ホーム > 教育・文化・スポーツ > 社会教育・生涯学習・スポーツ > スポーツ振興 > スポーツ情報や動画を見る > 第39号(平成23年度/2011)
更新日:2012年5月3日
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体育センターレポート。事業部の4班が行った研究と、体育センター長期研修員の授業研究により構成されております。これらの研究につきましては、抄録のみの掲載となっておりますが、研究報告書を掲載しておりますので、併せてご活用いただければ幸いに存じます。
神奈川県立体育センター所長 中村 ふじ
昨年3月の東日本大震災は、史上まれに見る大災害で、多くの人々の尊い命が失われ、被災された方々は、今なお辛く不便な生活を余儀なくされています。
そのような中、FIFA女子ワールドカップでの「なでしこジャパン」の優勝は、日本中に笑顔と感動をもたらせてくれました。「なでしこ」たちの、けして諦めないひたむきな姿に、多くの人々が勇気付けられると同時に、「スポーツのすばらしさ」「スポーツの持つ力」を改めて感じたのではないでしょうか。また、今年7月にはロンドンで30回目のオリンピックが開催されます。本県からも多くのアスリートが参加します。日本選手団の活躍をお祈りすると共に、さらなる感動をもたらしてくれること期待したいと思います。
さて、このたび、「体育センターレポート第39号」を発刊する運びとなりました。本号は、平成23年度に当センター事業部の研修指導班、調査研究班、スポーツ推進班、スポーツ情報班が行った研究報告、及び、長期研究員の授業研究報告により構成されています。これらの研修報告は、研究抄録のみの掲載となっていますが、研究報告書の全文につきましては、当センターのホームページに掲載していますので、併せて御活用いただければ幸いに存じます。
当センターは、子どもから高齢者まであらゆる年齢層の方たちが、各自のライフステージにおいて、心身共に明るく豊かで活力ある生活を営むことができるよう、県の体育・スポーツ振興の中核機関として県民のスポーツライフを総合的にサポートしています。今後も、心と体の健康つくりをめざす体育・スポーツ活動を促進し、質の高いサービスを提供していくとともに、指導者及び実践者への支援、スポーツ情報の提供、調査研究に取り組んでまいりますので、益々の御指導、御鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。
最後に、本号掲載の研究を進めるにあたり、御協力を賜りました皆様に厚くお礼申し上げ、発刊のことばといたします。
研修指導班 幸田 隆 小川雅嗣 田所克哉 磯貝靖子 瀬戸隆紀 佐藤康二 納富崇典
研究アドバイザー 鹿屋体育大学 佐藤 豊
中央教育審議会から、平成20年1月17日に「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」の答申が発表された。この答申を受けて、学習指導要領が改訂され、小学校は平成23年度から全面実施され、中学校も平成24年度から全面実施、高等学校は平成25年度から学年進行により実施される。また、学習評価については、同答申を受け、平成22年3月24日に「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」が提示されたところである。
研修指導班においては、前回の改訂時に際しても、「学習指導と学習評価の在り方、評価の観点、評価規準、具体的な評価の方法等」について研究を重ね、教育現場で役立つ資料を提供してきた。しかしながら、評価の観点、評価規準の必要性等、理念についての理解を得ることができた一方、評価方法等における煩雑さは否めず、実践にあたっての十分な支援に至らなかったことが、大きな反省点である。
今回の改訂にあたり、この反省を踏まえ、学習評価の在り方及びその方法についての検討により、指導と評価を計画しやすい様式の作成が必要であると考え、本テーマを設定した。
新しい学習指導要領に示された指導内容及び国立教育政策研究所の作成した評価規準に関する参考資料を基に、具体的な指導と評価の方法について検討し、指導と評価の関係を理解しやすくする指導と評価の計画様式を作成する。
国立教育政策研究所が作成した「評価規準」の新と従前を比較した。
(1)評価規準の変更点の例
ア 教科レベルの評価規準の変更点
イ 領域レベルの評価規準の変更点
ウ 単元レベルの評価規準の変更点
(2)比較から見えてきたこと
(1)領域レベルの評価規準の系統性の例
ア 教科レベルの評価規準の系統性
イ 領域レベルの評価規準の系統性
ウ 単元レベルの評価規準の系統性
(2)系統表から見えてきたこと
ア 「関心・意欲・態度」の観点について
イ 「思考・判断」の観点について
ウ 「技能」の観点について
エ 「知識・理解」の観点について
(1)学習指導評価案の特色
(1)ツールの基となる「新学習指導要領に対応した単元計画の構造図」の課題
本センターの研修講座で構造図を作成した先生方の感想から次のような点が上げられた。
(2)単元計画の構造図作成ツールの作成に当たり工夫した事項
(3)ツールの開発から見えてきたこと
今回、文部科学省や国立教育政策研究所からの学習指導要領解説をはじめとする資料の中に、指導と評価に関する内容が非常に具体的に示されていることを感じた。ただ、その内容が学校の先生方に伝わり、授業に反映されていかなければ意味がなく、それを伝えていくのが、県の教育委員会であり、本センターの使命であると考える。
本研究では、指導と評価の計画様式について提案したが、多くの学校で授業づくりの際の一助となれば幸いである。
調査研究班 三浦陽輔 江守哲也 柳瀬 実 小原涼子
研究アドバイザー 慶應義塾大学 大谷俊郎
近年の社会環境や生活様式の変化は、児童生徒の成長に様々な影響を及ぼし、健康に対する不安や昭和60年頃からの長期的な体力の低下傾向の大きな要因と捉えられている。
そのような状況を背景に、新しい学習指導要領の体育・保健体育では、体力向上重視の観点から、「体つくり運動」は基本的な動きや体力を培うことをねらいとして小学校低学年から高等学校の12年間すべての学年において指導されることとなった。
