイ(株)製のラクテート・プロで乳酸値を測定した。
※解析においてはOBLA(乳酸蓄積開始点)におけるスピード(本研究においては、OBLAを4mmol/lと定義した)を用いた。
(4)競技力
高校女子駅伝における最短区間の距離でもあり、一番出場回数の多い種目である3000m走の記録を競技力の指標とした。
※解析にあたっては、1年春・1年秋・2年春・2年秋・3年春・3年秋と6つ期間に分け、期間毎の最高記録をT3000とした。
図1り、春から秋にかけて体脂肪率が減少し、秋から春にかけて体脂肪率が増加するという季節変動の傾向が多く見られるようである。その中でも1年春から1年秋にかけての変動が大きい。これは高校入学後、練習量を増やせた(4月200km弱→8月300km弱)ことが影響していると推察できる。また春から秋への変動には、夏休みの充実した練習(合宿等)も影響しているであろう。また秋から春にかけて体脂肪率が増加することも、冬に練習量が若干落ちる(指導者談)ことと関係がありそうである。
そして中でもB・Dは体脂肪率の季節変動が大きく、他の選手とは違った変化を見せている。
除脂肪体重においては、A・B・Cは増加傾向にあり、発展途上の高校生にとって望ましい傾向にあるが、Dにおいては、2年春以降、減少傾向にあり、2年春から秋にかけては、体脂肪量の-2.6kgに対し、除脂肪体重は-4.2kgと体脂肪量以上に除脂肪体重が減少してしまう望ましくないケースがあった。これは、夏休みの走り込みの時期に、急激に体重を落としたことによるものであり、運動によるエネルギー消費と食事によるエネルギー供給がうまくいかなかったと考えられる。
図1:除脂肪体重、体脂肪率の変動
図2より、高校3年間において、最大酸素摂取量は、変動はあるが、概ね向上していく傾向にあるようである。その変動は、故障等による練習量の減少などが原因として考えられるであろう。
図2:最大酸素摂取量の変動
図3よりOBLAスピードの変動は、1年春から2年春にかけて向上が大きく、これはおおまかに見ると競技成績の変動(図4)と似通っているようであった。
図3:OBLAスピードの変動
図4:3000m走全競技成績
表1よりT3000の変動(6つの期間において、直前の期間との差をΔとした)は、体脂肪率の変動と関連があるようである。これには故障等(B・Dに多かった)が原因となる練習量減少による体脂肪率の増加や回復した後の練習量増加による体脂肪率減少の影響が考えられる。つまり背景には図5のトレーニングの影響があり、有効なトレーニングを行った場合は、体脂肪率の減少と競技成績の向上という現象が現れ、トレーニングが不足した場合には、反対に体脂肪率の増加と競技成績の低下が現れると推察できる。表1からは、体脂肪率の増減と競技成績の関連がクロースアップされているが、その背景にあるトレーニングを考えることは必要不可欠であろう。よって故障をしないような体調管理、故障をしたときのウェイトコントロール、運動量とのバランスを考えた食事等が大切になってくると考えられる。
Δ体重 |
Δ体脂肪率 |
Δ最大酸素摂取量 |
|
---|---|---|---|
相関係数(r) |
0.571* |
0.677** |
-0.386 |
図5:有効なトレーニングが行えた場合
以上のことから高校生女子選手においても、除脂肪体重の増減に注意を払いながら行う、長期的・継続的な運動と食事によるウェイトコントロールの必要性が確認できた。また記録の向上が難しくなってくるであろう2年秋以降は、怪我の予防等、体調管理に注意を払うことはもとより、より個別のトレーニングが必要になってくるため、OBLAスピードの活用によるトレーニング強度の設定など、競技レベルが上がるほど、個別のトレーニング計画の必要性が強まると考えられる。
【スポーツ科学研究室】福田信子、遠藤純二
キーワード:運動負荷試験、予測最大心拍数
体育センターでは、昭和43年の開設当初より医師の協力を得て医事相談事業を実施してきた。特に昭和62年には運動負荷試験記録装置を導入し、ほぼ最大努力に近い運動を行い、安静時、運動時、運動後の心電図、血圧を測定した結果をもとに相談事業や運動指導を実施してきた。
我々はその結果を研究材料とするため、平成8年度から平成14年度まで受診者数のべ1,158人の測定結果をデータベース化した。このデータは、その多くが運動実践者のものであり、運動・スポーツを行っている人やこれから行おうとする人に対する様々な相談指導において、大変有益なものであると考え、ここでこの運動負荷試験の結果を総括することとした。
平成8年度以降の「スポーツ適性診断コース」及び「健康・体力コース」における運動負荷試験の結果をまとめることを目的とする。
(1)受診者の概要
(2)運動負荷試験結果の分析
平成15年4月1日から平成16年3月31日