また、小、中、高等学校期のスポーツクラブや運動部での活動は、将来にわたって主体的に健康な心と体を育むことができる重要な機会として期待されている。
このように学校における体育・保健体育の教科指導や運動部等での活動が、児童生徒が生涯にわたって豊かなスポーツライフを実現する基礎を培い、健康の保持増進のための実践力の育成と体力の向上を図る上で重要な役割を担っている。
そこで、神奈川県における児童生徒の体力・運動能力の状況を分析することによって、本県の学校における体育・健康に関する指導のさらなる改善に資するため本テーマを設定した。
体力・運動能力調査を県全体と運動部活動等の加入者、未加入者の各測定項目平均値の男女別、年齢別比較と年齢ごとの平均値の5年間の推移及び生活実態調査と体力運動能力合計点との関連を分析し、課題を整理する。
平成23年4月から平成24年3月
(1)分析方法
体力運動能力平均値の比較にはf検定及びt検定を行い、生活実態調査と体力運動能力合計点のクロス集計にはカイ2乗検定を行った。有意水準については次のとおりである。
(2)分析データ
ア 平成22年度神奈川県児童生徒体力運動能力調査報告書(H18から22)
イ 平成22年度体力・運動能力調査報告書(文部科学省)
(注)年齢は測定年度の4月1日現在の満年齢
表1 男子20mシャトルラン平均値
表1のとおり、男子の20mシャトルランの平均値をみると、加入者は6歳(小1)から14歳(中3)までの各年齢間で上がっており0.1%水準の有意差がみられるが、14歳(中3)と15歳(高1)間、16歳(高2)と17歳(高3)間では平均値が下がっている。また、未加入者は6歳(小1)から11歳(小6)までの各年齢間で上がっており5%水準以下の有意差がみられる。加入者と比較すると、有意差のみられない年齢間が多い。
加入者と未加入者の年齢毎の平均値を比較すると、全ての年齢において加入者が未加入者を上回っており、0.1%水準で有意差がみられた。
他の項目においても、男女ともに概ね同じ傾向がみられた。
特に加入者の特長として、14歳(中3)と15歳(高1)間における、男子の「全身持久力」、女子の「全身持久力」「筋持久力」「瞬発力」「走力」の平均値が下がっていることがあげられる。
図1 加入者、未加入者別女子シャトルラン平均値5年間の推移
図1の加入者女子20mシャトルランをみると、12歳(中1)、13歳(中2)のグラフ間が他の年齢のグラフ間と比較して顕著な幅広が認められた。この傾向は、他の測定項目と比較しても顕著である。また、クラブ加入者においては、15歳(高1)のグラフが14歳(中3)のグラフの下に極端に位置している。男子20mシャトルラン、女子50m走も同様に15歳(高1)と14歳(中3)の逆転現象が認められた。
その他、男女ともにほぼ全ての項目で年齢を追うごとに加入者と未加入者の差が全体的に大きくなることが伺えた。
図2 女子17歳の朝食摂取と体力運動能力合計点
男子は8歳(小3)と9歳(小4)で朝食の摂取状況による低得点群と高得点群間に5%水準の有意差がみられた。また、15歳から17歳(高校生)では0.1%水準の有意差がみられた。一方、女子は9歳(小4)で朝食の摂取状況による低得点群と高得点群間に5%水準の有意差がみられた。また、13歳(中2)と15歳(高1)では1%水準で、16歳(高2)と17歳(高3)では0.1%水準の有意差がみられた。
男子のテレビの視聴時間と合計点では、8歳(小3)と15歳から17歳(高校生)でテレビの視聴時間による低得点群と高得点群間に0.1%水準の有意差がみられた。また、女子では、15歳から17歳(高校生)で低得点群と高得点群間に0.1%水準の有意差がみられた。
男女の睡眠時間と合計点では、男子は9歳と10歳(小4、小5)に5%水準の有意差が、女子は9歳(小4)に0.1%水準の有意差がみられた。
図3 男女別上体起こしの全国、加入者、未加入者の平均値比較
平成22年度の加入者、未加入者の平均値を全国平均と比較してみると男女ともに、反復横とびを除き加入者の平均値が全国平均とほぼ同様または上回る値を示した。未加入者においてはほぼ全ての項目、年齢で全国平均を下回る値を示した。
男女ともに加入者、未加入者共通して、各測定項目の平均値は身体の成長に合わせて上昇している。このことは運動量の大小に関わらずスキャモンの発育・発達曲線の一般型(骨や筋肉)の成長に合わせて小学生から高校生まで伸びていると考えらえる。
加入者と未加入者別の各年齢間毎の平均値の差をみると、加入者は全ての測定項目において一部の年齢を除き有意差がみられる。さらに加入者は11歳(小6)から14歳(中3)間に平均値が上がっている測定項目が多くみられた。逆に14歳(中3)から15歳(高1)間で平均値の上昇が少ない項目が多く、「シャトルラン(全身持久力)」については男女ともに平均値が下がった。
このことは、中学校での運動部活動等加入率が高くなり、運動量が多くなり成長ホルモンと相まって急上昇したことと、反対に中学校の運動クラブ活動引退と受験期に運動量が大きく減少することが要因として考えられる。特に「全身持久性」は他の「筋力」「瞬発力」よりもデ・トレーニングの影響が顕著にあらわれた。
一方、未加入者は「長座体前屈(柔軟性)」、「シャトルラン(全身持久力)」の測定項目で年齢間の有意差が少なく、15歳(高1)頃から平均値が緩やかに上がる傾向がみられた。加入者と比較すると、年齢間での運動時間の変化が少なく、成長に合わせて平均値が上がっていることが考えられる。このことからも、加入者の考察どおり、「全身持久性」はトレーニング効果が大きいことが考えられる。
また、加入者と未加入者の同年齢毎の平均値を比較すると、全ての測定項目において加入者の平均値が上回っている。特に小学校の低学年から高校3年生までほぼ0.1%水準の有意差が出ていることからも、小学生の早い時期から運動を多く実施している者は体力測定の数値も高くなる傾向にある。
1の考察が、5年間(平成18から22年度)の推移でも同様に当てはまるものと考えられる。
高校生時期の朝食の摂取状況やテレビの視聴時間等の生活習慣は体力と相互に強く連関しており、この時期の生活習慣の重要性をあらためて提言できると考えられる。
無作為の標本抽出により、加入者と未加入者の標本数の割合が各年次、各年齢で区々なので、平均値にバイアス(偏り)が生じる可能性が高い。特に高校生の未加入者の割合が多くなっていることからも、神奈川県の平均値が大きく全国平均を下回っているとは一概には言えないと考えられる。
本研究が、単に運動部活動等への加入率向上推進のためではなく、運動習慣のない児童生徒に対する体育・スポーツの指導、ヘルスプロモーション・健康教育の充実のための一資料として活用されることを望みたい。
スポーツ推進班 大石泰平 市川嘉裕 小峰譲二 逸見育磨 大西理也
多種目、多世代、多様な技術・技能の人たちで構成される総合型地域スポーツクラブ(以下「総合型クラブ」という)は、クラブを構成する一人ひとりがスポーツサービスの受け手であると同時に、創り手であるという主体性を前提とし、これによって地域におけるスポーツ文化の確立を目指すものである。
文部科学省が平成12年9月に策定した「スポーツ振興基本計画」は、生涯スポーツ社会の実現に向け、平成13年(2001年)度から平成22年(2010年)度までの計画期間内に、全国の各市区町村に少なくとも一つは総合型クラブを育成することを目標としている。
神奈川県内33市町村では、現在12(注1)の市町において総合型クラブは未育成である。クラブの育成率(創設済み市町村数/全市町村数)は平成23年度が63.6%(注2)であり全国平均の75.4%(注3)に比べ低い。(注1,2,3は平成23年度文部科学省調査による。)
そこで、県内市町村を対象に実施している総合型クラブに関する実態・意識調査や、文部科学省が総合型クラブを対象に実施している実態調査の結果、そして平成22年度に県民を対象に実施した「体力・スポーツに関する調査」などを分析し、神奈川県内における総合型クラブの創設等に関する状況を把握する。さらに県内総合型クラブへの巡回・相談の際に行ったヒアリングの内容および、昨年度より実施している総合型クラブの未育成市町(以下「未育成市町」という)への巡回・相談の際に行ったヒアリングの内容について整理し、これらのことを分析・考察することで、未育成市町の総合型クラブ創設に向けた支援方策の材料になるのではないかと考え、本テーマを設定する。
県内各市町村スポーツ主管課に対する総合型地域スポーツクラブに関する実態・意識調査や、総合型クラブを対象に実施している実態調査の結果を分析する。加えて未育成市町、及び総合型クラブ代表者からのヒアリングの内容と合わせ、考察を行う。
未育成市町はスポーツ施設が少なく、人口及び面積の少ない市町に多い傾向がある。
未育成市町においては「地域のスポーツ活動との関係」「キーパーソンの不足」「支援体制組織の職員配置」「財源の保」などが課題であることがわかった。
未育成市町では「週1日以上運動やスポーツを行った人」の割合が低い。また、総合型クラブの認知度も低いことがわかった。
未育成市町では、現在行っているスポーツ活動の範囲で満足しているという団体が多かったり、人口が少なく子どものスポーツ活動の機会は減少傾向にある市町もあるなど、総合型クラブの創設に向けての課題は多様である。
また、各都道府県の広域スポーツセンター対象の「広域スポーツセンターに関する実態調査」からは、総合型クラブが創設されない理由として「地域住民の総合型クラブへの理解が低い」「活動の中心となるキーパーソン(人材)が見つからない」ことが多く指摘されている。
神奈川県の総合型クラブには次のような特色が見られる。
体育センターが行っている「総合型クラブ巡回・相談」の際に聞き取った内容や、各総合型クラブのホームページなどから抜粋、要約したものに、創設された各総合型クラブの創設時の理念や方向性などが示されている。
創設された際には、創設後の運営の方針を明確に位置づけている場合や、まずはできることから始めようとする内容まで多様である。いずれの場合も創設のキーパーソンを中心に地域住民が協力し、できることから着手していった結果、総合型クラブが創設されることが多い。神奈川県内ではこのような方々の様々な活動から、総合型クラブ数は徐々に増えている。
総合型クラブ未育成市町の多様な課題の中に「総合型クラブへの理解度の向上」や、「キーパーソンの不足」が多く見受けられた。また、神奈川県では、総合型クラブが創設されることによる効果として、地域住民や地域の子どもたちに好ましい影響を与えていると考えている総合型クラブが多いなど、神奈川県内の総合型クラブの特徴が明らかになった。
このことから、未育成市町に総合型クラブを創設をするために、次の3つの点に重点を置き取り組む必要があると考える。
未育成市町を含め、県内地域住民において総合型クラブの認知度は低く、各市町村において総合型クラブについての普及啓発活動が十分ではないと考えられる。文部科学省は、「総合型クラブの認知度を高めるための広報を継続していくことが必要。」また、「行政関係者や学校関係者に対して周知を図っていくことも重要。」としている。
自治体においては、多くの人が見聞きするマスメディア(テレビ、ラジオ、新聞、自治体広報誌)などの広報媒体を継続的に活用して、総合型クラブの認知度を高めるための、なお一層の取組みが求められる。
さらに、各市町村が地域のスポーツ関係者等を対象に、総合型クラブについての説明会を実施するなどの取組みが必要であろう。また、総合型クラブと深く関連している教育関係機関へ向けて、機会を見つけて情報提供をしていく取組みを一層推し進める必要もあると考える。これら様々な機会を活用し、総合型クラブが創設されることにより地域社会が好ましい変化を遂げる可能性があることなど、総合型クラブの効果を多くの方々に理解してもらうことが大切である。
これまでに総合型クラブが未育成であった市町においても、説明会を開催し、総合型クラブに対する地域住民の認知度アップなどに取り組んできた。
未育成市町において総合型クラブが創設されるには、様々な人たちへ働きかけていくことが必要である。セカンドライフに地域貢献をしたいと考えている方や、スポーツを通して青少年の健全育成を考えている方などを見つけ出し、個別に対応していくことも必要である。