(1)文献研究
(2)集計・処理
(3)結果の分析・考察
(4)まとめ
平成8から10年度は「スポーツ適性診断コース」、平成11から14年度は「健康・体力コース」として運動負荷試験を行ってきた。それぞれの事業の概要は以下のとおりである。
ア.ねらい:運動中あるいは運動直後に起こりうる事故の防止を図るために、心臓・循環器系の潜在的疾病などの発見を目的とし、県民の体力の保持・増進や健全なスポーツ活動及び競技力向上に関して、相談者が自主的に問題解決できるよう指導助言するとともに、日常生活におけるスポーツ活動のための運動処方などをアドバイスする。
イ.実施内容:問診票、安静時血圧・心拍数、問診・聴診によるスクリーニングの後、運動前・運動中・運動後における心電図・血圧測定を実施。得られた結果をもとに、医師と運動処方担当者が協議し、相談者の運動処方を行った。
ア.ねらい:メディカルチェック・体力測定を行い、その結果から一人ひとりにあった運動の行い方をアドバイスすることにより、県民の健康・体力の保持・増進を支援する。
イ.実施内容:調査票(問診事項を含む)、安静時血圧・心拍数、問診・聴診によるスクリーニングの後、体力測定を実施。全身持久力測定については運動前・運動中・運動後における心電図・血圧測定を実施。得られた結果をもとに、医師により潜在的な心臓・循環器系の疾病を診断するとともに運動の行い方等を指導した。また、所員が運動実践に関するアドバイスを行った。なお、初診者は原則として2回受診とし、その間3ヶ月以上の運動を継続できるよう、所員による支援を行った。
ウ.体力測定項目:トレッドミルによる全身持久力、長座体前屈、握力、30秒上体起こし、脚伸展パワー、ステッピング、棒反応時間、開眼片脚立ち
(1)、(2)の両事業とも16歳以上の県民で、運動実践者及びこれから運動を始めようという人で受診希望者を対象に無料で実施する事業である。運動負荷試験は医師、看護師及び12誘導心電図による監視のもと、年齢から算出した予測最大心拍数(220ー年齢)を目標に、原則としてほぼ最大努力に近い運動を行った。運動はトレッドミルを用い、各ステージ2から3分ごとの負荷漸増法で行った。プロトコルについては、受診者への問診・聴診及び運動実施状況を考慮し、平成8年度はブルース1・2・3、平成9年度から14年度はシニア1・シニア2・アスリート1・アスリート2(以上4つは慶応大学スポーツ医学研究センターオリジナルプロトコル)から医師が選択した。運動負荷試験のエンドポイントは、受診動機、運動習慣、観察をもとにした医師による判断及び本人の申告によるものとした。受診者には苦しくなったり、運動をもう続けたくなくなった場合、また、気分が悪くなったり、どこか具合が悪くなった場合は、すぐに中止することを伝えて開始した。その結果をもとに医師より潜在的な心臓・循環器系の疾病を診断するとともに、運動の行い方を指導した。
グラフ1は、性別年齢別の受診者数を示したものである。性別受診者数は男性535人、女性623人、合計1,158人であつた。力性が男性に比べて多い。性別年代別BMI(体格指数)は、男“性19.3から23.9、女性192から23,0であり、アメリカスポーツ医学会において標準体重の指標としている185から249からみても、受診者の多くは適正な体重の範囲にあるといえる。受診者において、週1回以上の運動習慣がある人は男性では780%、女性では760°/0男女合わせると770°/0となる。実施している運動時間や運動強度等程度の差はあるものの、運動習慣を持つ受診者の割合は非常に高いといえる。また、運動習慣がない人は、男性22.1%、女′性23.8°/0、男女合わせると23.0%である。
以上のような身体的特長、運動習慣を持つた人たちに対して予測最大心拍数を目安に、また、受診者は最大努力を目指して、運動負荷試験を行った。その結果、ほぼ9から15分の運動を継続して終了に至っており、体力評価を兼ねた運動負荷試験としては妥当な運動時間だといえる。また、最高″亡軸数を見ると、男性では136から197拍/分、女性では123から190拍/分である。これを予測最大′亡拍数(220-年齢)に対する害J合でみると、男性10歳代、20歳代、女'性10歳代から30歳代及び80歳代は93から99%、男性の30から80歳代、女性の40歳代から70歳代は100%以上であった。
このような運動負荷試験の結果62件の異常所見を認めた。運動負荷試験結果の所見に関しては様々なレベルのものがあるが、ここでは精密検査を勧めたケースについてのみ取り扱うこととした。グラフ2は、予測最大′亡指数に対する最高心拍数の害」合を4つのカテゴリに分け、そこに到達した件数と、その中で異常所見が何件認められたのかを示した。なお、心拍数に含めないカテゴリは他に設けて示した。その結果、予測最大心拍数の90から99%まで運動した人は324人、100%以上も716人であった。また、予測最大′亡指数の85%以上の負荷において62件中の40件の異常所見を認めた。