また、体育センターで毎年開催している「総合型地域スポーツクラブ等人材育成事業スポーツクラブマネジメント講座」等への更なる参加促進をしていく必要がある。キーパーソンとなり得る人材等は、これらの様々な取組みを通して発掘されるものと考える。
神奈川県の総合型クラブは全国的な比較の結果、地域住民が主体的に創設している総合型クラブが多い。今後も行政主導ではなく、神奈川の特徴である自主的な総合型クラブが創設されることが望まれる。
スポーツ施設数が少なく人口及び面積の少ない市町でも、近隣の海や、湖での自然環境を生かした活動をしている総合型クラブがいくつかある。未育成市町における創設に向けてのひとつのヒントになるであろう。
一方で、神奈川県は比較的多くの大学や民間企業があるにもかかわらず、全国と比較してそれらを活用している総合型クラブが少ないことがわかった。これらの施設や人材を活用することも考えられる。
また、総合型クラブと「子育て支援」との関わりの割合が低いこともわかった。今後、小学校の学童保育との関わりや、放課後の施設の有効利用をすることで子どもたちの活動に広がりができることが考えられる。
さらに保育士や看護師、保健師の経験者等の地域に潜在的にある力を生かすなど、現有の人材を活用することも有効であろう。これら地域の特性を生かして総合型クラブを創設していくという視点も重要であると思われる。
今後は、総合型クラブを創設したことによる効果や可能性などをより明確にしていくことも重要であるとともに、創設された総合型クラブが、各種の助成に頼らず自立した運営をめざしていくための支援方策についても探っていく必要があるものと考える。
スポーツ情報班 奥津賢一 井上信二 米山教子
平成12年9月に文部科学省が策定した「スポーツ振興基本計画」に基づき、神奈川県では平成16年12月に、県のスポーツ振興指針である「アクティブかながわ・スポーツビジョン」を策定した。また、平成22年8月には、文部科学省から「スポーツ立国戦略-スポーツコミュニティ・ニッポン-(以下、「スポーツ立国戦略」という。)」が公表され、さらに、スポーツを巡る状況の変化に伴い、「スポーツ振興法」を50年ぶりに改正した「スポーツ基本法」が平成23年8月に施行された。そして、平成23年12月には、これまでの施策の中間評価を踏まえ、「アクティブかながわ・スポーツビジョン」が全面的に改定された。
そこで、研究の1年次は、神奈川県教育委員会教育局生涯学習部スポーツ課(以下「県教育委員会スポーツ課」という。)が実施した、市町村スポーツ主管課を対象とする平成22年度スポーツ関係事項調査結果を集計・分析し、スポーツ振興に関する取組みの全県的な傾向を把握した。2年次は、国や県の施策に照らし合わせながら、平成19年度から平成23年度の調査結果の経年変化をとらえ、今後の県のスポーツ振興施策の構築や、市町村のスポーツ振興の取組みに寄与する資料を作成することとした。
県教育委員会スポーツ課が実施している県内市町村におけるスポーツ振興に係る計画及びスポーツ関係事業等の調査について集計・分析した。
神奈川県内33市町村スポーツ主管課
(1)体育・スポーツ振興事業主管課等について
(2)スポーツ振興に係る計画について
(3)スポーツ関係費について
(4)スポーツ主管課が所管する事業等について
(5)選手強化事業について
(6)学校体育施設開放事業について
(7)スポーツクラブの状況について
(8)スポーツ大会等をサポートするボランティア組織について
(9)企業等スポーツ施設の地域住民への開放状況について
(10)スポーツ施設について
スポーツ主管課は、「生涯スポーツ」と「競技スポーツ」を主な業務とし、「高齢者スポーツ」「学校体育」「障害者スポーツ」等は、高齢福祉課や学校教育課など、より関係の深い課が所管する傾向があった。また、スポーツ振興を目的とした財団等を設置している市町村は全体の2割程度で、「生涯スポーツ」と「健康体力つくり」を主な業務としていた。複雑に変容する社会や市町村民のニーズに対応するため、市町村の各主管課と県教育委員会スポーツ課が関係を密にし、県全体としてバランス良く事業を推進しなければならない。
スポーツ振興に係る計画の策定状況は、この5年間で漸増し、現在、9割以上の30市町村が策定済みである。しかし、そのうち5割以上の16市町村については、スポーツ振興に係る計画の評価方法が未策定となっていた。近年中に全市町村がスポーツ振興に係る計画の策定を終えると思われ、評価方法については、既存の方法を参考にしながら、「評価頻度」「評価母体」「評価指標」等について整備を進めていけると良い。
市町村のスポーツ関係費は、およそ2割が事業費、およそ8割が施設費であった。また、住民一人あたりのスポーツ関係費は、市町村によって格差が大きいことも分かった。今後、高齢者人口の増加によるスポーツ活動の需要拡大が予想され、これまで以上にスポーツ振興に係る財源を確保する手立てが必要となる。
高齢者対象の事業は、「健康・体力つくり」を目的とするものが多かった。障害者対象の事業は、「水泳」「卓球」が多かった。青少年対象の事業は、「水泳」「サッカー」「体操」「ダンス」が多かった。野外活動に係る事業は、「野外活動体験」「クラフト教室」「マリンスポーツ」が多かった。健康・体力つくりに係る事業は、「体操」「エクササイズ」「ヨガ」といった、フィットネス系の運動を多く実施していた。このように、対象となる参加者の年齢的・身体的特性と目的に即した種目が合理的に選択されていることが分かった。
国際交流事業は、一部の市町村で「サッカー」「バスケットボール」「陸上競技」等で実施されており、対象は小・中・高校生及び指導者、訪問先はアジアの近隣諸国であった。目的は、友好都市との交流や文化体験、国際理解といった意味合いを持つものが多かった。今後「トップアスリートの育成」という視点からも事業推進が期待される。
指導者登録制度を持つ市町村については、平成22年度において8市町村と、全体の24%にとどまっていた。神奈川県立体育センターで運営しているスポーツ指導者の登録制度である「スポーツリーダーバンク」が、指導者登録制度を持たない市町村のニーズを補完できると考える。
スポーツ情報提供事業は、平成22年度で55%の18市町村が実施していた。主としてスポーツイベント・教室・講座の案内であり、媒体としては、広報誌、ホームページによるものが多かった。神奈川県立体育センターのホームページでは、スポーツに関する「指導者」「クラブ・サークル」「イベント・講座」等の情報提供を行っており、今後も市町村にとって有用な情報を提供していきたい。
運動やスポーツを暮らしの一部として習慣化するための3033運動の普及・啓発の取組みについては、およそ6割の21市町村が取り組んでいた。実施場所は「各種イベント・大会」が最も多く、次いで「関係団体事業」となっていた。また、実施方法は「チラシ等配布」が圧倒的に多く、次いで「広報誌」「ホームページ」による紹介となっていた。今後3033運動の必要性が深められ、これがきっかけとなって県民の健康や体力に関する意識が向上し、生涯スポーツ社会の実現につながることが期待される。
およそ5割の市町村で、国際大会・全国大会・全国障害者スポーツ大会・駅伝競争大会等に参加する選手の強化を目的に行われている。「スポーツ立国戦略」における「世界で競い合うトップアスリートの育成・強化」という重点戦略のもと、さらなる事業推進が望まれる。
小学校においてはほぼ100%、中学校においても概ね97%の開放率となっていた。市立高等学校においては、平成23年度は15校すべてが未開放であった。平成22年度の県内市町村の学校体育施設開放利用実績をみると、小中学校併せてのべ45万回、1,500万人の市町村民が利用していることから、今後も、市町村民が持つスポーツ活動に対する欲求を充足させるため、公共のスポーツ施設を計画的に整備していくのはもちろんのこと、既存の学校体育施設の効率的な利用を促進する必要がある。
33市町村のうち、スポーツクラブ育成事業を行っているのは、平成22年度で18%の6市町村にとどまっている。また、「施設利用時間の拡大」「広報誌等による情報提供」「クラブ運営・活動資金の助成」という形でスポーツクラブの活性化を行っている市町村が多かった。今後も、それぞれのライフステージに適応できる場の設定や、クラブ同士の連携などが望まれる。
市町村におけるボランティア組織の設置状況は、この5年間で増加せず、市町村全体で12%の4団体にとどまっている。「アクティブかながわ・スポーツビジョン改定版」では、「スポーツボランティア等人材の育成・充実を図る」ことを施策の方向性の一つとしているため、ボランティアの持つ大きな力を、今後のスポーツ活動の発展につなげていければ良いと考える。
およそ4割の市町村が企業等スポーツ施設の地域住民への開放を把握しており、その施設数は平成23年度で20となっていた。総合型地域スポーツクラブとともに、市町村民のスポーツ活動場所として、あるいは競技水準向上の場としての役割を今後も担ってもらいたい。
スポーツ施設の無休化は、この5年間で「全施設実施」「一部の施設実施」を併せても、全体の4割程度である。住民のあらゆる勤務形態・生活形態に対応できるよう、「施設・設備のメンテナンス(安全管理)」と、「営業時間・営業日の拡大」の両立を追求していけるとよい。
予約システム等の電子化はこの5年間で漸増しており、平成23年度では全体の76%が全施設または一部の施設で電子化されている。情報共有のための施設間のネットワーク構築や、施設利用料金の電子決済制を導入するなど、電子化の付加価値を上手に利用したい。
指定管理者制度を導入している施設を持つ市町村は、全体のおよそ7から8割で、この5年間で市町村数に大きな変化はない。しかし、導入施設数は、平成19年度の91施設から133施設にまで増加した。指定管理者の導入においては、「人的・物的配置」・「金銭的保障」・「利用者への周知」・「管理システムの充実」・「監督・評価システムの確立」といった、様々な条件が満たされなければならない。
県教育委員会スポーツ課で実施されてきた、市町村スポーツ関係事項調査結果の経年変化を集計・分析したことにより、近年のスポーツ振興に関する取組みの傾向を把握することができた。
県は、それぞれの市町村の規模や事業体制等を理解し、各自治体の自己責任・自助努力を基本としつつも、市町村に対する各種支援をはじめ、有用となる情報を提供しながら、県と市町村双方の連携・協力関係の強化を推進していく必要がある。この意味において、本研究によって各市町村のスポーツ振興に関する取組み状況を把握できたことは、今後、スポーツ振興施策における市町村とのパートナーシップを強化していく上での有効な指標になると考える。
綾瀬市立寺尾小学校 上山智也
ゲーム・ボール運動の授業を行っていて、チームの仲間に対する叱責、相手チームとのトラブル、審判のジャッジをめぐっての言い争いなどといった場面を経験した教師は多いのではないだろうか。私自身も、このような子ども同士のトラブルを経験してきた。こうした状況で子どもたちが学習に取り組んでいたとすれば、ゲーム・ボール運動の特性に触れたり、ゲーム・ボール運動の醍醐味である集団的達成の喜びを味わえていなかったと考えられる。
ところで、小学校学習指導要領には、「道徳の時間などとの関連を考慮しながら、体育科の特質に応じて適切な指導をすること(一部省略)」とあり、また、先行研究においても、「体育と道徳の互恵関係」に関わる報告〔小谷川〕等もある。
そこで、本研究では、小学校第3学年において、道徳の時間と関連を図りながら、チームワークとフェアプレイといった人間関係を重視する意図的な学習〔岡出〕を行うことで、集団的達成の喜びを味わうことを目指し、効果の検証を通して、1つの授業モデルを提案することとした。
小学校第3学年において、道徳の時間と関連を図った、チームワークとフェアプレイを重視する体育(フラッグフットボール)の授業を実践すれば、集団的達成の喜びを味わうことができるであろう。
(1)道徳の時間と関連を図ることについての有効性の具体
(2)チームワークとフェアプレイを重視する体育の状況
(3)「集団的達成の喜びを味わうことができたか」
(1)期間
平成23年10月5日(水曜日)から10月28日(金曜日)