表1は異常所見のある人を性別年齢別・運動習慣別に示した。週に6から7日運動を行つている人において13件の異常所見を認めた。リスクに気づかずに日常的に運動・スポーツを実施していたことになり、本事業において精密検査を勧めることができたことは意義深いことだと考える。
グラフ1:性別年代別受診者数
グラフ2:最高心拍数(予測最大心拍数に対する割合別件数と精密検査を勧めた異常所見数)
表1:性別年代別の異常所見と運動習慣
運動習慣のある人で潜在的な心臓・循環器系の異常所見を持つ人もいるが、その中にはリスクに気付かずに日常的に運動・スポーツを行っている場合もあり、改めて運動負荷試験の芝、要性を感じた。病気の診断を目的とした病院においては予測最大″亡拍数の85%を目安に行っている場合が多いが、本事業の受診者のように健康を自負し、自党症状を持たず、積極的に運動・スポーツを行っている人を対象にした結果では85%以上の運動負荷で異常を発見した。このことから、運動負荷試験は、行つている運動・スポーツ活動を再現するような負荷をかけることも必要であると言え、予測最大心拍数の85%以上、時には100%の負荷が必要な場合もあることと考える。
最後にこの研究をまとめるにあたり、多大なご協力とご助言をいただいた、慶應大学スポーツ医学研究センターの大西1半平氏、木下訓光氏に心から感謝いたします。
【生涯スポーツ推進室】加藤木紳克
キーワード:総合型地域スポーツクラブ、広域スポーツセンター
平成12年9月に文部科学省が告示した「スポーツ振興基本計画」における3つの柱のうち、「生涯スポーツ社会の実現に向けた地域におけるスポーツ環境を整備・充実するための方策」に関しては、成人のスポーツ実施率(週1回以上)を50%に引き上げるということ、そのための必要不可欠な施策として全国の市区町村に少なくとも一つは総合型地域スポーツクラブを育成すること、そして、各都道府県に少なくとも一つは広域スポーツセンターを育成することが到達目標として掲げられた。
今後各市町村の役割として期待される総合型地域スポーツクラブの育成を推進していくためには、その育成状況について、各市町村の現状、理解度や認識度、また、将来展望について分析する必要があると考える。
したがって本研究は、市町村の総合型地域スポーツクラブ育成の現状を明らかにし、今後の施策展開の一助とすることを目的とする。
県内各市町村における総合型地域スポーツクラブ育成状況について、市町村担当者へのアンケート調査、聞き取り調査等を実施し、現状での課題や問題点を明ら力寸こするとともに、市町村と県の役割を明確にし、本県における総合型地域スポーツクラブ育成の現状について考察する。
今回の調査は、市町村行政のみを対象としており、この結果だけで全てを語り尽くすことは到底不可能である。
しかし、市町村が総合型地域スポーツクラブの育成に向けて確実に歩みを始めていることは間違いないものと考える。
今後とも、市町村や民間の現状も含めて、地域のニーズと特性に見合つた総合型地域スポーツクラブ育成方策について模索していく必要性があり、そのためには体育センターが行ってきた「広域スポーツセンター育成モデル事業」の成果を踏まえ、クラブマネジャーなどの人材育成や活動場所の確保に伴う公共スポーツ施設開放の促進についてリーダーシップを発揮していくことが望まれる。
また、今後の育成には、どれだけ市町村や関係団体と密接な連携を図ることができるか、行政が地域住民や民間との協同にどこまで踏み込んでいけるかが鍵であると考える。
平成13年度に県が行つた調査の中でも、県民の49.5%が、「何らかの理由でスポーツが行いたくてもできない」と回答している。
今後、こうした住民ニーズに応えるためにも、従前のクラブや団体に対する支援と平行して、既存システムの中ではスポーツに参加しなかった、あるいはできなかった人々ヘスポーツの機会を提供できる「公益性」を有する集団(総合型地域スポーツクラブ〕を育成していくことが急務であると考える。
総合型地域スポーツクラブの立ち上げ形態は様々であり、地域における人口や地域性、施設の有無や年齢構成等により多種多様である。
本県においては、一部の地域を除き総合型地域スポーツクラブの育成は緒についたばかりである。
総合型地域スポーツクラブ育成の課題である『活動場所の確保』、『人材の育劇、『既存のスポーツクラブ間の連携体制の強化』等、山積している課題を解決していくことが総合型地域スポーツクラブの育成のみならず、全てのスポーツ振興ヘつながる道の1つであると考える。
【スポーツ情報室】中園雅勝、岩田幸男、河合豊、市川明宏、三木英正
キーワード:KSIOネットワークシステム、人のネットワーク