(2)場所
綾瀬市立寺尾小学校
(3)対象
第3学年A組(31名) B組(31名)
(4)単元名
フラッグフットボール
(5)単元目標
ア 基本的なボール操作やボールを持たない時の動きによって、易しいゲームをすることができるようにする。(技能)
イ 運動に進んで取り組み、規則を守り仲よく運動をしたり、勝敗を受け入れたり、場や用具の安全に気を付けたりすることができるようにする。(態度)
ウ 規則を工夫したり、簡単な作戦を立てたりすることができるようにする。(思考・判断)
(6)単元計画
ねらい1: | チームで協力して簡単なランプレーやパスプレーの作戦を選んだり立てたりして、その作戦に合った動きをする。 |
ねらい2: | チームで作戦を選んだり立てたりして、役割を実行し、ゲームを楽しむ。 |
道徳1 |
「チームワークについて考えよう」2-(3)信頼・友情 |
||||
1 |
チームワークの重視 |
オリエンテーション・しっぽ取りゲーム |
|||
2 |
ねらい1 |
本時の確認等 |
ドリルゲーム |
2対1ランゲーム |
|
3 |
3対3ランゲーム |
||||
4 |
3対2ランゲーム |
||||
5 |
3対1パスゲーム |
||||
6 |
3対2パスゲーム |
||||
道徳2 |
「フェアプレイについて考えよう」2-(1)礼儀 |
||||
7 |
フェアプレイの重視 |
ねらい2 |
本時の確認等 |
作戦タイム |
リーグ戦(3対3ゲーム) |
8 |
リーグ戦(3対3ゲーム) |
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リーグ戦(3対3ゲーム) |
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10・11 |
フラッグフットボール大会 |
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道徳3 |
「チームワークやフェアプレイを生活に生かそう」2-(3)信頼・友情 |
(7)指導の工夫
ア 道徳の時間との関連について
道徳の1時間目では、チームワークについて、2時間目ではフェアプレイについて、資料を通して考えさせた。その考えを、体育の授業に反映させるよう意識させ学習を行った。また、道徳の3時間目では、これまでの体育や道徳の時間を振り返り、これらを自分たちの生活に生かせないか考えさせる学習を行った。
イ チームワーク、フェアプレイにつながる手立てについて
チームワーク及びフェアプレイの基礎となる内容を「肯定的な言葉かけ」、「役割を明確にしたチーム運営」、「協力、公正な態度」とし、次のようにチームワーク3か条、フェアプレイ3か条として明文化した。
上記3か条の作成にあたっては、道徳の時間の児童の発言やワークシートの記述を参考とし、その作成経緯を体育の時間に児童に伝え、合意形成を図った。
授業の始めに、この3か条を全員で復唱し、授業の終わりには、学習カードで守れたかどうかについての自己評価を行った。
事後のアンケートから、フラッグフットボールの授業をしていて、道徳の授業が役立ったと感じた児童が全体の89%を占めた(図1)。その理由として、「『さとしの心』(文溪堂、第2・3部は筆者作成)と同じことが起こったとき、思い出したから」や「『さとしの心』で友だちに文句を言ってはいけないことがわかった」など、道徳資料で考えたことを多くあげている。これらのことから、「さとしの心」がキーワードとなって子どもたちの心に残り、チームワークやフェアプレイの理解が深まっていったと考えられる。また、授業を参観した教員及び指導主事のアンケートから、道徳の時間と体育を関連させて授業を組み立てることについて、「教室の落ち着いた環境でチームワーク等を学んだことで理解がより深まった」や「この時期の児童の特徴を踏まえ効果的であった」などの肯定的な記述が多く見られた。
図1 「体育の授業で、道徳の授業が役に立ったか」に対する回答
以上のことから、道徳の時間と関連させたことにより、チームワークやフェアプレイの必要性を心情面から訴えることができ、これらを強制的でない自発的なものとして捉えさせることができたと考えられる。また、小学校第3学年は、協同作業が可能になる時期であり、チームワークやフェアプレイの基礎を指導するにはタイムリーであったと考えられる。
表1は、「肯定的な言葉かけ(賞賛、励まし)」及び「否定的な発言」について、事前と事後で調査し(4件法:ある-ときどきある-少しある-全くない)、あるの方向に変化した児童と、全くないの方向に変化した児童に分けてクラス別に集計した表である。
表1 肯定的な言葉かけと否定的な発言の頻度の変化(人)
**1%水準で有意 *5%水準で有意 ns有意差なし (直接確立計算)
表1から、今回の授業は、これまでの授業と比べ、肯定的な言葉かけは増えたと考えられるが、否定的な発言は、減少したとは言えなかった。(体育授業の雰囲気を観察するGTS法〔米村ら〕によると、授業の後半に減少した可能性もある)しかしながら、事後のアンケートには、「言わなければよかった」など、否定的な発言をしてしまったことへの反省のコメントが多く見られた。
以上のことから、チームワークとフェアプレイの必要性の理解のもと、明確な行動目標(3か条)を設定したことにより、児童の意識に鮮明に働きかけることができ〔高橋〕、自分の行動を、客観的に振り返ることができていたと考えられる。
集団的達成の喜びを味わうことを、「みんなで協力し、みんなで計画し、みんなで成功し、喜びを共有すること」〔高橋〕と定義するとともに、仲間づくり調査票〔小松崎ら〕の5つの因子(集団的「達成、思考、相互作用、人間関係、活動への意欲」)が、定義にあてはまると考え、仲間づくり調査票に基づいた集団的学習に関する形成的授業評価法(授業成果のめやすは、2.5以上)を仮説検証の物差しとした。図2は、全領域の平均の推移である。A組の9時間目の落ち込み等もあるが、2クラスとも概ね2.5以上(平均:A組2.75、B組2.70)で推移し、最後の授業(10・11時間目)では、2.9以上の高い評価を得た。さらに、事後アンケートの児童の記述(一番印象に残ったこと)には、否定的な記述は皆無で、「勝ったこと」、「楽しかったこと」に加え、「みんなが励ましてくれたこと」、「みんなでがんばりあえたこと」など、集団的学習に関わる肯定的な記述も多数あった。以上のこから、多くの子どもたちが、集団的達成の喜びを味わうことができたと考えられる。
図2 「集団的学習に関する形成的授業評価の時間毎の推移
本研究では、仮説検証の結果、次のことが明らかになった。
以上のことから、研究の成果として次のモデルを提案する。
※体育の授業の最後には、可能な範囲でクライマックスを演出するフラッグフットボール大会を開催
横須賀市立岩戸中学校 岸 洋平
これまで私が実践してきた授業の中で、生徒は基礎的・基本的な知識を基に体を動かすことができなかったり、生徒同士の教え合いの活動場面で、実技の解説書等の言葉を踏まえてアドバイスをしても、言葉が伝わらず、イメージをとらえられなかったり、身体活動につながらなかったりする等、技能がなかなか高まらない状況があった。これは、言語の構造を理解しないまま指導してきたことが原因と考える。
ところでソシュールは「ラングの方が潜在的構造であり、パロールはこれを顕在化し具体化したものということになるでしょう。ラングはパロールの条件であり規則の体系であって、パロールという行為によってのみ実現されるのです。」と述べている。そこで今回、学習指導要領改訂において明確化された技能の例示を、教師が実技の解説書等の言葉を使って具体化した言葉をラング、生徒が擬音語・擬態語や比喩等を使って運動主体者にとってわかりやすい言葉に変換した言葉をパロールととらえ、ラングをパロールに変換し、パロールを使った教え合い活動をすることで、「技能」をイメージし、身体活動につなげることができると考え、その有効性を検証することを研究の目的としたい。
本研究におけるキーワードは以下のように定義付けた。
わかりやすい言葉を使った教え合い活動をすることによって、「技能」のイメージをとらえ、身体活動につなげることができるであろう。
(1)期間
平成23年9月30日(金曜日)から11月4日(金曜日)
(2)場所
横須賀市立岩戸中学校
(3)対象
第2学年3組(30名)
(4)単元名
球技 ネット型「バレーボール」
(5)単元の目標
(6)単元計画
(7)指導の工夫
ア 学び方について
生徒の主体的な学習を促すとともに、わかりやすい言葉を共有することができ、共通意識を持つことで、教え合い活動が展開されると考え、ブレーンストーミング等の参加型学習を取り入れた。
イ 視聴覚資料について
映像を活用することで、経験不足を補い、また、映像に言葉を加えることで、基礎的・基本的な知識の習得とともに、視点を明確に示すことができ、言葉の変換がしやすくなると考え、視聴覚資料を取り入れた。
ウ 学習資料について
基礎的・基本的な知識を習得するための言葉の整理に活用したり、他の生徒からのアドバイスを記録として残し、授業の振り返りができるようにするために、主に個人カード・アドバイスカードを使った。
事後アンケートの「わかりやすい言葉を見付けることができましたか」の結果を見ると、76%の生徒が見付けられたと回答していることや(図1)、生徒が学習カード等に記述したわかりやすい言葉の内容からも、多くの生徒がわかりやすい言葉に変換することができたと考えられる。
図1 「わかりやすい言葉を見付けることができたか」
学習カード等から、わかりやすい言葉を使った教え合い活動の内容の記述が見られた場合に教え合い活動が行われていたととらえ、教え合い活動をしていた生徒の割合を授業時間別に見ると、すべての時間で88%以上の生徒が教え合い活動を行っていたと判断できた。(図2)
図2 教え合いに関する内容の見られた生徒の割合
事後アンケートにより、19項目ある身体活動ごとに「イメージをとらえることができましたか」という質問をした結果、90%が「技能」のイメージをとらえることができ、19項目ごとのVTRの分析(教師による)結果から、77%が身体活動につなげることができたと考えられる。(図3)
図3 「技能」のイメージと身体活動の獲得の割合
身体活動につなげることができたケースにおいて、わかりやすい言葉との関係を見ると、94%は「『技能』のイメージをとらえる言葉」があり、73%は「身体活動につながる言葉」があったと回答している。(図4)また、身体活動につなげることができたケースにおいて、「『技能』のイメージをとらえる言葉」と「身体活動につなげる言葉」の両方の言葉を獲得している場合と、「『技能』のイメージをとらえる言葉」のみを獲得している場合で、身体活動につながるまでの時間を比較すると、学習日に身体活動につなげられた割合が、両方を獲得している場合が62%、「『技能』のイメージをとらえる言葉」のみ獲得している場合が34%と、両方獲得している方がより早く身体活動につなげることができたと考えられる。(図5)
事後アンケートの回答から、「『技能』のイメージをとらえる言葉」と「身体活動につながる言葉」として生徒があげた言葉を、擬音語・擬態語、比喩等に分類すると、比喩を使った言葉が多かった。しかしながら、身体活動によっては、擬音語・擬態語を使った言葉が多いケースもあった。
身体活動につなげることができたケースにおいて、「『技能』のイメージをとらえる言葉」と「身体活動につながる言葉」が一致している場合とそうでない場合があった。本研究では十分な検証はできていないが、身体活動の獲得に停滞が見られるケースにおいては、「『技能』のイメージをとらえる言葉」が例えば「かえるのように」といった比喩を使った言葉であっても、「身体活動につながる言葉」に「ビヨーンと」などの擬音語・擬態語を活用するなど、組み合わせを工夫することが有効ではないかと考えられる。このようなことから、言葉によっては「技能」のイメージはとらえやすいが、身体活動にはつなげづらい言葉もあると考えられるので、「『技能』のイメージをとらえる言葉」だけではなく、「身体活動につながる言葉」を見付け出すことも考慮し、指導をしていくことが必要である。
図4 身体活動とわかりやすい言葉との関係
図5 身体活動につながるまでの時間