神奈川県は、平成14年度から2年間、文部科学省からの委嘱を受けて"広域スポーツセンター育成モデル事業"に取り組んだ。県の調査によると県内の民間が設立した総合型地域スポーツクラブは、2002年8月時点では2団体であったが、2003年12月時点では6団体(その他設立準備中が4団体)に増加した。このような現状の中で、広域スポーツセンターとして必要なスポーツ情報の収集と提供の方法、情報提供事業の安定した運営の方法等、広域スポーツセンターにおけるスポーツ情報提供のあり方を探ることは重要である。本研究の1年次は、「Kanagawa Sport Information Officer(KSIO)ネットワークシステムの構築」と「人のネットワークとして『地域のスポーツ・マネジャー(コーディネーター)』網の構築」を提言している。本年度は、その提言を具体化するための研究を継続した。
平成14年4月1日から平成16年3月31日(2年継続研究の2年次)
(1)広域スポーツセンター先催道県の情報提供に関する実態把握(平成14年度報告済)
(2)先催事例の実態及び情報社会における情報提供に関する課題の抽出(平成14年度報告済)
(3)神奈川県における広域スポーツセンタースポーツ情報提供事業の試行と検証(本年度)
ア.KSIOネットワークシステムの試行と検証
イ.人のネットワーク化を目指したイベントの開催とその検証
(1)質問紙によるアンケート調査と電話による聞き取り調査で先催県の実態把握をする。(平成14年度研究報告書)
(2)広域スポーツセンター育成モデル事業スポーツ情報提供システム研究会(以下:システム研究会)の提言を参考に今後の課題を探る。(平成14年度研究報告書)
(3)KSIOネットワークシステムの試行と検証
県内各市町村教育委員会・県関係機関の一部にKSIOを配置し(既存の情報提供協力者をKSIOとした)スポーツ情報のうちのイベント・講座情報を直接入力してもらい、インターネットサイトに公開し、どのような課題があるのかを探った。その課題とシステム研究会の討議内容を参考に将来設計図を作成した。
(4)人のネットワーク化を目指したイベント「市町村・スポーツクラブ連絡協議会」の開催とその検証
県及び市町村教育委員会担当者、NPO法人関係者、スポーツ指導者等を対象に「ネットワーク」をテーマとした基調講演・パネルディスカッションを開催し、スポーツ情報に関する人のネットワーク化への課題を探った。その課題とシステム研究会の討議内容を参考に「人のネットワーク化」への戦略図を作成した。
(1)試行・検証をとおして、以下の2点の現状が明確になった。
ア.市町村を含め行政組織間は、スポーツ情報のネットワークが弱く連携が少ないこと。
イ.各市町村(担当者)は、スポーツイベント情報を市町村外へも広く広報するインセンティブが少ないこと。
(2)また、課題として以下の5点が考えられる。
ア.情報量の充実
イ.情報内容の充実(情報の多様化)
ウ.情報提供へのインセンティブの確保
エ.サイト認知度の向上
オ.サイトへのアクセスの向上(アクセスの数・利便性)
検証結果の課題を克服していくためには、KSIOのような組織間連携を推進できるシステムを、課題を解決する方向で更に発展させていく必要があると考え、「KSIOネットワークシステム」の将来設計図<図1>を提案した。
「KSIOネットワークシステムの将来設計図」<図1>に関しては、情報の提供者側と享受者側の双方のメリットがあるようにするために、インセンティブが高いと考えられる、総合型地域スポーツクラブや関連NPO団体との連携・支援及び、他の広域スポーツセンター、JISS(国立スポーツ科学センター)などとの連携を視野に入れたものとし、また、扱う情報に関しても現在の「スポーツイベント・講座」だけではなく、「スポーツ情報全般(クラブ情報、施設情報、指導者情報、掲示板等)」と広げていく必要がある。
「人のネットワーク化への戦略図」では、「人のネットワーク化」について理想的な形としてリゾーム型ネットワークの構築(詳細は本編参照)を提案した。ただし、リゾーム的ネットワーク網を行政側が直接仕組んでいくことは困難である。そこで、現在スタートしているKSIOネットワークシステムを段階的に進化させていく先に「地域の人のネットワーク化」が実現していくという戦略図<図2>を描いている。
本研究では、神奈川県広域スポーツセンターのスポーツ情報部門の役割を担う、スポーツ情報センター(県立体育センタースポーツ情報室)が具体的に取り組むことができるものを提案した。よりよい形でスポーツ情報提供事業を展開できるよう、今後に活かしていきたい。
<図1>KSIOネットワークシステムの将来設計図
<図2>地域の人のネットワーク
【学校体育長期研修員】箱根町立宮城野小学校 岩本 純子
キーワード:運動の生活化、学び方、学習過程