本研究では、次のことが明らかになった。
〇よって、「技能」をイメージさせ、身体活動につなげるバレーボールの授業におけるわかりやすい言葉を使った教え合い活動は有効である。
今回、学習指導要領解説の技能の例示・実技の解説書等の言葉(「技能」)を生徒が擬音語・擬態語、比喩等を使ったわかりやすい言葉に変換して授業を進めてきたが、運動経験の少ない生徒や苦手な生徒にとっては、自分自身の経験や備わっている感覚の中から言葉を見付け出しているため、新しいことではなく、自然なイメージや動きとしてとらえることができ、親しみやすく、有効であったのではないかと感じた。しかし、生徒による擬音語・擬態語、比喩等を使ったわかりやすい言葉から「技能」のイメージをとらえることができても、身体活動につなげることができない生徒もいるので、今後更に身体活動つなげるためにはどのような言葉が有効なのか、また、「技能」のイメージを身体活動につなげるためにはどのような手立てが効果的なのか検討していく必要がある。
神奈川県立平塚ろう学校 吉田浩司
これまでの私のバスケットボールやサッカーといった球技(ゴール型)の授業を振り返ると、基礎練習や技能の高い生徒中心のゲームなど、個人技能習得のための一斉指導が中心であり、チームで協力して作戦や戦術を話し合ったり、教え合ったりする活動が不十分であった。
また、障害を併せ有する生徒(以後「重複障害生徒」と言う。)には、いつも補助の教員がサポートに付いて活動していたため、聴覚に障害がある生徒(以後「聴覚障害生徒」と言う。)とのかかわり合いが少なかった。そのため、集団的な技能や戦術を競い合うこと、作戦を立てて勝敗を競う過程や結果に楽しさや喜びを味わうという球技の特性に十分に触れられずにいたと考える。
そこで本研究では、重複障害生徒を含めた「助け合い」「教え合い」「話し合い」「認め合い」の学習活動をバスケットボールの授業に導入し、仲間と肯定的にかかわり合うことで、コミュニケーション・スキルを高めるバスケットボールの授業作りを提案することを目的とする。
ろう学校のバスケットボールの授業において、仲間との肯定的なかかわり合いを行えば、コミュニケーション・スキルを高めることができるであろう。
(1)仲間と肯定的にかかわり合うための手立ては有効であったか
(2)コミュニケーション・スキルを高めることができたか
(1)期間
平成23年10月6日(木曜日)から11月1日(火曜日) 11時間扱い
(2)場所
神奈川県立平塚ろう学校
(3)対象
中学部第1から3学年(32名)
(4)単元名
バスケットボール
(5)単元目標
(6)単元計画
(7)指導の工夫
表1は、実際の授業場面で行う主なかかわり合いについて整理したものである。
表1 主なかかわり合い活動
(1)仲間と協力して助け合うことができたか。
5時間目からは、できるだけ生徒が重複障害生徒の補助をするようはたらきかけた結果、授業では重複障害生徒に通訳をしたり、誘導したりする場面が多くなった。形成的授業評価でも5・6時間目以降、右肩上がりに上昇し、仲間と協力して助け合うことができたと考える。(図1)
図1 「あなたは仲間を助けることができましたか」
(2)仲間にアドバイスするなど教え合うことができたか。
技能のポイントやふりかえりのポイントを視覚的資料として提示し、単元前半ではチーム内相互評価に取り組み、後半はきょうだいチームに「ひとことアドバイス」を記入させ、教え合い活動が深まるよう工夫した。
事前・事後アンケートの結果である。(図2)
図2 「ルールや練習方法などを教え合うことができる」
(3)課題解決に向けて仲間と話し合うことができたか。
話し合い活動が肯定的な雰囲気の中で行われるよう「話し合いルール」を6項目設定し提示していった。1年生や普段なかなか意見を言えない生徒も、積極的に発言や質問ができる環境を整えることを目的とした。授業中の映像からは、馬蹄形に広がって話し合いを進める隊形が、夢中になるにつれて車座になり顔を突き合わせている場面など、話し合いが活発に行われている様子が見られた。
事前・事後アンケートの結果である。
図3「グループで作戦をたててゲームや競争をすることができる」
図4「グループやチームで話し合うときは自分から進んで意見を言うことができる」
表2 優位水準
(4)仲間の良いところを見つけ認め合うことができたか。
2時間目に生徒同士の「認め合い」が深まるよう、班ごとにハンドサインを決めた。そして、そのハンドサインを練習やゲームの場面で積極的に使うようはたらきかけた結果、仲間のプレイに集中し、ほめたり励ましたりする意志をハンドサインで示すことができたと考える。そのことが形成的授業評価にも表れている。(図5)
図5「あなたは、仲間をほめたり、励ましたりしましたか」
以上の4つの観点から分析した結果、仲間と肯定的にかかわり合うための手立ては有効であったと考える。
コミュニケーション・スキル尺度を基に分析した結果、ろう学校生徒のコミュニケーション・スキルは、事前では一般平均を下回ったが、事後では高まった。
更に、ゲーム中(コート内)とその様子を応援する(コート外)生徒のコミュニケーション・スキルの高まりを見るために場面や項目、具体的な行動について「授業の雰囲気の観察方法」及び「ソーシャルスキル尺度(中学生用)」の「コミュニケーション・スキル尺度」に示された内容を参考に指標を作成した。(表3)そして、この指標を基に肯定的な人間関係行動と肯定的な情意行動に分けて、映像を分析した。(図6、図7)
表3 コミュニケーション・スキルの高まりを見る項目と具体的な行動例
図6 「ゲーム中(コート内)における生徒間の肯定的なかかわり合いの数」
図7 「応援(コート外)における生徒間の肯定的なかかわり合いの数」いずれも授業が進むにつれ数値が伸びており、コミュニケーション・スキルを高めることができたと考える。
本研究では、ろう学校のバスケットボールの授業において、仲間とのかかわり合いを通してコミュニケーション・スキルを高める授業作りに役立つ提案を行うことを目的に研究を進めてきた。その結果、次のことが明らかになった。
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