子どもたちの健康・体力の問題は、体力の低下傾向、運動経験の二極化、肥満の増加等、年々深刻化してきている。1)心身両面にわたる運動の効果を考えると、子どもたちの運動離れや体力の低下は、大いに危惧されるべき問題である。
日常生活の中での身体活動量が減り、体育の時間も縮減されている中では、学習の中だけで子どもたちに必要な運動量を確保することは難しく、生活の中に自分で運動を取り入れていく子どもを育てていくことが必要であろう。そのためには、健康や体力について考える力や主体的に運動を行っていく力、つまり学び方を学習の中で身に付けられるようにしていかなければならないと考える。
そこで、本研究では、「体力を高める運動」の学習の中で、新体力テストの活用、保健学習との関連、自分に必要な運動の内容や方法を自分で決めて行うプログラム活動を取り入れることなど学び方を大切にした学習過程を工夫することにより、健康や体力について考え、進んで運動に取り組む意欲が向上し、そのことが生活の中に運動を取り入れていくことにつながっていくのではないかと考え、本主題を設定した。
体力を高める運動において、学び方を大切にした学習過程を工夫することによって、健康や体力について考え、進んで運動に取り組む子どもになるであろう。
1.期間
平成15年10月20日(月曜日)から11月20日(木曜日)
2.場所
箱根町立宮城野小学校
3.対象
第6学年1組(男8名、女11名、計19名)
4.単元名
体つくり運動「体力を高める運動」(保健「病気の予防」と関連)
5.ねらい
関心・意欲・態度 | 健康や体力に関心を持ち、進んで体力を高める運動に取り組むことができる。 友達と協力し、安全に気を付けて運動することができる。 |
---|---|
思考・判断 | 自己の体力や体の状態に応じて、体力の高め方を考えたり、工夫したりすることができる。 |
技能 | 体力を高める運動のねらいに合った動き(動作)ができる。 |
6.学習の道すじ
ねらい1 | 自己の体力の特徴や運動量を知り、体力を高める必要性を理解し、課題を持つ。 |
ねらい2 | 自己の体力や体の状態に応じて、体力の高め方を考えたり、工夫したりすることができる。 |
ねらい3 | グループで考えながら、自分たちに合った体力を高める運動を選択し、工夫して運動を行い、成果を確認する。 |
7.学習過程
8.学び方を大切にした学習過程の工夫
学び方の内容が身に付けられるように、次のような学習活動を実践した。
【ねらい1】
(1)新体力テストの活用
自分の体力の特徴を把握し、自分に合っためあてが持てるように単元の初めに行った。
(2)保健学習との関連
運動の必要性を理解し、体力を健康面から考えた。
【ねらい2】
(3)体力要素別に運動を実践
健康や体力を意識しながら運動を行った。
【ねらい3】
(4)運動をプログラムする活動
自分たちに合った運動を計画・実践し、よりよいプログラムに修正した。
(5)学びを振り返る活動
プログラム活動を振り返り、児童自身が「運動を計画し、実践・修正する力」が付いたことを確認した。
(6)チャレンジタイムの実施
単元の最後に再度新体力テストを行い、運動の成果を確認し、学習後の体力つくりへの課題を持った。
検証の視点
学び方を大切にした学習過程を工夫することによって、健康や体力について考え、進んで運動に取り組むことができたか。
図1は、ふりかえりカードにおける「健康や体力について意識しましたか」についての3段階自己評価の推移を示したものである。
ねらい2では4時間目から5時間目にかけて評価が上がり、ねらい3でも6時間目から9時間目まで、緩やかに評価が上がっていることが分かる。
学習が進むにつれ、児童の健康や体力についての意識が高まっていったことが分かったが、それには何が有効であったのか、教師の手立てを中心に分析した。
ねらい2における評価の上昇の分析
「何を高めているか」、「その時の体の状態はどうなのか」などの投げかけを教師が行い、運動を行う時に、児童自身に体力や体の状態を意識させたことが有効であった。
ねらい3(プログラム活動)における評価の上昇の分析
「体力を高めること」を常に意識できるように、プログラム作成時・活動時・修正時に約束をしたり、考えるための視点を与えたりしたことが有効であった。
以上のことから、児童は健康や体力について考えることができたと考えられる。
図2は、事前・事後アンケート項目「生活の中(休み時間や放課後など)で、意識して運動(運動遊び)をしようと考えていますか」について4段階自己評価の人数と割合を比較したグラフである。
学習後は、全ての児童が意識して運動するようになったことが分かる。
学習後の感想(自由記述)には、19名中18名の児童が生活の中に運動を取り入れていることや、今後、生活の中に運動を取り入れていこうという意欲が記述されていた。
表1は、その記述をまとめたものである。
これらの記述(特に太字で示した部分)から、多くの児童が自分で考えて生活の中に運動を取り入れ、今後も行っていきたいという意欲を持っていることが分かる。
表1 学習後の感想(抜粋)
以上のことから、児童は進んで運動に取り組むようになったと考えられる。
体力を高める運動において、学び方を大切にした学習過程を工夫することが、健康や体力について考え、進んで運動に取り組む子どもの育成に有効であることが明らかになった。
(1)単元レベルでの課題
ア.1単位時間の弾力的な扱い
(2)6年間を見通した体力つくりの課題
ア.基本の運動から体力を高める運動への系統的な学習
(3)運動の生活化へ向けての課題
ア.体力つくりに対する意欲を持続させる工夫
イ.「体力を高める運動」や保健学習を核とした体力・健康づくり
参考文献
文部省 『中央教育審議会 第1次答申 21世紀を展望したわが国の教育の在り方について』 1996年
【学校体育長期研修員】寒川町立寒川東中学校 大野 正明
キーワード:参加型学習、体ほぐしの運動、実感を伴った理解
今回の学習指導要領の改訂により保健学習では、現代的課題への対応としていじめや不登校等、心の健康とかかわって新たにストレスへの対処に関する内容が加えられ、体育分野の「体ほぐしの運動」とも密接に関連させて取り扱うこととしている。これからの子ども達には、まず自分の精神の安定を図り、外からのストレスに対してどのように対処すべきかをしっかり考えて実践できる力を養うことが必要であり、そのような実現を図る保健学習の展開が求められている。1)
しかし、これまでの保健学習には、「単なる知識の暗記や原理原則の理解にとどまっていたのではないか。」「学習したことがあまり役に立っていないのではないか。」という指摘もある。2)それは、受動的学習形態の傾向が強い授業が多かったからではないかと思われる。また、自分自身の実践を振り返ってみても保健は保健、体育は体育というようにあまり関連性を持たせずに行ってきた経緯もあり、その中で知識伝達が中心となっていたことで実感を伴っての理解にまでは至らなかったと思われる。
そこで、「欲求やストレスへの対処と心の健康」の単元において、参加型学習注)を取り入れることで生徒の主体性を促し、さらに、リラクゼーションを中心としたストレスに対する対処法を「体ほぐしの運動」と関連させて行うことにより、実感を伴ってストレスについての理解を深めていけるのではないかと考え、本主題を設定した。
保健と体育の横断的な取り組みを行うことで、生徒の主体的参加意識や興味・関心が高まり、また、実感を伴わせることにより、理解が深まるのではないかと考え、次の仮説を設定した。
参加型の保健学習と「体ほぐしの運動」を関連させて取り扱うことにより、興味、関心を持ちながら、ストレスに対する理解が深まる。
(1)期間 |
平成15年11月5日から20日 6時間扱い |
(2)場所 |
寒川町立寒川東中学校 |
(3)対象 |
第1学年1組(男子20名・女子19名) |
(4)単元名 |
「欲求やストレスへの対処と心の健康」「体ほぐしの運動」 |
(1)学習のねらい
ア.欲求やストレスに対することがらについて関心をもち、仲間と協力して、意見を交換したりしながら課題を見つけ、意欲的に学習しようとする。
(関心・意欲・態度)
イ.欲求やストレスに関することがらについて、自分の知識や経験をもとにしたり、資料や仲間の意見や考えなどを参考にしたりして、その対処法を主体的に考え、判断している。
(思考・判断)
ウ.欲求やストレスに関することがらについて基本的な事項を理解し、知識を身に付けている。
(知識・理解)
(2)単元計画
《保健分野》
授業タイトル/ねらい
1 | オリエンテーション 学習の見通しを持たせ、基本的知識について理解させる。 |
2 | 欲求不満への対処行動について考える(ロールプレイング) モデルケースや今までの自己体験をもとに学習することで、興味、関心を持ちながら対処行動について理解させる。 |
3 | ストレスについて考える(ブレインストーミング) グループワークによるブレインストーミングを行い、ストレスに対する心と体の変化について理解させる。 |
4 | ストレス反応への気づき(体験ゲーム) 「プレッシャー」に焦点を絞り、体験的ゲームの中で、心や体に様々な変化が出ることや反応を実感させる。 |
《体育分野》
授業タイトル/ねらい
5 | 「体ほぐしの運動」でリラックスを実感しよう1 風船ゲーム、肩のリラクゼーションを行うことで、心と体の変化について、実感を伴って理解させる。 |
6 | 「体ほぐしの運動」でリラックスを実感しよう2 これまでの学習のまとめとして、心と体の緊張をなくし、不安やイライラを軽減できることを腹式呼吸の体験をとおして実感を伴って理解させる。 |
研究主題にせまるため、検証授業の結果から得られた資料をもとに、検証の視点に沿って分析・考察していくことにする。
1.検証の視点
参加型の保健学習と「体ほぐしの運動」を関連させて取り扱うことにより、興味、関心を持ちながら、ストレスについての理解が深まったか。
(1)興味・関心を持つことができたか
図1は学習ノートの自己評価項目の「今日の授業は楽しかったですか」の人数とその割合を表したグラフである。1時間目には4人の生徒が「楽しくなかった」と答えていたが2時間目以降は減少し、3・5・6時間目は「はい」と答えた生徒が31人から35人で、「いいえ」と答えた生徒は0人であり、ほとんどの生徒が「楽しかった」と答えていた。3時間目はブレインストーミングを行ったが、「どちらでもない」と答えた3人を除いては、クラス全員が「はい」と答え、生徒たちにとって単元内で最も楽しい学習だったことがわかる。
表1は事後アンケートにおける生徒の感想から興味、関心に関する記述を抜粋したものである。
表1「興味・関心」に関する記述(事後アンケート)
これらの感想をみても生徒たちは、参加型学習の保健や「体ほぐしの運動」の内容について、興味、関心を持ち、楽しみながら学習を行っていた様子が窺える。
以上のことから生徒たちは、学習全体をとおして、興味・関心を持つことができたことがわかる。
(2)ストレスについての理解が深まったか
図2は、学習ノートの自己評価項目「『あっ、わかった』とか『ああ、そうか』と思ったことがありますか」についての人数とその割合を3段階評価で表したグラフである。4時間目では「はい」と答えた生徒が14名で他の時間に比べて少ないが、3時間目のブレインストーミングを行ったストレスへの対処法の学習では24名が「あっ、わかった」とか「ああ、そうか」と答えており、6時間目の腹式呼吸を行ったリラクゼーションの学習においては25名の生徒が「はい」と答えており、殆どの生徒が理解を深めていることがわかる。
表2は事後アンケートの「この単元でわかったこと」についての生徒の記述を抜粋したものである。
表2「この単元でわかったこと」(事後アンケート)
これらの記述からも、生徒のストレスに対する理解が深まったことがわかる。
1.研究の成果
(1)グループでの話し合いや参加型の学習を取り入れたことで、生徒たちは楽しみながら主体的に学習活動に取り組み、友だちと意見交換や活動をしていく中自分の考えを広げ、深めることができた。
(2)「体ほぐしの運動」で「肩の上下プログラム」や「腹式呼吸法」を行ったことで、参加型の保健学習でのストレス対処法についての理解が、実感を伴っての理解へと深まっていった。
2.研究の課題
(1)グループ編成について
より多くの人との意見交換や交流を考えると、学習内容や課題別にグループ編成をし直すなどの工夫をしていく必要がある。
(2)学習の流れについて
保健学習を進めていく上で、保健と体育の融合にとどまらず、生活化につなげることに留意した学習計画の作成や総合的な学習の時間との連携等についても工夫していく必要がある。
引用・参考文献
1)國分康孝『エンカウンターで学校を創る』図書文化 2001
2)戸田芳雄『対談・中学校教育課程 保健体育の授業をどう創るか』明治図書1999
注)参加型学習…主体的参加を基礎とし、ロールプレイングなどを中心とした小集団による学習
【学校体育長期研修員】県立磯子工業高等学校 今給黎 俊之
キーワード:課題解決学習、学習カード、ポケットコンピュータ
最近の子供たちの運動不足や不規則な生活習慣は、単に運動面にとどまらず、肥満や生活習慣病などの健康面、意欲や気力の低下といった精神面など「生きる力」を育むうえでも妨げとなり、将来的に社会全体の活力も失われるのではないかと危惧されている。1)
こうした中で、新学習指導要領では、「体力を高める運動」学習の必要性を示し、充実させていくことを求めている。また、これからの体力つくりの学習は、学校体育での完結的な形で行われることが多かった現状から脱却し、卒業後に自分の健康を保ち、より豊かなスポーツライフのための基礎づくりとして、それに必要な基本的態度を学ぶことへと転換が図られなければならない。2)
そこで今回は、課題解決の道すじが分かりやすいように工夫した学習カードと、本校が工業高校であるために生徒全員が持っているポケットコンピュータを使って、自分の体力に関するデータを分析する。それらのデータを自分自身の体力の現状を把握したり、自分の課題を発見したりするために活用することによって、適切な課題解決に向けた取り組みができ、課題解決力が身に付くのではないかと考えた。また、そのような学習をとおして、自分にとって本当に必要な体力の高め方を学ぶことが、日常生活や各種の運動に応用し実践できる能力を育成し、主体的に自分の健康を保ち、豊かなスポーツライフを築くことに繋がるのではないかと考え、本主題を設定した。
体力を高める運動の学習において、自分の体力に関するデータを分析し活用するための学習カードとポケットコンピュータを使うことによって、自らの課題を発見でき、課題解決に向けた取り組みが主体的にできるであろう。
1.期間
平成15年9月24日(水曜日)から11月6日(木曜日) 10時間扱い
2.場所
県立磯子工業高等学校
3.対象
電気科第1学年2組(男子37名)
4.単元名
体つくり運動「体力を高める運動」
5.ねらい
関心・意欲・態度 |
健康や体力の向上に関心をもち、自ら進んで運動を実践できるようにする。また、互いに協力し健康や安全に留意し運動を楽しもうとする。 |
---|---|
思考・判断 |
自分の体力に応じた課題を設定し、課題の解決を目指した活動を工夫してできるようにする。 |
技能 |
自分の体力や生活に応じて、体力を高めるための運動の合理的な行い方を身に付けることができるようにする。 |
知識・理解 |
体力を高める運動の意義やねらいに即した運動の行い方を理解できる。また、学び方のサイクルを理解することができる。 |
6.学習の道すじ
ねらい1
ねらい2
7.学習過程
表1 学習カードの生徒の倒立のコメント
検証の視点
自分の体力に関するデータを分析し活用するための学習カードとポケットコンピュータを使うことによって、自らの課題を発見でき、課題解決に向けた取り組みが主体的にできたか。
1.自らの課題を発見できたか
図1は事後アンケート項目「データを活用できたか」についての4段階評価の割合と人数を表したグラフである。
「できた」と「どちらかといえばできた」と回答した人数は、34人で全体の92%である。ほとんどの生徒が「データを活用できた」と振り返っていることが分かる。
生徒は、自分の活動をデータとして記録し、学習カードやポケットコンピュータの使い方を理解することにより、データの記録方法やデータの見方を理解して、記録したデータを使って活動を振り返ることができた。そして、学習カードやポケットコンピュータを使いながらデータを分析することにより、課題を発見しすることができたと考えられる。
2.課題解決に向けた取り組みが主体的にできたか
次に、学習カードの記入状況や記述内容及び取り組み内容から、課題に合った解決の方法を実践できているかどうかについて見ていくことにするが、筋力/筋持久力を高める運動については、単元計画どおりの継続的な学習ができなかったため、「課題に合った解決方法を実践できているか」について判断できるデータを得ることができなかった。よって、ここでは、心肺持久力を高める運動について得られたデータから検証する。
図2は、心肺持久力を高める運動について、教師が学習カードの記入状況や記述内容及び取り組み内容を分析し、「課題に合った解決方法を実践できているか」について、「できている」「ほぼできている」「できていない」の3段階で評価し、その割合の変化と「できていない」と評価した人数を時間ごとに表したグラフである。
8時間目を除き、「できている」と評価した人数が増加し、「できていない」と評価した人数が減少していることが分かる。8時間目に値が低下したのは、5時間目までの主な学習目標であった「一定ペースで走る」が、8時間目から「運動強度を意識して一定ペースで走る」へと変わったことによって、生徒が学習課題を明確にできなかったことや、新しい取り組みに慣れていなかったことが原因だと考えられる。
以上のようなことから、自己評価と学習カードの記入状況や記述内容の分析から、生徒は学習の経過とともに課題に合った解決の方法を実践できたと考えられる。
また、表1は、今回の学習全体の感想を抜粋したものである。運動の必要性を感じ、健康や体力を意識し、主体的に取り組もうとする意欲が読み取れることができる。
表1「学習後の感想」(抜粋)
以上のことから、生徒は課題解決に向けた取り組みが主体的にできたと考えられる
1.研究の成果
体力を高める運動の学習において、自分の体力に関するデータを分析し活用するための学習カードとポケットコンピュータを使うことは、自らの課題を発見でき、課題解決に向けた取り組みが主体的にできる生徒の育成に有効であることが明らかになった。
2.今後の課題
(1)より簡単で使いやすい学習カードの工夫
(2)3年間を見通した学習指導計画の作成
(3)楽しく運動に取り組むための工夫
参考文献
1)神奈川県教育委員会 「児童生徒の体力向上をめざして 平成13年度神奈川県児童生徒の体力・運動能力調査報告書」 2003
2)三木四郎 「新設「体つくり運動」何をめざし、何を学ばせるのか」『学校体育』第52巻第4号 日本体育社 1999
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